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一章
魚を食べよう(2)
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分析装置にかけた。箸に取り皿も作った。
これでウナギモドキを食べる準備は整った。
さて――いよいよ本題だ。
ウナギモドキを加工してみよう。
製造装置に、木筒に入れたウナギモドキを容器ごと放り込む。
そして、簡易加工のタグから蒸煮を選択。
木筒ごと蒸すのもそれはそれで風流だが……今回は鰻だけ蒸してもらおう。
では、ポチっと。
……。
ウィーン――――
シュオォォォォォォ――――
「なんの、音?」
「工程的には、水を加熱して水蒸気を発生させている音じゃないか」
「それを、ウナギに当ててる?」
「生きたまま、かな……」
先に絞めといた方がよかったか。
いや、それは感傷に過ぎないか。
命を奪うことに変わりはない。
「美味しい、かな?」
カノン的には特に気になるところではないらしい。
というかカノン、けっこう食い気がある……。
*────
製造装置の前面上部、飲料水や塩を取り出したのと同じ開口部のランプが点灯する。
どうやらそこから取り出せるらしい。
「さて、できあがったものはこちらになります、と――」
開口部から、薄いトレイを引き出してみる。
すると、薄いガラスの板に載っていたのは。
「わぁ……真っ白、だね」
「……ふつくしい」
真っ白に変わり果てた、ウナギモドキの姿蒸し。
その色は、純白と言っていいほどに白い。
それはその身が載っているガラスの板の色ともちがう。
はじめてみる白さだ。まるで新雪のような。
ガラスの板から、先ほど作った木製の小皿にその身を移し替えてみる。
「……色、変わらないね」
「体表面の組織が壊れちゃった、とか?」
剥離したか、融解したか、変成したか。
とにかくこいつのカメレオンめいた体表組織は、熱に弱いということだ。
その部分も、ちょっと食べてみたかった。ちょっとだけ。
「では――箸は持ったな、カノン?」
「う、うん」
寄生虫とかいるかもしれんが、一応加熱はした。
めっちゃ熱に強い寄生虫がいたら知らない。
覚悟だけしておこう。なにが出ても驚かんぞ。
あと、この辺の心配は口には出さんぞ。
カノンの食欲を減退させそうだから。
「では――ぷすりと」
ウナギモドキの体表に、ゆっくりと箸を落とす。
微かな抵抗とともに、箸先がその白い身の中に潜り込む。
やわらかい。なにかぷるぷるしている。
やはりコラーゲンか? ゼラチン質とか言ってたな。
そういえば、鱗らしい鱗がない。そのまま皮ごと食える?
箸先に力を込めて身を解してみれば、ほろほろと崩れる。
「……うなぎかな?」
「うなぎの蒸したのって、こんな感じ?」
やわらかすぎて、身が崩れてしまう。
骨も、どこにあるのかわからないほど細くやわらかい。
これは捌いてから蒸した方がよかったかもしれない。
いや、そもそもまだ包丁がないんだった。
今回は箸でより分けていこう。
なにやら内臓器官らしき部位もあるが、流石に一目で看破できるほどの経験はない。
毒素が溜まるとすればそうした内臓器官であるだろうから、今回はより分ける。
「さて、では――実食と行こうか」
「どきどき」
岩壁に生えていた植物やりんねるが勧めてくれた根っこやベリーは、躊躇いなく口の中に入れることができた。
だが、こいつは動物、生き物だ。
なんとなく、ちがった種類の緊張がある。
匂いを嗅ぎ、色を見て、目視できるサイズの寄生虫らしきものはいないことを確認して――
ぱくり
……。
…………。
………………。
……たんぱくな味わいですね。
舌ざわりはなめらか。舌の上でぷるぷるしています。
川特有の匂いがちょっとだけ鼻に抜けてきますね。
身はほろほろと崩れ、舌の上で溶けてなくなるようで――
「……うまいんだけど」
なにこれ。うなぎじゃん。
というかうなぎの白焼きじゃん。
俺のお馬鹿な舌では目隠しされたら区別つかんぞ。
映す価値なしまで真っ逆さまだ。
「んっ、……なにこれ。すごい、美味しい……」
カノンも感激しているようだ。
なにせ、これまでこの世界ではまともな食べ物をほとんど食べて来なかった。
今日の昼間に食べたベリーが、唯一美味いと言える食べ物だった。
だがその味も、りんねる曰く、蟻酸エチルという一つの化学物質に起因する味らしい。
ゆえにこの手の「複雑かつ濃厚な味わい」ははじめてだ。
「……はっ!? ……カノン、塩だ。俺たちには塩があるぞ」
「あっ、いいかも。いい感じに、合いそう」
そういえば、潮解性試験のために数グラムの塩を残しておいたんだった。
テーブルの上に置いておいたそれを使うべきはいまでは?
玄武岩から切り出した黒い小皿に盛られた塩。
それがいまは、高級料亭でうなぎの白焼きの傍に添えられている調味塩に見える。
箸の上に載せたウナギモドキの白身に、十数粒ほどの塩の結晶をちょんとつける。
貴重な塩だが、今この時に使うことに躊躇いはない。
このときのために、この塩は残されていたのだ。
ぱくり
……。
…………。
………………。
……塩味が、白身のたんぱくな味を引き立てますね。
口の中で溶けた白身と混ざり合い、舌をマイルドに刺激します。
川の臭みも、心なしか拭われるような気がしますね。
非常に良い相性でしょう。ひゃくてん。
「うまいんだけど」
語彙が消失している。
というかさっきと感想変わってないぞ、俺。
川魚って、養殖でもない限りは特有の臭みがあるんだけど、このうなぎは少ない気がする。
製造装置の蒸煮処理によって抜け落ちたという可能性もあるが……。
あるいはこのウナギモドキの生態に起因する可能性もある。
たとえば現実のアユのように、川の藻類を主食としている、とか。
香魚とも表記されるように、アユには川特有の臭みが少ないのだ。
セドナ川は濁りも少なかったし、そういう可能性もある。
「……塩、なくなっちゃったね」
「はっ、しまった!?」
カノンと変わりばんこに塩をちょんちょんしていたら、いつのまにか一粒残さず使い切ってしまった。
まさに不覚。美味しすぎて止まらなかった。
ウナギモドキ本体も、カノンと二人で白身部分の2/3ほどをつつき終わっている。
もしもこの白身にふぐ並みの毒が含まれているとしたら、とっくに致死量だろう。
諦めて最後まで食ってしまおう。
うん、もう抵抗しても仕方ないよね。
「カノン、危機感知的に、どう?」
「……たぶん、大丈夫、だと思う。ちりちりする感覚、なかったし」
「俺の方は、まだ危機感知の効果を発揮させたことがないから、よくわからんな……」
いまのところは大丈夫だ。
だが遅効性の毒もあるし、寄生虫とかは体内に潜伏するだろう。
しばらくは生体情報をチェックしつつ様子見と行こう。
仮に毒があっても、この魚は何とかして食えるようにしたいところだ。
日本人の食への執念が、この魚を食えるようにしろと訴えている。
「美味しいね」
「うまいな」
なにせうまいからな。
この命を賭しても、魚図鑑のこの魚の食判定を「可食」にしてみせよう。
*────
「……食べ終わっちゃった、ね」
「いつの間にかな」
カノンと食レポもどきの雑談に興じながら、ウナギモドキをついばむことしばし。
ウナギモドキは、濁った色の臓器と、細くしなる骨らしきものを残して、すっかり俺たちの腹の中に消えた。
皮や鱗というものについては、最後までよくわからなかった。
蒸煮処理の際に細胞が壊れてそのまま溶解してしまったのかもしれない。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま、でした」
この星の生命をはじめて頂いた。食した。
この世界の五感で、十全に味わいつくした。
素晴らしいぞ、フルダイブゲーム。
今まさに『犬』では味わえなかった体験の一つに触れたのだ。
ここまでにもその機会はたくさんあったのだが、今回の感動はひとしおだ。
うまかった。
「いやぁ……食事って素晴らしいな、カノン」
「うんっ。『いぬ』では、食事はなかったもんね」
空腹と渇きのステータスを癒す行為としての食事はあったが、それは果たして食事であったのか。
機械類を充電するがごとき、作業でしかなかったのではないか。
だが、今回はまさに「食」そのものだ。
カノンもそれを実感したのだろう。
「……さて、食べ終わったウナギモドキの残骸だが」
「なにかに、使う?」
「いまは……特にないかな。自然に返そう」
にかわは確か、ウナギの浮袋から作るんだったかな?
だがこのサイズのうなぎから採ろうと思ったら、相当の頭数が必要になるだろう。
今回は食材資源として頂いた、そういうことにしておこう。
脱出ポッドの外に小さな穴を掘り、骸を埋める。
あとは微生物たちが分解して、この星の循環サイクルに戻してくれるだろう。
「つくった箸とか、お皿とか、まだ使える、よね」
「洗浄槽に放り込もうか」
洗浄室にはこういう使い方もある。
一応、食器類を洗う洗浄槽と衣類を洗う洗浄槽は分けられているが、たぶんどちらを使っても機能的な差異はない。
油汚れや生臭系も一発で、匂いもまったく残らないからな。
分かれているのは単に気分的な問題だろう。
身体を洗う場所で食器類を洗うのはどうかという話だが、それもそのうち慣れるだろう。
「戸棚とか、欲しいね」
「どんどん欲しいもの増えるなぁ」
洗った食器類の置き場所に困る。
いまは試食用ツールとしてテーブルの上に置いておけばいいだろう。
でも、それはそれで箸用の小箱とか欲しくなる……。
*────
さて、ウナギモドキの実食も終わった。
あとは数日の間はバイタルデータを確認しつつ、問題なければ可食食材とする。
はじめて採った魚がまともに食えるとは、相当運がよかったな。
人間が食べるのに向いていない魚の方が、圧倒的に多いだろうに。
付き合いが長くなるようならば、この魚にも、相応しい名前を与えたいところだ。
現実の時刻は、気づけば夜の11時半。
そろそろいい時間だろう。
あとはもろもろの処理をして、今日は終わりだ。
長い、長い一日だった。
じゃ、ダイブアウトのための準備と行こう。
とりあえず、今日の探索で新規取得した技能と実績を確認しようか。
これでウナギモドキを食べる準備は整った。
さて――いよいよ本題だ。
ウナギモドキを加工してみよう。
製造装置に、木筒に入れたウナギモドキを容器ごと放り込む。
そして、簡易加工のタグから蒸煮を選択。
木筒ごと蒸すのもそれはそれで風流だが……今回は鰻だけ蒸してもらおう。
では、ポチっと。
……。
ウィーン――――
シュオォォォォォォ――――
「なんの、音?」
「工程的には、水を加熱して水蒸気を発生させている音じゃないか」
「それを、ウナギに当ててる?」
「生きたまま、かな……」
先に絞めといた方がよかったか。
いや、それは感傷に過ぎないか。
命を奪うことに変わりはない。
「美味しい、かな?」
カノン的には特に気になるところではないらしい。
というかカノン、けっこう食い気がある……。
*────
製造装置の前面上部、飲料水や塩を取り出したのと同じ開口部のランプが点灯する。
どうやらそこから取り出せるらしい。
「さて、できあがったものはこちらになります、と――」
開口部から、薄いトレイを引き出してみる。
すると、薄いガラスの板に載っていたのは。
「わぁ……真っ白、だね」
「……ふつくしい」
真っ白に変わり果てた、ウナギモドキの姿蒸し。
その色は、純白と言っていいほどに白い。
それはその身が載っているガラスの板の色ともちがう。
はじめてみる白さだ。まるで新雪のような。
ガラスの板から、先ほど作った木製の小皿にその身を移し替えてみる。
「……色、変わらないね」
「体表面の組織が壊れちゃった、とか?」
剥離したか、融解したか、変成したか。
とにかくこいつのカメレオンめいた体表組織は、熱に弱いということだ。
その部分も、ちょっと食べてみたかった。ちょっとだけ。
「では――箸は持ったな、カノン?」
「う、うん」
寄生虫とかいるかもしれんが、一応加熱はした。
めっちゃ熱に強い寄生虫がいたら知らない。
覚悟だけしておこう。なにが出ても驚かんぞ。
あと、この辺の心配は口には出さんぞ。
カノンの食欲を減退させそうだから。
「では――ぷすりと」
ウナギモドキの体表に、ゆっくりと箸を落とす。
微かな抵抗とともに、箸先がその白い身の中に潜り込む。
やわらかい。なにかぷるぷるしている。
やはりコラーゲンか? ゼラチン質とか言ってたな。
そういえば、鱗らしい鱗がない。そのまま皮ごと食える?
箸先に力を込めて身を解してみれば、ほろほろと崩れる。
「……うなぎかな?」
「うなぎの蒸したのって、こんな感じ?」
やわらかすぎて、身が崩れてしまう。
骨も、どこにあるのかわからないほど細くやわらかい。
これは捌いてから蒸した方がよかったかもしれない。
いや、そもそもまだ包丁がないんだった。
今回は箸でより分けていこう。
なにやら内臓器官らしき部位もあるが、流石に一目で看破できるほどの経験はない。
毒素が溜まるとすればそうした内臓器官であるだろうから、今回はより分ける。
「さて、では――実食と行こうか」
「どきどき」
岩壁に生えていた植物やりんねるが勧めてくれた根っこやベリーは、躊躇いなく口の中に入れることができた。
だが、こいつは動物、生き物だ。
なんとなく、ちがった種類の緊張がある。
匂いを嗅ぎ、色を見て、目視できるサイズの寄生虫らしきものはいないことを確認して――
ぱくり
……。
…………。
………………。
……たんぱくな味わいですね。
舌ざわりはなめらか。舌の上でぷるぷるしています。
川特有の匂いがちょっとだけ鼻に抜けてきますね。
身はほろほろと崩れ、舌の上で溶けてなくなるようで――
「……うまいんだけど」
なにこれ。うなぎじゃん。
というかうなぎの白焼きじゃん。
俺のお馬鹿な舌では目隠しされたら区別つかんぞ。
映す価値なしまで真っ逆さまだ。
「んっ、……なにこれ。すごい、美味しい……」
カノンも感激しているようだ。
なにせ、これまでこの世界ではまともな食べ物をほとんど食べて来なかった。
今日の昼間に食べたベリーが、唯一美味いと言える食べ物だった。
だがその味も、りんねる曰く、蟻酸エチルという一つの化学物質に起因する味らしい。
ゆえにこの手の「複雑かつ濃厚な味わい」ははじめてだ。
「……はっ!? ……カノン、塩だ。俺たちには塩があるぞ」
「あっ、いいかも。いい感じに、合いそう」
そういえば、潮解性試験のために数グラムの塩を残しておいたんだった。
テーブルの上に置いておいたそれを使うべきはいまでは?
玄武岩から切り出した黒い小皿に盛られた塩。
それがいまは、高級料亭でうなぎの白焼きの傍に添えられている調味塩に見える。
箸の上に載せたウナギモドキの白身に、十数粒ほどの塩の結晶をちょんとつける。
貴重な塩だが、今この時に使うことに躊躇いはない。
このときのために、この塩は残されていたのだ。
ぱくり
……。
…………。
………………。
……塩味が、白身のたんぱくな味を引き立てますね。
口の中で溶けた白身と混ざり合い、舌をマイルドに刺激します。
川の臭みも、心なしか拭われるような気がしますね。
非常に良い相性でしょう。ひゃくてん。
「うまいんだけど」
語彙が消失している。
というかさっきと感想変わってないぞ、俺。
川魚って、養殖でもない限りは特有の臭みがあるんだけど、このうなぎは少ない気がする。
製造装置の蒸煮処理によって抜け落ちたという可能性もあるが……。
あるいはこのウナギモドキの生態に起因する可能性もある。
たとえば現実のアユのように、川の藻類を主食としている、とか。
香魚とも表記されるように、アユには川特有の臭みが少ないのだ。
セドナ川は濁りも少なかったし、そういう可能性もある。
「……塩、なくなっちゃったね」
「はっ、しまった!?」
カノンと変わりばんこに塩をちょんちょんしていたら、いつのまにか一粒残さず使い切ってしまった。
まさに不覚。美味しすぎて止まらなかった。
ウナギモドキ本体も、カノンと二人で白身部分の2/3ほどをつつき終わっている。
もしもこの白身にふぐ並みの毒が含まれているとしたら、とっくに致死量だろう。
諦めて最後まで食ってしまおう。
うん、もう抵抗しても仕方ないよね。
「カノン、危機感知的に、どう?」
「……たぶん、大丈夫、だと思う。ちりちりする感覚、なかったし」
「俺の方は、まだ危機感知の効果を発揮させたことがないから、よくわからんな……」
いまのところは大丈夫だ。
だが遅効性の毒もあるし、寄生虫とかは体内に潜伏するだろう。
しばらくは生体情報をチェックしつつ様子見と行こう。
仮に毒があっても、この魚は何とかして食えるようにしたいところだ。
日本人の食への執念が、この魚を食えるようにしろと訴えている。
「美味しいね」
「うまいな」
なにせうまいからな。
この命を賭しても、魚図鑑のこの魚の食判定を「可食」にしてみせよう。
*────
「……食べ終わっちゃった、ね」
「いつの間にかな」
カノンと食レポもどきの雑談に興じながら、ウナギモドキをついばむことしばし。
ウナギモドキは、濁った色の臓器と、細くしなる骨らしきものを残して、すっかり俺たちの腹の中に消えた。
皮や鱗というものについては、最後までよくわからなかった。
蒸煮処理の際に細胞が壊れてそのまま溶解してしまったのかもしれない。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま、でした」
この星の生命をはじめて頂いた。食した。
この世界の五感で、十全に味わいつくした。
素晴らしいぞ、フルダイブゲーム。
今まさに『犬』では味わえなかった体験の一つに触れたのだ。
ここまでにもその機会はたくさんあったのだが、今回の感動はひとしおだ。
うまかった。
「いやぁ……食事って素晴らしいな、カノン」
「うんっ。『いぬ』では、食事はなかったもんね」
空腹と渇きのステータスを癒す行為としての食事はあったが、それは果たして食事であったのか。
機械類を充電するがごとき、作業でしかなかったのではないか。
だが、今回はまさに「食」そのものだ。
カノンもそれを実感したのだろう。
「……さて、食べ終わったウナギモドキの残骸だが」
「なにかに、使う?」
「いまは……特にないかな。自然に返そう」
にかわは確か、ウナギの浮袋から作るんだったかな?
だがこのサイズのうなぎから採ろうと思ったら、相当の頭数が必要になるだろう。
今回は食材資源として頂いた、そういうことにしておこう。
脱出ポッドの外に小さな穴を掘り、骸を埋める。
あとは微生物たちが分解して、この星の循環サイクルに戻してくれるだろう。
「つくった箸とか、お皿とか、まだ使える、よね」
「洗浄槽に放り込もうか」
洗浄室にはこういう使い方もある。
一応、食器類を洗う洗浄槽と衣類を洗う洗浄槽は分けられているが、たぶんどちらを使っても機能的な差異はない。
油汚れや生臭系も一発で、匂いもまったく残らないからな。
分かれているのは単に気分的な問題だろう。
身体を洗う場所で食器類を洗うのはどうかという話だが、それもそのうち慣れるだろう。
「戸棚とか、欲しいね」
「どんどん欲しいもの増えるなぁ」
洗った食器類の置き場所に困る。
いまは試食用ツールとしてテーブルの上に置いておけばいいだろう。
でも、それはそれで箸用の小箱とか欲しくなる……。
*────
さて、ウナギモドキの実食も終わった。
あとは数日の間はバイタルデータを確認しつつ、問題なければ可食食材とする。
はじめて採った魚がまともに食えるとは、相当運がよかったな。
人間が食べるのに向いていない魚の方が、圧倒的に多いだろうに。
付き合いが長くなるようならば、この魚にも、相応しい名前を与えたいところだ。
現実の時刻は、気づけば夜の11時半。
そろそろいい時間だろう。
あとはもろもろの処理をして、今日は終わりだ。
長い、長い一日だった。
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