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一章
硝子の伽藍
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「――っと。……お待たせ、二人とも」
「鮮やかなもんだな、モンターナ」
「君たちには負けていられないさ。なにしろ、こちとら冒険家――」
ひらり、と開口部から身を落とし、軽口を叩いたモンターナが、言葉を失う。
彼もまた、俺たちの背後にあるものに気づいたようだ。
この、仄暗き伽藍の堂に。
「――っ」
「……。」
この光景を、初めて目にした時の感情は……言葉にしがたい。
俺は、硝子の伽藍か、寂れた廃教会のようだと思ったけれど。
モンターナはまた別のイメージを描いているのかもしれない。
神秘に出逢った瞬間は、このゲームの醍醐味の一つだ。
変な茶々を入れないで、ゆっくり味わわせてやろう。
モンターナが手繰ってきたロープのうち1本を、開口部の縁に生える植物に括りつける。
この開口部付近には、幾星霜の間に降り積もったのか、台地の上のように土壌が形成されている。
ゆえに、植物もここに根を張ることができたのだろう。
太さ2mmほどの、細長い茎を持つ草にロープを結わえつける。
これで、ロープが風に流されてしまうことはないだろう。
地に張られた根も、その細い茎も、生命の力強さを持っている。
ロープが風に煽られるくらいでは、引き抜けたり千切れたりはしないはずだ。
(……。)
ここに生えている植物は、たぶんセドナ高地の上から落ちてきた種子が発芽したものだろう。
もう二度と、セドナの台地の上に戻ることはできまい。
では、ここに生えている植物の子は、次はどこへ行くのだろう。
どうにかして拵えた種子を、ここから地上へと撒き落とすのだろうか。
その種子は、果たして地上で発芽できるのか。
ここと地上では高度が1kmちがう。
環境がちがえば植生も変わる。
セドナ高地で生まれたものが、地上で無事に繁茂できるのか……。
「……。」
黙り込んだままのモンターナを見れば、瞠目して、なにかを考えているようだ。
この光景の意味を、いろいろと考えているのかもしれない。
かつてこの建造物が辿った運命を、思い描いているのかもしれない。
「……。」
俺もまた、再びこの硝子の伽藍を見渡す。
この構造物の内部に入ってまず目につくのが、上まで突き抜ける吹き抜けだ。
この空間の上部は、見上げるほどの高さの仄暗い天井まで突き抜けている。
天井の高さは、俺たちが降りてきた距離と同じ、9mから10mほど。
地上からマンションの3階か4階あたりを見上げるに等しい、なかなかの高さだ。
ただし、その吹き抜けはそこまで広くはない。
吹き抜けの両側には、なにか階層のようなものが見える。
つまりこの構造物は、中央に吹き抜けを擁する複数階建ての構造物であったらしい。
階層部分の両側、ちょうど同じ高さのあたりに、なにか左右不均等の歪な残骸のようなものが突き出しているのが見える。
吹き抜けの下のホール部分に落ちた残骸を見るに、あれは吹き抜けを渡って左右の階層部分を繋ぐ、渡り廊下のようなものだったのかもしれない。
続いて、正面のホールを見る。
俺たちが入ってきた開口部から見て、左に3m、右に7mほどの広がりをもつこの空間は、ビルやホテル、あるいは公共施設かなにかのエントランスホールのように見える。
奥行きは……20mほどだろうか。もう少しあるかもしれない。
ここから見える範囲はそれだけだが、その面積は、この構造物の上面積、すなわち台地の上の面積より二回りほど狭いように感じる。
つまりこのホールの左側にも右側にも奥側にも、空間的に遮断されたなんらかの空間があるということだ。
少なくとも右側と左側には、各階層部分を構成するなにか部屋のようなものがあると見ていいだろう。
ガラス化した際に色が抜け落ちたのか、それとも最初からこのような仄暗い灰色一色だったのかはわからないが、各階層部分やホールの左右の壁面は一様に灰色のガラス質で、その形状や様式は、ここから見ている限りではまったくわからない。
まるで硝子の一枚壁のように見えるが……たぶん、元からそうだったわけではないだろう。
ホールの地面にはなにか残骸のようなものが大小に散乱しており、見通しは悪く、この空間のもともとの役割を推し量るのは難しい。
目の前に横たわる巨大な残骸のところまでは、この開口部から入り込んだのか、ガラス化した地面に土壌のようなものが形成されており、背の低い植物も繁茂している。
……以上が、今のところ、ここから見てわかるこの空間の概要だ。
さて、この建物は、いったいなんの建物だったんだろうな?
*────
正気に戻ったらしいモンターナが、一つ頭を振って、乾いたような声で俺たちに聞く。
「――スクショ撮っていい?」
「第一声がそれかよ。いいけど」
だが、まぁ気持ちはわかる。
今回は俺も撮ろうかな。
ここまで来るのそこそこ大変そうだし、記念に1枚ってことで。
スクショ撮るの下手だから上手く撮れるかはわからないが。
*────
ちなみに。
このゲームでは、スクリーンショット機能・録画機能・遡り録画|(30分まで)機能をデフォルトで利用することができる。
これらすべての機能は仮想端末から起動できる専用のウィンドウを、あたかもカメラのファインダーのようにして使うことで利用できる。
使い方を分かりやすく説明するなら……あれだ。
写真の構図を決めるときに、両手の親指と人差し指で写真の枠を作るよな。
仮想ウィンドウをあの枠みたいに使って、自分から見て仮想ウィンドウの枠内に映っているものを記録できるんだ。
これ、実はちょっと変な――かなり複雑なことをやってるんだけど、詳しい理屈はいまはいいだろう。
とにかく、俺たちプレイヤーはそのようにして、この世界で撮影やら録画を手軽にできるということだ。
そうして記録したデータは、仮想端末内の仮想インベントリ――最近まったく出番がなかったから存在を忘れられてるかもしれないが――に保存される。
今作では死に戻りしてもこの仮想インベントリ内のデータは消えなくなったらしいから、なにか記録したいものがあればどんどん保存していくのもいいだろう。
これらのデータはゲームの外部に持ち出すこともできるし、それらをSNSやらにはっつけることもできる。
映える写真をフレンドに送り付けてやろう。
……え?
そういう機能が使えるの知ってたのに、おまえは今まで一度も使わなかったのかって?
いやほら、ゲームでもリアルでも、写真撮りまくる人とまったく撮らない人っているよな。
俺は後者だったんだ。
たぶんカノンも後者。
写真撮るの苦手だし、今まで記録しておきたいようなものも特になかった。
いやほら、思い出として心に保存してあるし……。
このゲームで撮った写真を送りたいようなフレンドもおらんかったし……。
遡り録画機能については、前作ではかなりお世話になった。
といっても、ゲーム内で録画する機能|(30分まで)の方ではなく、ダイブアウトした後で録画する機能|(24時間まで)の方だ。
テレポバグ先でよくわからん死に方をした後、自分がどうやって殺されたのかを確認するためによく使っていたんだ。
ダイジェスト動画を作るときに使ったのもこの機能。
モンターナの要望に応えるなら、今作でもお世話になるかもしれない。
*────
……とは言ったものの、なんか上手く撮るの難しそうだな、この内部。
うす暗いし、全景を収めるのも難しいし、光の加減も、こう……。
ピピッ
……駄目だな。
撮るには撮ったが、やけにうす暗い写真になってしまった。
撮影専用ウィンドウの脇についている、この……ISO感度やらシャッタースピードやら露出やらを弄れば上手く撮れるのだろうか。
俺には「ぜんぶおまかせ」以外に手を出す知識がない。
おとなしく心に刻んでおくとしよう。
「――いやぁ、想像以上だね。これは。
……美しい。そしてなにより、驚異的だ。
まさか、ここまではっきり構造が遺っているとは……」
ピッピッピと写真を撮りまくっているらしい音を響かせながら、興奮気味なモンターナが言う。
今撮っている写真のうちの一枚が、いつか彼のカレドリアンシャーズに載せられることになるのかもしれない。
「……俺も、ここまで残ってるとは思わなかった。
どんだけの歳月が経ってるかわからない廃墟ってことで、その中身もそれこそ、使われてないコンテナの中みたいに空っぽなんじゃないかと思っていたが――これはすごいな」
高度な建築技術を擁した文明による建造物だということがはっきりとわかる。
少なくとも、吹き抜けを作り、空中回廊を掛けられる程度の技術力。
かつて俺たちがこの星に作ったのは、2階建ての鉄筋コンクリートの住居がせいぜいだった。
ここまでではない。
つまり、この建造物を作ったのは、やはり俺たちプレイヤーではなく、俺たちの後続だということになる。
俺たちプレイヤーが、あのゲームを終えた後で――
(……うん?)
……あれ?
いま、なにかに引っかかったような……。
……だめだ、すぐにどこかへ行ってしまった。
そのあたりについては、あまり思考を煮詰めていない部分だ。
そうして深みに潜りかけた思考……が、モンターナの問いかけで中断される。
「……この建物、いったいなんだと思う?」
「……かなり広い、よな」
「高さもけっこうある、よね」
「ああ。単なる住居……のようにも見えない」
モンターナの問うものは、先ほど俺も考えていたところだ。
この建物、いったいなんの建物だったんだろう。
「ショッピングモール、とか?
吹き抜けとか、それっぽいよね」
カノンの意見。
「なにかの病棟、サナトリウムとか?
このホール、病院の待合室っぽいし」
俺の意見。
「研究所、のようにも見えないか?
窓がないというのが、いかにもらしい」
モンターナの意見。
なんというか、3人の思考の傾向がなんとなく現れている……。
俺の思考は……その手の小説を読み過ぎているかもしれない。
23号室とかあるのかな……。
*────
「っよし、そろそろ探索をはじめようぜ」
「ああ。推測をするにも、まずはその材料を十分集めてから、だな」
さて、どこから手を付けるべきか。
探索の初手を迷う俺に、モンターナがこんな提案をする。
「どのように探索していくか、それ探るためにも、まずはざっくりと、私たちが行ける範囲について大まかに探ってみないか。
なにか見つけても、そこで立ち止まるのではなくて、まずはひと通り見て回る感じで」
「ん、いいんじゃないか?」
「そんなに、行けるとこ、多くなさそう?」
「ああ。……そもそも、吹き抜けの両側に見える2階以上の階層部分。
あそこまで行けるかどうかが、まず怪しいからね……」
「……そりゃそうだ。……どうやって行くんだ、あれ」
言われてみれば、その通りだ。
俺たちの探索可能領域は、意外と狭いのかもしれない。
あの2階部分に昇ることができず、またこの空間の四方の壁がガラス化していて固着しているというのなら、最悪このホール部分しか探索できない可能性がある。
まずはこのホールを歩き回って、その辺を確かめてからだな。
「ひと通り見て回るまでは、3人まとまって行動ってことでいいかい?」
「あたぼうよ」
「んっ」
「そのあと、気になったものがあれば各々分かれて調査ってことで」
未開地において、不用意な単独行動は危険だ。
……危険というか、まぁ。
こういう場所で1人になった人って、大抵ロクな目に合わないよね。
というかぶっちゃけ死ぬよね、高確率で。
いまは3人だし、二手に別れるということは、必然的に片方は1人になるということで。
「……。」
「ん、なにかなフーガ」
「……死ぬなよ、モンターナ」
「えっ」
悪いが俺はカノンを1人にするつもりはない。
この先二手に分かれるようなことがあれば、モンターナの死亡倍率は2桁に上るだろう。
そのときは強く生きてくれ。
「鮮やかなもんだな、モンターナ」
「君たちには負けていられないさ。なにしろ、こちとら冒険家――」
ひらり、と開口部から身を落とし、軽口を叩いたモンターナが、言葉を失う。
彼もまた、俺たちの背後にあるものに気づいたようだ。
この、仄暗き伽藍の堂に。
「――っ」
「……。」
この光景を、初めて目にした時の感情は……言葉にしがたい。
俺は、硝子の伽藍か、寂れた廃教会のようだと思ったけれど。
モンターナはまた別のイメージを描いているのかもしれない。
神秘に出逢った瞬間は、このゲームの醍醐味の一つだ。
変な茶々を入れないで、ゆっくり味わわせてやろう。
モンターナが手繰ってきたロープのうち1本を、開口部の縁に生える植物に括りつける。
この開口部付近には、幾星霜の間に降り積もったのか、台地の上のように土壌が形成されている。
ゆえに、植物もここに根を張ることができたのだろう。
太さ2mmほどの、細長い茎を持つ草にロープを結わえつける。
これで、ロープが風に流されてしまうことはないだろう。
地に張られた根も、その細い茎も、生命の力強さを持っている。
ロープが風に煽られるくらいでは、引き抜けたり千切れたりはしないはずだ。
(……。)
ここに生えている植物は、たぶんセドナ高地の上から落ちてきた種子が発芽したものだろう。
もう二度と、セドナの台地の上に戻ることはできまい。
では、ここに生えている植物の子は、次はどこへ行くのだろう。
どうにかして拵えた種子を、ここから地上へと撒き落とすのだろうか。
その種子は、果たして地上で発芽できるのか。
ここと地上では高度が1kmちがう。
環境がちがえば植生も変わる。
セドナ高地で生まれたものが、地上で無事に繁茂できるのか……。
「……。」
黙り込んだままのモンターナを見れば、瞠目して、なにかを考えているようだ。
この光景の意味を、いろいろと考えているのかもしれない。
かつてこの建造物が辿った運命を、思い描いているのかもしれない。
「……。」
俺もまた、再びこの硝子の伽藍を見渡す。
この構造物の内部に入ってまず目につくのが、上まで突き抜ける吹き抜けだ。
この空間の上部は、見上げるほどの高さの仄暗い天井まで突き抜けている。
天井の高さは、俺たちが降りてきた距離と同じ、9mから10mほど。
地上からマンションの3階か4階あたりを見上げるに等しい、なかなかの高さだ。
ただし、その吹き抜けはそこまで広くはない。
吹き抜けの両側には、なにか階層のようなものが見える。
つまりこの構造物は、中央に吹き抜けを擁する複数階建ての構造物であったらしい。
階層部分の両側、ちょうど同じ高さのあたりに、なにか左右不均等の歪な残骸のようなものが突き出しているのが見える。
吹き抜けの下のホール部分に落ちた残骸を見るに、あれは吹き抜けを渡って左右の階層部分を繋ぐ、渡り廊下のようなものだったのかもしれない。
続いて、正面のホールを見る。
俺たちが入ってきた開口部から見て、左に3m、右に7mほどの広がりをもつこの空間は、ビルやホテル、あるいは公共施設かなにかのエントランスホールのように見える。
奥行きは……20mほどだろうか。もう少しあるかもしれない。
ここから見える範囲はそれだけだが、その面積は、この構造物の上面積、すなわち台地の上の面積より二回りほど狭いように感じる。
つまりこのホールの左側にも右側にも奥側にも、空間的に遮断されたなんらかの空間があるということだ。
少なくとも右側と左側には、各階層部分を構成するなにか部屋のようなものがあると見ていいだろう。
ガラス化した際に色が抜け落ちたのか、それとも最初からこのような仄暗い灰色一色だったのかはわからないが、各階層部分やホールの左右の壁面は一様に灰色のガラス質で、その形状や様式は、ここから見ている限りではまったくわからない。
まるで硝子の一枚壁のように見えるが……たぶん、元からそうだったわけではないだろう。
ホールの地面にはなにか残骸のようなものが大小に散乱しており、見通しは悪く、この空間のもともとの役割を推し量るのは難しい。
目の前に横たわる巨大な残骸のところまでは、この開口部から入り込んだのか、ガラス化した地面に土壌のようなものが形成されており、背の低い植物も繁茂している。
……以上が、今のところ、ここから見てわかるこの空間の概要だ。
さて、この建物は、いったいなんの建物だったんだろうな?
*────
正気に戻ったらしいモンターナが、一つ頭を振って、乾いたような声で俺たちに聞く。
「――スクショ撮っていい?」
「第一声がそれかよ。いいけど」
だが、まぁ気持ちはわかる。
今回は俺も撮ろうかな。
ここまで来るのそこそこ大変そうだし、記念に1枚ってことで。
スクショ撮るの下手だから上手く撮れるかはわからないが。
*────
ちなみに。
このゲームでは、スクリーンショット機能・録画機能・遡り録画|(30分まで)機能をデフォルトで利用することができる。
これらすべての機能は仮想端末から起動できる専用のウィンドウを、あたかもカメラのファインダーのようにして使うことで利用できる。
使い方を分かりやすく説明するなら……あれだ。
写真の構図を決めるときに、両手の親指と人差し指で写真の枠を作るよな。
仮想ウィンドウをあの枠みたいに使って、自分から見て仮想ウィンドウの枠内に映っているものを記録できるんだ。
これ、実はちょっと変な――かなり複雑なことをやってるんだけど、詳しい理屈はいまはいいだろう。
とにかく、俺たちプレイヤーはそのようにして、この世界で撮影やら録画を手軽にできるということだ。
そうして記録したデータは、仮想端末内の仮想インベントリ――最近まったく出番がなかったから存在を忘れられてるかもしれないが――に保存される。
今作では死に戻りしてもこの仮想インベントリ内のデータは消えなくなったらしいから、なにか記録したいものがあればどんどん保存していくのもいいだろう。
これらのデータはゲームの外部に持ち出すこともできるし、それらをSNSやらにはっつけることもできる。
映える写真をフレンドに送り付けてやろう。
……え?
そういう機能が使えるの知ってたのに、おまえは今まで一度も使わなかったのかって?
いやほら、ゲームでもリアルでも、写真撮りまくる人とまったく撮らない人っているよな。
俺は後者だったんだ。
たぶんカノンも後者。
写真撮るの苦手だし、今まで記録しておきたいようなものも特になかった。
いやほら、思い出として心に保存してあるし……。
このゲームで撮った写真を送りたいようなフレンドもおらんかったし……。
遡り録画機能については、前作ではかなりお世話になった。
といっても、ゲーム内で録画する機能|(30分まで)の方ではなく、ダイブアウトした後で録画する機能|(24時間まで)の方だ。
テレポバグ先でよくわからん死に方をした後、自分がどうやって殺されたのかを確認するためによく使っていたんだ。
ダイジェスト動画を作るときに使ったのもこの機能。
モンターナの要望に応えるなら、今作でもお世話になるかもしれない。
*────
……とは言ったものの、なんか上手く撮るの難しそうだな、この内部。
うす暗いし、全景を収めるのも難しいし、光の加減も、こう……。
ピピッ
……駄目だな。
撮るには撮ったが、やけにうす暗い写真になってしまった。
撮影専用ウィンドウの脇についている、この……ISO感度やらシャッタースピードやら露出やらを弄れば上手く撮れるのだろうか。
俺には「ぜんぶおまかせ」以外に手を出す知識がない。
おとなしく心に刻んでおくとしよう。
「――いやぁ、想像以上だね。これは。
……美しい。そしてなにより、驚異的だ。
まさか、ここまではっきり構造が遺っているとは……」
ピッピッピと写真を撮りまくっているらしい音を響かせながら、興奮気味なモンターナが言う。
今撮っている写真のうちの一枚が、いつか彼のカレドリアンシャーズに載せられることになるのかもしれない。
「……俺も、ここまで残ってるとは思わなかった。
どんだけの歳月が経ってるかわからない廃墟ってことで、その中身もそれこそ、使われてないコンテナの中みたいに空っぽなんじゃないかと思っていたが――これはすごいな」
高度な建築技術を擁した文明による建造物だということがはっきりとわかる。
少なくとも、吹き抜けを作り、空中回廊を掛けられる程度の技術力。
かつて俺たちがこの星に作ったのは、2階建ての鉄筋コンクリートの住居がせいぜいだった。
ここまでではない。
つまり、この建造物を作ったのは、やはり俺たちプレイヤーではなく、俺たちの後続だということになる。
俺たちプレイヤーが、あのゲームを終えた後で――
(……うん?)
……あれ?
いま、なにかに引っかかったような……。
……だめだ、すぐにどこかへ行ってしまった。
そのあたりについては、あまり思考を煮詰めていない部分だ。
そうして深みに潜りかけた思考……が、モンターナの問いかけで中断される。
「……この建物、いったいなんだと思う?」
「……かなり広い、よな」
「高さもけっこうある、よね」
「ああ。単なる住居……のようにも見えない」
モンターナの問うものは、先ほど俺も考えていたところだ。
この建物、いったいなんの建物だったんだろう。
「ショッピングモール、とか?
吹き抜けとか、それっぽいよね」
カノンの意見。
「なにかの病棟、サナトリウムとか?
このホール、病院の待合室っぽいし」
俺の意見。
「研究所、のようにも見えないか?
窓がないというのが、いかにもらしい」
モンターナの意見。
なんというか、3人の思考の傾向がなんとなく現れている……。
俺の思考は……その手の小説を読み過ぎているかもしれない。
23号室とかあるのかな……。
*────
「っよし、そろそろ探索をはじめようぜ」
「ああ。推測をするにも、まずはその材料を十分集めてから、だな」
さて、どこから手を付けるべきか。
探索の初手を迷う俺に、モンターナがこんな提案をする。
「どのように探索していくか、それ探るためにも、まずはざっくりと、私たちが行ける範囲について大まかに探ってみないか。
なにか見つけても、そこで立ち止まるのではなくて、まずはひと通り見て回る感じで」
「ん、いいんじゃないか?」
「そんなに、行けるとこ、多くなさそう?」
「ああ。……そもそも、吹き抜けの両側に見える2階以上の階層部分。
あそこまで行けるかどうかが、まず怪しいからね……」
「……そりゃそうだ。……どうやって行くんだ、あれ」
言われてみれば、その通りだ。
俺たちの探索可能領域は、意外と狭いのかもしれない。
あの2階部分に昇ることができず、またこの空間の四方の壁がガラス化していて固着しているというのなら、最悪このホール部分しか探索できない可能性がある。
まずはこのホールを歩き回って、その辺を確かめてからだな。
「ひと通り見て回るまでは、3人まとまって行動ってことでいいかい?」
「あたぼうよ」
「んっ」
「そのあと、気になったものがあれば各々分かれて調査ってことで」
未開地において、不用意な単独行動は危険だ。
……危険というか、まぁ。
こういう場所で1人になった人って、大抵ロクな目に合わないよね。
というかぶっちゃけ死ぬよね、高確率で。
いまは3人だし、二手に別れるということは、必然的に片方は1人になるということで。
「……。」
「ん、なにかなフーガ」
「……死ぬなよ、モンターナ」
「えっ」
悪いが俺はカノンを1人にするつもりはない。
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