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本編
右手首とリタイア
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俺は舞原の事をよく観察しながら試合を進めていった。
ストーカーとか、そういうわけではない。きっと彼女は腰の辺りに異常を感じていることで間違いないだろう。断言できる。
このままだと、リタイアは確実にはさまなくてはいけない。とすると、四日目に西園寺との一戦が入っているため、明日には一日リタイアしてもらい、休養をとってもらわないといけない。だが、舞原がそう易々と話を聞くだろうか。
怪我の事を俺たちに隠すような奴だ。更に、休んだとしても責任を重く感じてしまうかもしれない。このチームは彼女が集めたのだから。かと言って、休ませないわけにはいかない。
そして、ついに今日の山場である四試合目を迎えることになる。
俺たちはステージに上がると、要注意人物である、須保青砥は既に上がっていた。
須保のメンバーは本人のほか二人はBクラスという強力なチームだ。勿論、その二人のことも俺は知っているし、あちらも俺のことは知っていることだろう。
「双方、準備が整ったようなので、試合開始」
もはや決まり文句となった教師の言葉を聞くや否や、俺は進んで舞原の前に立つ。
「零……?」
「舞原。この試合は俺がやる。お前は下がってろ」
「はあ?」
舞原だけではなく、ミサも反論してくる。
「何言ってるのよ! 要注意人物だって舞原も言ってたでしょ。あんた一人じゃ……」
「協力を仰がないと言っている訳じゃない。だが、基本的には俺が全部やるから。安心しろ。必ず勝つ」
必ず、なんてことは保証できない。万が一もあり得る。だが、既に俺が戦った試合は勝ちを収めているという事実を突きつければ、何よりも信じられる言葉だ。
俺は右手首を一回叩きながら、トントンと足を地面につつく。
「椿零、だっけ?」
試合は始まっているのだが、須保はお構いなしに話しかけてくる。
「落ちこぼれって言われてたらしいけど、全然違うし、強いじゃん」
「そう言ってもらえて光栄だな」
「にしては、まんざらでもないような顔付きだけど」
「まあな。事実、他人からの評価なんてどうでもいいと思っているからな。俺が強いか弱いかだなんて関係ないだろ。事実、人の強さの基準なんて人それぞれだ。きっと舞原から見たら、俺なんてそんじょそこらにいる生徒たちと何ら変わりはしないだろうが」
「そうかな? 僕からしたら、君の方が強く見えるけどね」
「だったら、その身をもって、試してみるか?」
瞬間だった。俺は力を入れる素振りを出さぬまま、力強く地を踏み抜いた。
一気に須保との距離を縮める。が、目指した先には誰もおらず、Bクラスの生徒二人がタイミングを合わせ、俺へと拳を放っていた。
「やるじゃないか……」
完全なる不意打ちだったのだが、しっかりと反応してきた。俺は放たれた拳をよけながら、背後から迫りくる気配に跳躍しながら対応する。
「これで落ちこぼれよわ張りとはね。皆見る目がないみたいだね」
「図分とおしゃべりが好きそうだな。そんなにも余裕か?」
「そうだね、余裕だよ」
悪びれる素振りもなく、淡々とそう告げる。
「確かに君は未知数だ。この試験から急に頭角を現したもんだから情報は全くない。唯一あるとすれば、以前まで君は落ちこぼれと言われていたということだけ。だけど、僕には関係ない。君がどんなに強かろうと、僕が勝つ。君の勝利は訪れない」
「なるほどな。かなりの自信家だと見える。だが、俺の勝利は訪れない、っていうところは撤回してくれねえか?」
俺は一度須保から距離を取って、薄く微笑みながら、言ってやった。
「この試合は俺が勝つってもう決まっちまってるからさ。今撤回しなきゃ後悔するぜ?」
そんな俺のセリフに須保はケラケラと笑った。
「後悔? そんなものしないよ。口では何とも言えるさ。もう少しでこの試合も終わらせてあげるよ」
そう言った刹那、首を傾けた俺の頬を何かがかすめた。それが須保自身が放った引っ搔きによる攻撃だということを理解するまでに数秒を有する。
「こっわ……」
そんなことを呟いて、未だに残像しか見せない須保を本能で感じ取る。
瞬間、俺は真上に跳躍した。元居た場所を何かが通り抜ける。
右へ左へ前へ後ろへ上へ。幾度となくくる超スピードの攻撃を全てよけて見せる。
そして残像が濃くなり始めた一瞬、俺はタイミングよく左拳でアッパーカットを放つ。
手ごたえを感じたと同時に、今度は跳躍してからのハイキックを繰り出す。
こちらは未だに一撃を与えられていないまま、一方的に攻撃を当て続ける。
やがて、やっと須保本人を確認する。
「……一体、どうやって…………」
「説明すると思っているのか?」
すぐに地を蹴り、須保の元へと突進する。
放った拳は惜しくも空を切るものの、警戒をほどかずに準備していた俺には反撃など容易く反応できる。
素早く伸ばされた右手をひっつかむと、そのまま投げ飛ばす。疲労が溜まった体に新たなダメージが加わる。
だが、まだランプは一つも点灯していない。
相手は獣の力を操るのだ。怪力勝負など勝てっこない。だったら少しずつダメージを与えていくに限る。
立ち上がり、今度は背後を取る動きを見せた須保だが、しかし俺は転げるようにそれをよける。
そして無防備な腹部に向け、回し蹴りを放つ。
手ごたえはあったものの、臨んだダメージほど与えられてはいないだろう。未だに
執拗に攻めてくる須保だが、単純に腹部に蹴りを入れ、頭が下がったところに、膝蹴りを顔面に食らわす。大きく後ろにのけぞった須保だが、俺はそんなものなどお構いなしにまたも腹部に左拳のボディブローを放つ。
ほぼ会心のできで当たったその一撃についに須保は倒れた。
他の二人は舞原たちが倒したようだ。
さて、これでこの試合は終わりだが、かなりの収穫があった。
一つは舞原はリタイアを強要する必要があること。
もう一つは、俺の右手首が壊れるのを何とか試験後までに耐えられることだ。
ストーカーとか、そういうわけではない。きっと彼女は腰の辺りに異常を感じていることで間違いないだろう。断言できる。
このままだと、リタイアは確実にはさまなくてはいけない。とすると、四日目に西園寺との一戦が入っているため、明日には一日リタイアしてもらい、休養をとってもらわないといけない。だが、舞原がそう易々と話を聞くだろうか。
怪我の事を俺たちに隠すような奴だ。更に、休んだとしても責任を重く感じてしまうかもしれない。このチームは彼女が集めたのだから。かと言って、休ませないわけにはいかない。
そして、ついに今日の山場である四試合目を迎えることになる。
俺たちはステージに上がると、要注意人物である、須保青砥は既に上がっていた。
須保のメンバーは本人のほか二人はBクラスという強力なチームだ。勿論、その二人のことも俺は知っているし、あちらも俺のことは知っていることだろう。
「双方、準備が整ったようなので、試合開始」
もはや決まり文句となった教師の言葉を聞くや否や、俺は進んで舞原の前に立つ。
「零……?」
「舞原。この試合は俺がやる。お前は下がってろ」
「はあ?」
舞原だけではなく、ミサも反論してくる。
「何言ってるのよ! 要注意人物だって舞原も言ってたでしょ。あんた一人じゃ……」
「協力を仰がないと言っている訳じゃない。だが、基本的には俺が全部やるから。安心しろ。必ず勝つ」
必ず、なんてことは保証できない。万が一もあり得る。だが、既に俺が戦った試合は勝ちを収めているという事実を突きつければ、何よりも信じられる言葉だ。
俺は右手首を一回叩きながら、トントンと足を地面につつく。
「椿零、だっけ?」
試合は始まっているのだが、須保はお構いなしに話しかけてくる。
「落ちこぼれって言われてたらしいけど、全然違うし、強いじゃん」
「そう言ってもらえて光栄だな」
「にしては、まんざらでもないような顔付きだけど」
「まあな。事実、他人からの評価なんてどうでもいいと思っているからな。俺が強いか弱いかだなんて関係ないだろ。事実、人の強さの基準なんて人それぞれだ。きっと舞原から見たら、俺なんてそんじょそこらにいる生徒たちと何ら変わりはしないだろうが」
「そうかな? 僕からしたら、君の方が強く見えるけどね」
「だったら、その身をもって、試してみるか?」
瞬間だった。俺は力を入れる素振りを出さぬまま、力強く地を踏み抜いた。
一気に須保との距離を縮める。が、目指した先には誰もおらず、Bクラスの生徒二人がタイミングを合わせ、俺へと拳を放っていた。
「やるじゃないか……」
完全なる不意打ちだったのだが、しっかりと反応してきた。俺は放たれた拳をよけながら、背後から迫りくる気配に跳躍しながら対応する。
「これで落ちこぼれよわ張りとはね。皆見る目がないみたいだね」
「図分とおしゃべりが好きそうだな。そんなにも余裕か?」
「そうだね、余裕だよ」
悪びれる素振りもなく、淡々とそう告げる。
「確かに君は未知数だ。この試験から急に頭角を現したもんだから情報は全くない。唯一あるとすれば、以前まで君は落ちこぼれと言われていたということだけ。だけど、僕には関係ない。君がどんなに強かろうと、僕が勝つ。君の勝利は訪れない」
「なるほどな。かなりの自信家だと見える。だが、俺の勝利は訪れない、っていうところは撤回してくれねえか?」
俺は一度須保から距離を取って、薄く微笑みながら、言ってやった。
「この試合は俺が勝つってもう決まっちまってるからさ。今撤回しなきゃ後悔するぜ?」
そんな俺のセリフに須保はケラケラと笑った。
「後悔? そんなものしないよ。口では何とも言えるさ。もう少しでこの試合も終わらせてあげるよ」
そう言った刹那、首を傾けた俺の頬を何かがかすめた。それが須保自身が放った引っ搔きによる攻撃だということを理解するまでに数秒を有する。
「こっわ……」
そんなことを呟いて、未だに残像しか見せない須保を本能で感じ取る。
瞬間、俺は真上に跳躍した。元居た場所を何かが通り抜ける。
右へ左へ前へ後ろへ上へ。幾度となくくる超スピードの攻撃を全てよけて見せる。
そして残像が濃くなり始めた一瞬、俺はタイミングよく左拳でアッパーカットを放つ。
手ごたえを感じたと同時に、今度は跳躍してからのハイキックを繰り出す。
こちらは未だに一撃を与えられていないまま、一方的に攻撃を当て続ける。
やがて、やっと須保本人を確認する。
「……一体、どうやって…………」
「説明すると思っているのか?」
すぐに地を蹴り、須保の元へと突進する。
放った拳は惜しくも空を切るものの、警戒をほどかずに準備していた俺には反撃など容易く反応できる。
素早く伸ばされた右手をひっつかむと、そのまま投げ飛ばす。疲労が溜まった体に新たなダメージが加わる。
だが、まだランプは一つも点灯していない。
相手は獣の力を操るのだ。怪力勝負など勝てっこない。だったら少しずつダメージを与えていくに限る。
立ち上がり、今度は背後を取る動きを見せた須保だが、しかし俺は転げるようにそれをよける。
そして無防備な腹部に向け、回し蹴りを放つ。
手ごたえはあったものの、臨んだダメージほど与えられてはいないだろう。未だに
執拗に攻めてくる須保だが、単純に腹部に蹴りを入れ、頭が下がったところに、膝蹴りを顔面に食らわす。大きく後ろにのけぞった須保だが、俺はそんなものなどお構いなしにまたも腹部に左拳のボディブローを放つ。
ほぼ会心のできで当たったその一撃についに須保は倒れた。
他の二人は舞原たちが倒したようだ。
さて、これでこの試合は終わりだが、かなりの収穫があった。
一つは舞原はリタイアを強要する必要があること。
もう一つは、俺の右手首が壊れるのを何とか試験後までに耐えられることだ。
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