異世界ホストNo.1

狼蝶

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67.【迷える子羊なお客様】13~ようこそエイデン家へ~

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「では、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はい」
  優しい笑顔で見送ってくれる店長に、小声で返す。今は深夜。本日二回目の『行ってきます』だった。
 明日は仕事であり、皆はもう寝ている。というか、寝かせた。
 俺がまた夜にエイデン家へ行くと言い、嬉しいことに皆が一緒に行くと言ってきてくれたのだが、皆は明日仕事があるのだ。深夜に活動していては、体力が持たないだろう。という俺も全然体力ないのだが。ありがたいことに、店長の計らいで、明日の朝は掃除を免除してもらい、少しだけ寝かせてもらえることになっている。マジ店長優しすぎ。
 そんな神みたいな店長の『いってらっしゃい』を背中に、俺は闇夜に足を踏み出した。

 ひぇえ、さっっっぶ!!!
 店から出た瞬間、何も覆っていない顔に冷たい風が直撃する。思わず目を細めてしまう。んもう、元から細いのに!
 寒いだろうからとナナは毛布で包んでおいたが、正解だったようだ。くっっそさむい。
 この寒い中、シュワロくんは一人なんだな・・・・・・。
 少し寒さに慣れてきた頃、ふとそう思った。立派な門に大きな屋敷。その中で、寒くて真っ暗な中で、彼は今独りぼっちなのだ。いや、元々一人が好きかもしれない。人と共にいることに煩わしさを感じるタイプで、むしろ快適な生活を送っているのかもしれない。でも、俺だったら、心細い。家の中だけじゃなくて、まるで世界で一人だけ取り残されたように感じてしまうだろう。
 びゅぉおと凄まじい音を立てながら身体にぶち当たってくる風に、俺はコートの襟元を手繰り寄せた。さむい。

 うむ。そして、再びエイデン宅の前にいるのだが・・・・・・ベルを鳴らした方が良いのだろうか。ご近所迷惑にならないだろうか。それに、ベルを鳴らして彼は出て来てくれるのだろうか。
 そんな風に考えていると、キィと小さな音と共に屋敷の荘厳な扉が開き中から小さな人影が出て来た。
「あっ!」
 次の瞬間、ナナが籠から勢いよく飛び出し、門の隙間を通り抜け、一目散にその人影へと走り出す。つくづく思うが、これ籠の意味ねぇな。
「ナナっ!!」
「みゃ、みゃぁ~~」
 少年のような、高い声が響き渡る。声の主は、言わずもがなシュワロくんであった。
 走ってきたナナを腕に抱き留めると、ぎゅうぎゅうと腕全体で抱きしめている。目からはぽろぽろと可愛らしい雪のような涙が落ちていて、それがナナの毛に落ち弾かれていた。小さなナナの顔に自分の顔を擦り付け、ナナは『ちょっとやりすぎ』と言うように手でシュワロくんの身体を押し返している。
「あ、えっと・・・な、ナナミ、さん?」
「あ、こんばんは。その、意外と早く、ナナくんを見つけたので・・・・・・」
 きちゃいました、と苦笑いをする。だって、昨日の今日だもんな。びっくりするわ。
「ぁ、ありがとうございます!ナナを見つけてくださって。本当に、ありがとうございます!」
「いやぁ、その・・・半ば俺たちの責任というか・・・・・・っと、ナナ、どうした?」
 まさかうちの店で餌付けされてたとは、言いにくい。ううん、と言いよどんでいると、シュワロの腕の中からしゅるんっと飛んだナナが、俺の足下へ来てすりすりと身体を擦り付けた。短い間であったが、懐いてくれたことに感動し目の奥がジンと熱くなってくる。思わずその小さな頭を撫でてしまった。柔らかい毛に触れてしまえば、モモのように手放したくなくなるに違いない、そう思って触りたい気持ちをセーブしていたのに。
「なーん」
 この甘えたような声を、もう聞くことができないなんて・・・。本当に、ナナと過ごした時間は少ししかなかったのに、俺はもうナナにメロメロになっていたのだ。
 あかん。離れるとか無理。泣く。
「あの・・・・・・」
 目尻から汗が流れそうになる直前、飼い主から遠慮深げに声をかけられた。そうだ、俺はこの子を帰しに来たのだ。何をやっているんだ。早く帰して俺も店へ帰ろう。そう思いナナを抱えようとした時、シュワロから思いがけない提案を受けた。
「よかったら、うちに上がりませんか?その、さ、寒いですし・・・・・・」
 そう言われるとは思ってもみず、ナナに伸ばしていた手が止まった。顔を上げると、手をもじもじとさせたシュワロくん・・・いや、シュワロさん。他人を家に上げるなど、よほど信頼してくれてないとできないことだろう。未だに目を合わせてはもらえないが、なんとなく自分が信頼に足る人間だと言われたようで、とても嬉しくなった。
「ぇっと、ぁの、いきなり、めいわくでしたよね・・・・・・ごめんなさい」
「いいえ!よろこんで!!」
 俺は図々しくも、ナナを抱きかかえると元気に返事を返した。


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