ブラックカメリア

金子馬太郎

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岩下宗則

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子供の頃、ヒーローに憧れた。赤いマントの正義を貫くその姿は警察官であった父と重なり、いつしか将来の夢を聞かれれば「父さんのような人になる事」と答えるようになった。苦痛にも似た程の、父という存在、ヒーローへの強い憧れは、恋愛や遊びの誘惑にさえ打ち勝ち学生時代の血のにじむ努力あって、俺は念願の警察官になれたのだ。しかし、実際警察官という仕事は幼き日の自分が夢に見た正義とは程遠く、薄汚れているのだと知った時、同時に父への失望感が湧き上がった。ヒーローに憧れ警察官を夢見たあの頃の自分にもしアドバイスを出来るとしたら今の俺なら何と言うであろう。きっと・・・
「おい岩下、聞いてるのか」
「あっ、えっと、はい」
昼食後のおやつにと買ってきたチョコ菓子を頬張りながらコーヒーを啜り、ぼんやりと考え事をしていたばっかりにワンテンポ遅れて認識した小林警部補の声には苛立ちが滲んでいた。
「ぼーっとしやがって。警視庁警備部の岩下さんの息子だっていうから次世代エースなんて呼ばれてたのになぁ、この有様だよ。まったく。勘弁してくれよ」
光沢を纏ったギトギトと汚らしい顔を顰め、今にも灰が落ちそうな煙草を片手にぶつくさと嫌味を言う上司を前に言い返す言葉もなく情けなくヘラヘラと笑ってしまう自分が情けない。
「えっと、その、何か・・・」
「何か?じゃねえんだよ、何か?じゃ。南峠中学校連続殺人事件だ。六人目の仏さんの身元が割れたんだよ」
「はあ・・・」
「はあ・・・じゃないだろ、はあ・・・じゃ。ったく。あのな、ホシはマエモノじゃねえかって話が上がってんだ」
「マエモノ・・・つまり前科者という事ですか。それなら、記録を調べれば捜査も早く進むんじゃ・・・」
デスクに腰をかけフィルターすれすれまで短くなった煙草を美味そうに口にくわえた小林警部補が一瞬覗かせた嫌な顔を俺は見逃さなかった。
「手際の良さが素人のソレじゃねえだろ、こんな短期間に何人も。マルセイのマエモノだなこりゃ」
「精神異常者で、前科者ですか・・・」
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