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最狂のチートとは何か

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舞い上がる土埃が顔に飛び込んできた。
燦々と輝く太陽の熱気が、突風とともに押し寄せては身体にまとわりつく。
ジュウゾウは街道沿いをひたすら歩いた。

とにかく、町でも村でも何でもいいから人里に入りたかった。
酷い渇きに喉が痛み、空腹のせいで胃がズキズキと痛む。
そんなジュウゾウの周りを妖精が飛び回っている。

見た目はとても愛らしい、陶器で出来た人形のような妖精だ。
「もうすぐ町よ、もうすぐ町よ」
透き通った羽を動かしながら、好き勝手に飛んでいる妖精をジュウゾウは鬱陶しいとばかりに睨んだ。
そんなジュウゾウの様子に、しかし妖精は気にする素振りも見せない。

「ハア……チート貰って異世界に来たのはいいけど、まさか、いきなり、こんな街道を歩かされるとは思っても見なかったぞ……
それも丸一日なんてやってらんないな……おまけにこんな役立たずの妖精まで押し付けるなんて、ふざけんなよ……」
すると空中を飛び回っていた妖精が、ジュウゾウに抗議した。

「あたいは役立たずじゃないわ、あたいはベルゼブブからあんたをサポートするように頼まれたのよ」
そんな妖精の物言いにカチンと来たジュウゾウが、苛立ち紛れに怒鳴る。

「それじゃあ、今すぐ町にテレポートするとか、水と食物を魔法で出すとかしろよっ」
渇きと飢えに気が立っているのだ。
そんなジュウゾウに対し、妖精はにべもなく「水と食料くらい、自分でなんとかしなさいよ」とはねつけた。
「やっぱり役に立たないじゃないかっ、大体、俺はチート能力者なんだろうっ、なんでテレポートしたり、
町や村までスーパーマンみたいに飛んでいったりとかできないんだよっ」

そんなジュウゾウに妖精が答えてやる。
「それは単純にあんたの能力が不足しているからよ。今のあんたの強さは良くて人並ってとこかしらね。
あんたの好きなゲームやアニメの主人公レベルの活躍がしたいなら、
ベルゼブブとの契約通りにすればいいのよ」

「契約?そういえば、チート能力を貰うときに何か言われたな。よく聞いてなかったけど」
「あんた、あんまり浮かれてて、ベルゼブブとの契約の内容をよく確かめてなかったでしょう。
あんたが強くなるには汚物を食べるしかないのよ」
そんな妖精の言葉にジュウゾウは目を見開いて驚いた。

「ど、どういう事だよっ」
「そのままの通りよ。あんたの望んでる力が欲しいなら、糞小便や腐った物を食べればいいわ。
そこから能力を得たり、力を増幅させることが出来るようになるからね」

ジュウゾウは一瞬、目の前が暗くなった。
あの時、キチンと話を聞いておけばよかったと思った。
しかし、今更後悔してももう遅かった。

そんなジュウゾウを尻目に妖精が言葉を続ける。
「まあ、あんたの気持ちもわからないわけじゃないわよ。
子供騙しとは言え、ちょっとした詐欺を仕掛けられたようなもんだしね。
相手の欲望を刺激して注意を逸らさせてから、本題に入るのは詐欺の常套手段だし」

「そ、そうだ、俺は悪魔に騙されたんだっ、くそっ」
地面を蹴り上げ、ジュウゾウは酷く悔しがった。
自分の迂闊さを棚に上げて、こんなの詐欺だ、あんまりだと。

妖精はそんなジュウゾウをさも面白そうに眺めていた。
ジュウゾウの魂から立ち上る腐臭は、いかにもベルゼブブの好みだったからだ。



町に着いてから四日目の朝、ジュウゾウは飲食店の裏側で残飯を漁っていた。
ブリキのバケツに顔を突っ込み、客の残り物や野菜クズを拾っては口に入れる。
勿論、探せばジュウゾウの出来そうな仕事は街中にだって色々と見つかるのだが、
この男は働くのを拒んだ。

人足や配達の仕事などやってられないからだ。
重労働である人足はパスだし、だからといって賃金が低い配達の仕事など嫌だ。
とは言え、狩りは無理だし、薬草や鉱石の採取は道具も知識もない。

あるいは妖精のサポートのおかげで意思疎通は可能であり、読み書きも不自由してはいないし、
曲がりなりにも現代教育を受けていたのだから、
商家かどこかで雇ってもらえるのではないかとも思うのだが、
生憎とこちらは会計の知識が必要になってくる。

この世界では複式簿記くらいなら商家の丁稚小僧も習っているので、
ジュウゾウが雇ってもらえる可能性はやはり低い。
そういうわけだから、今のジュウゾウがこの世界で生きるには残飯漁りしかないのだ。

それに残飯漁りだって決して悪いわけではない。
残飯の中から腐った物を拾って食べれば、能力アップに繋がるかもしれないからだ。
もっとも、ジュウゾウは腐敗した箇所は絶対に食べようとはしなかったが。

そんなジュウゾウの現在のステータスはこんな感じになっている。

STR=2

VIT=2

DEX=2

AGI=2

INT=3

ちなみにこの世界の一般人の平均能力は3ほどになっている。
となると、これでは人並以下ということだ。

ジュウゾウが自分の好みの食べ物はないかと、適当に残飯を拾っては周りに放り捨てる。
そこで不意に店の裏口が開くと、前掛けを付けた男が出てきて、ジュウゾウを怒鳴りつけた。
「こらっ、お前かっ、最近、店の残飯を漁って散らかしてたのはっ」
男に怒鳴りつけられたジュウゾウは慌ててその場から逃げ去った。

そして、腹の虫を鳴かせながら河川敷の下へと戻る。
今のジュウゾウはこの場所を住処にしていた。
「はあ……今日はとんでもない目にあった……全く、どうせ捨てるんだから残飯くらい漁ってもいいじゃねえかよ」
石の上に座り、ジュウゾウが愚痴る。

「それなら働けばいいんじゃないの?」
妖精がジュウゾウに意見を述べる。
「あんな日雇い仕事なんか絶対にやらないぞ。俺は自分にふさわしいやり方で金を稼ぐんだ」
「じゃあ、雑魚一匹狩ることもできず、無一文のままでどうやってお金稼ぐのよ?」

「どっかに大金でも落ちてるかも知れないだろう。それを拾えばいいんだよ」
「呆れた。でも、あんたって結構前向きなのね。いいわ。それならさっきお金を拾ったから、
これを少し増やしてみましょう」
そう言うと、どこからか妖精は金を取り出した。

「おおっ、金だ、よこせっ」
ジュウゾウが妖精から金を奪おうとした。しかし、妖精がジュウゾウの手からすり抜ける。
「ダメよ、とにかく、こっちきて耳を貸しなさい。やり方を教えるから」



町の酒場を訪れたジュウゾウは早速、ゲームの相手を探し始めた。
カウンターの方を見ると樫の杖を持った小柄でひ弱そうな男が酒を飲んでいる。
結構酔っ払っているようだった。
おまけに酒が入ると陽気になる性質のようで、顔を赤くしながら一人でケラケラ笑っていた。

(コイツなら引っかかりそうだな、よし……)
早速、ジュウゾウは男に近づくとゲームをしないかと持ちかけた。

「どうも、少し暇なもんでしてね、お互い一人のようだし、お近づきにゲームでもしないか?」
ジュウゾウが妖精に教わった通りの台詞を言う。
すると男が「ああ、いいよ」と返事をした。

次にジュウゾウが男にゲームの説明を始めた。
それは最初にお互いが同額の金を出し合い、その合計した金額を次はセリで落とし合うというものだった。
現代の日本で例えれば、ふたりで一万円を出し合い、次は合計額の二万円を競うといえばいいだろうか。

「それじゃあ、俺は30オーブ出すよ」
「じゃあ、こっちも30オーブ」
互いに出した金をコップの中に入れてカウンターの上に置いた。
コップの中には合計で60オーブが入っている。

「では最初は俺から。このコップの中身に30オーブ」
それに対して男は素早く答えた。
「40オーブっ」
「負けた。このコップはあんたのもんだ」
そう言うとジュウゾウが、40オーブと引き換えにコップを渡す。

男はこれで、まだ酒が飲めるぞと浮かれていた。
酒で思考力が鈍っている男には、20オーブの儲けが出たという思い込みがあった。

実際は10オーブ、損しているのだが。
一見して稚拙な詐欺の手口でも、相手と状況次第では結構使えるものだ。

妖精がジュウゾウに向かって、さっさと酒場から出るわよと囁いた。
しかし、うまく男から金を巻き上げることができたからか、
得意げになっているジュウゾウは妖精の忠告を受け入れずに、
むしろ次のカモを探し始めた。

その内、何かおかしい事に気づき始めた男が財布の金を確認し始める。
そこで10オーブ足りない事が分かると、男はジュウゾウの背中を睨みつけた。
そんなことは露知らず、ジュウゾウが酒場の外の裏にあるトイレへと足を踏み入れる。

そこへ金を巻き上げられた男が後ろから近づくと、ジュウゾウの脳天目掛けて樫の杖を振り下ろした。
その衝撃にジュウゾウが地面に崩れ落ちる。そこからは滅多打ちだ。
背中や足、肩を何度も打たれ、ジュウゾウはボロボロになった。
おまけに有り金も全部持って行かれた。

「だからあたいが言ったじゃない。酒場から離れろってさ」
妖精が瀕死のジュウゾウに回復魔法をかけてやる。
何とか立ち上がったジュウゾウは決意した。
絶対に強くなって仕返ししてやるぞと。



それから河川敷でジュウゾウと妖精は朝を迎えた。
ジュウゾウの傷はすっかり癒えている。
「なあ、汚物を食うと強くなるって話だけどさ、食えば一番強くなるのはどんな汚物なんだよ?」
「それは物にもよるわね。とりあえず、あんたが食べられそうな汚物から食べていけばいいんじゃないの?」

ジュウゾウは考え込んだ。今の俺が食べられそうな汚物って一体何なんだと。
そこではっと閃いた。美人の排泄物なら俺でも食えるはずだと。
「よし、妖精、綺麗な女の子のウンコと小便をゲットするぞ」
「それはいいけど、どうやって?」

ジュウゾウは妖精に頷いた。そしてこう言ったのだ。
「ウンコを強奪するんだと」
こうして、ここにウンコ強盗ジュウゾウが誕生した。

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