14 / 31
14話
しおりを挟む
「まぁ、この建物作るのに色々動き回って疲れたんでしょうね。ほっとけば元に戻るから心配ないわ」
そう言うと母は俺から離れ、体を洗うのに戻っていった。
ハァ、反応したのが疲れのせいだと判断されて助かったな。
今後は気をつけていきたい所存であるが……一緒に入浴するのを避ければいいか。
一通り身体を洗い終えると、俺達は浴槽のお湯に並んで浸かる。
ザバァッ……
「「ハアァァァ……」」
同時にそんな声がこぼれ出す俺と母。
「これは良いわ……こんな贅沢ができるとはね」
「まぁ、普通にお湯を沸かすなら大量に薪を使うだろうからねぇ」
「この建物もアンタが作ったんでしょう?商人の護衛に杖なんかを作ってあげたぐらいでこんなのを作れるほど魔石を貰ったの?」
「あー、いや……」
むむ、やはり報酬の多さを不自然に思われたか。
建物に使った魔石が少なく済んだことにしてしまうと、今後は俺が村を出るまでに様々な物を作るよう依頼される可能性が高い。
一度や二度なら誤魔化せるのかもしれないが……実際はそれなりの数を消費しているわけだし、消費量が少なく済んでいることにすると魔石の入手機会も増やせずいずれ枯渇してしまうだろう。
というわけで、使った魔石が少なく済んだのではなく、報酬として貰った魔石が多かったことは誤魔化せない。
そうなると、そこまでの報酬を貰えることをやったって話になるのだが……事実である怪我の治療については、それが必要になるときまで秘密の方が良いだろう。
かと言って、俺が身体を売ったなどと言えば……怒られるし悲しまれるよな。
なにより、万が一その相手がリョーガさんだと思われたら心外オブ心外でござる。
俺にそういう趣味はないからな。
まぁ、彼の護衛である女性陣とはそういう関係なりかけたが……それはそれで怒られそうではあるが。
さて、どう答えたものか……と考えていると、リョーガさんの馬車を思い出した。
魔物の襲撃を受け、無理して襲撃地点を突破したことによって相当なダメージを負っているはずだ。
馬車が不調であれば今後の旅程すべてに影響が出るだろうし、その馬車を修理する対価も含まれていることになるならそれなりに報酬が多くても不自然ではない。
それを母に伝えると、割とすんなり納得された。
「ああ、なるほどね。馬車が動けなくなったら積み荷の大半は置いて行くというか、捨てていくことになるからねぇ」
一度放置した物はその後、回収しに戻っても無事であることは稀だそうで。
その損害を回避できるのであれば、それ相応の報酬を受け取るのは当然らしい。
納得した母に安堵するが、この後リョーガさんとの口裏合わせが必要になった。
実際に修理が必要だったのかはわからないが……経緯を考えれば無傷ってことはないだろうし、その様子を見れば修理が必要であったようには見えるだろう。
そんなわけで……その後、一頻り入浴を堪能した俺達は浴室から出ると、身体の表面から魔石で余計な水分を収集して服を着た。
「ふぅ……すごくさっぱりしたわ」
「そりゃ良かった」
そんなやり取りをしながら外に出ると、母は夕飯の支度へと戻っていく。
その手には脱衣所で使っていた石製のランプがあり、それはかまどでの着火用にと俺が持たせた物である。
何個も作って設置しているし、必要ならまた作ればいいからな。
まぁ……その中の油は家にあった物なので、後でリョーガさんに何かを買い取ってもらって補充しなければ。
使ったのはそこまで多くないし、少し前に来た商人から買っていて十分な量があったはずなのですぐには気づかれないと思いたい。
そんな母を見送ると、俺は脱衣所や浴室の清掃を魔石によって短時間で終わらせ、まずはサリーさんの家に向かう。
ドアを叩き、中から出てきたのはサリーさんだった。
「あら、ジオ君。どうしたの?」
「リーナさんの友達に湯浴みをって話ですが……」
「あぁ、あれね。リーナはまだお友達とお喋りしてて帰ってないんだけど……」
どこかの家で内職していたらしいが、そこで一緒だった友達とのお喋りでまだ戻っていないらしい。
「ああ、そうですか。湯浴みのための建物は出来たんで、明日以降ならいつでもいいって伝えておいてもらえれば」
「建物って、うちとジオ君の家の間に出来たアレ?あれって湯浴みに使う物なの?」
「ええ。ちょっと魔石を貰う機会がありまして」
俺は母にも話した、リョーガさんから魔石を受け取ることになった経緯をサリーさんにも話す。
すると……彼女は俺がその家に寝泊まりできる部屋を作ったことを聞いて妖艶な笑みを浮かべた。
「へぇ……じゃあ、夜は淋しいでしょうし今度泊まりに行くわね♪」
「はあ。別に淋しいってほどじゃないと思いますが」
精神的には大人だし、現世でもすでに一人部屋で寝ている。
なのでそう返した俺だったが……
「淋しくなぁい?コ・コ♡」
そう言って彼女は俺の股間に手を伸ばし、形を確かめるように撫でてきた。
母との入浴中に戦闘態勢となるも、発射することなくここまで来たからかすぐに反応してしまう。
それを確認したサリーさんは手に少し力を入れた。
きゅ。
「う」
「……どうする?中に入っていく?♡」
確実に家の中という意味ではないお誘いで、状況的にはお邪魔したいところではあるが……
「この後、ちょっと用事がありまして……」
「あら、リーナと?」
「いえ、そういうわけでは。ですが今日中に済ませておきたいことなので」
「そう?残念ねぇ……」
俺の言い方に細かいことは話せないことを悟ったのか、サリーさんは深く追求せずにあっさり諦めた。
そんな彼女が、屈んで胸元を指で引き下げながら言う。
「硬くなったら言ってね?いつでも柔らかくするから♡」
サリーさんと別れ、俺は今日中に済ませたい用事をこなしに行く。
目的地は商人用の貸家であり、そこに滞在しているリョーガさんと会いたいからだ。
理由はもちろん、貰った魔石の量についての口裏合わせの為である。
開いている建物の店舗側に顔を出してみると、暇そうにしていた彼が俺に気づいた。
「おやジオ君。どうしたの?」
「どうも、ちょっと魔石の件でお話が」
「ん?やっぱりもっと欲しかった?」
「いえ、そういうわけではなくてですね。実は……」
俺は母に魔石の量が多かったことを不審に思われ、馬車の修理も行ったことにしたので実際に修理させてくれと申し出る。
「ああ、こちらとしてはありがたい話だね。大きな傷はなさそうだったけど、細かい傷はたくさんあるから。商人としてはなるべく綺麗なほうが都合いいしね」
足元を見られるようなことが、馬車でもあるということかな?
場合によっては商人になりたてだと思われて侮られそうだが……いや、新人じゃ馬車を使わないか、使っても中古になるか。
そんな彼がテレーナさんに店番を任せ、俺を馬車まで案内した。
テレーナさんに案内してもらっても良かったが、商人にとっては馬車も大事な物である。
なので俺を信用するしないに関わらず、自分の見えない所でいじられたくはないらしい。
車庫へ入ると、一旦馬車を外に出す。
夕飯時と言えどまだ暗くはないので、日のあるうちに傷の確認をするためだ。
「うわぁ……」
「酷いもんでしょ?」
雨のような投石を受けたとは聞いていたが、致命傷はないと言ってもこれではボロボロに見えるだろう。
「これで積荷は大丈夫だったんですか?」
「一応、補修用の板は積んでおいてね。それを護衛の3人が盾代わりにしてたから」
「なるほど」
それで積荷に被害は少なかったが、積荷を守った代わりに結構な怪我をした人が出てしまったのか。
そう納得する俺の前でリョーガさんは車体の下部を覗き込み、車軸などのチェックをし始めた。
「んー……あっ」
「どうしました?」
何かに気づいたらしいので聞いてみると、彼はサッと馬車の下から出てきて正面から片目を閉じて馬車を見る。
「車軸が少し曲がってて、そのせいか車輪が傾いてるね」
「曲がる?……あぁ、金属の車軸なんですね」
しゃがんで車軸に注目してみると、銀色っぽい棒が使われていた。
ついでに車輪も見てみると、右側の前輪が内側に傾き、車体に触れるか触れないかぐらいの状態だ。
「魔物の襲撃から逃げるときに大きく跳ねたことがあったから、そのときに曲がってしまったのかもしれないね」
「異音とか、村に来るまでは気づきませんでした?」
「荷物が載ってたし、何より急いでいたからなぁ……」
「あぁ、それもそうか。とりあえず車軸のほうから直してみます?」
「え?鋼で出来てるんだけどやれるのかい?」
「そう言われると……やってみないとわからないとしか。金属は初めてなんで」
俺のこの発言に、リョーガさんは不安そうな顔をする。
「だ、大丈夫?馬車が動かせなくなるとすごく困るんだけど」
「そのときはまぁ、全部木製になりますけど馬車を作りますよ」
「あ、木製ならいけるんだ。それならまぁ、後で車軸を直して交換すればいいか」
というわけで、まずは車軸のほうから直してみる。
袋から小さい魔石を取り出し、飛ばして車軸に触れさせるが……変化が見えないな。
「どう?まだ直ってるようには見えないけど」
「んー……魔石の魔力は消費されてますし、微妙に変形してる感覚はあるんですけど……見た目ではわかりませんね」
そう言っている間に魔石は魔力を消費しきってしまい、その場で消滅してしまった。
「えっと……どうする?車体のほうだけでもいいとは思うけど」
「んー……」
俺は少し考え込む。
反応がなかったわけではないので、おそらく魔石の出力が足りないのではないかと思うんだよな。
簡単に言うと……変化させるための"勢い"が足りない。
その上、硬度が上がるにつれて変形に必要な魔力は増すので、魔力の量も多く必要になるはずだ。
つまり、車軸を直すには大出力大容量の魔石が必要だということになる。
大出力大容量の魔石か……用意しようと思えばできる。
浴場兼自分の家を石で作った際に、素材の石集めを効率良くしようとして作ったからな。
これは秘密にしておいたほうがいいと思うのだが……
魔石は大きくなるほど価値が上がるわけだし、それを小型の魔石から作れるとなっては大きな影響が出てしまうだろう。
治癒能力だけでも十分騒ぎになると聞いており、これ以上騒がれる材料を増やすべきではない。
しかし、今所持している魔石は今後の治療費も含まれているので、彼にはなるべく無事でいてもらいたいところでもある。
こちらとしても、魔石が手に入ったのは助かったわけだからな。
んー……仕方がない、直すか。
こっそり直したとしても馬車を動かせばバレるだろうし、すでに騒ぎになりそうな治癒能力を知られている。
それは自分達が治癒を受けるために口外しない約束であり、俺が権力者に抱え込まれるのを避けるためだ。
ならば、その可能性が更に高くなる魔石の件も口外はしないはずだし、教えてしまってもいいだろう。
元から大きい魔石を持っていたことにするのも考えたが、それがこの村にあることの自然な理由がない。
近場にそんな魔物は出ていないし、昔から持っていたのならなぜ売っていないのかという話になるからな。
というわけで……俺は魔石の袋に手を突っ込み、中の魔石を一掴みした。
そう言うと母は俺から離れ、体を洗うのに戻っていった。
ハァ、反応したのが疲れのせいだと判断されて助かったな。
今後は気をつけていきたい所存であるが……一緒に入浴するのを避ければいいか。
一通り身体を洗い終えると、俺達は浴槽のお湯に並んで浸かる。
ザバァッ……
「「ハアァァァ……」」
同時にそんな声がこぼれ出す俺と母。
「これは良いわ……こんな贅沢ができるとはね」
「まぁ、普通にお湯を沸かすなら大量に薪を使うだろうからねぇ」
「この建物もアンタが作ったんでしょう?商人の護衛に杖なんかを作ってあげたぐらいでこんなのを作れるほど魔石を貰ったの?」
「あー、いや……」
むむ、やはり報酬の多さを不自然に思われたか。
建物に使った魔石が少なく済んだことにしてしまうと、今後は俺が村を出るまでに様々な物を作るよう依頼される可能性が高い。
一度や二度なら誤魔化せるのかもしれないが……実際はそれなりの数を消費しているわけだし、消費量が少なく済んでいることにすると魔石の入手機会も増やせずいずれ枯渇してしまうだろう。
というわけで、使った魔石が少なく済んだのではなく、報酬として貰った魔石が多かったことは誤魔化せない。
そうなると、そこまでの報酬を貰えることをやったって話になるのだが……事実である怪我の治療については、それが必要になるときまで秘密の方が良いだろう。
かと言って、俺が身体を売ったなどと言えば……怒られるし悲しまれるよな。
なにより、万が一その相手がリョーガさんだと思われたら心外オブ心外でござる。
俺にそういう趣味はないからな。
まぁ、彼の護衛である女性陣とはそういう関係なりかけたが……それはそれで怒られそうではあるが。
さて、どう答えたものか……と考えていると、リョーガさんの馬車を思い出した。
魔物の襲撃を受け、無理して襲撃地点を突破したことによって相当なダメージを負っているはずだ。
馬車が不調であれば今後の旅程すべてに影響が出るだろうし、その馬車を修理する対価も含まれていることになるならそれなりに報酬が多くても不自然ではない。
それを母に伝えると、割とすんなり納得された。
「ああ、なるほどね。馬車が動けなくなったら積み荷の大半は置いて行くというか、捨てていくことになるからねぇ」
一度放置した物はその後、回収しに戻っても無事であることは稀だそうで。
その損害を回避できるのであれば、それ相応の報酬を受け取るのは当然らしい。
納得した母に安堵するが、この後リョーガさんとの口裏合わせが必要になった。
実際に修理が必要だったのかはわからないが……経緯を考えれば無傷ってことはないだろうし、その様子を見れば修理が必要であったようには見えるだろう。
そんなわけで……その後、一頻り入浴を堪能した俺達は浴室から出ると、身体の表面から魔石で余計な水分を収集して服を着た。
「ふぅ……すごくさっぱりしたわ」
「そりゃ良かった」
そんなやり取りをしながら外に出ると、母は夕飯の支度へと戻っていく。
その手には脱衣所で使っていた石製のランプがあり、それはかまどでの着火用にと俺が持たせた物である。
何個も作って設置しているし、必要ならまた作ればいいからな。
まぁ……その中の油は家にあった物なので、後でリョーガさんに何かを買い取ってもらって補充しなければ。
使ったのはそこまで多くないし、少し前に来た商人から買っていて十分な量があったはずなのですぐには気づかれないと思いたい。
そんな母を見送ると、俺は脱衣所や浴室の清掃を魔石によって短時間で終わらせ、まずはサリーさんの家に向かう。
ドアを叩き、中から出てきたのはサリーさんだった。
「あら、ジオ君。どうしたの?」
「リーナさんの友達に湯浴みをって話ですが……」
「あぁ、あれね。リーナはまだお友達とお喋りしてて帰ってないんだけど……」
どこかの家で内職していたらしいが、そこで一緒だった友達とのお喋りでまだ戻っていないらしい。
「ああ、そうですか。湯浴みのための建物は出来たんで、明日以降ならいつでもいいって伝えておいてもらえれば」
「建物って、うちとジオ君の家の間に出来たアレ?あれって湯浴みに使う物なの?」
「ええ。ちょっと魔石を貰う機会がありまして」
俺は母にも話した、リョーガさんから魔石を受け取ることになった経緯をサリーさんにも話す。
すると……彼女は俺がその家に寝泊まりできる部屋を作ったことを聞いて妖艶な笑みを浮かべた。
「へぇ……じゃあ、夜は淋しいでしょうし今度泊まりに行くわね♪」
「はあ。別に淋しいってほどじゃないと思いますが」
精神的には大人だし、現世でもすでに一人部屋で寝ている。
なのでそう返した俺だったが……
「淋しくなぁい?コ・コ♡」
そう言って彼女は俺の股間に手を伸ばし、形を確かめるように撫でてきた。
母との入浴中に戦闘態勢となるも、発射することなくここまで来たからかすぐに反応してしまう。
それを確認したサリーさんは手に少し力を入れた。
きゅ。
「う」
「……どうする?中に入っていく?♡」
確実に家の中という意味ではないお誘いで、状況的にはお邪魔したいところではあるが……
「この後、ちょっと用事がありまして……」
「あら、リーナと?」
「いえ、そういうわけでは。ですが今日中に済ませておきたいことなので」
「そう?残念ねぇ……」
俺の言い方に細かいことは話せないことを悟ったのか、サリーさんは深く追求せずにあっさり諦めた。
そんな彼女が、屈んで胸元を指で引き下げながら言う。
「硬くなったら言ってね?いつでも柔らかくするから♡」
サリーさんと別れ、俺は今日中に済ませたい用事をこなしに行く。
目的地は商人用の貸家であり、そこに滞在しているリョーガさんと会いたいからだ。
理由はもちろん、貰った魔石の量についての口裏合わせの為である。
開いている建物の店舗側に顔を出してみると、暇そうにしていた彼が俺に気づいた。
「おやジオ君。どうしたの?」
「どうも、ちょっと魔石の件でお話が」
「ん?やっぱりもっと欲しかった?」
「いえ、そういうわけではなくてですね。実は……」
俺は母に魔石の量が多かったことを不審に思われ、馬車の修理も行ったことにしたので実際に修理させてくれと申し出る。
「ああ、こちらとしてはありがたい話だね。大きな傷はなさそうだったけど、細かい傷はたくさんあるから。商人としてはなるべく綺麗なほうが都合いいしね」
足元を見られるようなことが、馬車でもあるということかな?
場合によっては商人になりたてだと思われて侮られそうだが……いや、新人じゃ馬車を使わないか、使っても中古になるか。
そんな彼がテレーナさんに店番を任せ、俺を馬車まで案内した。
テレーナさんに案内してもらっても良かったが、商人にとっては馬車も大事な物である。
なので俺を信用するしないに関わらず、自分の見えない所でいじられたくはないらしい。
車庫へ入ると、一旦馬車を外に出す。
夕飯時と言えどまだ暗くはないので、日のあるうちに傷の確認をするためだ。
「うわぁ……」
「酷いもんでしょ?」
雨のような投石を受けたとは聞いていたが、致命傷はないと言ってもこれではボロボロに見えるだろう。
「これで積荷は大丈夫だったんですか?」
「一応、補修用の板は積んでおいてね。それを護衛の3人が盾代わりにしてたから」
「なるほど」
それで積荷に被害は少なかったが、積荷を守った代わりに結構な怪我をした人が出てしまったのか。
そう納得する俺の前でリョーガさんは車体の下部を覗き込み、車軸などのチェックをし始めた。
「んー……あっ」
「どうしました?」
何かに気づいたらしいので聞いてみると、彼はサッと馬車の下から出てきて正面から片目を閉じて馬車を見る。
「車軸が少し曲がってて、そのせいか車輪が傾いてるね」
「曲がる?……あぁ、金属の車軸なんですね」
しゃがんで車軸に注目してみると、銀色っぽい棒が使われていた。
ついでに車輪も見てみると、右側の前輪が内側に傾き、車体に触れるか触れないかぐらいの状態だ。
「魔物の襲撃から逃げるときに大きく跳ねたことがあったから、そのときに曲がってしまったのかもしれないね」
「異音とか、村に来るまでは気づきませんでした?」
「荷物が載ってたし、何より急いでいたからなぁ……」
「あぁ、それもそうか。とりあえず車軸のほうから直してみます?」
「え?鋼で出来てるんだけどやれるのかい?」
「そう言われると……やってみないとわからないとしか。金属は初めてなんで」
俺のこの発言に、リョーガさんは不安そうな顔をする。
「だ、大丈夫?馬車が動かせなくなるとすごく困るんだけど」
「そのときはまぁ、全部木製になりますけど馬車を作りますよ」
「あ、木製ならいけるんだ。それならまぁ、後で車軸を直して交換すればいいか」
というわけで、まずは車軸のほうから直してみる。
袋から小さい魔石を取り出し、飛ばして車軸に触れさせるが……変化が見えないな。
「どう?まだ直ってるようには見えないけど」
「んー……魔石の魔力は消費されてますし、微妙に変形してる感覚はあるんですけど……見た目ではわかりませんね」
そう言っている間に魔石は魔力を消費しきってしまい、その場で消滅してしまった。
「えっと……どうする?車体のほうだけでもいいとは思うけど」
「んー……」
俺は少し考え込む。
反応がなかったわけではないので、おそらく魔石の出力が足りないのではないかと思うんだよな。
簡単に言うと……変化させるための"勢い"が足りない。
その上、硬度が上がるにつれて変形に必要な魔力は増すので、魔力の量も多く必要になるはずだ。
つまり、車軸を直すには大出力大容量の魔石が必要だということになる。
大出力大容量の魔石か……用意しようと思えばできる。
浴場兼自分の家を石で作った際に、素材の石集めを効率良くしようとして作ったからな。
これは秘密にしておいたほうがいいと思うのだが……
魔石は大きくなるほど価値が上がるわけだし、それを小型の魔石から作れるとなっては大きな影響が出てしまうだろう。
治癒能力だけでも十分騒ぎになると聞いており、これ以上騒がれる材料を増やすべきではない。
しかし、今所持している魔石は今後の治療費も含まれているので、彼にはなるべく無事でいてもらいたいところでもある。
こちらとしても、魔石が手に入ったのは助かったわけだからな。
んー……仕方がない、直すか。
こっそり直したとしても馬車を動かせばバレるだろうし、すでに騒ぎになりそうな治癒能力を知られている。
それは自分達が治癒を受けるために口外しない約束であり、俺が権力者に抱え込まれるのを避けるためだ。
ならば、その可能性が更に高くなる魔石の件も口外はしないはずだし、教えてしまってもいいだろう。
元から大きい魔石を持っていたことにするのも考えたが、それがこの村にあることの自然な理由がない。
近場にそんな魔物は出ていないし、昔から持っていたのならなぜ売っていないのかという話になるからな。
というわけで……俺は魔石の袋に手を突っ込み、中の魔石を一掴みした。
30
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる