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第176話
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聖職者の格好になった俺達は裏手から宿舎を出ると、大聖堂の裏手を通って反対側にある建物へ向かう。
その建物は"政務堂"と言い、この街での政治を担っている施設なのだそうだ。
マルティナの案内でその施設の裏口に到着する。
「ここには警備を置いてないんですね」
「ええ、普段は使われない出入り口なので」
マルティナは俺の問いにそう答えると、鍵を取り出してその扉を開けた。
カチャッ、キィッ
「ここの鍵は限られた数が厳正に管理されているのですが、これは私の上司からお借りした物なのです。表向きにはその方がお持ちのままだということになっているはずですが……うん、大丈夫のようですね。では中へ」
鍵について説明したマルティナは裏口から入り、内部の周囲に警戒すべきものがないと判断して俺達を呼び込む。
それに応じて中に入ると、1人だけ武装しているロゼリアが最後尾に付いて先へと進んだ。
政務堂の中は午前中だからか色々と忙しいようで廊下を行き来している人が多く、それに紛れるようにして進み3階へ上がる。
そこから右へ続く通路に出ると、いくつかのドアが並ぶ先に警備の兵が立つ他より大きめなドアがあった。
「警備の方がいるようですが……」
「ここまで来れば大丈夫ですよ。あの部屋の警備ならこちら側ですので」
マルティナはサクラさんの問いにそう答え、俺達を連れて堂々と歩を進める。
正面から来る俺達を見た警備の兵は特に何の動きも見せず、こちらが扉の前に到着するのを静かに待っていた。
そうして目的地らしい部屋の前に到着すると、警備の兵が用件を尋ねてくる。
「ご用件は?」
「司教様へ。"聖女"様をお連れしました」
「随分と早いお戻りのようですが、予言されたダンジョン街まで赴かれたのですか?」
警備の兵は"穏健派"だと聞いているが、同じ派閥だからといって無条件にマルティナの言葉を信じるわけにはいかないようだ。
まぁ、警備としては当然だろう。
実際には往路で俺が浮かせて運び、復路はサクラさんの瞬間移動で予定の旅程を短縮しているが……モクタリスの西端からダンジョン街へ向かったとして、出発から数日で戻ってこれる距離と時間ではないらしいからな。
なので本当にダンジョン街まで行き、聖女を探し出して連れてきたのかと疑っているようだ。
だが、それにはマルティナが笑顔で答える。
「もちろん行きましたよ。追手に追いつかれて襲われはしましたが、こちらのコージさんに助けていただきまして。彼の行き先もダンジョン街だったそうで同行させていただき、その御蔭で到着は予定よりも早かったのです」
「では帰りは……」
「もちろん……"聖女"様のお力で」
ニヤリとして答えるマルティナ。
「そうですか」
それを受けて警備の兵は頷くと、扉をノックして向こう側へ声を掛ける。
「マルティナ助祭が"聖女"様をお連れです」
するとその扉が開かれ、中から重武装の女性兵士が現れた。
女性だとわかるのは兜をしていなかったからだが……身長は高めで、マルティナと比べると170はありそうだ。
落ち着いた色の短めな茶髪の、キリッとしていて性格がキツそうな美女である。
それより目立つのが彼女の纏う厳つい鎧で、刺々しいというか禍々しい見た目をしていた。
なんだあれ。
"銀蘭"のルカさんが着ていた鎧は白くて騎士らしい感じだったが、あれとは真逆の印象だな。
そんな事を気にしていると武装した女性は俺に注目する。
「こちらの男性は?」
「冒険者のコージさんです。色々とお力を貸していただきまして……」
マルティナは先ほど警備の兵にした説明をし、それを聞いた女性兵士が鋭い目で周囲を見回すとマルティナに尋ねた。
「あちらとの繋がりはないのですね?武器の類はお持ちではありませんか?」
変装として聖職者の格好をしているが隠す場所がないわけではなく、"穏健派"でここの統括をしているという司教の警護であろう彼女がそれを気にするのは当然だ。
「ご心配なく。元々"聖女"様と親しくしてらっしゃった方ですし、武器もこちらでお預かりしております」
「では……中へ」
マルティナの答えを聞いた女性兵士は部屋の奥に顔を向け、おそらく部屋の主にコクリと頷くと扉を大きく開いた。
部屋の中に入ると……聖職者の宿舎とは違い、中々に装飾の施された調度品などが目に入った。
絵画から応接用のテーブルやソファなどまで、素人目にも手が込んでいるのが見て取れる。
華美と言うほどではないが、立場に見合う程度には面目を保つためといった印象だ。
そんな部屋の中、奥の大きな机に着いていた人物が席を立つ。
やはり立場に見合う、普通の聖職者とは違う装飾が施された衣服で身を包むのは……サラリとした長い金髪の、柔らかな笑みを浮かべる美女だった。
女性の兵を護衛に置いているらしいことから予想はできたが、マルティナ達の上司である司教は女性だったか。
まぁ、実力的に問題がなければ同性のほうが警護できる機会は多いだろうからな。
彼女は俺達の前までやって来る。
トットットットッ……
ユサユサユサユサ……
歩くたびに揺れる大きな胸。
ブラ的な下着はあるはずなので、それで抑えても揺れるぐらいの質量だということだ。
ガヴレット家で会った聖職者のヒルデさん並みだな。
年齢も近そうではある、関係はないだろうけど。
あのサイズが2人も存在するとは思わなかったが、1人いれば2人いてもおかしくはないか。
にしても……知る範囲では少数派である巨乳の女性と関わることになりやすいな。
偶然だろうし、何故かは気にしても仕方ない。
そうして……彼女が来ると、マルティナがサクラさんを紹介する。
「司教様、"聖女"サクラ様をお連れしました」
「ご苦労様でした」
頷いてそう返した彼女はサクラさんに名乗る。
「サクラ様、お初にお目にかかります。私はここモクタリス総支部を統括しております、司教のカノンと申します」
スッ、ユサリ
落ち着いた態度で頭を下げ、それに連動して胸が重力に引かれて揺れた。
例によって少しだけそこに目が惹きつけられると、護衛の女性が元々キツかった目を更に鋭くする。
「っ!」
キッ!
目立つものに目が行くのは本能的なものなのでどうしようもないのだが、見られた側がどう思うかは勝手なので気を悪くされても仕方がない。
ただ言葉で咎められたわけでもなく、話の腰を折るのもどうかと思うのでそこから目を離しておくだけに留める。
「あ、わ、私はサクラと申します!」
バッ!
名乗り返し、勢いよく頭を下げるサクラさん。
そんな彼女にカノン司教は微笑む。
「頭をお上げください。こちらから請うておいでいただいているのですから」
「は、はい」
彼女の言葉にサクラさんは頭を上げ、カノン司教はそれに頷くと今度は俺に向き直る。
「それで……冒険者だとお聞きしておりますが、貴方は?」
扉の前での話は聞こえていたか。
「はい。コージと言います」
「そうですか……」
チラッ
「「……」」
コクコク
俺の名前を聞いた司教はマルティナ達へ視線だけを向けた。
それに対して2人はコクリと小さく頷き、それを受けた司教は俺達を応接用の席へと促す。
「立ったままというのも申し訳ありませんので、お2人ともあちらの席へどうぞ」
その言葉に応じて席に着くと、正面に座った司教はサクラさんとその処遇について話を始める。
「改めて……ようこそお越しくださいました、サクラ様」
「あ、いえ……」
そんな感じで話を始め、司教はとりあえずマルティナに報告を求めた。
「マルティナ。サクラ様を"聖女"様だと認定した経緯を」
「はい。では……」
司教の護衛と共に立ったままだった彼女はサクラさんの"瞬間移動"について説明し、先ほどまで滞在していたダンジョン街から実際にこの街の近くまで転移してきたことを語る。
それを聞いた司教は少し何かを思案すると、申し訳なさそうな表情でサクラさんに問いかけた。
「サクラ様。マルティナは信用の置ける補佐役ですし、そのお力は確かだと思います。ただ、"聖女"だと認定したからにはそのお力をお使いいただけることが求められるわけでして……もう一度、確かめる機会を頂いてもよろしいでしょうか?」
またかと思う気持ちもあるが、これは想定内の事である。
"聖女"となれば厚遇されるのは確実だし、その立場を欲して"聖女"だと偽る者もいるらしいからな。
なので俺とサクラさんはもう一度確認をという話はあるものだと思っていたのだが……司教の方は緊張し、恐る恐るといった表情だった。
「……」
これでサクラさんが機嫌を損ね、"強硬派"に属されたりするとまずいからだろう。
力が本物だと証明されてもあちら側に付かれると意味がなく、しかし確かめもせずに"聖女"だと認定すれば偽物だった場合に"穏健派"の権威に傷がつく。
"聖女"が偽物だったと判明すればそれまでに掛かった費用が無駄になるわけだし、その点についても責任を問われるだろうからな。
司教はそういったことを踏まえ、仕方なく再度の確認を申し出たのだと思われる。
もちろんサクラさんも理解しており、チラッと俺を見るとその申し出を受け入れた。
「構いません。先ほど報告された通り3日間は使えませんが、それが過ぎれば問題なく使えると思いますので。それに……使えなければダンジョン街へ帰ればいいだけですから」
"聖女"を騙れば罰を受けることになるらしいが、今回は聖教側が頼んで呼んでいる。
なので万が一、次に瞬間移動が使えなかったとしても罪に問われることはなく、サクラさんはそんな事になるのを気にせず快諾した。
その返事を貰い、司教はホッとした顔を見せる。
「ハアァ……良かったです。疑われたからと"聖女"になるのを拒否された方も過去にはいらっしゃったので……」
「そうなんですか?その場合はどうされたのでしょう?」
聞き返すサクラさんに司教は微妙な顔で答えた。
「それはまぁ……なんと言いますか、和解金と言いますか……」
「お金で解決したんですか?」
「ええ、まぁ……それで"聖女"ではないとわかった場合、その方のお力を認定した者が責任を取るという形で」
「なるほど……」
責任を取るというのは、"聖女"が偽物だった場合の金銭的損害も含めてのようだ。
どんな"聖女"だったのかは知らないが、疑わしい能力ながらも本物であればそこまでしてでも教会で確保したい人物だったのだろう。
金で動くことを悪しざまに言われることはあるものの、交渉材料が全くないよりはマシなはずだ。
なのでその"聖女"には特に悪い感情を持つこともなく話を聞いていると、司教はサクラさんに現時点での処遇を伝える。
「マルティナとロゼリアが戻ってきていることから、"強硬派"にはサクラ様がこちらに来ていると推察されてしまうでしょう。となれば目立つ護衛は付けず、3日後まで身を隠していただくのがよいのではないかと」
「ではどちらに?」
尋ねるサクラさんはまた隠れることに微妙な顔をするが、それに返ってきた言葉で驚くことになる。
「では大聖堂にある私の私室に。そちらの警備はこちらの派閥で固められますので」
「えっ?いいんですか?」
「ええ。住んでいると言えるのは私とこちらのイヴリタくらいですので、お2人くらいはなんとかなると思います」
「は、はぁ……」
大聖堂の中というのもあるのだろうが、端的に言えば司教はこの土地の権力者なのだし、サクラさんは前世でも一般人だったらしいのでこの申し出に気が引けているようだ。
それを考えると俺だって一般人だったのに、よく貴族の家でヤリまくってたな。
まぁ……こちらから望んでというわけでもなく、表向きの立場としては権力者の意向に沿っただけなので気に病むことはないが。
さて、問題はサクラさんだ。
聖教が統治する街で、その統治者本人の私室に招かれるとは思っていなかった彼女は曖昧な反応をしながら俺に視線を向けた。
警備の兵を味方で固められるのであれば"強硬派"に手を出される可能性も低いだろうし、この申し出を断るのはもったいない。
「……」
コクリ
なので俺は頷いて返し、それによってサクラさんは司教の申し出を受けることにした。
その建物は"政務堂"と言い、この街での政治を担っている施設なのだそうだ。
マルティナの案内でその施設の裏口に到着する。
「ここには警備を置いてないんですね」
「ええ、普段は使われない出入り口なので」
マルティナは俺の問いにそう答えると、鍵を取り出してその扉を開けた。
カチャッ、キィッ
「ここの鍵は限られた数が厳正に管理されているのですが、これは私の上司からお借りした物なのです。表向きにはその方がお持ちのままだということになっているはずですが……うん、大丈夫のようですね。では中へ」
鍵について説明したマルティナは裏口から入り、内部の周囲に警戒すべきものがないと判断して俺達を呼び込む。
それに応じて中に入ると、1人だけ武装しているロゼリアが最後尾に付いて先へと進んだ。
政務堂の中は午前中だからか色々と忙しいようで廊下を行き来している人が多く、それに紛れるようにして進み3階へ上がる。
そこから右へ続く通路に出ると、いくつかのドアが並ぶ先に警備の兵が立つ他より大きめなドアがあった。
「警備の方がいるようですが……」
「ここまで来れば大丈夫ですよ。あの部屋の警備ならこちら側ですので」
マルティナはサクラさんの問いにそう答え、俺達を連れて堂々と歩を進める。
正面から来る俺達を見た警備の兵は特に何の動きも見せず、こちらが扉の前に到着するのを静かに待っていた。
そうして目的地らしい部屋の前に到着すると、警備の兵が用件を尋ねてくる。
「ご用件は?」
「司教様へ。"聖女"様をお連れしました」
「随分と早いお戻りのようですが、予言されたダンジョン街まで赴かれたのですか?」
警備の兵は"穏健派"だと聞いているが、同じ派閥だからといって無条件にマルティナの言葉を信じるわけにはいかないようだ。
まぁ、警備としては当然だろう。
実際には往路で俺が浮かせて運び、復路はサクラさんの瞬間移動で予定の旅程を短縮しているが……モクタリスの西端からダンジョン街へ向かったとして、出発から数日で戻ってこれる距離と時間ではないらしいからな。
なので本当にダンジョン街まで行き、聖女を探し出して連れてきたのかと疑っているようだ。
だが、それにはマルティナが笑顔で答える。
「もちろん行きましたよ。追手に追いつかれて襲われはしましたが、こちらのコージさんに助けていただきまして。彼の行き先もダンジョン街だったそうで同行させていただき、その御蔭で到着は予定よりも早かったのです」
「では帰りは……」
「もちろん……"聖女"様のお力で」
ニヤリとして答えるマルティナ。
「そうですか」
それを受けて警備の兵は頷くと、扉をノックして向こう側へ声を掛ける。
「マルティナ助祭が"聖女"様をお連れです」
するとその扉が開かれ、中から重武装の女性兵士が現れた。
女性だとわかるのは兜をしていなかったからだが……身長は高めで、マルティナと比べると170はありそうだ。
落ち着いた色の短めな茶髪の、キリッとしていて性格がキツそうな美女である。
それより目立つのが彼女の纏う厳つい鎧で、刺々しいというか禍々しい見た目をしていた。
なんだあれ。
"銀蘭"のルカさんが着ていた鎧は白くて騎士らしい感じだったが、あれとは真逆の印象だな。
そんな事を気にしていると武装した女性は俺に注目する。
「こちらの男性は?」
「冒険者のコージさんです。色々とお力を貸していただきまして……」
マルティナは先ほど警備の兵にした説明をし、それを聞いた女性兵士が鋭い目で周囲を見回すとマルティナに尋ねた。
「あちらとの繋がりはないのですね?武器の類はお持ちではありませんか?」
変装として聖職者の格好をしているが隠す場所がないわけではなく、"穏健派"でここの統括をしているという司教の警護であろう彼女がそれを気にするのは当然だ。
「ご心配なく。元々"聖女"様と親しくしてらっしゃった方ですし、武器もこちらでお預かりしております」
「では……中へ」
マルティナの答えを聞いた女性兵士は部屋の奥に顔を向け、おそらく部屋の主にコクリと頷くと扉を大きく開いた。
部屋の中に入ると……聖職者の宿舎とは違い、中々に装飾の施された調度品などが目に入った。
絵画から応接用のテーブルやソファなどまで、素人目にも手が込んでいるのが見て取れる。
華美と言うほどではないが、立場に見合う程度には面目を保つためといった印象だ。
そんな部屋の中、奥の大きな机に着いていた人物が席を立つ。
やはり立場に見合う、普通の聖職者とは違う装飾が施された衣服で身を包むのは……サラリとした長い金髪の、柔らかな笑みを浮かべる美女だった。
女性の兵を護衛に置いているらしいことから予想はできたが、マルティナ達の上司である司教は女性だったか。
まぁ、実力的に問題がなければ同性のほうが警護できる機会は多いだろうからな。
彼女は俺達の前までやって来る。
トットットットッ……
ユサユサユサユサ……
歩くたびに揺れる大きな胸。
ブラ的な下着はあるはずなので、それで抑えても揺れるぐらいの質量だということだ。
ガヴレット家で会った聖職者のヒルデさん並みだな。
年齢も近そうではある、関係はないだろうけど。
あのサイズが2人も存在するとは思わなかったが、1人いれば2人いてもおかしくはないか。
にしても……知る範囲では少数派である巨乳の女性と関わることになりやすいな。
偶然だろうし、何故かは気にしても仕方ない。
そうして……彼女が来ると、マルティナがサクラさんを紹介する。
「司教様、"聖女"サクラ様をお連れしました」
「ご苦労様でした」
頷いてそう返した彼女はサクラさんに名乗る。
「サクラ様、お初にお目にかかります。私はここモクタリス総支部を統括しております、司教のカノンと申します」
スッ、ユサリ
落ち着いた態度で頭を下げ、それに連動して胸が重力に引かれて揺れた。
例によって少しだけそこに目が惹きつけられると、護衛の女性が元々キツかった目を更に鋭くする。
「っ!」
キッ!
目立つものに目が行くのは本能的なものなのでどうしようもないのだが、見られた側がどう思うかは勝手なので気を悪くされても仕方がない。
ただ言葉で咎められたわけでもなく、話の腰を折るのもどうかと思うのでそこから目を離しておくだけに留める。
「あ、わ、私はサクラと申します!」
バッ!
名乗り返し、勢いよく頭を下げるサクラさん。
そんな彼女にカノン司教は微笑む。
「頭をお上げください。こちらから請うておいでいただいているのですから」
「は、はい」
彼女の言葉にサクラさんは頭を上げ、カノン司教はそれに頷くと今度は俺に向き直る。
「それで……冒険者だとお聞きしておりますが、貴方は?」
扉の前での話は聞こえていたか。
「はい。コージと言います」
「そうですか……」
チラッ
「「……」」
コクコク
俺の名前を聞いた司教はマルティナ達へ視線だけを向けた。
それに対して2人はコクリと小さく頷き、それを受けた司教は俺達を応接用の席へと促す。
「立ったままというのも申し訳ありませんので、お2人ともあちらの席へどうぞ」
その言葉に応じて席に着くと、正面に座った司教はサクラさんとその処遇について話を始める。
「改めて……ようこそお越しくださいました、サクラ様」
「あ、いえ……」
そんな感じで話を始め、司教はとりあえずマルティナに報告を求めた。
「マルティナ。サクラ様を"聖女"様だと認定した経緯を」
「はい。では……」
司教の護衛と共に立ったままだった彼女はサクラさんの"瞬間移動"について説明し、先ほどまで滞在していたダンジョン街から実際にこの街の近くまで転移してきたことを語る。
それを聞いた司教は少し何かを思案すると、申し訳なさそうな表情でサクラさんに問いかけた。
「サクラ様。マルティナは信用の置ける補佐役ですし、そのお力は確かだと思います。ただ、"聖女"だと認定したからにはそのお力をお使いいただけることが求められるわけでして……もう一度、確かめる機会を頂いてもよろしいでしょうか?」
またかと思う気持ちもあるが、これは想定内の事である。
"聖女"となれば厚遇されるのは確実だし、その立場を欲して"聖女"だと偽る者もいるらしいからな。
なので俺とサクラさんはもう一度確認をという話はあるものだと思っていたのだが……司教の方は緊張し、恐る恐るといった表情だった。
「……」
これでサクラさんが機嫌を損ね、"強硬派"に属されたりするとまずいからだろう。
力が本物だと証明されてもあちら側に付かれると意味がなく、しかし確かめもせずに"聖女"だと認定すれば偽物だった場合に"穏健派"の権威に傷がつく。
"聖女"が偽物だったと判明すればそれまでに掛かった費用が無駄になるわけだし、その点についても責任を問われるだろうからな。
司教はそういったことを踏まえ、仕方なく再度の確認を申し出たのだと思われる。
もちろんサクラさんも理解しており、チラッと俺を見るとその申し出を受け入れた。
「構いません。先ほど報告された通り3日間は使えませんが、それが過ぎれば問題なく使えると思いますので。それに……使えなければダンジョン街へ帰ればいいだけですから」
"聖女"を騙れば罰を受けることになるらしいが、今回は聖教側が頼んで呼んでいる。
なので万が一、次に瞬間移動が使えなかったとしても罪に問われることはなく、サクラさんはそんな事になるのを気にせず快諾した。
その返事を貰い、司教はホッとした顔を見せる。
「ハアァ……良かったです。疑われたからと"聖女"になるのを拒否された方も過去にはいらっしゃったので……」
「そうなんですか?その場合はどうされたのでしょう?」
聞き返すサクラさんに司教は微妙な顔で答えた。
「それはまぁ……なんと言いますか、和解金と言いますか……」
「お金で解決したんですか?」
「ええ、まぁ……それで"聖女"ではないとわかった場合、その方のお力を認定した者が責任を取るという形で」
「なるほど……」
責任を取るというのは、"聖女"が偽物だった場合の金銭的損害も含めてのようだ。
どんな"聖女"だったのかは知らないが、疑わしい能力ながらも本物であればそこまでしてでも教会で確保したい人物だったのだろう。
金で動くことを悪しざまに言われることはあるものの、交渉材料が全くないよりはマシなはずだ。
なのでその"聖女"には特に悪い感情を持つこともなく話を聞いていると、司教はサクラさんに現時点での処遇を伝える。
「マルティナとロゼリアが戻ってきていることから、"強硬派"にはサクラ様がこちらに来ていると推察されてしまうでしょう。となれば目立つ護衛は付けず、3日後まで身を隠していただくのがよいのではないかと」
「ではどちらに?」
尋ねるサクラさんはまた隠れることに微妙な顔をするが、それに返ってきた言葉で驚くことになる。
「では大聖堂にある私の私室に。そちらの警備はこちらの派閥で固められますので」
「えっ?いいんですか?」
「ええ。住んでいると言えるのは私とこちらのイヴリタくらいですので、お2人くらいはなんとかなると思います」
「は、はぁ……」
大聖堂の中というのもあるのだろうが、端的に言えば司教はこの土地の権力者なのだし、サクラさんは前世でも一般人だったらしいのでこの申し出に気が引けているようだ。
それを考えると俺だって一般人だったのに、よく貴族の家でヤリまくってたな。
まぁ……こちらから望んでというわけでもなく、表向きの立場としては権力者の意向に沿っただけなので気に病むことはないが。
さて、問題はサクラさんだ。
聖教が統治する街で、その統治者本人の私室に招かれるとは思っていなかった彼女は曖昧な反応をしながら俺に視線を向けた。
警備の兵を味方で固められるのであれば"強硬派"に手を出される可能性も低いだろうし、この申し出を断るのはもったいない。
「……」
コクリ
なので俺は頷いて返し、それによってサクラさんは司教の申し出を受けることにした。
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【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
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