マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第177話

サクラさんをマルティナ達の上司であるカノン司教に会わせることはできたが、彼女にも瞬間移動を使用してその能力を確かめさせることになった。

瞬間移動には3日間の再使用時間があるので、サクラさんはその間も"強硬派"から身を隠す必要がある。

そこで大聖堂にあるカノン司教の私室に隠れることを提案され、安全ではあるだろうとその提案を受け入れた。


「では、お2人を私の部屋へ」

「「はい」」


カノン司教の指示にマルティナとロゼリアが応える。

俺も一緒にという話は出ていなかったのだが、"強硬派"がダンジョン街から連絡を受けるとすればサクラさんと一緒に居た俺の情報も届くだろう。

となれば俺もサクラさんと一緒に匿ってもらうのが都合はいいだろうと思われるので、その指示に異論を挟むことなく受け入れた。


「では後ほど。せっかくですからダンジョン街の話でもお聞かせください」

「はい、では」


カノン司教の言葉にサクラさんが応え、それに微笑む司教の部屋を後にする。


バタン

「では司教のお部屋へ。私の部屋にある服やお荷物はその後に持ってきます」


そう言ってマルティナは俺達を大聖堂へ案内し始めた。

そんな彼女に連れられ、政務堂から渡り廊下を通って大聖堂へ入る。


「……」


政務堂より装飾に力が入ってるな。

司教の私室へ向かう通路だし、外部の人間は基本的に来ないはずだが……内部の人間に対しても権威を示しておく必要があるということだろう。

俺が外様の人間であるとバレないよう細かい彫刻が施された壁や柱をチラ見しつつ、掃除や修繕などが大変そうだと思いながら先へ進む。

そうして司教の部屋へ向かっていると、前方に2人の兵が通路を塞ぐように立って俺達を待ち構えていた。

マルティナは気にしていないようなのでそのまま進むと、彼らは俺とサクラさんについて尋ねてくる。


「そちらの2人は見ない顔ですが」

「司教のです。しばらく司教の部屋に滞在される予定ですので」

「っ!?……了解しました、どうぞ」


2人の兵は道を開け、マルティナは再び進み出す。

後に聞けば……彼らがいた場所から先は司教の私的なエリアであるらしく、ごく限られた人間しか通過できない態勢となっているそうだ。

厳重だなと思うが、ここでは"強硬派"が多くないとはいえ警戒しないわけにはいかないということだろう。

俺達はマルティナに続いてそんなエリアに入ると進み、程なくして大きく豪奢な扉の前にたどり着く。

その扉の脇にも2人の兵が立っており、今回はどちらも女性の兵のようだった。

ここでも警護対象のカノン司教が女性であることに配慮されているらしい。

その2人にもマルティナが俺達のことを先ほどと同じように説明し、彼女が部屋の扉を開くと入室を促す。


「ここが司教の私室です。どうぞ」

カチャッ、キィッ


中に入ってみると……通路と違って豪奢というわけでもなく、ある程度の威厳を保つ程度の政務堂と似た印象を受ける。

ベッドやテーブルはやけに大きいが、利便性を考えての物だろうか。


「先ほど司教様がいらっしゃった部屋と似てますね」


サクラさんも同じ印象を持ったようだ。

そんな彼女にマルティナが応える。


「私室ですし派手すぎるのは落ち着かないとのことで、調度品は最低限にしか置かないようにされているのです」


これにロゼリアが補足する。


「まぁ、防犯対策でもありますが」

「あぁ、なるほど」


マジックアイテムや呪いの魔法などというものがある以上、それに類するものが持ち込まれにくいようにということだろう。

呪いを解くマジックアイテムが存在するのなら、呪いをかけるマジックアイテムもあると考えるべきだからな。

それに納得しているとマルティナは別の部屋へのドアを開ける。


カチャッ

「こちらへどうぞ。基本的には使われておりませんが、司教に付きっ切りの看病などが必要となった場合の世話役が詰めておく部屋です」


そこにはベッド2つとクローゼット1つが置いてあるだけで、まさに仮眠室としか言えない部屋だった。

もう1つのドアは司教の部屋を通らずに廊下へ出るためのものだろう。

掃除はちゃんとされているようで、そこは看病する人間が寝泊まりするのだからと清潔が保たれているらしい。

俺とサクラさんはその部屋に入ると待機となり、俺達の荷物を取りに戻ってきたマルティナ達からそれを受け取って過ごした。




しばらくして。

"強硬派"にこちらの状況を悟らないよう、普段通りに過ごすカノン司教が私室に帰ってくるのは夕暮れ時だ。

何時間も待つのでかなり暇だったのだが、だからといってサクラさんと乳繰り合うわけにもいかず。

なのでダンジョンで手に入れた物としてサイコロを3つ"紛い物"で作成し、漫画やアニメでルールを知っていたサクラさんの提案によりチンチロで遊んでいた。

俺の前世が日本人であることは隠しているので、彼女がサイコロでの遊びを知らなければ適当なルールで遊ぶつもりだったが……あちらから提案してくれてよかったな。

器は野営に使う物として用意していた、木製で深めの物を出して使っていた。


コロコロコロン

「「……」」


そうして、何度目かのサイコロを振って出目を待っていると部屋のドアがノックされる。


コンコン

「司教が戻られました」

「あ、はい!」


マルティナの声にサクラさんが応じ、チンチロはここまでとしてカノン司教の部屋へ向かう。



「お待たせしました。暇だったでしょう?」

「いえ、コージさんがお持ちの道具で遊んだりしてましたので……」

「あら、そんな物をお持ちでしたか」


サクラさんが答え、司教はその道具が少し気になったらしい。


「とりあえずそちらへどうぞ」


そんなカノン司教に促されて俺はサクラさんとソファに着き、対面の席に着いた司教は今後のことなどについて話すつもりのようだった。


「……」


自分の部屋へ帰ってきた司教は、昼間に見た服装と違ってラフなものに着替えている。

とはいえ上品ながらも程よく装飾の施された物で、質の高そうなそれを纏ったカノン司教はどこかのお嬢様に見えた。

まぁ……胸元が大きく開いており、彼女の胸自体が大きくみっちりと詰まっている様子が窺えるが。

そんな感想を抱いた俺に司教が尋ねてくる。


「そういえば……コージさんは冒険者なのですよね?サクラ様とはどういったご関係なのですか?」

「え?あぁ……借りていた部屋があるんですが、その建物の管理人がサクラさんだったんですよ」


少なくとも恋人というわけでもなく、かと言って身体だけの付き合いというのも印象が悪くなるかと思いそう答えておく。

事実ではあるので問題はないはず。

それを受けてカノン司教は続けて尋ねてくる。


「それだけでここまでお付き合いいただけたのですか。マルティナ達も追手に襲われていたところを助けていただいたそうですし、コージさんは優しくお強い方なのですね♪」

「まぁ、見過ごすと気が咎める性格なので。ただ、俺が介入してなんとかなりそうならって場合だけですけどね」

「十分すぎですよ。世の中には持てる力を悪用する者もいるのですから」


そう言った司教は窺うように聞いてきた。


「それでなのですが……コージさんはいつまでご協力いただけるのでしょうか?」

「とりあえずは、サクラさんが"聖女"として認められるかを確認できるまでですが……」


その言葉に司教はやや残念そうな顔をする。


「そうですか……よければ聖教に所属していただき、サクラ様が"聖女"だと認定されたあとも護衛を続けていただければと思ったのですが」

「その評価はありがたいのですが、でもそちらにだって十分な人員は揃ってるんですよね?」

「まぁ、私が同性の護衛を選べるぐらいにはおりますが」

「なら俺でなくともいいのではないかと」


女性の護衛を選べるということは護衛として研鑽を積んだ女性がいるわけで、努力してその選ばれるであろう立場を横からかっさらうのは悪い気がするんだよな。

なので俺はそう返すと、そこで司教がサクラさんをチラリと見た。


「本当によろしいのですか?サクラ様は先ほどの説明で少し残念そうでしたが」

「あっ、いやっ!本当にではありませんので!」


司教の言葉にサクラさんが慌ててそう反応する。

あー……まぁ、あれだけヤッたのだし好意がないわけではないだろう。

しかし俺にその気はないと言ってあり、それを前提として関係を持ったので期待をされても困るのだ。

このままサクラさんの護衛を続けるのも、俺の現時点での目的を考えるとダンジョン街に戻る必要があるしな。


「サクラさんが言う通り、俺にそういうつもりはありませんよ」

「印象による話ではありますが、お2人は深い関係ではないのですか?」

「身体の関係ではありますが、そういった関係の相手は他にもおりますので」


幾分印象が悪くなりそうだが、勧誘を続けられても困るのでそう答えるも……司教は隙を見つけたかのように目を細めた。


「あら、女性がお好きなのですね」

「まぁ、好みであればですが」

「でしたら……私やイヴリタはどうでしょう?」

たぷり


司教は開いている胸元の中身を腕で持ち上げてアピールする。


「聖教に性的な制限があるわけではないにしても、司教という立場の人間がそこまでして俺を勧誘するのはどうかと思うのですが……」

「あら、聖教の祖である"始祖の聖女"様でもお好みの男性を侍らせてらっしゃったそうですよ?なので聖教のためでもあるとなれば咎める者はおりませんわ」


まさか、"始祖の聖女"が逆ハーレムを構築していたとは。

まぁ、前世でも能力込みでそういった囲い方をしていた女性はいたそうなので、こちらで同様のことをやっている女性がいてもおかしくはないか。

しかし、だからといって司教の提案を受けようとまでは思わないのだが……


「そこまでして俺を、というのは何故でしょう?」


その問いに司教は淡々と答える。


「マルティナ達の報告で、貴方が"浮く能力"と特殊な武器をお持ちだと聞いております。どちらか一方でも十分に囲い込む理由になるとお思いますよ?」


あぁ、そういえば政務堂でそんな報告をしていたな。

経緯の説明として必要だったので口止めはしてなかったんだよな。

浮く力も拳銃も、マルティナ達を助けた際に見られているので仕方ないというのもあったが。

となれば司教の考えも理解はできるが、やはり囲われるのはご遠慮したいので……ここで、厳しい表情で成り行きを見守っているイヴリタさんを引き合いに出す。


「いやあの、司教はいいとしてもイヴリタさんは止めたそうですし、勝手に自分も巻き込まれて険しい顔をされてますよ?」


彼女は司教との初対面で、俺の視線が司教の胸へ向いたことに目を鋭くして気を悪くしていたようだった。

部屋の前で見たときから険しい顔をしていたので、それが更にとなれば俺に良い印象を持っていないのは明らかだ。

なので俺の言葉に賛同するだろうと思って言ったのだが、それには意外な反応が帰ってくる。


「いえ、お望みとあれば構いませんが」

「えっ?いや、性的なことには厳しい方なのではないかと思ったのですが」


イヴリタさんにそう返すと、司教が軽く笑って俺の誤解を解く。


「フフッ♪昼間にお会いしたとき、イヴリタが険しい顔をしていたのは別の理由があるのですよ。に向けられた貴方の視線とは関係なく、ね」

タプタプ


そう言いながら揺らされる胸に目が惹かれつつも、司教に事情を聞いてみる。


「どういうことでしょう?」

「あまり公にはしていないのでご内密にお願いしたいのですが……」

「それはまぁ、俺の情報も秘匿していただければ」

「ありがとうございます。ではお話しますが、原因は彼女が身に着けている鎧のせいなのです」

「鎧のせい?」


イヴリタさんが装備している鎧を見ると……厳ついと言うか、刺々しい見た目であるのは昼間と同じだった。

そこで、彼女が険しい顔をしている原因を口にする。


「その……この鎧はマジックアイテムでして、着ていると身体が非常に痒くなるのです。それで表情が……ご不快でしたら申し訳ありません」

「え?あー……なるほど?」


とりあえず……もう少し詳しい話を聞いてみるか。
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