マガイモノサヴァイヴ

狩間けい

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第142話

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ガヴレット子爵の中に潜んでいた謎の男と、ガヴレット家の兵であるロガ。

謎の男が逃げ込んだ倉庫にて、2人の会話を盗聴した俺は奴らがグルだと断定した。

その会話の流れで休息を取ることにしたらしいと聞き、それを利用して室内に催眠ガスを発生させる。

もちろん気づかれないようにと少しずつ実行し、2人は問題なく眠りについた。

そんな2人を拘束した上で俺自身と共に透明化すると、ガヴレット家へ密かに連れ帰って子爵に報告する。

2人を秘密裏に運んだのは、ロガが工作員だったことを知った他の兵がお互いに対して疑心暗鬼になってしまうのを避けたためだ。

そうして、その報告を受けた彼の指示で2人を地下牢へ収監することになり、効きすぎたらしい催眠ガスの効果が切れて2人の目が覚めるのを待った。






「……んん……んん?…………えっ?」

バッ、ババッ


牢の一室で目を覚ましたロガは、周囲の状況を見て一気に眠気が飛んだようだ。

ここは地下牢の中でも一番奥にある部屋で、近くの別室に収監されているのはアリシアさんを呪った犯人だけなのだが……先に目を覚ましたのはこちらだったか。

裸で首と両手を鎖で壁に繋がれ、足には重りの付いた枷が嵌められている。

そんな奴の前に、俺と子爵が鉄柵越しに姿を現す。


「おはよう、ロガ。気分はどうだね?」


蝋燭の明かりで薄暗い中、笑顔で優しそうに声を掛ける子爵。

すると自分が疑われていることを察したのか、ロガは必死に言い訳を始める。


「し、子爵様!?その、何故俺が牢に入れられているのでしょうか?何かの間違いではありませんかっ!?」


それを聞いた子爵が呟く。


「何故、か……間違い、か……では、自覚してもらおうか」


その言葉に合わせて俺はある物を取り出し、それを作動させた。


『……で、どうすんだよ?』



『いや、そもそもあの縁談は第3王子がアリシアを気に入ったからだったんだろ?そう簡単に諦めるか?』



『別の誰かに入って行けば良いんじゃねえのか?あんまり良い気はしねえが、何なら俺にでも入れば……』



『ハァァ……どうせなら動けないアリシアの奴を犯したかったってのに』

「……」


俺が作動させたのは音声を記録したレコーダーで、その再生機能で流したのは盗聴時に録音しておいたものだ。

2人の会話が俺の聞いたとおりに再生され、それが進むほどにロガの顔色は悪くなる。

その間、子爵はずっとニコニコしていながらもハッキリと分かるほどの殺気を放ち続けていた。

記録していた分の音声がすべて再生されると、ロガは堰を切ったように言い訳を始める。


「あ、あのっ!これは何かの間違いです!俺はそんな話をした覚えはありません!さっきのはコージの奴が何かやってでっち上げたもののはずです!」


ロガがそう言うと子爵は俺へ尋ねた。


「だ、そうだが?」


その声に俺は再びレコーダーを作動させる。


『……かの間違いです!俺はそんな話をした覚えはありません!さっきのはコージの奴が何かやってでっち上げたもののはずです!』

「っ!?」


その場に先ほど発した言葉が流れ、驚愕の表情を見せるロガ。

これは、先程の音声の再生が終わった直後に録音したものだ。

それを2,3度再生すると全く同じ内容が流れ、そこで俺は説明することにした。


「これは実際にあった音や声などを記録し、それをそのまま聞くことができるというマジックアイテムでね。存在しない会話を聞かせることは出来ないんだよ」

「っ!?で、でもっ、その声が俺だという証拠はないだろう?」


お、急な展開なのによく気づいたな。

だが……


「ではこちらも。あちらをご覧ください」


そう言うと俺は別の機器を作動させ、2人を壁の一部に注目させた。

するとその壁には四角い光が現れ、その中に町中のとある光景が映し出される。

それはアリシアを呪った犯人が逃げ込んだ倉庫であり、その少し後にロガが入っていく様子が再生された。

こちらはビデオレコーダー兼プロジェクターであり、犯人の追跡中に奴の仲間が接触する可能性を考えて録画しておいたものだ。

薄暗いのでよく見えるな。


「これは……そんな……」


薄暗い中でもわかるほどに顔色を悪くしたロガ。

そんな彼に俺は続ける。


「少し飛ばしまして……扉を開けたところから」


すると俺が2人がいた部屋の扉を掛けたところから再生され、机に突っ伏して眠っている2人が映し出された。

そこでカメラは周囲を見回し暗転すると……俺は機器の動作を止め、そこで子爵はロガに冷ややかな声で話し掛ける。


「コージが光景そのものを記録できる物まで持っているとは、私も驚いたよ。だが、それがどうでも良くなるものを見ることができたな?」

「あ、いや、あれは……」

「ちなみに、あの部屋はすでにこちらで押さえ調査している。王家の縁談を妨害することが目的であったことを示す証拠も押さえた」

「バカなっ!?そんなものは……」

「そう、無かったよ。それで……君は何故それを知っているのかね?」

「っ!?……ハァ、ハァ、ハァ……」


子爵にサラリと引っ掛けられた事に気づき、ロガは自分の今後を察してか呼吸が乱れ始めた。

そんなロガに子爵は問い掛ける。


「それで、何処からの指示で動いていたのかね?それを話すのなら逃がしてやってもいいぞ」


何処か、と聞いたことから、この件が一個人の意思で行われたわけではないとわかっていることを示しロガに自白を求める子爵だが……


「ハァ、ハァ……それは……」


この状況で言い逃れはできないとわかっているようだが、釈放をちらつかせても黒幕について話すことには口を噤む。

となると……


「ただ雇われたわけではないようですね」

「だろうな。ただの雇われなら、自分から黒幕の情報を交渉材料に釈放を求めていただろう」


俺の推察に同意する子爵。

さて、どうするかな。

別室にいる、アリシアさんを呪った犯人にも聞いて先に話した方を釈放する、という手は使えない。

先程の映像から、もう1人の男も捕まっていることはロガもわかっているだろう。

だが……奴は危険すぎる存在だし、ここで逃がすわけにはいかない。

それもロガはわかっているだろうから、奴を引き合いに出しての交渉は難しいだろう。

そんな時、子爵があっさりと言い放つ。


「よし、略式だが2人とも極刑に処す」

「「っ!?」」


その判断に俺もロガも驚いた。


「良いんですか?」

「構わん。どうせアリシアが呪われたことは流出している。王族とだけではなく、その"何処か"にとって都合の悪い縁談が持ち上がれば何処からともなくその話が流れ出すだろう。こうなるとシエラを王族に、というのも諦めたほうがいいな」


そこでロガが口を開く。


「な、ならっ!俺を逃がしてくれればその話を流さないように……」

「君の本当の主はそんな頼みを聞いてくれるのかね?そもそも、そんなことを言い出した時点で事が露見したとわかるだろうし、君は切り捨てられて終わりだと思うぞ?」

「う……」


子爵のごもっともな話に言葉を失うロガ。

そこで俺は子爵に問う。


「そうなると、こちらへ来る縁談はあちら側に都合の良いものであることを疑わなければならないのではありませんか?」


あちらにとって都合の悪い縁談が妨害されるなら、逆にあちらにとって都合の良い縁談が推されることもあるだろう。

そこについて聞くとこんな答えが返ってくる。


「ん?ああ……まぁ、そこは考えがあるから問題ない」

「そうですか、なら良いんですが」


特に取り繕っているようでもない。

まぁ、友好的な関係の家はあるだろうし、その関係を利用するということかな。

そう納得すると俺は残る懸念点を挙げた。


「連絡員の方はどうしましょうか?こちらに常駐していたのは捕らえた2人だけのようですが、伝える内容を考えると部外者に手紙などを任せるわけにもいかないはずです。となれば連絡を取るのにも専属の人間がいたと思われますが」

「放っておいて構わん。あちらに事が露見したと伝わっても、その方法が伝わらなければ下手に動けんだろう」


バレた方法がわからなければまた工作員を送り込んでもバレるかもしれず、次は泳がされて自分達に繋がる情報を握られるかもしれない。

それを聞いたところで……脇から別の人物がロガの前に姿を現す。


コッ、コッ……コツッ

「……」


そこに現れたのはアリシアさんであり、無表情でとても冷たい目をロガに向けている。


「ア、アリシア……」


彼女の登場に驚いたらしいロガがそう呟くと、アリシアさんは平坦な声でこう返す。


「アナタに呼び捨てされる筋合いはないのだけど?」

「う……」


先程の足音から元々近くに居たことはわかっているのだろうし、先ほど再生した音声を彼女にも聞かれていると察したロガは口を閉じる。

アリシアさんはそんな奴から俺に視線を移すと、途端にとびっきりの笑顔で俺に抱き着いてきた。


ガバッ、ギュウゥ……

「ンフッ♪貴方ならいくらでも呼び捨てでいいからね♡」

「えっ、あっ、いや……」


2人きりならともかく、子爵もいるこの場では不味いだろう。

なので俺は恐る恐る子爵へ目を向けたのだが……彼は笑顔ながらも、先程までと違って殺気を放ってはいなかった。

更にはウンウンと頷いており、その様子にロガが子爵へ問い掛ける。


「えっ?あ、あのっ、いいんですか?」


そんなロガに子爵は真顔で答えた。


「構わんよ、私が認めているのだからな」

「「えっ?」」


それには俺とロガの声が重なってしまう。

そこで子爵は俺に説明する。


「家の一大事にここまで活躍してくれたのだ。相応の褒美は必要だろう?」

「いや、それはわかりますがその……」

「ああ、君がまだ婚姻を考えていないことは聞いている。だからそれについてはその気になったらで構わんよ」

「"それについては"、とは?」

「先程も少し話に出たが、現状ではアリシアもシエラも縁談を受けることはできん。だがそうなると後継者の問題が出てくる」

「はあ、それはそうでしょうけど……」

「そこで君だ。婿入りはしなくてもいいが2人のどちらか、もしくは2人共に当家の後継者を作ってもらいたい」

「「ハアァァァ!?」」


再び俺とロガの声が重なった。

それもそうだろう、父親公認で姉妹を孕ませろとは……

ロガはそれを聞いて俺に鋭い目を向けてくるが、その視線は子爵が治めさせる。


「こうなった原因はお前達だろう。コージにそのような目を向ける資格はない!」

「ぐ……」


ごもっともな指摘に黙るロガ。

そこで子爵が俺に言う。


「聞けば……もう寝てはいるのだろう?今後は気兼ねなく楽しめば良いのだよ」

「え」


誰から聞いた?

そこを疑問に思っていると、俺に抱き着いたままのアリシアさんが口を開く。


「お父様に話したのは私よ」

「え?どうして……」

「だって、実際に私の呪いを解いたのは貴方じゃない?さっきお父様が仰ったように縁談には乗れなくなったし、だったら今回の件で最も功績が大きい貴方と、ってね♡」

「えぇ……」


理屈自体はわからなくもないが……

そこで子爵が更に驚くことを言い放つ。


「あぁ、これは万が一の話だが……2人に子が出来ないようならエリナでも試してくれるか?」

「えぇっ!?いやそれは……」


妻であるエリナさんまで出してくるとは。

それは流石に不味かろうと躊躇する俺に、子爵は真面目な顔で言ってくる。


「これも聞いた話だが、君は美しければ年齢を気にしないようだな?家の存続は貴族にとって最も重いものと言ってもいい。その家によって領地を治めるのが義務なのだからな」

「そのためになら、ということですか?」

「うむ。ただ、流石に離縁までする気はないぞ。あくまでも、娘たちとの間に子が出来なければの話だ」

「は、はあ……」


それらを褒美とするのはどうなのかと思わなくもないが、血筋を重んじるあちらからするとその中に取り入れるというのは最大限のご褒美になるのか。

まぁ……ヤることはヤっている以上、そこに負い目を感じなくても済むのは気が楽にはなる。

子どもがどうとか言う話も、俺が作りたいと思うまで作らなければいい話だ。

それまでに他でいい話があれば、そっちを選んでもらってもいいわけだしな。

というわけで。


「まぁ、それじゃあ……いずれということであれば」

「うむ」


恨めしそうなロガの前で俺はそのご褒美を受け取る意思を見せ、それに子爵が満足そうに頷きこの話はまとまったのだった。
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