親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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錬金術師編

06錬金術師パルケルスス2

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「いかにも私がフイリップス・アウレオールス・テオフラストウス・ボンバストウス・フォン・ホーエンハイム、世間ではパラケルススと呼ばれているがね」
 パラケルススの言葉も邪神が神谷にも分かるように訳してくれているようだ。

 アルハザードの言葉をドイッ語に訳し、パラケルススの言葉を日本語に訳してくれる、どれだけ親切な神様なんだ。

「だから、唯の気まぐれだと言ってるだろう、神谷の弾くギターがよほど気に入ったんだろうね。こいつの倦族が神谷の周りで踊り狂っていたろう」
「倦族ってなんだい」
「まあ、子分みたいなものかな」
 あの時感じた黒い影は、邪神の子分だったのだ。アルハザードが賑やかな曲を弾けと言ったのは、彼らがそのような曲が好みということなのだろう。
「こいつに気に入られるということは、アザトースに気に入られるということだからね。自信を持っていいんじゃないか」
「アザトース? それも邪神の名前かい」
「あれ、言わなかったかな、全ての邪神の上に立つ、宇宙の始まりから存在すると言われている邪神の王だよ」
「そんな凄い神様とこの猫が関係あるのかい」

 神谷は黒猫の姿に扮している神の名前を忘れてしまっていた。
「大いにあるよ、アザトースが接見するのは、高位の邪神の中でもごく限られた奴らだからね。中でもこいつはアザトースの一番のお気に入りで連絡係も務めているんだよ」

 アルハザードの肩の上で体を丸めている黒猫の姿をまじまじと見た。この邪神は本来どのような姿をしているのだろうか。
「それは訊かない方がいいみたいだよ。死ぬほど後悔すると言ってるからね」
 死ぬほど後悔する姿? 頭の中からその考えを追い出すために違う話題に切り換えることにした。
「パルケルススさんに賢者の石にについて訊いてみようよ」
「そうだね」

 アルハザードが何事かをパルケルススに話しかけた。
「賢者の石? それを教えてもらうためにここに来たのかね」
 アルハザードの話しているドイツ語が神谷の頭の中に日本語で語りかけてくる。これも黒猫の姿をした邪心のサービスなのだろう。
「さあ神谷、君の出番だよ」
「えっ、いうこと」
「神谷にギターを弾いて貰いたいのさ」
「ここで?」
「もちろん、それが彼に対する報酬なのさ」
 しかし報酬ならばに金を払えば済むことではないか、それにギターがまだ発明されていないこの時代にギター演奏などをして、それが記録に残ってしまうと歴史が狂ってしまうのではないだろうか。

「彼は金には困っていないんだ、著作した本を売って儲けているからね。彼の欲しいのは知識と刺激さ。神谷の弾くギターが気に入れば上手くいくさ。それに、大丈夫だよ、歴史なんて細かいところでは色々と破綻しているんだよ。神谷のギターくらいでは歴史が変わることはないよ」
 アルハザードがクスリと笑った。
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