親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

04柱の街の演奏会再び2

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 アルハザードに続いて砂漠の街に出た。

 時刻は夕暮れ時らしく、大きな月が水平線から半分程顔を出していた。

「この時間だと照明が必要かな」

「いや、大丈夫だよ。楽譜を見る訳じゃないし、手元が見えれば充分だ」

「そうか、じゃあまたあそこでいいね」

 アルハザードが指差したのは、先日と同じ石のステージだった。

「また、座り心地のいいものを出してよ」

 アルハザードが黒猫の姿をした邪神に向かって言うと、岩の上に大きな切り株が現れた。

「今度は切り株を出してくれたみたいだね」

 二人でステージに近づいて切り株を見ると、座りやすいように真ん中が少し窪んでいる。

「この前よりもサービスがいいね。次に頼む時はクッションでも置いてくれるんじゃないかな」

「それは今日の演奏次第ということなんだろ」

「そういうことだね、じゃあ、僕は下で見ているから」

 ケースから取り出したギターを構えて、チューニングを確認してから、まず一曲目を弾き出した。曲目はスペインの作曲家グラナドスのスペイン舞曲十番、元々はピアノの曲だが、ギターの独奏曲としても多くのギタリストのレパートリーとなっている曲だ。副題に「悲しき舞曲」という名がついているが、軽快で明るい曲調で、リズムとメロディーの双方を際立たせるには高度なテクニックを要する。

 神谷は普段の演奏よりも速度を速め、リズムを強調するように低音を刻んだ。邪神の好みに合わせたのだ。

 演奏している周りにいくつもの黒い陰が飛び跳ね出した。

「相変わらず、中々の腕前ではないか」

 アルハザードの上の方からネチャネチャとした声が響いた。うっすらと巨大な陰が見える。あれがアルハザードの言っていたもう一人の邪神なのだろうか。

「ニャルホテップの眷属もまたずいぶん喜んでいるようだな」

「うん、神谷もサービスでずいぶんスピードを上げているみたいだしね」

「この分では今回も合格のようだな」

 巨大な陰が徐々に色を持ち始めた。

 曲が終わりに近づいた時、陰の実態が現れた。アルハザードの言ったように、触手が無数に生えた体の上には蛸に似た頭が乗っている。前回嗅いだ腐臭が一段と強くなった。

「神谷、こいつがクトゥルフだ。悠久の眠りより目覚めた偉大なる邪神だよ」

 曲が終わると同時にアルハザードが声をかけてきた。自分で偉大なる邪神と言いながら呼び方はこいつだ。

 クトゥルフと呼ばれた邪神もそんなことは気に留めているそぶりもない。もっとも、蛸の化物にしか見えないもの感情など読めるはずもないのだが。

「カミラと言ったかな、中々いい演奏ではないか。ニャルホテップも喜んでいるようだ」

 ひどく聞き難い声だが、やっと黒猫姿の邪神の名前を思い出した。


「もう一曲弾くがいい、そうすればニャルホテップがアザトースへアルハザードの願いを伝えに飛んで行くだろう」

「神谷、聞いたかい、もう一曲だけだ、いいかい」

 たとえ相手が人ならぬ存在だとしても、褒められて悪い気はしない。だが、もう一曲気に入られる演奏をしたら魔人と一緒にムー大陸に飛ばされてしまうのだ。しかし、今は邪神に気に入られる演奏をするしかない。

 次に選んだ曲は先程と同じくグラナドスのスペイン舞曲、今度は五番だ。
 中間部にゆったりとした部分を挟んではいるが、軽快でリズミカルな曲だ。
 演奏が終わった。

「神谷、準備はいいかい」
「別に、準備なんて何もないよ」
「それじゃあ、行くよ」
「一万二千年前のムー大陸に?」

 神谷の言葉が終わらないうちにあたりが強い光に包まれた。
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