21 / 73
ムー大陸編
8魔人VS黒色人1
しおりを挟む
「とても一万二千年も昔に来たとは信じられないね」
ムー大陸人の乗った車を見送りながら、ぼそりと呟いた。
「これからさ、現代とは違う文明だということを思い知るのは」
アルハザードが意味深にクスリと笑った。
しばらく二人で道路を歩いていると、空の飛行船の数が次第に増えてきた。空は雲一つない快晴だけにその景色は、異様というよりも遊園地のアトラクションのようで滑稽に見える。
全ての飛行船の気体の色が違うのだが、一際大きい飛行船は光り輝く金色をしていた。
先程の女性は飛行船を王族の乗り物と言っていたが、あの金色の飛行船はその中でも特に高貴な人、例えば王様の乗る船なのだろうか。
「うん、そうみたいだよ、この島を統治する王、ラ・ムーの所有する船だそうだ」
邪神が遠くの空に浮かぶ十挺ほどの船を見ながら、ペロリと唇をなめた。
その時、近くの茂みから何かが飛び出してきた。音も立てずに現れたのは、皮膚の色も短い髪も瞳も全て漆黒の闇のように黒く、体にピッタリとした鈍い色を放つ服も黒い、身長二メートルはあろうかと言う人間だった。服の上からでも筋肉が恐ろしく発達していることが分かり、右手には一メートルほどの長さの、おそらくは金属製であろう太い棒を握っている。
「こいつがさっきの女の言っていた黒色人のようだね」
おそらくは 二人のことを睨んでいるのだろうが、白目のない黒い瞳はどこを見ているのかが分からない。
「こいつはかなり凶暴だ、話して分かるような相手ではない。逃げるか、闘うしかない」
逃げるといっても、アルハザードは手ぶらだが、神谷はギターケースを背負っている。それに相手は神谷よりも二十センチ以上背の高い怪物だ。とても逃げ切れるとは思えない。
「それじゃ、闘うしかないね」
「その神様は何とかしてくれないのかい」
「何とかしてくれる訳ないだろう、肝心なことは自分でしろってことさ。ここは僕が何とかする。神谷は指に怪我でもしてギタラを弾けなくなったら困るからね」
邪神がアルハザードの肩から飛び降りて神谷の足元に近づいて来た。どうやら、二人の戦いを見物するつもりらしい。
アルハザードが巨人の前に何の構えもせずに無防備に立ちはだかった。黒色人が歯を剥いて笑ったように見えた。驚いたことに歯も真っ黒だった。
アルハザードの顔が鼻と耳のない「切り落とし」のものになっている。おそらくは戦いに集中するために魔術を解いたのだろう。
黒色人がアルハザードに向かって右手に持った棒を、恐ろしい早さで振り下ろす。アルハザードは棒が体に当たる寸前に一瞬体が消えたかのように見える早さでかわしていく。
黒色人の一方的な攻撃が三分は続いただろうか、不意にアルハザードが左右の掌を合わせて前に突き出した。するとそれまで俊敏だった黒色人の動きがピタリと止まった。右手は金属の棒を突き出したままだ。
アルハザードがゆっくりと黒色人に近寄り、ふわりと宙に舞った。アルハザードはあたかも体重な消え失せてしまったかのように黒色人の突き出したまま止まっている棒の上に乗り、その上を黒色人の手元に向かって歩いた。そして、頭部に手が届く距離で立ち止まり、右手の中指でその額を弾いた。
黒色人は後ろにゆっくりと崩れ落ちた。
「まあ、こんなところかな」
地面に降り立ち、振り返ったアルハザードはいつもの端正な顔立ちに戻っている。
「こいつが動きを止めたのは、君が何かしたからだろう」
「ああ、一瞬こいつの時間を止めた、それだけだよ」
「そんなことができるんだ、最後にこいつを倒した技は?」
「あれ、神谷はデコピンしらないの、日本の遊びであるんじゃないのかい」
「デコピンでこいつを倒したのかい」
「そうだよ、倒したっていっても気絶させただけだけどね。半日もすれば気がつくと思うよ」
この男のデコピンにはどれだけの威力があるのだ。
「そうだね、本気でやれば頭蓋骨くらいは陥没させられるけど、そこまではしないよ。これでも無駄な殺生は嫌いなんだ」
とても魔人の言葉とは思えない。
「こいつの精神に少しだけ触れた。こいつはかなり危険な人種のようだ。相手を傷つけることしか考えていない。いたぶって殺すことしかね」
邪神がアルハザードの体を駆け上がって肩に飛び乗った。
「さて、行こうか」
アルハザードが何事もなかったかのように歩き出し、神谷もその横に並んだ。
ムー大陸人の乗った車を見送りながら、ぼそりと呟いた。
「これからさ、現代とは違う文明だということを思い知るのは」
アルハザードが意味深にクスリと笑った。
しばらく二人で道路を歩いていると、空の飛行船の数が次第に増えてきた。空は雲一つない快晴だけにその景色は、異様というよりも遊園地のアトラクションのようで滑稽に見える。
全ての飛行船の気体の色が違うのだが、一際大きい飛行船は光り輝く金色をしていた。
先程の女性は飛行船を王族の乗り物と言っていたが、あの金色の飛行船はその中でも特に高貴な人、例えば王様の乗る船なのだろうか。
「うん、そうみたいだよ、この島を統治する王、ラ・ムーの所有する船だそうだ」
邪神が遠くの空に浮かぶ十挺ほどの船を見ながら、ペロリと唇をなめた。
その時、近くの茂みから何かが飛び出してきた。音も立てずに現れたのは、皮膚の色も短い髪も瞳も全て漆黒の闇のように黒く、体にピッタリとした鈍い色を放つ服も黒い、身長二メートルはあろうかと言う人間だった。服の上からでも筋肉が恐ろしく発達していることが分かり、右手には一メートルほどの長さの、おそらくは金属製であろう太い棒を握っている。
「こいつがさっきの女の言っていた黒色人のようだね」
おそらくは 二人のことを睨んでいるのだろうが、白目のない黒い瞳はどこを見ているのかが分からない。
「こいつはかなり凶暴だ、話して分かるような相手ではない。逃げるか、闘うしかない」
逃げるといっても、アルハザードは手ぶらだが、神谷はギターケースを背負っている。それに相手は神谷よりも二十センチ以上背の高い怪物だ。とても逃げ切れるとは思えない。
「それじゃ、闘うしかないね」
「その神様は何とかしてくれないのかい」
「何とかしてくれる訳ないだろう、肝心なことは自分でしろってことさ。ここは僕が何とかする。神谷は指に怪我でもしてギタラを弾けなくなったら困るからね」
邪神がアルハザードの肩から飛び降りて神谷の足元に近づいて来た。どうやら、二人の戦いを見物するつもりらしい。
アルハザードが巨人の前に何の構えもせずに無防備に立ちはだかった。黒色人が歯を剥いて笑ったように見えた。驚いたことに歯も真っ黒だった。
アルハザードの顔が鼻と耳のない「切り落とし」のものになっている。おそらくは戦いに集中するために魔術を解いたのだろう。
黒色人がアルハザードに向かって右手に持った棒を、恐ろしい早さで振り下ろす。アルハザードは棒が体に当たる寸前に一瞬体が消えたかのように見える早さでかわしていく。
黒色人の一方的な攻撃が三分は続いただろうか、不意にアルハザードが左右の掌を合わせて前に突き出した。するとそれまで俊敏だった黒色人の動きがピタリと止まった。右手は金属の棒を突き出したままだ。
アルハザードがゆっくりと黒色人に近寄り、ふわりと宙に舞った。アルハザードはあたかも体重な消え失せてしまったかのように黒色人の突き出したまま止まっている棒の上に乗り、その上を黒色人の手元に向かって歩いた。そして、頭部に手が届く距離で立ち止まり、右手の中指でその額を弾いた。
黒色人は後ろにゆっくりと崩れ落ちた。
「まあ、こんなところかな」
地面に降り立ち、振り返ったアルハザードはいつもの端正な顔立ちに戻っている。
「こいつが動きを止めたのは、君が何かしたからだろう」
「ああ、一瞬こいつの時間を止めた、それだけだよ」
「そんなことができるんだ、最後にこいつを倒した技は?」
「あれ、神谷はデコピンしらないの、日本の遊びであるんじゃないのかい」
「デコピンでこいつを倒したのかい」
「そうだよ、倒したっていっても気絶させただけだけどね。半日もすれば気がつくと思うよ」
この男のデコピンにはどれだけの威力があるのだ。
「そうだね、本気でやれば頭蓋骨くらいは陥没させられるけど、そこまではしないよ。これでも無駄な殺生は嫌いなんだ」
とても魔人の言葉とは思えない。
「こいつの精神に少しだけ触れた。こいつはかなり危険な人種のようだ。相手を傷つけることしか考えていない。いたぶって殺すことしかね」
邪神がアルハザードの体を駆け上がって肩に飛び乗った。
「さて、行こうか」
アルハザードが何事もなかったかのように歩き出し、神谷もその横に並んだ。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
書籍化の打診が来ています -出版までの遠い道のり-
ダイスケ
エッセイ・ノンフィクション
ある日、私は「書籍化の打診」というメールを運営から受け取りました。
しかしそれは、書籍化へと続く遠い道のりの一歩目に過ぎなかったのです・・・。
※注:だいたいフィクションです、お察しください。
このエッセイは、拙作「異世界コンサル株式会社(7月12日に電子書籍も同時発売)」の書籍化の際に私が聞いた、経験した、知ったことの諸々を整理するために書き始めたものです。
最初は活動報告に書いていたのですが「エッセイに投稿したほうが良い」とのご意見をいただいて投稿することにしました。
上記のような経緯ですので文章は短いかもしれませんが、頻度高く更新していきますのでよろしくおねがいします。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる