親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

47魔人VS黒鳥

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 アルハザードが言ったように、赤色人に依って蒔かれた毒草は芽を出すことはなく、日を追うごとにヒラニプラ上空を飛ぶ黒鳥の数は増えていき、五日も経つと目に見えるだけでも数十羽は飛来しているようだった。

「あの鳥たちは何を餌にしているのかな」

 今のところ、黒鳥に依る被害は耳にしていない。

「王宮以外の所では、色々とあの鳥に依る被害が起こっているようだね」

「どんなこと」

 アルハザードは質問には答えず「そろそろかな」と一人ごちてから胸のブローチに両掌を当て、アポイントを取ったのだろう「じゃあ、ラ・ムーと話してくるよ」と言って部屋を出て行った。

 しばらくして戻って来たアルハザードが「それじゃあ行こうか」と言って神谷に一緒に来るように促した。

「えっ、僕も一緒に行くのかい」

「ああ、別に手伝って欲しい訳じゃない、唯の見学、暇つぶしくらいにはなるだろう」

 アルハザードの後について行くと、王宮の裏口には数人の白色人を引き連れたラ・ムーと黄金人が十数人、二人が来るのを待っていたようだった。

 空を見上げると、また一段と黒鳥の数が増えている。王宮の敷地の上だけでも百羽近くは飛び回っているだろう。

「またあの黒い鳥の数が増えたようだ。街では者があの鳥に襲われて傷つくなどの被害が増えている。幸いまだ死者は出ていないが、そなた一人で何とかできるのかね」

 ラ・ムーがアルハザードに向かって静かに訊ねた。

「大丈夫だと思いますよ。先ほどの打ち合わせの通りにして頂ければ」

「確か子供の家畜を一頭用意するのだったな、他に先ほどそなたの言っていた物を用意した」

 ラ・ムーの従者である白色人がアルハザードに向かって差し出したのは、この国の唯一の武器である白い棒、しかしそれは既存の棒を細く平に削った、棒ではなく現代で剣と呼ばれるものに近い形状をしていた。

「そなたの注文通りに削ったのだが、このような物が武器になるのかね」

 ラ・ムーが訝しげに言ったが、神谷から見ればこちらの方が唯の棒よりもよほど武器らしい。

「これで充分です。では、打ち合わせの通りにお願いします」
 アルハザードが受け取った剣(敢えてそう呼ぶことにした)を片手に握り、何度か振ってその感触を確かめている。

 家畜が放牧されていた土地の端に建てられている宿舎の中から、いやがる子牛を赤色人の女が無理矢理連れ出し来た。真上に黒鳥が集まっている。

 子牛を残して赤色人がこちらに向かって走ってきた、距離はおよそ二百メートルほどだろうか。広い敷地の中に子牛だけが取り残された、不安げにあたりを見回している。その子牛に向かって数個の黒い影が向かって行った。

 その影よりも素早くアルハザードが動いた。短距離で世界新記録を出せると自ら言ったように凄まじい速さだ。

 黒い影よりもアルハザードが子牛のいる場所に到達する方が僅かに早い。

 そこから先は視界で捕らえることができなかった。黒い固まりに向かって白い剣が振り下ろされ、あるいは突き上げられ、地面に黒鳥の死骸が転がる、それが数十回繰り返された。剣を握っているはずのアルハザードの姿は残像すら見えない。唯地面を蹴る音が「ザッ」と聞こえるばかりだ。

 黒鳥が目標を子牛からアルハザードに変えた。食欲よりも強敵が現れたことに依る闘争心が勝ったようだ。子牛を守るためか、戦いの場所が徐々にずれていく、それを見た赤色人が子牛を連れ戻しに走った。子牛は無事に宿舎に戻された。

 戦いは続き、辺りは黒鳥の死骸で覆い尽くされた。ラ・ムーたち王宮の一同は言葉もなくその戦いを見つめていた。

 時間にして五分と経っていないだろう。最後の一羽が地面に落ち、ようやくアルハザードの動きが止まり、その姿が見えるようになった。

 全ての黒鳥を斬り殺したアルハザードがこちらに向かって歩いてくる。

「やはり、凄まじいものだな」

 感嘆の声を上げたのは闘技場でアルハザードと闘った黄金人だ。

「まだ余力を残しているようだが、どのような訓練を積めばそのように強くなれるのだ」

「死に値するほどの絶望、ですかね」

 アルハザードがクスリと笑いながら答えた。

 黄金人はアルハザードの言葉の意味が分からないようで、口を半開きにしてキョトンとするばかりだった。

「見事だ」

 ラ・ムーがようやく口を開いた。

「何か褒美を与えよう。何なりを欲しい物を言うがいい」

「いえ、治療を受けさせてもらっているお礼です、褒美など何もいりませんよ」

「それにしても、凄まじものをみせてもらったよ、と言ってもそなたの動きは殆ど見えなかったがね」

 殆どということは、少しは見えたということか。

「ラ・ムーは僕と同じくらい視力があるらしいよ」

 アルハザードが神谷にだけ聞こえる声で語りかけてきた。ということは視力四、〇ということか。

「あの増幅器のエネルギーを浴びていると、近視にも老眼にもならないんだよ、もっとも、僕のように俊足にはなれないみたいだけどね」

 アルハザードの走る速さは、俊足というレベルを遥かに超え、神足と言ってもいいのではないか。

「現代に帰ったら、オリンピックを目指すことをお勧めするね」

「そうだな、体が元に戻ったら、暇つぶしにオリンピックに出てみるのも面白いかもしれないね」

 アルハザードが剣を白色人に返しながら、堪らなくおかしそうにクスリと笑った。
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