60 / 73
ムー大陸編
47魔人VS黒鳥
しおりを挟む
アルハザードが言ったように、赤色人に依って蒔かれた毒草は芽を出すことはなく、日を追うごとにヒラニプラ上空を飛ぶ黒鳥の数は増えていき、五日も経つと目に見えるだけでも数十羽は飛来しているようだった。
「あの鳥たちは何を餌にしているのかな」
今のところ、黒鳥に依る被害は耳にしていない。
「王宮以外の所では、色々とあの鳥に依る被害が起こっているようだね」
「どんなこと」
アルハザードは質問には答えず「そろそろかな」と一人ごちてから胸のブローチに両掌を当て、アポイントを取ったのだろう「じゃあ、ラ・ムーと話してくるよ」と言って部屋を出て行った。
しばらくして戻って来たアルハザードが「それじゃあ行こうか」と言って神谷に一緒に来るように促した。
「えっ、僕も一緒に行くのかい」
「ああ、別に手伝って欲しい訳じゃない、唯の見学、暇つぶしくらいにはなるだろう」
アルハザードの後について行くと、王宮の裏口には数人の白色人を引き連れたラ・ムーと黄金人が十数人、二人が来るのを待っていたようだった。
空を見上げると、また一段と黒鳥の数が増えている。王宮の敷地の上だけでも百羽近くは飛び回っているだろう。
「またあの黒い鳥の数が増えたようだ。街では者があの鳥に襲われて傷つくなどの被害が増えている。幸いまだ死者は出ていないが、そなた一人で何とかできるのかね」
ラ・ムーがアルハザードに向かって静かに訊ねた。
「大丈夫だと思いますよ。先ほどの打ち合わせの通りにして頂ければ」
「確か子供の家畜を一頭用意するのだったな、他に先ほどそなたの言っていた物を用意した」
ラ・ムーの従者である白色人がアルハザードに向かって差し出したのは、この国の唯一の武器である白い棒、しかしそれは既存の棒を細く平に削った、棒ではなく現代で剣と呼ばれるものに近い形状をしていた。
「そなたの注文通りに削ったのだが、このような物が武器になるのかね」
ラ・ムーが訝しげに言ったが、神谷から見ればこちらの方が唯の棒よりもよほど武器らしい。
「これで充分です。では、打ち合わせの通りにお願いします」
アルハザードが受け取った剣(敢えてそう呼ぶことにした)を片手に握り、何度か振ってその感触を確かめている。
家畜が放牧されていた土地の端に建てられている宿舎の中から、いやがる子牛を赤色人の女が無理矢理連れ出し来た。真上に黒鳥が集まっている。
子牛を残して赤色人がこちらに向かって走ってきた、距離はおよそ二百メートルほどだろうか。広い敷地の中に子牛だけが取り残された、不安げにあたりを見回している。その子牛に向かって数個の黒い影が向かって行った。
その影よりも素早くアルハザードが動いた。短距離で世界新記録を出せると自ら言ったように凄まじい速さだ。
黒い影よりもアルハザードが子牛のいる場所に到達する方が僅かに早い。
そこから先は視界で捕らえることができなかった。黒い固まりに向かって白い剣が振り下ろされ、あるいは突き上げられ、地面に黒鳥の死骸が転がる、それが数十回繰り返された。剣を握っているはずのアルハザードの姿は残像すら見えない。唯地面を蹴る音が「ザッ」と聞こえるばかりだ。
黒鳥が目標を子牛からアルハザードに変えた。食欲よりも強敵が現れたことに依る闘争心が勝ったようだ。子牛を守るためか、戦いの場所が徐々にずれていく、それを見た赤色人が子牛を連れ戻しに走った。子牛は無事に宿舎に戻された。
戦いは続き、辺りは黒鳥の死骸で覆い尽くされた。ラ・ムーたち王宮の一同は言葉もなくその戦いを見つめていた。
時間にして五分と経っていないだろう。最後の一羽が地面に落ち、ようやくアルハザードの動きが止まり、その姿が見えるようになった。
全ての黒鳥を斬り殺したアルハザードがこちらに向かって歩いてくる。
「やはり、凄まじいものだな」
感嘆の声を上げたのは闘技場でアルハザードと闘った黄金人だ。
「まだ余力を残しているようだが、どのような訓練を積めばそのように強くなれるのだ」
「死に値するほどの絶望、ですかね」
アルハザードがクスリと笑いながら答えた。
黄金人はアルハザードの言葉の意味が分からないようで、口を半開きにしてキョトンとするばかりだった。
「見事だ」
ラ・ムーがようやく口を開いた。
「何か褒美を与えよう。何なりを欲しい物を言うがいい」
「いえ、治療を受けさせてもらっているお礼です、褒美など何もいりませんよ」
「それにしても、凄まじものをみせてもらったよ、と言ってもそなたの動きは殆ど見えなかったがね」
殆どということは、少しは見えたということか。
「ラ・ムーは僕と同じくらい視力があるらしいよ」
アルハザードが神谷にだけ聞こえる声で語りかけてきた。ということは視力四、〇ということか。
「あの増幅器のエネルギーを浴びていると、近視にも老眼にもならないんだよ、もっとも、僕のように俊足にはなれないみたいだけどね」
アルハザードの走る速さは、俊足というレベルを遥かに超え、神足と言ってもいいのではないか。
「現代に帰ったら、オリンピックを目指すことをお勧めするね」
「そうだな、体が元に戻ったら、暇つぶしにオリンピックに出てみるのも面白いかもしれないね」
アルハザードが剣を白色人に返しながら、堪らなくおかしそうにクスリと笑った。
「あの鳥たちは何を餌にしているのかな」
今のところ、黒鳥に依る被害は耳にしていない。
「王宮以外の所では、色々とあの鳥に依る被害が起こっているようだね」
「どんなこと」
アルハザードは質問には答えず「そろそろかな」と一人ごちてから胸のブローチに両掌を当て、アポイントを取ったのだろう「じゃあ、ラ・ムーと話してくるよ」と言って部屋を出て行った。
しばらくして戻って来たアルハザードが「それじゃあ行こうか」と言って神谷に一緒に来るように促した。
「えっ、僕も一緒に行くのかい」
「ああ、別に手伝って欲しい訳じゃない、唯の見学、暇つぶしくらいにはなるだろう」
アルハザードの後について行くと、王宮の裏口には数人の白色人を引き連れたラ・ムーと黄金人が十数人、二人が来るのを待っていたようだった。
空を見上げると、また一段と黒鳥の数が増えている。王宮の敷地の上だけでも百羽近くは飛び回っているだろう。
「またあの黒い鳥の数が増えたようだ。街では者があの鳥に襲われて傷つくなどの被害が増えている。幸いまだ死者は出ていないが、そなた一人で何とかできるのかね」
ラ・ムーがアルハザードに向かって静かに訊ねた。
「大丈夫だと思いますよ。先ほどの打ち合わせの通りにして頂ければ」
「確か子供の家畜を一頭用意するのだったな、他に先ほどそなたの言っていた物を用意した」
ラ・ムーの従者である白色人がアルハザードに向かって差し出したのは、この国の唯一の武器である白い棒、しかしそれは既存の棒を細く平に削った、棒ではなく現代で剣と呼ばれるものに近い形状をしていた。
「そなたの注文通りに削ったのだが、このような物が武器になるのかね」
ラ・ムーが訝しげに言ったが、神谷から見ればこちらの方が唯の棒よりもよほど武器らしい。
「これで充分です。では、打ち合わせの通りにお願いします」
アルハザードが受け取った剣(敢えてそう呼ぶことにした)を片手に握り、何度か振ってその感触を確かめている。
家畜が放牧されていた土地の端に建てられている宿舎の中から、いやがる子牛を赤色人の女が無理矢理連れ出し来た。真上に黒鳥が集まっている。
子牛を残して赤色人がこちらに向かって走ってきた、距離はおよそ二百メートルほどだろうか。広い敷地の中に子牛だけが取り残された、不安げにあたりを見回している。その子牛に向かって数個の黒い影が向かって行った。
その影よりも素早くアルハザードが動いた。短距離で世界新記録を出せると自ら言ったように凄まじい速さだ。
黒い影よりもアルハザードが子牛のいる場所に到達する方が僅かに早い。
そこから先は視界で捕らえることができなかった。黒い固まりに向かって白い剣が振り下ろされ、あるいは突き上げられ、地面に黒鳥の死骸が転がる、それが数十回繰り返された。剣を握っているはずのアルハザードの姿は残像すら見えない。唯地面を蹴る音が「ザッ」と聞こえるばかりだ。
黒鳥が目標を子牛からアルハザードに変えた。食欲よりも強敵が現れたことに依る闘争心が勝ったようだ。子牛を守るためか、戦いの場所が徐々にずれていく、それを見た赤色人が子牛を連れ戻しに走った。子牛は無事に宿舎に戻された。
戦いは続き、辺りは黒鳥の死骸で覆い尽くされた。ラ・ムーたち王宮の一同は言葉もなくその戦いを見つめていた。
時間にして五分と経っていないだろう。最後の一羽が地面に落ち、ようやくアルハザードの動きが止まり、その姿が見えるようになった。
全ての黒鳥を斬り殺したアルハザードがこちらに向かって歩いてくる。
「やはり、凄まじいものだな」
感嘆の声を上げたのは闘技場でアルハザードと闘った黄金人だ。
「まだ余力を残しているようだが、どのような訓練を積めばそのように強くなれるのだ」
「死に値するほどの絶望、ですかね」
アルハザードがクスリと笑いながら答えた。
黄金人はアルハザードの言葉の意味が分からないようで、口を半開きにしてキョトンとするばかりだった。
「見事だ」
ラ・ムーがようやく口を開いた。
「何か褒美を与えよう。何なりを欲しい物を言うがいい」
「いえ、治療を受けさせてもらっているお礼です、褒美など何もいりませんよ」
「それにしても、凄まじものをみせてもらったよ、と言ってもそなたの動きは殆ど見えなかったがね」
殆どということは、少しは見えたということか。
「ラ・ムーは僕と同じくらい視力があるらしいよ」
アルハザードが神谷にだけ聞こえる声で語りかけてきた。ということは視力四、〇ということか。
「あの増幅器のエネルギーを浴びていると、近視にも老眼にもならないんだよ、もっとも、僕のように俊足にはなれないみたいだけどね」
アルハザードの走る速さは、俊足というレベルを遥かに超え、神足と言ってもいいのではないか。
「現代に帰ったら、オリンピックを目指すことをお勧めするね」
「そうだな、体が元に戻ったら、暇つぶしにオリンピックに出てみるのも面白いかもしれないね」
アルハザードが剣を白色人に返しながら、堪らなくおかしそうにクスリと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる