59 / 73
ムー大陸編
46ヒラニプラに黒鳥飛来
しおりを挟む
「今日も外の様子を見に行こうか」
ヒラニプラの神が再降臨した翌朝、起きがけにアルハザードが言った。
「別に構わないけど、天気はどうなの」
「今日は快晴らしいね、だから散歩にはちょうどいいんじゃないかな」
昨日のヒラニプラの神の話などなかったかのように涼やかな声だ。
「何か面白いものが見られるみたいだよ」
アルハザードや邪神の言う面白いものが、神谷の面白いものと同じとは限らないが、他にすることもないので一緒に行くことにした。
胸のブローチの両掌を当てた後に部屋を出る、昼間ということでどこかに許可をもらったようだ。
王宮の裏口にはいつもの通り甲冑に身に着けた青色人が二人立っていた。出口の外から見える畑の景色も特に変わった様子はない。
「何も変わったところは見受けられないけど」
「いい天気じゃないか、空を見て御覧よ」
アルハザードに言われて、雲一つない青空を見上げた。アルハザードの言う面白いものとは、この澄み切った青空のことか、と思っていると視界の隅を何かがよぎった。
速くて黒い物、まさかと思ってそちらに目をやると、そこには翼を大きくはためかせた巨大な黒鳥がヒラニプラの街の上空をジェット機のような速度で飛んでいた。
「あれって、もしかしてこの前スクリーンで見た鳥」
「そうだ、黒い玉から生まれた黒鳥だよ。オレンジ色の実をつける木が枯れてしまったから、あの鳥が死なずにこの街の上空を飛んでいるんだ」
「しかし、おそろしいほどの速さだね」
「あの速さで家畜や人を襲うんだ。だから、あの黒鳥を駆除するためにあの猛毒の実がなる木が植えられたんだよ」
「でも、それが全て枯れてしまったとなると、あの鳥にこの街が襲われることになるね」
「それについての対策会議を今、黄金人たちが開いているよ。昨日ヒラニプラの神がこいつに相談に来た理由の一つがこれだったんだよ」
「神様が相談に来るほどの事案なのかな」
アルハザードの肩に乗っているはずの邪神の方を見た。
「でも、この島の雨が酸性化しているのは、この島の神様の上位の神様の指示なんでしょ」
「だから、こっそりとこいつに会いにきたんだよ。何とかなりませんかってね」
それを鰾膠もなく追い返してしまったのだから、さすがに邪神だけのことはある。
「そういうことは、上位の神様がこの島の住人に試練を与えてるってことかな」
「試練ねぇ、それで済めばいいけどね」
試練では済まないということは、予言の通りに大きな災難が起こるということなのか。
「どうかな、それについては、こいつも何も教えてはくれないしね。まあ、人間が考える範疇を越えているってことじゃないのかな」
「その人間にはこの島の王族も入っているってことだよね」
「もちろん、だからいくら会議を開いても、解決策は出てこないと思うよ。元々は自分たちで作った装置が原因で起こったことだしね」
アルハザードが言っているのは精神力増幅装置のことだ。しかし、その作用を受けて自身の体を治そうとしているのも彼本人だ。
「神は自らを崇拝する者のみを愛し、逆らおうとする者には重き罰を与える、そんなもんだよ。神谷は旧約聖書を読んだことはあるかい」
「断片的にはね、後『十戒』っていう映画を見たことがあるよ」
「ならば少しは分かるだろう、集約聖書の神は『名もなき神』を名乗っているが、そこそこに高位の存在だ。そいつが何をしたと思う、自分を信仰する民の国を作るために、そこにいた先住民を全滅させたんだよ、何も悪いことをしていないのにね。そんなもんだよ、神なんて存在は」
そのたとえ話をこの島の住民に当てはめることは、今は考えたくない。
「いずれにせよ、あの鳥はこれから数を増すだろうね」
アルハザードも黒鳥の飛ぶ方向を見て小さく溜息をついた。
午後、アルハザードが治療から戻って「黒鳥の対策が決まったようだから見てみようか」と言ったと同時に目の前に五十インチのスクリーンが浮かんだ。
スクリーンの中では青色人が植物畑の上に青色のネットをかけている。畑の作物と黒鳥から守るための措置だろう。
何も作物の作られていない土地では、赤色人が手に持った籠から植物の種らしき物を振り蒔いている。
「あれって何かの種」
「ああ、毒のある植物の種だよ、あのオレンジ色の実以外にも猛毒のある植物が開発されていたみたいだね、オレンジ色に実をつきる木は成木に育つまでに何年もかかるからね。今蒔いている種から生える植物は水仙の祖先のようだね、その猛毒はあらゆる生物に対して効き目抜群だそうだ」
「オレンジの次は水仙か、ネットで覆われていない場所だから黒鳥がそれを食べる可能性は高いよね」
「そうだろうね、でも、そんなに上手くいくかな」
「上手くいかない要素があるのかい」
「ああ、だって酸性雨のために植物が育ち難くなっているんだよ。毒のある植物だけが育つとは思えないけどね」
「あっ、そうか、あの種から上手く芽が出るとが限らないか」
「そういうことだね」
「それだとどうなるのかな」
「植物がなくなれば、動物しか食べる物がないのは明らかだね」
「家畜が襲われる」
「そう思って間違いないね」
「しかし、黄金人たちだってそこは考えている。家畜は全て宿舎に収納されたよ」
「それじゃあ、後は」
「そうだね、人間しか残っていないね」
「この時代に弓矢とかの飛び道具はないよね」
「あの人種ごとに色の違う棒しか闘う道具はないね。だから様子を見てみよう」
「どんな様子を」
「まだヒラニプラの街の上を飛んでいる黒鳥は一匹だけだこれ以上増えるようなら僕がラ・ムーに進言しようと思う」
「何をだい」
「僕が何とかするってこと」
「君が、どうやって」
「やり方は色々ある、要はあの鳥がいなくなればいいんだ、大して難しいことはないよ」
砂漠の果ての荒野を一人で生き抜いた魔人にとって、このくらいのことは取るに足らないことなのだろう。
ヒラニプラの神が再降臨した翌朝、起きがけにアルハザードが言った。
「別に構わないけど、天気はどうなの」
「今日は快晴らしいね、だから散歩にはちょうどいいんじゃないかな」
昨日のヒラニプラの神の話などなかったかのように涼やかな声だ。
「何か面白いものが見られるみたいだよ」
アルハザードや邪神の言う面白いものが、神谷の面白いものと同じとは限らないが、他にすることもないので一緒に行くことにした。
胸のブローチの両掌を当てた後に部屋を出る、昼間ということでどこかに許可をもらったようだ。
王宮の裏口にはいつもの通り甲冑に身に着けた青色人が二人立っていた。出口の外から見える畑の景色も特に変わった様子はない。
「何も変わったところは見受けられないけど」
「いい天気じゃないか、空を見て御覧よ」
アルハザードに言われて、雲一つない青空を見上げた。アルハザードの言う面白いものとは、この澄み切った青空のことか、と思っていると視界の隅を何かがよぎった。
速くて黒い物、まさかと思ってそちらに目をやると、そこには翼を大きくはためかせた巨大な黒鳥がヒラニプラの街の上空をジェット機のような速度で飛んでいた。
「あれって、もしかしてこの前スクリーンで見た鳥」
「そうだ、黒い玉から生まれた黒鳥だよ。オレンジ色の実をつける木が枯れてしまったから、あの鳥が死なずにこの街の上空を飛んでいるんだ」
「しかし、おそろしいほどの速さだね」
「あの速さで家畜や人を襲うんだ。だから、あの黒鳥を駆除するためにあの猛毒の実がなる木が植えられたんだよ」
「でも、それが全て枯れてしまったとなると、あの鳥にこの街が襲われることになるね」
「それについての対策会議を今、黄金人たちが開いているよ。昨日ヒラニプラの神がこいつに相談に来た理由の一つがこれだったんだよ」
「神様が相談に来るほどの事案なのかな」
アルハザードの肩に乗っているはずの邪神の方を見た。
「でも、この島の雨が酸性化しているのは、この島の神様の上位の神様の指示なんでしょ」
「だから、こっそりとこいつに会いにきたんだよ。何とかなりませんかってね」
それを鰾膠もなく追い返してしまったのだから、さすがに邪神だけのことはある。
「そういうことは、上位の神様がこの島の住人に試練を与えてるってことかな」
「試練ねぇ、それで済めばいいけどね」
試練では済まないということは、予言の通りに大きな災難が起こるということなのか。
「どうかな、それについては、こいつも何も教えてはくれないしね。まあ、人間が考える範疇を越えているってことじゃないのかな」
「その人間にはこの島の王族も入っているってことだよね」
「もちろん、だからいくら会議を開いても、解決策は出てこないと思うよ。元々は自分たちで作った装置が原因で起こったことだしね」
アルハザードが言っているのは精神力増幅装置のことだ。しかし、その作用を受けて自身の体を治そうとしているのも彼本人だ。
「神は自らを崇拝する者のみを愛し、逆らおうとする者には重き罰を与える、そんなもんだよ。神谷は旧約聖書を読んだことはあるかい」
「断片的にはね、後『十戒』っていう映画を見たことがあるよ」
「ならば少しは分かるだろう、集約聖書の神は『名もなき神』を名乗っているが、そこそこに高位の存在だ。そいつが何をしたと思う、自分を信仰する民の国を作るために、そこにいた先住民を全滅させたんだよ、何も悪いことをしていないのにね。そんなもんだよ、神なんて存在は」
そのたとえ話をこの島の住民に当てはめることは、今は考えたくない。
「いずれにせよ、あの鳥はこれから数を増すだろうね」
アルハザードも黒鳥の飛ぶ方向を見て小さく溜息をついた。
午後、アルハザードが治療から戻って「黒鳥の対策が決まったようだから見てみようか」と言ったと同時に目の前に五十インチのスクリーンが浮かんだ。
スクリーンの中では青色人が植物畑の上に青色のネットをかけている。畑の作物と黒鳥から守るための措置だろう。
何も作物の作られていない土地では、赤色人が手に持った籠から植物の種らしき物を振り蒔いている。
「あれって何かの種」
「ああ、毒のある植物の種だよ、あのオレンジ色の実以外にも猛毒のある植物が開発されていたみたいだね、オレンジ色に実をつきる木は成木に育つまでに何年もかかるからね。今蒔いている種から生える植物は水仙の祖先のようだね、その猛毒はあらゆる生物に対して効き目抜群だそうだ」
「オレンジの次は水仙か、ネットで覆われていない場所だから黒鳥がそれを食べる可能性は高いよね」
「そうだろうね、でも、そんなに上手くいくかな」
「上手くいかない要素があるのかい」
「ああ、だって酸性雨のために植物が育ち難くなっているんだよ。毒のある植物だけが育つとは思えないけどね」
「あっ、そうか、あの種から上手く芽が出るとが限らないか」
「そういうことだね」
「それだとどうなるのかな」
「植物がなくなれば、動物しか食べる物がないのは明らかだね」
「家畜が襲われる」
「そう思って間違いないね」
「しかし、黄金人たちだってそこは考えている。家畜は全て宿舎に収納されたよ」
「それじゃあ、後は」
「そうだね、人間しか残っていないね」
「この時代に弓矢とかの飛び道具はないよね」
「あの人種ごとに色の違う棒しか闘う道具はないね。だから様子を見てみよう」
「どんな様子を」
「まだヒラニプラの街の上を飛んでいる黒鳥は一匹だけだこれ以上増えるようなら僕がラ・ムーに進言しようと思う」
「何をだい」
「僕が何とかするってこと」
「君が、どうやって」
「やり方は色々ある、要はあの鳥がいなくなればいいんだ、大して難しいことはないよ」
砂漠の果ての荒野を一人で生き抜いた魔人にとって、このくらいのことは取るに足らないことなのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる