親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

45ヒラニプラの神再降臨

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「それはやはり僕たちが海を越えてやって来たのではないか、という疑心暗鬼だろうね」

 夕食を摂りながら今日、ラ・ムーに呼び出され、どんな会話をしたかを話した。

「僕らの住んでいた国について色々と訊かれたよ」

「そうだな、神谷の思う通り、その辺の打ち合わせは失念していたね、詳細を決めておく必要があるね」

 そこで二人で話し合い、この国に来るまで住んでいた国についての設定を決めた。

・ムー大陸とは比較にならないほど狭い島で、少ない人数で自給自足の生活をしている。
・生活の糧は農業と漁業で、アルハザードと神谷は漁業を生業としていて、島の近くで漁をしていたが、潮に流され、更に嵐に遭遇してムー大陸に辿り着いた。
・食料は野菜などの農産物と漁により得られる魚介類がほとんどで、まれに野生の動物を狩猟しそれも糧の一つとしている。
・神を信じてはいるが、具体的に神の姿を見ることはなく、祭壇に野生の果物を発酵させて作った酒を供えている。
・神谷の弾くギタラは神を崇拝する際、神官が祈りを捧げる時に弾かれるBGMである。
・神を崇拝するのはヒラニプラと同じく満月の夜である。

「このくらいでいいんじゃないかな。この時代では月を暦の基準とする方が自然だろう、その神事に使われるとすれば、神谷の弾くギタラにありがたみが増すしね」

「君と僕の服装が全く違うことについては、君は放浪者で国のあちらこちらを彷徨っていたと言ってしまったけど、大丈夫かな」

「狭い島の中を彷徨うというのもどうかな、まあ、その辺を突かれたら適当にごまかしておくよ」

 アルハザードの言うごまかしとは。新しい物語を作り出してしまうことになるのだろう。

「新しい物語を作るのは、そのスケールが大きいか小さいかの違いだけで、嘘をつくということは、どちらにせよ物語を作り出すことに他ならない。僕はこれまで大きな物語をたくさん作ってきたからね」

 要するに大きな嘘をたくさんついてきたということだろう。

「まあ、それは否定しないね、人間生きるためにはそれくらいのことはできないとね」

 夕食が終わって、いつものように二人の前にワインの入ったグラスの乗ったテーブルが現れた。

「テレビもスマホもない世界で毎日飽きないかい」

 アルハザードがワインの入ったグラスを片手に訊ねてきた。

「うん、最初の頃はこの世界が真新しくてテレビなんかよりも刺激的だったし、慣れてしまうと毎日違う発見があって、退屈するということはないね」

 それはアルハザードと一緒にいることに依るものが大きいのだろうが、アルハザードと一緒にいるということは、もちろん邪神が側にいるということも含まれる。

「そう思ってもら嬉しいね、僕としては時代を飛ぶために神谷にギタラを利用している訳だしね」

 人間の他に邪神とはいえ、神に気に入られていることは、すごいことだとアルハザードに言われたが、それはそれで気分が悪いことではなかった。

 しかし、開いては齢数十億年或いはもっと長く存在しているものだ、そこにどのような真意があるのかは分からない。おそらくはアルハザードも同じだろう。

「それはそうだよ、こいつらの考えていることなんか、同じ神でも分からないんだ、まして、人間に分かるはずがないじゃないか」

 アルハザードに分からないものが、神谷に分かるはずもなかった。

 アルハザードの治療は毎日続いた。少しずつではあるが、魔人がはっきりと見えるようになってきた。実際の顔が魔術により見える顔に近づいてきたのだろう。

「今晩ヒラニプラの神が来るらしいよ」
 アルハザードの治療が始まって五日ほど経った晩、ワイングラスを片手に魔人が口を開いた。
「えっ、この国の神様って満月の晩にしか降臨できないんじゃないの」
「こいつの力を借りて、しかも、こいつだけに会いに来るらしい」

「やっぱり、僕たちのことを相談に来るのかな」

「いや、僕たちが来たから災いが起こるというのは、おそらくは結果として起こりうることであって、僕たちが原因ではない、僕たちはこの国に災いをもたらすようなことを何一つしていないからね」

「それじゃあ、別の相談」
「どうかな、さすがに神の領域までは僕には分からないよ、でも、あの増幅器に関することだろうという想像はつくけどね」

 神谷から見ても他人の生命を削って長生きをしているのは、決して褒められたことではない。そのことを邪神に相談するのだろうか、しかし、邪神はそんなことどうでもいいと思っているのではなかったか。

「ああ、どうでもいいと思ってるよ、だから、相談は別なことなんだろうね」

「ふーん」

 神谷が自分のグラスにワインを注いでいると、邪神の横たわっている壁に白い霧が現れた。先日の満月の晩に見たこの国の神の顕在した姿だ。

「来たようだね」

 邪神が小さく欠伸をして四本の足で立ち上がり、ゆっくりと白い霧状の気体に向き合った。

「この国の周りにオレンジ色の実をつけた気が会ったのを憶えてるかい」

「うん、憶えてるよ。確か猛毒があって、食べると即死するって言ってたよね」

「そう、その木が全て枯れかかっているらしい」

「えっ、どうして、誰かが除草剤でも散布したのかな」

「この時代にそんなものあるはずがないじゃないか。酸性雨だよ、この前、雨が酸性になってるって言っただろう、それが原因だよ」

「でも、王宮の裏の畑は大丈夫なんでしょ」

「あの畑の作物は雨水の他に地下水を使っている。でも、雨に濡れているのは確かだから、枯れるのは時間の問題だね」

 アルハザードは口を閉ざした。

 邪神は白い霧状になっているヒラニプラの神との会話を続けているようだ。

 やがて、霧は薄くなり、肉眼では見えなくなった。

「神様はいなくなったのかな」

「ああ、天上界に帰って行ったようだ、こいつの力を借りてね」

 来る時も帰る時も邪神に送り迎えをしてもらったようだ、送迎つきの神様などは聞いたこともない。

「聞いたことがなくてもいるのだから仕方がない」

「それで相談というのはどんなことだったんだい」

「うん、さっき酸性雨の話をしたろう、そのことについてらしい」

「酸性雨が降ると、神様も困るのかな」
「そうではなくて、この島の空気を酸性にしているのは、神の仕業らしいね」

 普通の言い方をすれば、仕業ではなく御意向だろう。

「まあ、言い方は何でもいい、とにかく上の指示で大気や雨を司る精霊がこの島に酸性の雨を降らせているらしい」
「なんでかな」

「さあね、こいつが言うには」

 アルハザードが再び体を丸めて寝転んでいる邪神を指差した。

「酸性雨はこの国だけではなく、この島全体に降っているらしい、だから、この島の植物はいずれ全て枯れてしまうらしいね」

「植物以外に影響は出ないのかな」

「もちろん出るさ、植物が枯れるといことは、草食動物の餌がなくなることだし、その動物を食べている人間もいずれは食料がなくなるってことだからね」

「食物連鎖が断ち切られるってことだね」

「神谷にしては高等な言葉を知ってるね、その通りだ、近い将来このヒラニプラに各国から送られて来る食料も底つくことだろうね」

「さっき来た神様はそのあたりを相談に来たのかい」

「そうだね、人間の世界に例えるなら、上司の意向が分からずに第三者機構に相談に来た中間管理職といった感じかな」

 上司というのは上位に存在する神のことだろう。

「それで、この神様は何と答えたんだい」

「人間の言葉で言うと『知るかこの馬鹿』かな」

「ずいぶんひどい言い方だね」

「何たって神は神でも邪神だからね、こいつを頼ろうとする方がおかしいんだよ、だからあの神は未熟なのさ」
 この国で全知全能と思われている神も、魔人と邪神にかかっては未熟者扱いだ。

「実際にそう何だから仕方がない、僕が棄教したイスラムの神、アッラーなんかはこの神よりは上位に存在しているからね、もう少し有能だよ」

 それでも少しだけなのは、アルハザードの心情が入っているとしか思えないのだが。
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