親友は砂漠の果ての魔人

瑞樹

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ムー大陸編

44ヒラニプラの王ラ・ムーの憂鬱2 

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「それじゃあ行ってくるよ」

 グラムダルクリッチに伴なわれてアルハザードが部屋を出て行った。今日から精神力増幅装置のエネルギーを体に受けるためだ。

 一日二時間ずつ毎日行われる予定だという。

 部屋のどこかにいるであろう邪神へのサービスの意味も込めて、ギターの練習をすることにした。

 指慣らしをした後、速い曲を選んで三十分ほど演奏をした。周りを黒い影がいくつも踊った。今日も邪神は神谷の演奏を気に入ってくれたようだ。

 演奏を終えると他にやることもなし、ギターの弦を張り替えていると、アルハザードが部屋に戻って来た。

「ギタラの弦を張り替えているのか、さては暇を持て余しているのだな。そんなに暇ならこいつに映画でも見せてもらえばいいじゃないか」

 邪神に映画を見せてもらう?

「だってスクリーンも出せるし、後は見たい映画やアニメを言えば見せてくれるよ。もっとも、こいつのことだから、残酷なスプラッタームービーなんかになるかもしれないけど」

 メロドラマを見たい訳ではないが、スプラッターを見る趣味はない、ならばおとなしく読書でもしている方がましだ。

「本だって、その手の物になるよ」

「いや、止めとくよ、僕にはそういう趣味はないんでね、ところでどうだった、増幅装置にかかってきたんだろう」


「ああ、増幅装置で作られたエネルギーを浴びてきた。今日になって訓練の必要性が分かったよ。この国の人間の精神の波動に同調できなければ、エネルギーが体に入ってこないんだ。今までの訓練が必要だったことを実感したよ」
「それじゃあ、まずは順調にいったってこと」

「そうらしいね、体の中に強いエネルギーが入ってくる感じはしたね。ラ・ムーはこれを毎日浴びているらしいよ」

「だから長生きするんだね」

「長生きだけじゃない、前にこの国には医者はいない、皆自力で治せないような病気になったら自然と死んでいくだけだけど、王族は違うと言っただろう」

「うん、確かにそう聞いた憶えがあるね」

「病気になった黄金人はあの機械のエネルギーを体に浴びるんだ、今日の僕のようにね、そうすると大概の病気は治ってしまうのだそうだ、但しそれが許されているのは黄金人だけで、他の人種は使うことを許されていないんだ」

「それじゃあ、黄金人以外は、生体エネルギーを吸われるだけ」

「そういうことだね、彼らの命を少しずつ削ってエネルギーを作り、王族、特に王のラ・ムーがその恩恵を受けているということだね」

「偉い人たちってそんなもんかな」

「そうだね、僕の知っている範囲では、中東の王様や中国の皇帝なんかは、恐ろしく残酷だったよ、僕の受けた刑を見ても分かるだろう」
 言葉が出なかった。
「神谷は気にすることないよ、君のギタラのお陰でこの国にやって来ることができたんだしね」

「でも、僕の代わりなんかいくらでもいるだろう」
「ああ、いるよ」

 魔人があっさりと答えた。

「でも、君が優れたギタラ弾きだという事実は変わらないよ」
 多分褒められていrのだろうが、そんなに嬉しくはない。しかし、この魔人がそう思ってくれたお陰で時空を超えてこの島にやって来る事ができたのだ。と、そこまで考えて今までこの島に連れて来られたことを災難と思っていたが、それを貴重な体験と思っている自分がいることが不思議だった。


「神谷もこいつの影響を受けたんじゃないのかい」

 アルハザードが足元の邪神を指差した。

 アルハザードは毎日昼食後の決まった時間に増幅装置のエネルギーを浴びに出かけていった。こちらの機械は同調機とは違って、何時間でも浴びられるらしいのだが、大に時間ほどで戻って来る時が多かった。

  一週間ほど経過した頃、アルハザードの表情が今までとは比べ物にならないくらいに明るくなっていった。

「特に体調がいいという訳ではないんだけど、何かが変わってきたという実感があるんだ、体の外見は変わらなくても中で何かが起こってるっていう感じかな」

 全く想像も実感もできないが、魔人の体に何かの変調が起こっているらしい。

「後少しで目に見に見える変化が起こるんじゃないかな」

 魔人は邪神の頭をなでることも忘れて、夕食後のワインのグラスを呷った。

 その日もアルハザードが部屋を出てからギターの練習をしていると、不意に頭の中にグラムダルクチッチの映像が浮かんだ。もうすぐここに迎えに来るということらしい。
 ギターをケースにしまって、壁に穴が開いて、グラムダルクリッチが現れた。

「ラ・ムー様がお呼びです」

 表情が全くないのは相変わらずだ。

 ギターケースを背負い、後をついて部屋を出た。ラ・ムーが神谷に用事があるとすれば、ギターの演奏以外には何もないだろう。


 階段を上って、金色の廊下を通り、グラムダルクリッチが壁に手を当ててできた穴を通って部屋に入ると、ラ・ムーが従者の白色人を従えて大きな金色の石、この国の椅子居座って、グラスに入った飲み物を口にしていた。

「今日もそなたのギタラが聴きたくてな、頼むぞ」

 先日の満月の日の礼拝の時とは違い、いつもの穏やかな表情をしている。

 用意されていた甘酸っぱい飲み物で喉をうるわせてから、ギターを弾き出した。もちろん、ゆっくりとした曲ばかりを選んで、三十分ほど演奏した。

 ラ・ムーは今回も甚く満足したようで笑みをたたえている。

「そなたの友人の治療は順調にいっているようだな」

 ギターをケースにしまっていると、ラ・ムーが話しかけてきた。

「ええ、本人も上手くいっていると言ってました」

「同調機での訓練といい、この国の人間と比較してもかなりの能力を持っているようだな」

「あの姿を見て分かると思いますが、普通ではない人生を送ってきたんです。その経験が彼を作っていると言ってもいいでしょう」

「なるほど、彼ほど過酷な人生を送らなければ、あのような能力は身につかないという訳だな」

「そうだと思いますよ、そのような経験をしたことのない僕には、想像することしかできませんが」

 目の前に赤い液体の入ったグラスの乗ったテーブルが現れた。

「そなたたちの住んでいた国というのは、どのような所なのかね」

 ラ・ムーが神谷の顔を覗き込むようにして訊ねてきた。

「どのような所と言われても、普通の所ですよ」

 想定していなかった質問だけに、まともに答えることができない。

「普通というのは、どのような普通かね」

「この国のような装置は何もありませんが、たくさんの人々が動物などを飼い、平和に暮らしている国です」


 嘘は苦手だった、それにアルハザードのように作り話がスラスラと口から出て来るはずもなかった。

「ふむ……」
 案の定、ラ・ムーは神谷の話に得心がいかない様子だった。こんなことならば「故郷の国」の細かい状況設定をアルハザードと打ち合わせておくべきだった。

「ラ・ムー様のような立派な王はいませんが、それなりに幸せな生活をしていますよ」

 ここは適当な話をしてお茶を濁すしかない。

「ならば、やはり元の国に帰りたいかね」

「そうですね、帰りたいですね」

「あの男もそうなのか」

 いつの間にか友人から「あの男」へとアルハザードの呼び方が変わっている。

「多分、体が治ったら帰りたいんじゃないですかね」
「彼がああいう体をしていることと、それを治す装置がこの国にあることは偶然かね」

 いきなり確信をつく質問をしてきた。

「彼が言った通り、僕たちがこの島にやって来たのは船の難破という偶然です。何か不審な点でもおありですか」

「いや、そういう訳ではないのだが、少し気になることがあってな」

 ヒラニプラ歴二千年、時を越えた者がこの国に訪れし時、大いなる災いが起こるであろう、この現代で言えば黙示録の一部をラ・ムーが気にしていることは明らかだ。

「それは、どのようなことですか」

「いや、私の杞憂であればいいのだが」

 それが杞憂であればいいと思うのは神谷も同じだった。
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