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一章

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2XXX年 4月24日 16時47分

放課後、心音は正門前で菜々子と美海を待っていた。本来は今日も放課後はジキルハイドとなりクラブのDJをする予定だったがこの日は他のDJに代わってもらう事にしていた。
待ち合わせをしていた二人はトイレの鏡でメイクの手直しをしていた為、少し遅れてやってくる。待たされる分には全くストレスになっていない。実の所、心音も時間にルーズだからである。

菜々子がじっと心音の顔も見ると、二度頷いた。
「心音もメイクしとかないといけないっしょ」
そう言って心音は校舎に戻され、顔面を魔改造された。普段ナチュラルメイクしかしない心音に取って少し厚めの化粧は新鮮だった。
「悪くないっしょ?」
心音は鏡に映る自分の顔に見惚れながら笑みを見せた。

心音は忘れていた。

同い歳の女の子達は今はお化粧やファッションを楽しむという事を、必要最低限しか身だしなみを整えて来ていなかった心音に取って、菜々子達は知らない事を教えてくれる存在と感じさせた。
酷い目に合わされてきた相手だったが、心底お人好しな心音は今までの事を水に流すかの様に彼女らとの新しい関係を受け入れた。

一時間ほど心音は菜々子達とショッピングを楽しんだ後にカラオケルームにやってきた。
基本的に心音は音楽関連を何でも好み、楽器も歌唱も何でも得意である。
(彼女たちに本当の私を知ってもらえる)
更に自分の事を認めてくれるのではと胸を高まらせた。受付までやって来ると何故か菜々子が受付に一声をかけただけで済ませることができた。
カラオケは三人だけで楽しむと思っていた心音は先に誰かが待っていると考えた時に緊張を覚える。
菜々子だけでも過去は恐怖した相手、その友人が更にこの部屋の向こうに待っているのだ。彼女はモデルで顔は広い事は承知していたが突然の事で心の準備が間に合っていなかった。

「緊張しちゃダメだし、これからがお楽しみっしょ!」
菜々子が勢いよく扉を開いた。
中には三人の男の姿があった。

「おぉ来たかぁ!」
入口の扉から正面に座る丸刈りの雅紀が口元を緩ませている。左奥には両腕を広げ足を組みながら王様気取りに純が座っていた。巻き毛の元貴は熱唱中である。

菜々子が純に話しかけるもスピーカーと元貴の声が喧しかったので菜々子は躊躇なくカラオケを中止させた。「あっ」という間抜けな元貴の声が僅かに心音の笑いのツボに入り真顔で笑いを堪える。

「じゃぁ、純?後は任せるけどもう始めるっしょ?」
心音は何の話か分からず突っ立ているだけだ。純は不機嫌なのか菜々子に興味が無いのか大欠伸をしながら話を聞いている。
「…俺はどうだっていい、雅紀(こいつ)に任せる」
そうして、立ち上がりカラオケルームを出ていこうとする。菜々子が行く手を阻むように純の腕を掴んだ。
「あんたッ金やったっしょっ!?」
「此奴らツレてきたし問題ねぇだろツ!」
大胆に彼女の腕を振り払い菜々子はソファーまで飛ばされる。そこまで柔らかいソファーではないもので背中を少し痛めたようだ。純が気にせず個室から出ていった後、美海に手を貸させ立ち上がる。右手で痛む背中を触れていた。
心音は場の把握が間に合わず戸惑っているだけだった。

ため息をついて改めて場を仕切る菜々子、
「まぁ美海はどうするし?元貴とデート?」
「せっかくだし、春限定のスティバ飲みに行こっかな~!ねぇ元たん!」
美海と元貴が付き合っていた事に衝撃を受ける心音に場を気にせず「たん」呼びしながら両手で彼氏の腕にしがみつく美海に反して、あまり慣れてないのか照れくさそうに同様する元貴。

二人の今後の動向が決まると、菜々子は虫を払うように二人を見送った。どんどんと部屋に居る人数が減っていく異変に心音は少しずつ不吉な予感を感じさせていた。

「待たせて悪いし雅紀」
「あぁ、頼むわ」
何故か服を脱ぎ始める雅紀、かなり痩せ型だがバスケ部で自然と鍛えられたゴツゴツとした身体をしている。菜々子はスピーカーを利用して爆音で音楽を流し始めた。

心音は察した、、。


(ウソ……)


急いで逃げようとした時には遅かった。雅紀がテーブルを乗り越えて心音を捕まえ、菜々子はソファーを動かして入口を塞ぐ。

雅紀が右腕で首を絞めながら左手で心音の両手首を掴んだ。身長を百八十を超えている。痩せているとは言え大男の力には華奢な心音の力では抗うのも難しかった。そして、菜々子がスマホでカメラを向けた。

その姿を見て一瞬フラッシュバックを起こす。
体育館裏倉庫での出来事を、、。

「やめ、、て」
拘束を解かれまた逃げようとしてもすぐに雅紀に髪を捕まれソファーに投げ飛ばされた。
そして、強引に仰向けにされると覆いかぶさり両肩を押さえつけられる。

「暴れたら殴るぞ?」
そう言われても心音は脚をばたつかせ抵抗した。すると、雅紀に一発本気で左手頬を平手打ちをされる。首を右に向けたまま両眼から涙を零した。カメラを向ける菜々子の姿があったが涙で視界がぼやけた。
制服を脱がされるのが分かった。上から下へと不器用ながらも流れる様だった。

「友達……になろって……」
太ももには匂いを嗅ぎながら舐める獣が一匹
菜々子に弱った力で右手を差しのべる。

「友里にカメラで撮られた時にこのネタが思いついただけだし、アンタをここまで連れて来る為に馴れ馴れしくしただけ、殺人未遂の奴と誰が仲良くするかボケッ。」


………やっぱ、、こうなるんだ。


私は、、玩具


私には何一つ価値は無い。


……こうなるぐらいなら


彼女に掛けるべきだった。


私はされるがままに獣に襲われ心身共に壊れた。

仰向けに覆い被さられた状態で脚を左右に割られ脚の間に身体を割り込ませられる。吐息が触れる距離で抱かれ手足が絡んだ。全身を舐められ口付けされる。彼の舌が口の中に侵入した。生暖かい唾液、体が拒絶し嗚咽が出る。その度に身体の至る所を殴られた。痣は幾つあるだろう。
腰を掴まれ裏返され四つん這いになった。赤子のように這って逃れようとしても捕まり肩を押さえつけられる。腰を持ち上げられ尻を突き出させられた。そして陰部に何かが突き刺さるのが分かる。ゴムで弾かれるような痛み、キュッと尻が締まる。激しく揺れる腰、突き刺さった物が何度も強く出入りする。私も獣も呼吸が激しくなった。熱い、熱い、私は右手を強くソファーを握りしめようとするも滑って上手く掴めない。身体が拒絶し必死に逃れようと勝手に動いていた。しかし、何度も吸い込まれるように引き戻される。
そして、いつの間にか私は全身の力が抜け水に解ける氷のようになった。

快楽を得た雅紀という名の獣は全身の汗をタオルで拭っている。まだ呼吸は荒く息を吸う度に肩が上がり痩せ浮き出た肋骨が目立っていた。
心音は無の表情で片目から一粒残っていた涙を零す。声を途切らせながらも残った気力で呟いた。

「地獄へ落ちろ」…と。

菜々子は心音がそう言い残したのを確認するとカメラを止めた。

「雅紀もう帰ってもいいしね~。後処理はウチに任せろし」
「うし……頼むわ」
性欲を解き放った雅紀は頭の中に霧が掛かっていて思考が定まらない。顔は荒んでいた。
菜々子は部屋を出ていく雅紀に手を振ると、部屋の掃除を始め、何故か微笑みかけながら心音に衣服を着せた。
部屋の掃除を終えると心音の気力が戻るまで呑気に一人で何曲も歌を歌っている。
日付が変わりそうになっても起き上がらない心音に苛立ちを覚え始めたのか携帯で電話を掛け、約三十分後に美海と元貴がやってきた。

「取り敢えずコイツ連れ出す」
「りょーかい菜々子」
菜々子の命令で心音は美海と元貴に担がれカラオケルームを出ると、近くの公園で心音は捨てられ、三人は姿を消した。
改めて心音の心は限界を達し、涙が溢れ出させながら発狂した。

日付が変わる寸前、居酒屋でバイトをしている愛がたまたま帰りに心音を発見した。
愛は何も事情を聞かず、優しく声をかける。
「取り敢えず帰ろっか」
心音の髪を撫でて優しく包まれる様な微笑みをかけていた。心音は自分よりも小柄な愛の胸元に抱きついて再度、涙した。
何十分も子供のように泣き喚く心音を彼は気が済むまで背中を摩って泣き止むのを待った。

帰り道、心音は愛にある事を頼んだ。
「今日見たこと、先輩たちには内緒にしてくれる?」と。
愛は空に浮かぶ雲のようないつでも風で飛ばされそうな雰囲気を醸し出している。
「うん、いいよ。」
と彼が答えた時、あまり深く物事を考えていないと心音は感じ取った。
「…ありがと」
野菜ジュースをストローで吸いながら歩く愛、すんっとした表情でただ心臓が動いているから生きているだけのように見える。心音は思った。
「愛は生きてて楽しい?」
心音がぼやくと愛は何故か笑いその笑顔を見せながら心音に言った。
「どうだろうね」と。

彼の生き甲斐は何だろう。
心音はまた彼の事を不思議に思ったが、
【もう、どうでもよかった】
知った所でもう意味が無いから、

「見つけてくれたのが愛で良かったよ」
心音は、愛の腕を家に帰るまでそう言ったあとずっと組んで歩いた。


その日以来、彼女は姿を消した。
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