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一章

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2XXX 4月14日 8時33分


「足…引っ掛けてないよね…?」


友里が心音に問いかけた時、蔑むような目で友里を見た。何も答えずただ凝視してくるだけだった。
何も答えてこない事はどうでもいい。
その態度が足を引っ掛けた事を物語っていて友里は多大な衝撃を受けていた。

友里は、脚をふらつかせながらも立ち上がり、担任の元まで休んでいた分の手紙を受け取りに行く。席に戻る時には心音を警戒しながら慎重に歩いた。彼女の席の横を通り過ぎようとした時、また突然友里の足首に紐が張って友里の両足が引っかかった。
友里は大胆に転倒し無数の手紙が教室にばら撒かれる。その際に顎を強く強打していた。意識が朦朧とし力が入りずらい。
 担任教師が呆れながら友里の元に近寄ろうとした。慌てて友里の足を引っ掛けさせた紐を直ぐに美海が巻き取った。
ちょっとしたトリックだった。美海とその右二つ隣に座る心音が協力し紐を張ったのだ。最初友里が転倒したのも心音が足を引っ掛けたのではなく同様の方法だった。

担任教師は心音が加担している事も知らずに、心音に友里を保健室まで連れていくように命じた。心音は静かに頷いて友里に肩を貸して後ろの扉から出ていこうとする。その扉の直ぐにいる副委員長が心音にボヤキを入れた。
「君はそんな事する人じゃない」
心音はふと副委員長に目をやるが気にせず廊下を出た。

廊下に出る二人、少しずつ意識を取り戻してきた友里が階段の前で心音を払って怒りをぶつけた。
「私がいない時に私を売ったわけ!?」
心音は黙って目を糸にし口をへの字に曲げたままで何も答えずじっと友里を見る。友里は構わず、左手を胸に当て右手を大袈裟に動かしながらも強く訴えかけた。
「私は助けてあげたじゃない。何も知らない知り合ったばっかの貴女を善意で!!」
心音の表情はほとんど変わらないが、眉がわずかに動く。だが、そんな時に友里は危うい関係に完全に亀裂を入れる事を言ってしまった。
「貴女の後ろの席になったのが一番のハズレだった!!貴女のせいで夢見た生活が台無しよ!」
心音は、一言「そう」と言うと友里に足音を立てないほど静かにゆっくりと近づいた。友里は緊張して唾液を飲み込む。心音はそっと友里の胸に両手を添えると突き飛ばした。


「……え?」
何が起きたのか一瞬分からなかったが瞬時に理解した。

(落とされた…)

身体が宙に浮いている。
どんどんと彼女との距離が遠のいて行くのが分かった。
自分の両手脚が視界に映る。

急速に落下していく感覚を味わった。
そして全身が弾かれ電撃が走るような一瞬の痛みと同時に意識を失った。


その後を心音が階段をゆっくりと降る。

「  知り合ったばっかの私を助けた?

   善意で?

   そもそも何も私の事を理解してなかったじゃない。

  寧ろ私は、知り合ったばかりの貴女に

  私の生きる希望を否定された。

  あの時、助けてくれた事は嬉しかったのに

  その嬉しさを踏みにじるような事をしたのは、

  ………どっちよ、、、。  」

両眼から零れ溢れる涙。

抑えようとしても堪えられない。

全身が疼くような悪寒に襲われ胸が痛く息が出来ないほど苦しくなった。

自信が選んだ選択も

彼女を裏切る行為も

自分の犯している罪を理解している。

私は臆病者だった。

希望も信じられない臆病者。

友里は最後の灯火だった。

けど、私は自分でその灯火を消したんだ。

心音は自ら階段を飛び降りて彼女も友里の隣に落下した。


年輩の叔母教師が二人を発見したのは早く、悲鳴を上げた。その声に教師や生徒達も集まってきた。その中には菜々子達の姿もあり心音がした事に顔を若干青ざめて見つめるばかりである。
幸い直ぐに救急車が駆けつけた事で二人は一命を取り留めた。
心音は気を失っていたが全身の打撲だけで済んでおり、一週間程の自宅安静で普段通りの生活を送れるようになっていた。
友里は頭と背中を強く打ったことで二日間ほど意識を失い眠ったままだった。意識が回復した後も入院生活を余儀なくされた。入院何度も何度も母がお見舞いに来ていた。意識が失っていた時は意識を取り戻すまで一日中病院に留まっていたようである。友里は後からその事を知ると涙を零しながら母に抱きついていた。母は愛おしそうに友里の髪を撫で抱きしめる。母の温もりが友里を痛めた心を癒した。

 あの日の友里の記憶は途切れ途切れだが、心音が突き落とされた時の事は鮮明に覚えていた。
落下していく時に見た彼女の表情は無でまるで悪魔に取り憑かれたかのような闇に満ちていたのだ。

(私は…これから一人だ)
関係は完全に閉ざされた。


時は流れ

2XXX年 4月21日 8時16分

 彼女らが階段から落下して一週間後
彼女らの出来事は完全な事故として扱われていた。心音が友里に肩を貸している時にバランスを崩し二人とも落下したと判断したのである。
心音もあの後、自ら階段から落ちたのはそれを狙っての事だった。

この日は心音が退院してから学校に復帰する日だった。
クラスメイト達もその事は担任教師から聞かされており、担任教師と共に心音は教室の中に入ってきた。
いつも通り自分の席に座る。チラッと菜々子と美海の方に視線を向けると二人は笑顔で答えてくれた。心音はホッとして右手で自分の胸に手を当てた。
そして、完全に自身への虐めは晴れたのだと実感した。

その日の昼、心音は菜々子と美海と共に食堂に行き平穏に昼食を楽しむ事ができた。
「マジでビビったし!あんた狂ってるっしょ」
「見直したよ!ウチら今日から友達ね!」
心音は嬉しかった。あの二人に認めて貰えたと友里を犠牲にして正解だとも考えた。
「うんっ!」
その笑顔は最悪だけど本物だった。


二日後、
昼休憩終わり後の理科室での研究授業前
班は三人から四人の自由グループで心音は一人浮いていた。でも、今の私なら菜々子達らが作っている三人グループに入れてくれるのでは無いかと考えが頭に過ぎる。
三人に声を掛けようとした時、副委員長が彼女の腕を掴んだ。
「僕ら三人だよ?君もどう?」
心音は言われるがままに菜々子と背を向け合わせる形で座った。

 研究中、菜々子達の会話が聞こえてくる。
「ねぇ菜々子、いい案思いついたんだよね」
「え、何?はよ聞かせろし」

所々、理科教師の授業内容の説明の声や副委員長が声を掛けてくる事で内容が気になっても上手く聞こえない。ただ、また何かを企もうとしているのが気になって心にモヤがかかる様な感覚を味わった。

「それなら純は金に困ってるしある程度の金渡せば動いてくれるっしょ?」
三人で顔を近づかせて真剣に話していた。声量の上限が激しく、聞かれては都合の悪い時だけ耳打ちをしているように思えた。本心から友達になれてたとはまだ思ってもいなかった。しかし、確信は無いがまた虐めを目論んでいて自信が対象なのではないかと不安になった。

意識が逸れており、いつの間にか実験は終わっていた。何がどうなって何の実験をしていたのかも覚えていない。集中できていないことを察してくれたのか今回の内容は全て副委員長が心音の分まで全てメモを取ってくれていた。
「はい、法月さん」
「鹿金くん、ありがとう」
しっかり両手を揃えて頭を下げた。

ふと思う。
彼と友達になった方がいいのかな。

でも、迷惑になるかも、
些細な事が引っかかってアクションを起こす勇気は出なかった。

理科の授業が終わり自身の教室に向かって一人鹿金にまとめてもらった紙を読みながら廊下を歩く心音、後ろから菜々子と心音が手を振りながら彼女の名を呼んで追ってきていた。
「先に戻るなら言えし」
「ところで明日空いてる!?」
心音は戸惑いながらも頷いた。
「カラオケ行くっしょ?」
「行くよね!」
またもや頷く。

彼女らの強引さ、心音も一年の時はしていたと懐かしさを感じた。

いや、違う。
この間、自分も友里にしていたことだと感じた。

何も知らない友里を利用して本来ありたい自分を演じて関わろうとしていたんだ。

「カラオケ、楽しみにしてる。誘ってくれてありがと!」
心音は彼女らに笑顔を振る舞った。

(今も心から笑えてるよね)

今は幸せなはずなのに、
何処か穴が空いている気分だった。
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