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人生何が起きるかわからない
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不審者がすぐそこに立っている。大きい……岡崎先輩よりも。
なんとなく外国人犯罪者を想起する。
それが泥棒なのか、強盗なのかわからないけど、どちらにしても日本人なら、剣術道場に押し入らないだろう。
なんでウチを選んだの?
大きな屋敷だから、金目のものがあると思ったの?
ドクンドクンと心臓が暴れ出す。
足が震える。
情けなく全身が震えちゃってるに違いない。
声が出ない……。
逃げるべきかと視線を動かして、神棚を見て、ハッとなった。
日本刀。
あれを盗まれて、それがこの後で誰かを傷付ける凶器に使われたりしたら……!
「だ、誰!!?」
勇気を振り絞って渾身の力で大声を出した。
相手も突然家人が出てきたことで、動揺してるに違いない。
私が情けなく震えたままなら勢いづかせてしまうけど、毅然と圧をかければ逃げてくれるかもしれない。
「ここは剣術道場なんですからね!!!誰!!?」
私は神棚方向に駆け寄ると、日本刀を手にした。
人影はまだ動かない。
外人でも、日本にいるなら分かるでしょう。これが恐ろしい凶器だということに!
「出て行って!!!」
余裕なんてない。
刀を手にした事で事態が好転したように見えたとしても、それは見せかけに過ぎない。
手にずっしりとした重みを感じる。
日本刀の重み。
自己防衛のために相手を殺せるのかという重み。
殺せない場合は自分が殺される。そんな場面である事の重み。
三重四重の重みが、全身に纏わりつく。
そして最悪な事に……人影が笑った。
正確には、逆光でよく見えていないから、ソイツが笑ったような気がして、背筋が凍った。
土足で道場に上がり、一歩一歩とゆっくりこっちに向かって歩き出す。
私はまったく動けず、逃げる事も出来ず、息をするのも忘れて、それをただ見ていて、そして気が付けば彼は目の前にいた。
異臭といっていいレベルの酷い匂いが鼻を衝く。
「ひ……」
彼の分厚くて大きな手が伸びてくる。
私は祖父の残してくれた日本刀を両手で抱くように握りしめながら、ただ泣いて震えていたと思う。
───どうして「思う」なのか。
それは今、見たこともないような粗末な小屋の、所々抜けていて向こうの空が見えているような天井を見ているから······です。
私は見知らぬ場所で、寝ている······固いベッドの上で、変なにおいがする汚いボロ布が掛けられている状態で、寝かされているのです······。
「え···?」
上体を起こし、体のあちこちを襲う痛みに顔をしかめた。
室内には嗅いだこともないような、へんな香りが漂っている。
「痛っ······」
頭も痛い。目の奥がズキンと拍動する。
道場で不審者に······記憶はそこで途絶える。
その先は思い出せず、次の場面はもうここに飛ぶ。
酷いことをされて······思い出したくないのかもしれない。
考えたくない。
起き上がった私の視線の下には、剥き出しの乳房。
裸にされていたのだ。
パッと頭を振り回すように視線を逸らす。
自分の身体を見るのも怖い。
ここから逃げないと!
でも刀を取り戻さないと!
「あ、おきてる!」
結構な至近距離から突然声が発せられて、ベッドの上で飛び上がる。
すぐそこの扉が開き、何か野菜スープのようなものを持った日本人のような、西洋人のような、なんだかよくわからない、でも素直そうな顔立ちの、亜麻色の髪の男の子が顔を覗かせていた。
その服装はこのボロい室内にピッタリとマッチしている。
あら可愛い。4つかな?5つかな?
なんて一拍呆けた後で正気に返り、ボロ布を抱き寄せて胸を隠した。
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
この子もしかしてあの不審者の子供?
暫しの間、男の子と視線を重ね合う。
彼はニッコリと微笑んだ。そして扉の外に顔を向け──。
「おねえちゃんがおきたよ!」
「あ!ちょっと!!」
馬鹿!あの男を呼ぶな!と大いに慌てて、ベッドから飛び出し、その子の口を塞ごうと──。
ゴトン!!
太腿の上を滑るように日本刀が床に落ちて、足の小指に直撃した。
「いっ······た!!」
涙目になりつつ、転げた刀を見る。
あれぇ?おじいちゃんの日本刀だ。
え?
奪われなかったの??
は???
私に乱暴して、刀と一緒に連れ去って、刀と一緒に寝かしつけたってコトぉ?
「大丈夫ですか······?」
蹲っていた私に投げかけられた遠慮がちな爽声に誘われて、顔を上げるとそこには······。
「大丈夫ですか。立てますか······?」
売れっ子超有名子役並みと言ってまったく差し支えない、物憂げな美少年がいた。
年の頃は11,2歳程だろうか。
長い睫毛を伏せがちに、やや頬を染めながら、私の肌を直視しないように努めて紳士的に振る舞っている。
至上最強クラスのデリカシーがそこにあった。
心配そうに私を覗き込んでいる、さっきの子と同じ亜麻色の髪。
二人が兄弟である事が容易に想像できた。
「あ······ダイジョウブです······」
刀の下に落ちていたボロ布をぐいぐいと引き上げて肌を守る。
私の準備が終わるのを待って、お兄さんが申し訳なさそうに口を開く。
「すいません……剣士様がお倒れになっていたので……弟と二人でここに運び入れてしまいました」
そして弟くんが私の傍らにピッタリと立って、身体に巻いたシーツを掴みながらにーっこりと笑った。
「ぼくがみつけたんだよ!」
なんとなく外国人犯罪者を想起する。
それが泥棒なのか、強盗なのかわからないけど、どちらにしても日本人なら、剣術道場に押し入らないだろう。
なんでウチを選んだの?
大きな屋敷だから、金目のものがあると思ったの?
ドクンドクンと心臓が暴れ出す。
足が震える。
情けなく全身が震えちゃってるに違いない。
声が出ない……。
逃げるべきかと視線を動かして、神棚を見て、ハッとなった。
日本刀。
あれを盗まれて、それがこの後で誰かを傷付ける凶器に使われたりしたら……!
「だ、誰!!?」
勇気を振り絞って渾身の力で大声を出した。
相手も突然家人が出てきたことで、動揺してるに違いない。
私が情けなく震えたままなら勢いづかせてしまうけど、毅然と圧をかければ逃げてくれるかもしれない。
「ここは剣術道場なんですからね!!!誰!!?」
私は神棚方向に駆け寄ると、日本刀を手にした。
人影はまだ動かない。
外人でも、日本にいるなら分かるでしょう。これが恐ろしい凶器だということに!
「出て行って!!!」
余裕なんてない。
刀を手にした事で事態が好転したように見えたとしても、それは見せかけに過ぎない。
手にずっしりとした重みを感じる。
日本刀の重み。
自己防衛のために相手を殺せるのかという重み。
殺せない場合は自分が殺される。そんな場面である事の重み。
三重四重の重みが、全身に纏わりつく。
そして最悪な事に……人影が笑った。
正確には、逆光でよく見えていないから、ソイツが笑ったような気がして、背筋が凍った。
土足で道場に上がり、一歩一歩とゆっくりこっちに向かって歩き出す。
私はまったく動けず、逃げる事も出来ず、息をするのも忘れて、それをただ見ていて、そして気が付けば彼は目の前にいた。
異臭といっていいレベルの酷い匂いが鼻を衝く。
「ひ……」
彼の分厚くて大きな手が伸びてくる。
私は祖父の残してくれた日本刀を両手で抱くように握りしめながら、ただ泣いて震えていたと思う。
───どうして「思う」なのか。
それは今、見たこともないような粗末な小屋の、所々抜けていて向こうの空が見えているような天井を見ているから······です。
私は見知らぬ場所で、寝ている······固いベッドの上で、変なにおいがする汚いボロ布が掛けられている状態で、寝かされているのです······。
「え···?」
上体を起こし、体のあちこちを襲う痛みに顔をしかめた。
室内には嗅いだこともないような、へんな香りが漂っている。
「痛っ······」
頭も痛い。目の奥がズキンと拍動する。
道場で不審者に······記憶はそこで途絶える。
その先は思い出せず、次の場面はもうここに飛ぶ。
酷いことをされて······思い出したくないのかもしれない。
考えたくない。
起き上がった私の視線の下には、剥き出しの乳房。
裸にされていたのだ。
パッと頭を振り回すように視線を逸らす。
自分の身体を見るのも怖い。
ここから逃げないと!
でも刀を取り戻さないと!
「あ、おきてる!」
結構な至近距離から突然声が発せられて、ベッドの上で飛び上がる。
すぐそこの扉が開き、何か野菜スープのようなものを持った日本人のような、西洋人のような、なんだかよくわからない、でも素直そうな顔立ちの、亜麻色の髪の男の子が顔を覗かせていた。
その服装はこのボロい室内にピッタリとマッチしている。
あら可愛い。4つかな?5つかな?
なんて一拍呆けた後で正気に返り、ボロ布を抱き寄せて胸を隠した。
「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
この子もしかしてあの不審者の子供?
暫しの間、男の子と視線を重ね合う。
彼はニッコリと微笑んだ。そして扉の外に顔を向け──。
「おねえちゃんがおきたよ!」
「あ!ちょっと!!」
馬鹿!あの男を呼ぶな!と大いに慌てて、ベッドから飛び出し、その子の口を塞ごうと──。
ゴトン!!
太腿の上を滑るように日本刀が床に落ちて、足の小指に直撃した。
「いっ······た!!」
涙目になりつつ、転げた刀を見る。
あれぇ?おじいちゃんの日本刀だ。
え?
奪われなかったの??
は???
私に乱暴して、刀と一緒に連れ去って、刀と一緒に寝かしつけたってコトぉ?
「大丈夫ですか······?」
蹲っていた私に投げかけられた遠慮がちな爽声に誘われて、顔を上げるとそこには······。
「大丈夫ですか。立てますか······?」
売れっ子超有名子役並みと言ってまったく差し支えない、物憂げな美少年がいた。
年の頃は11,2歳程だろうか。
長い睫毛を伏せがちに、やや頬を染めながら、私の肌を直視しないように努めて紳士的に振る舞っている。
至上最強クラスのデリカシーがそこにあった。
心配そうに私を覗き込んでいる、さっきの子と同じ亜麻色の髪。
二人が兄弟である事が容易に想像できた。
「あ······ダイジョウブです······」
刀の下に落ちていたボロ布をぐいぐいと引き上げて肌を守る。
私の準備が終わるのを待って、お兄さんが申し訳なさそうに口を開く。
「すいません……剣士様がお倒れになっていたので……弟と二人でここに運び入れてしまいました」
そして弟くんが私の傍らにピッタリと立って、身体に巻いたシーツを掴みながらにーっこりと笑った。
「ぼくがみつけたんだよ!」
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