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45 そういうもの
しおりを挟む年が明けた。
冬季休暇は後半に入った。
自宅のリビングルームでだらけながら、エマは最新号の漫画雑誌を開いていた。
なんと「魔法の天使☆アンジェリック」が、いきなり最終回を迎えた。
しかもちょっと、いやどえらい展開だった。
アンジェリックとウィッチ達は、旧態依然の魔法女学校との闘いを制し、見事自由と平和と正しい秩序を勝ち取った。
長い戦いの最中、彼女達は数名の仲間を失いつつ、ろくでなしの教師陣をデスサイズで葬送した。彼らの行き先が天国か地獄かは結局謎だ。所謂「最後の審判」にかかわる描写となる為カット。西側世界の宗教観ではデリケートな問題なのだ。
平和と引き換えに必要な犠牲が払われた。相手も彼女達を殺しに来たから反撃はやむなし。
その皺寄せは、戦いの後に生じた。
学校は教師不足に陥った。ほとんど葬送しちゃったから……。
アンジェリックは荒廃した学校に立ち、仲間達を振り返った。
「私達が先生になってこれから入学する小さいウィッチ達を導いて行こう!」
戦い抜いた少女達が「おー」と拳を突き上げた。背景が夕陽で、中々感動的なシーンに仕上がっていた。
やり遂げたねえ、とエマは内心に拍手を送った。
生徒だった彼女達が正しい教師となっておしまい――ではなかった。
最後の最後に学校のトップ、校長が決まった。アンジェリックではない。
「ウィッチの皆さん、ミーと契約してテッペン取りましょうミー」
エマは瞬き、察し、半笑いになった。
つまりはこういう事だ。最終的に黒猫ミーがテッペンを取る為の戦いが繰り広げられていたのだ。
黒猫の野望に踊らされていた事にアンジェリックもウィッチ達も気付いていない。
ウィッチのテッペンとなったアンジェリックの契約猫だから「校長に相応しい」と誰もが納得していて、一人として「いやなんで猫が校長? 訳が分からないよ」と尤もな疑問を挟まない。
黒猫ミーが「ミミミミミ」と含み笑いをして話は終わる。変な笑い方だ。
エマは「この猫がこれから人間社会を陰で牛耳っていくんだな」と予感しつつ雑誌を閉じた。
午後から婚約者と出掛ける。それまで暇だ。
今朝の新聞紙を開く。エマがだらけている内に世間では事件が起こっていた。
アンリエットの彼氏だか何だか知らない男が逮捕された。
しかも証拠隠滅を計った男によって家が放火され、子爵邸は炭になった。
「いくらなんでも酷過ぎるだろ……」とエマはさすがに同情した。
アンリエットが共犯とは思えない。犯罪をやるには度胸も知恵も足りない。利用されただけだろう。
「だからって見舞うとかせんし」
友達じゃない。アンリエットには取り巻きの男子が四人もいるから大丈夫だ。
欠伸が出た。試験勉強はぼちぼちでいい。前期の範囲は後期ほど広くない。
二つの試験を終えれば、すぐ卒業となる。そうなれば出国し、学校ともクレールともお別れになる。とはいえ永遠の別れでなし。
「卒業まで沢山遊べばいいし」
お互い婚約者がいるから頻繁な女子会は無理だろうけれど。
クレールが、「退学」の事実を知ったのは休暇明けの学校だった。
アンリエットが王都学園を去った。犯罪に巻き込まれた挙句家が全焼し、通学が困難になったと言う。
退学により、既に支払った分の学費が半分近く返還されたという話なので、再建費用に充てられるのではないだろうか。
「あの子、大変な事になってたのね」
火事後、子爵家の状況について一々追いかけていなかったから、クレールは見事に何も知らなかった。
コルネイユは知っていながら敢えて黙していた。最早クレールには関係のない家の事情であり、心を砕く義理もなしと考えたに違いない。
実際、クレールに何が出来る訳でもなかった。
「気にしなくていいんでない?」とエマは頷いた。
「困ってないでしょ、別に」
「それは、見てない私には分からないわ」
「見なくても分かるよ。あのね、アンリエットは元々平民なんだよ。邸宅暮らし必須の人民でないの」
「そういうもの?」
「そういうもの。元々の生活レベルに戻るどころか、火事の後でもそこらの平民より良い暮らしをしてるんでないの」
「そういうもの?」
「そういうもの。――そうそう。あの子の家と割と近所の子が言ってたけど、敷地はまだ焼け野原のままなのに、ちゃんと一軒家が建ってて親子三人で暮らしてるんだってよ」
「……一軒家? ――それ心当たりがあるわ」
「そうなん? まあとにかく連中は五体満足で暮らしてるってワケよ」
「……そうみたいね。離れが役に立ってるのね……」
「生きてて良かったねー、以上」
「……そうね」
この後、更にクレールが聞いたところによると、アンリエットのもとを友人の男子四人がそれぞれ訪ねたと言う。
三人は「騙したな」とか何とかアンリエットを責め立てて帰ったらしい。気持ちは分からないでもないが、暇過ぎるし狭量過ぎる。聞いている方が恥ずかしくなるお子様の男子達だ。
けれど最後に訪ねた一人だけは、アンリエットを責めなかった。
年明けから間もなく。
男爵家の三男、モーリスが広々とした敷地の隅に建つ小さな家の戸を叩いた。
ドアの隙間から顔を覗かせたアンリエットに、彼は告げた。
「困った事ない?」
「……分からないわ。色々有り過ぎて、いえ無さ過ぎて」
「そうだろうね。あのね、学校を辞めるといいよ」
「……そしたら私、本当に何も無くなっちゃうじゃない。これまで費やしたお金も努力も全部無駄になるわ」
「辞めれば学費が戻るから再建の足しになると思う」
「……そうなの?」
「全額じゃないけどね。領地からの税収があると言っても周囲に全然被害が及んでないワケじゃないからそっちに使うだろう?」
「……表の道路と近所の外壁がダメになっちゃったからうちが弁償しろって」
「税収じゃ足りないよね。でも大きな借金をするくらいなら、この一等地を売るのが良いと思うよ」
「……土地がなきゃ家が建てられないじゃない」
「領地に戻ればいいよ。学校辞めるなら王都に留まる必要もないだろう?」
「……私が貰う筈の邸宅だったのに、諦めて田舎で暮らせって?」
「うん。他に手はないと思う」
アンリエットは泣き出した。
モーリスは静かにアンリエットを見て、告げた。
「僕、卒業したら君に会いに行くよ」
「……何の為に」
「僕が料理得意なの、知ってるだろう?」
「……家庭科の時、何度も助けてもらったわ」
「キッチンカーって知ってる? それ、やろうと思って。君も一緒にどう?」
「……私と?」
「うん。車輪付きのお店だから土地なんて要らないし、どこにでも行けるよ。王都にも戻って来られるよ、いつか必ずね」
アンリエットは、再び泣き出した。
「どうして私なんか誘うの……。私、平民よ」
モーリスは苦笑した。
「僕だって平民だよ、もうすぐね。それに君から目を離すのは心配だからさ」
アンリエットは涙が止まらなかった。
嬉しいのか悲しいのか、訳が分からなかった。
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