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49 本性
宴たけなわのパーティー会場にサプライズがあった。
遅れて来たウジェーヌが城下の子供達を引き連れて現れた。即席舞台に子供達が二列に並び、ウジェーヌは指揮者然と整列を前にする。
彼女のタクトが振られるや王室管弦楽団の伴奏と、子供達の大合唱が始まった。
バースデーを祝う歌声に王妃は感激し、ゲスト達は「素晴らしい」と絶賛する。
フレシネ公爵領から招かれた子供達が、小さな合唱団をぽかんと眺めていた。
自分達と幾らも年の変わらないそのメンバーらは、郊外の孤児院と養育院に通う子供で構成されている。
「すげえ……」
「うん、上手……」
姿勢良くのびのびと歌う、統制の取れた集団。ただ招かれ、ご馳走を飲み食いしているだけの自分達とは違う。
彼らは皆、家庭環境に恵まれているとは言えない。なのに恵まれている自分達よりも遥かに先を歩いている。ちゃんとしている。
子供の成長を促すには、同じ子供が「出来ている」姿を見せるのが手っ取り早い。
キアラは、子供達を見詰める子供達を見て、苦笑した。
ウジェーヌがサプライズをする事は聞かされていた。養育院で何やら特別な指導をしているとも。
――効果絶大ね。
城下の子供達を招待すると決めたのは王妃らしい。フレシネ公爵領の子供達を招待するだけでは不公平だ、という意見に対抗した。
それを知ったウジェーヌは合唱団の結成を閃き、今日に間に合う音楽指導をするよう第三王子妃らに依頼した。
――さすが、教えるのに慣れていらっしゃるわ。
だから急なオーダーにも応えられた。
キアラの腕の中でスノードロップが首を伸ばし、合唱団を眺めている。「みんな上手だね?」とキアラに問いかけられると、小首を傾げる。「音楽は分からないの」という反応だ。キアラは問いを改めた。
「綺麗な声だね?」
これには「みゃ」と肯定が返された。
キアラは笑み、仔豹を上下に揺すってあやした。
キアラの傍らにアベルが歩み寄った。
「大したものだな」
「ええ。王室の取り組みの成果が今まさに披露されています」
「君も、先ほどは子供らを見事に交通整理していた」
「私じゃなくスノードロップの実力ですが、お褒め頂き光栄です」
誇らしげに告げたキアラの胸元で、スノードロップも「みゃ」と胸を張った。
アベルは軽く噴き出し、片手を伸ばした。仔豹の小さな頭部に大きな掌を被せ、ポンと叩く。
「全く可笑しな奴だ」
スノードロップは、自分を可愛がる手を「みゃみゃ」と喜ぶ。
彼の優しい手つきと笑みに、キアラは少しばかり見惚れた。
一曲目の合唱が終わり、盛大な拍手が沸く。
歓喜と感心に包まれる会場に、ずんずんと踏み込んでいく人影があった。
仔豹で両手が塞がっているキアラに、アベルが「飲み物は?」と訊ねる。
キアラは折角の申し出に甘える事にした。
「ええと、では――」
テーブルを振り返ったキアラの視界に、クロディーヌが立ち塞がった。
瞬いたキアラを正面にし、彼女は悲痛な面持ちで口火を切った。
「キアラ様は酷いです」
「え?」
「子供達を洗脳しています」
「え、――ええ?」
仰天したキアラの前に、アベルが出た。
「いきなりどうした、クロディーヌ嬢?」
「キアラ様は、カフェで出すパンやお菓子の製作を養育院の子供達に依頼していると聞きました」
「ああ。私も最近知った。それが――」
「子供達をあらゆる業務に使っているそうです。児童労働です。許される事ではありません」
「――――ん? 児童労働?」
アベルは困惑し、キアラはぽかんとした。スノードロップは欠伸をしている。
「はいはいはいはい」と手を叩きながら介入してきたのは、王太子妃だ。
「バカじゃないならバカを言わないでくださいね。バカならバカを言うのは仕方ないですけどね」
「王太子妃殿下」とクロディーヌは抗議の声で言った。
「殿下には関係のないお話ですので、どうぞ――」
「聞き捨てならない言葉を王の庭で使ったのはどこのどいつですか。児童労働? バカを言ってるんじゃありませんよ。どこの山賊の国の話と混同してるんですか貴女は。やっぱりバカなんです?」
「な、――私は、遊びたい盛りの子供達を労働力として使うのはどうかと」
「強制した上でタダ働きさせるのならば許されませんとも。しかし本人に労働意欲があり、稼ぎたいと言っているのならば禁止する方が不親切です。別に子供でも大人と同じ環境で働いていいんですよ。勿論、無理のない範囲でね」
「ですが――」
王太子妃は、クロディーヌを冷めた目で見据えた。
「お前は一々浅く、薄っぺらいな。ならばお前が私財を投げ打ち、世界中の憐れな子供らを全て受け入れ、養ってみるがよいわ」
「そんな話をしているのでは――」
「そんな話をしておるのだ、視野狭窄めが。もっと世界を見ろ。世界を知れ」
「――――」
クロディーヌよりも、キアラの方が絶句していたと思う。
軍人の家系と聞いていた王太子妃の迫力は、凄過ぎた。
――この方が、次の王妃。
頼もしいやら恐ろしいやらだ。
同じ感想なのか、アベルも閉口して見える。
「妃殿下」と彼は嘆息まじりに切り出した。
「相変わらず妃殿下の素の言動はカミソリよりも鋭く、強烈ですね」
アベルは王太子妃の本性を知っていたようだ。
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