仕事が出来れば、場所はどこでも

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21 不思議のまま

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ドラゴンには無敵の防御機能が備わっていると言う。
ルネは勝手にドラゴン・シールドと呼ぶ事にする。

アランの話は続く。むしろ本題はここからだった。

「今回の件は貴女のお手柄になります」
「特に何もしてませんが、お役に立てたなら良かったです」
「何であれ成果には報酬が与えられてしかるべきです。何でも希望をどうぞ」

ルネは苦笑した。

「既に充分なお金を頂戴してますから結構です」
「……あれは食費です」
「現状の設備を以てすれば余裕で五年は暮らせますよ。なんなら食費ではなく前払いの報酬という事にされてください」
「…………」

アランは妙な顔つきになっていた。怒り出しそうな無表情とでも言うのか、機嫌が悪い事だけは分かる。
まあ領主のメンツがあるよね、と察したルネは少し頭を捻った。

「その報酬というのは金銭である必要はない、という事でよろしいですか?」

アランの碧い瞳が僅かに開いた。

「そう、ですね。希望なら、何でも……」

彼の目はどこか輝いて見える。体もやや前のめり気味で、聞き入っている風だ。
ルネは首を傾げた。逆の反応なら分かる。ここは体を後ろに引いて「何を要求されるか分かったものじゃない」と警戒する場面ではないのだろうか。
まあいいか、と括ってルネは希望を口にする。ドラゴン達を横目にして、

「彼らが普段どこにいるのか、教えてもらう事は出来ますか?」

アランは、目と口をぽかんと開いた。
惚けている。不思議な事に否定的な感情は見られない。
ルネは首を傾げつつも続けた。

「軍事機密は重々承知しています。公開可能な範囲で、ぜひ」

アランの片手が上がり、ルネの言葉を制する。
彼はどこか疲れたような嘆息を零し、ルネを見た。

「貴女の希望はあまりにも――確かに、何でもと言ったのは他ならぬ私ですがそれにしても」
「やっぱり無理ですよね」
「逆です。城内では秘密でも何でもない情報なので、全く報酬にならないと思っただけです」

ルネが惚ける番だった。

「機密では?」
「ないです」

言い切ったアランは、徐にコーヒーカップを空にすると席から腰を浮かせた。

「案内しましょう。丁度そいつらの休憩時間は終わりです」

途端、ノワールとブルーが細長い首を左右に振り「違う違う」と訴える。
それらをさらりと流して、アランはルネに薄い笑みを向けた。

「そいつらの飛び去る先を追っていれば、貴女も楽に気付いた筈です」

好奇心を擽られてルネは席を立った。
ドラゴン達には申し訳ない。



塔を訪れるようになった六体は「城ドラゴン」というユニット名を持つ。
アランの指示で渋々塔を出た黒と青の個体は、本来の配置場所に戻る。
飛び去る彼らを早足で追っていたルネは、城の屋根から突き出た尖塔や煙突に視界を阻まれてあえなく二体を見失った。
「こちらへ」とアランが呼び、城内に入る。ルネはモンブランと共にアランの後を追った。因みに軍人兄妹は留守番だ。二人共ドラゴン達の「大体の居場所は知っている」らしい。
それがどういう事なのか、ルネはアランに続いてエレベーターに乗り、最上階から更に階段を上った先の屋上で理解した。
屋上には空中庭園という緑のスペースが広がり、城下を一望出来る白い塔が建っていた。彫刻で飾られた瀟洒な建造物だ。
飾りの中に見覚えのある石像が六つあった。着色されていなくても判別出来る。

「こちらはノワール様、あちらはブルー様にそっくりです」
「本人達ですからね」

さらりとアランが告げ、ルネは惚けるしかなかった。
待機中、ドラゴンは石像になっている。
そうやって日々静かに、外敵から城を守護しているのだ。



空中庭園から城下を見下ろす。
広大な庭にはドラゴンの石像が点在し、小ドラゴンの塔から最も近い庭園の中央には金ぴかドラゴン像が鎮座している。

「まさかあちらの方も――」

ルネの疑惑に、アランがまたさらり。

「あれはただの彫刻です」
「あ、フェイクでしたか。いえ、フェイクも何もないんですけど」

言いながらルネは閃いた。

「出来の良い彫像は、欺瞞として効果抜群ですね」
「気付きましたか。その通りです」

戦力が測れない。城だけでなく街中に大小のドラゴン像が溢れている。
仮に侵入出来た敵国のスパイがいたとしても、現地調査は捗らないだろう。通行人に「あれは像か否か」と訊ねたって現地民ですら滅多にドラゴンと遭遇しないのだ。「さあねえ」と言われて終いになる。
すっかり感心したルネは、ふと片足に凭れかかる一体に目を落とした。

「モンブラン様は状態が変わらないですね?」
「寝ていた間は石像だった筈ですが、そいつはのらですからね」
「のらだともう石像にはなれないんですか?」
「なる必要がない、ですね。のらが城や私に仕える義理はありません。辺境伯軍のユニットに加わりたいならば拒む理由はありませんが、今のところそいつに従軍の意思は感じられません」

アランの説明で、ルネの疑問は返って深まった。

「閣下、差し支えなければ教えてください」
「どうぞ」
「ドラゴン様方は元は全て、のらなんですか?」

アランは少し考える間を置いて口を開いた。

「始祖は、そうですね」

不思議でならないルネは、不思議のままだった。
ドラゴンとは、家畜や愛玩動物みたく人間が幼獣から大切に飼育するものと思っていた。領内にファーム的な施設があると思い込んでいた。

――でも違った。モンブラン様は人知れず生まれて大きくなってた。

ドラゴンに雌雄が無いとは周知の事実だが、この分では卵生ですらないのでは。
つくづく不思議な生き物だ。
声もなく唸るルネを、アランの横顔の中の眼がじっと見下ろしていた。





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