仕事が出来れば、場所はどこでも

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炭素の同素体の塊を両の手で受け取ったルネは、瞳を輝かせた。

「これが辺境伯領原産のレア鉱石――ドラゴン・ダイヤモンドですか」

感激ぶりを目の当たりにし、アランは心持ち胸を張った。

「そうです」

やはり自分のチョイスは正しかった、と満足する。
ルネは未加工の鉱石をまじまじと見て、アランを仰いだ。

「本当によろしいのですか? こんな貴重な物を頂戴してしまって」
「構いません」
「光栄です。では有難く王都の鉱物学研究室の方に送らせて頂きますね」
「構いま、――送る?」
「先生方もお喜びになる事でしょう。辺境伯領外にはほぼ出回っていない希少な鉱石ですから、学術研究の役に立つこと間違いなしです」
「――、――」

アランの脳内に言葉が湧いた。

「貴女の手元に置かないんですか?」
「まさか研究室に寄贈するのではないですよね?」
「いずれは手元に戻しますよね?」

何度か口を開け閉めした後、アランはこう告げた。

「――、お好きに」

貰った物をどう扱うかは受け取った者の自由だ。
しかしアランの胸中に、先日と同じつまらなさが過った。彼女から「窓辺に飾ります」とか「一生大事にします」とか言われると思っていた。
思っていたのと違う。肩が落ちた。



午後三時。
アマンディーヌは、小ドラゴンの塔を訪ねた。
パーラー(応接間)でコーヒーブレイクを満喫する。今日の一杯も素晴らしい。
付き添いは二年目のメイドだけで、ステファーヌは城に残った。
動き回るドラゴンに未だ慣れないのだろう。

――ルネの事は、どうかしらね。

最近、鈍いアマンディーヌにも分かって来た。ステファーヌには極端なところがある、と思う。過剰に外部をシャットアウトする。
娘時代から全幅の信頼を寄せている親友だが、ルネに関する態度は間違いだった。
ルネの為人を知った今なら分かる。
ルネはステファーヌが言うような失礼な娘ではなかった。王都出身だの罪人だのの前情報の所為で偏見を持ち過ぎていた。
というか、罪人ではないという噂が軍部を中心に広がっている。出所はアベルと思われる。アランの数少ない理解者の一人で気が利く。波風を立てないよう静かに、じわじわと真相を浸透させている感じだ。

ルネへの偏見は仕方がなかった。辺境で暮らす大半の住民が外の世界をよく知らない。特に城の者は、余所者と言うだけでルネに良くない印象を抱いた。
ステファーヌがルネの事を殊更悪く告げていたのも偏見からで、悪意とは違う。
二年目のメイドから「……最初に頂いたお見舞いカードの破棄を夫人に命じられたのは私です」と耳打ちされたけれど、害を成す人物をアマンディーヌに近付けまいと計らったのだ。
過保護から、過剰反応をした。
城内の空気は変わりつつある。アランの変化が最も著しい。息子が誰かに直接何かを贈るなんて初めての事だ。

――ちゃんと自分で気付いてるかしら。

想念したアマンディーヌは、テーブルで向かい合うルネに苦笑した。

「石ころなんかあげて、おバカさんよね」

不意の一言に、ルネが瞬いた。彼女は彼女で贈り物を研究材料として他所に提供してしまった。
アランが悪い。きちんとリボンをかけた箱に入れ、ジュエリーとして贈っていればそんな事にはならなかった。
「おバカさん」と再び口にしながら、アマンディーヌはコーヒーカップを唇に当てて風味と香りを楽しんだ。
カップをソーサーに戻し、ところで、とルネを見やる。

「貴女のヘアスタイルっていつも凝ってて可愛いわよね。毎朝自分でヘアメイクしてるんでしょ。器用ね」

ルネは大抵後頭部でくるくる捩じった短いポニーテールをしている。癖毛を上手く活用していて動きがあり、アイテム使いが無くても洒落ている。ゴムが見えないのが良い。
「実は簡単なんですよ」とルネは軽くテール部分を揺らして笑った。

「アイテムを少し足すだけでバリエーションが幾つも作れます」

ルネの金髪は肩より少し長い程度。なのにアレンジが多い。
アマンディーヌなんて腰まであるストレートヘアをハーフアップにしてばかりで、アップにするのはイベント時だけだ。
ルネが何やら考え込む顔をしている。瞬いたアマンディーヌに彼女は切り出した。

「既に三時を回ってますけれど、今から閣下にお目通り可能か否かお分かりになりますか? それとも明日にすべきでしょうか?」

アマンディーヌはテーブルに身を乗り出した。
逆にルネに願い出る。

「どうか会ってあげて頂戴」

答えになっているようでいてなっていないアマンディーヌの言葉に、ルネは「え? あ、はい?」と目を白黒させる。
顔を合わせて言葉を交わさない事には男女関係は進展しない。
ルネのお陰で、アマンディーヌはちょっと母性に目覚めたかもしれない。
アランより自分の為だけれど。

――アランはおバカさんだから、わたくしが加勢しないと。

ルネにはぜひアランを気に入って欲しい。距離を縮めて欲しい。
ただし、ルネの「塔暮らし」はアランの失敗なので自力でなんとかさせる。



ルネが面会を申し出た五分後。
執務室の扉がノックされ、アランはバルコニー窓から振り返った。

「どうぞ」

扉が開き「失礼します」の声と共にルネが入って来た。先の丸い靴を履いた足元には相変わらずドラゴンが纏わり付いている。
ルネを部屋に通したアベルが壁際に下がり、姿勢を正す。しかししゃちほこばった顔の下がどうも笑っているようで、アランは気に入らない。
退室を命じるか否かが頭を過ったものの、ルネが口を開く方が早かった。

「お忙しい中お時間を裂いて頂き有難うございます、閣下」
「いえ」

アランは、不意に思い出した。
以前ルネに「私は忙しいんです。貴女は暇でしょう」と言った事があった。
それを前提とした「お忙しい中」発言かと思うと、バツが悪い。

「幸い、今はそれほど忙しくありません」

アランが付け足した途端、アベルの口元が緩んだ。
やはり退室を命じるべきだった、とアランは忌々しく思った。





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