24 / 60
24 購読
しおりを挟む「それで用件は」と切り出したアランに、ルネが言った。
「要望と言いますか提案と言いますか、辺境伯領内で王都の出版物を取り扱って頂けないでしょうか」
アランも、壁際のアベルも瞬いて「?」と大書した。
意味を理解出来ない二人に、ルネの説明が齎された。
「先日、アマンディーヌ様のメイドさん達のお仕事ぶりを間近にさせて頂き、彼女達の情報不足を感じました。流行のヘアメイクはともかく、土台部分に関わる知識は持っておくに越した事はないと考えます」
「……そうなんですか」
「現に、アマンディーヌ様の不調は看過出来ないレベルまで悪化していました。体の正しいメンテナンス知識があればもっと軽症で済んだ筈です」
やっとアランにも彼女の言いたい事が読めてきた。
「つまり外から教材を取り入れるべきだと言っているんですね?」
「仰る通りです。つきましてはアマンディーヌ様を含めた女性陣に、婦人雑誌の購読をご提案致します。一冊の中にあらゆる情報が詰まっていて、とても重宝します。掲載されているファッションもコスメもフードも全てサイエンステクノロジーの結晶です。流行からは国内外の情勢を読み取る事も出来ます」
熱心なルネのセールストークに、アランは双眸を細めた。
彼女が言うならそうなのだろう。当該雑誌に記事を載せていた張本人だ。
婦人雑誌だからと情報を疑っても侮ってもいない。王都の物だからと忌避したりもしない。
「いいでしょう」
ルネが目を丸めた。
思い込みをしていたであろう彼女に、アランは言った。
「王都の書籍の流入を私が禁じていると思っていましたか?」
「そこまでは。初日に問題なく私物を持ち込めましたし」
辺境伯領に来た際、書籍の検閲が無かった件を彼女は言っている。
「ただ、領主の許可なく外の物を入荷するのはNGだろうなと思ってました。外来種の件があったばかりでしたから」
「食品や医薬品の類には厳しい制限を設けていますが、雑貨はかなり緩いですよ」
「そうだったんですね」
取り越し苦労に彼女は安堵の息を吐き、改めてアランを見た。
「ではお城と、街のリブレリへ入荷をご依頼するという事でよろしいでしょうか」
アランが鷹揚に頷く寸前、壁際から声が発した。
「私の方で手配しておきますよ、ルネ様」
ルネと白いドラゴンと共に、アランはアベルを振り向いた。
軍帽の下で笑みを浮かべているアベルに、ルネが「ではお手数ですが――」と頭を下げている。ドラゴンが真似て首を上下させる。
アランは、細めた双眸を鋭くした。
――誰が話に入っていいと言いましたか、お前。アベル。
アランの不機嫌にアベルは知らぬふりで、慇懃に敬礼して見せる。
やはり退室を命じるべきだった、とアランは再び忌々しく思った。
翌週には、領都最大のリブレリの店頭に王都の婦人雑誌が並べ置かれた。
店主によると、目を引く雑誌を「あら素敵」と手に取る婦人が散見されており、売れ行きは悪くないと言う。
ドラゴン城内でもアマンディーヌと、主にサロンワーク担当メイド達の手に雑誌が行き渡った。皆関心事とあって熱心に読み込んでいる。
特に今月号の特集記事は、リンパマッサージだったから尚の事。
「ヤバい。私ずっと逆の事してた……」
「もっと水飲まなきゃ……」
認識を改めていくメイド達を陰ながら眺めて、ルネは一人頷いた。
「美容の意識と健康の意識は同じですからね」
足元でモンブランも頷いた。
美容も健康もドラゴンの関心外だ。無頓着でもそれらを維持出来る特別な体を、ドラゴン達は持っている。
モンブランと共に塔に引き返す道すがら、ルネは古城を振り仰いだ。
城を飾る美しい彫刻達が地上を見下ろしている。広大な庭の中央では金ぴかドラゴンの像が威圧するかのようにして鎮座している。
ルネは、綺麗だな、と呟いた。思い返せば街中で見かける像も綺麗だった。
「人々の頑張りの賜物ですね」
語り掛けるルネに、モンブランは首を傾げた。
ルネは足を止めてモンブランの前にしゃがみ込んだ。小さい頭部を掌で包むようにして撫でる。
「全ての彫像が綺麗にお手入れされてるのは、ドラゴン様方が人々からリスペクトされているという何よりの証です」
さして話に興味がないようで、モンブランはルネの手に頬を寄せて目を閉じる。
うとうとしている顔にルネは笑った。四つ足で立ったまま眠ってしまいそうだ。
徐に、背後から声が発した。
「――像を手入れするのは欺瞞の一環です」
ルネと、パチッと目を開いたモンブランは揃って声を振り返る。
植樹の裏からアランが現れ、一人と一体に歩み寄った。
瞬いたルネは「そうか」と閃いて立ち上がった。
「本物のドラゴンなら汚れないし劣化もしないですよね」
アランは軽く頷き、庭の中央に目をやる。
同じものを目に入れて、ルネは改めて納得した。金ぴかドラゴン像には蜘蛛の巣はおろか、鳥の糞一つ落ちていない。
「全ての彫像の清潔を維持するのは、本物と偽物の区別をさせない為でもあるワケですね」
「その通り。尤も、屋外にある年代物の彫刻はかなり前から全てレプリカです」
「日光や風雨による劣化が激し過ぎて、修復が追い付かないからですね?」
「そうです。本物の歴史遺産は城内博物館で管理中です。見たければ案内します」
意外な申し出にルネは驚いた。
「余所者に見せて大丈夫なんですか?」
博物館所蔵イコール偽物のドラゴンだ。戦力把握の大ヒントになる。
念を押すルネの直視から、アランは顔を逸らした。
「……別に、構いません。それに貴女にはまた借りが出来ましたし」
「何もしてませんが?」
「……例の雑誌です。侍医が感心していました。これは予防医療だと」
プロのお墨付きを得られたのは良かった、とルネは一応納得した。
539
あなたにおすすめの小説
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
婚約破棄イベントが壊れた!
秋月一花
恋愛
学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。
――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!
……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない!
「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」
おかしい、おかしい。絶対におかしい!
国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん!
2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!
永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手
ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。
だがしかし
フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。
貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。
【完結】勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい ~婚約者契約は円満に終了しました
九條葉月
恋愛
【ジャンル1位獲得!】
【HOTランキング1位獲得!】
とある公爵との契約(婚約者関係)を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。
順調に準備を進めていると、契約を終えたはずの公爵様や王太子殿下たちがなぜか次々とお店にやって来て――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる