仕事が出来れば、場所はどこでも

C t R

文字の大きさ
33 / 60

33 大公家

しおりを挟む



ドラゴン城の夕べ。
エレベーターから降りたところのアランに、メイドのポリーヌが駆け寄った。
アランはじろりと相手を睨む。

――ディナーならば既に断ったでしょう。

性懲りもなくステファーヌから招待された。
だがルネ不在の食卓など出席しても得るものが無い。楽しめない。
それで欠席の口実を実現すべく、城下のレストランに出掛ける事にしたのだ。
アランに完璧なお辞儀を披露したポリーヌは「どうかご無礼をお許しください」と声を潜めた。

「閣下のお耳に入れたい事があり参りました」
「……何です」

アランは、特に急いではいない。とはいえ、あまり時間に遅れては店の者や待ち合わせ相手の迷惑になる。
待ち合わせ相手とはピションだ。開発中のシステムについて意見を求める。
急かす空気をまるで読んでいないようで、ポリーヌは勿体を付けるように首で左右を確認する。空気の読めなさは、ステファーヌに類似する。
やっとアランを仰いだ顔が、切羽詰まった声で切り出した。

「実はルネ様の事でして」

いい話ではなさそうだ、とアランは予想した。
本人不在を見計らっての告げ口とは頂けない。死人への悪口と同じ理屈で、反論不可の状況というのはフェアではない。

「続けなさい」
「はい。朝のウォーキング中にルネ様と世間話をしたのですが、その時聞いた彼女の言葉がずっと引っ掛かっているのです。アマンディーヌ様とステファーヌ小母様にはまだ報告していません。特にアマンディーヌ様がショックを受けられるのではと慮った次第です」
「前置きは結構です」
「はい。閣下、ルネ様はマリアージュ・ブランを狙っています」

アランは、一瞬何を言われたのか分からなかった。
それはルネでなく当初アランが目指していた着地点だった。筈だった。

――違う。

今は違う。アランの思考はマリアージュ・ブランから離れて久しい。
しかしルネの方は、アランの当初の目的地を向いている。

――当然だろう。

初日から彼女を突き放してきた自分の態度を考えれば、彼女がマリアージュ・ブランの発想に至るのは至極当然のこと。
いやアランとて分かっていたではないか。ルネはアランに興味がない。マリアージュ・ブランで一向に構わないのだ。
改めて突き付けられた。それがショックだった。繰り返しになるが「バカ丸出し」だ。
深い嘆息が漏れた。アランが悪い。母も「貴方が悪い」と言っていた。深く考えなかった。母は危惧していたのだ。あまりにもアランが悠長に構えているから。
アランの嘆息をどう捉えたのか、ポリーヌが殊更頷いて見せた。

「心中お察し致しますわ、閣下。仮にも公爵の婚約者にあるまじき姿勢ですもの」
「…………」
「ご安心ください、閣下。私どもの一族が大公家を支えます。私も微力ながら国の為、閣下の為、大公家存続の為、この身を捧げる所存です」

言葉の意味を悟り、アランは細めた双眸でポリーヌを見下ろした。
苛立ちから口を突く。

「お前は何を言っているんです」
「え?」
「彼女の後釜として婚約者ポストに収まる気ですか」
「まさか! 私ごとき、とんでもありません」
「ええ。お前ごとき、とんでもありませんよ」
「閣下、ですが引き続きルネ様の姿勢が変わらなければ千五百年続く公位が危ぶまれます。その点、名家の血を引く私なら適任です。覚悟も出来ております」

アランは内心「ああ、はいはい」と前置きした。

「庶子を産んでやると言っている訳ですね」
「甘んじてお受けします」
「甘んじなくて結構」

叩き落とすように告げ、邪魔なポリーヌを避けて馬車に向かう。
「閣下!」と呼ぶ声に首で振り向いた。

「不愉快ですよ、お前。小物の分際で厚かましい」
「――――」

ポリーヌは見事に固まった。
苛立ちのままアランは早足を再開した。武器として腹を使う女など気持ちが悪い。時代錯誤で品が無い。女の癖に女を舐めている。
別にアランに子が無くとも公位は引き継いで行けるのだ。アベルを含め、有望株がいる。
現公爵家の祖も大公の弟であって直系ではなかった。生まれた順番よりも才能が優先された結果で、彼は始祖以来となる真のドラゴン・マスターだった。

大公時代、ステファーヌの一族は腹の武器によって名家の地位を得ている。
再び一族から公妃を輩出したいのだろう。一族の悲願という訳だ。
しかしステファーヌ本人は前公爵の夫人になれなかったし、産んだのも息子で妃にはなれない。

――それで彼女は私の母役に徹していた。

息子より息子扱いした。嘗て昔日の妃がしていたように公爵の母の顔をして城を仕切り、表舞台に立った。――実母アマンディーヌを城の奥に追いやって。
今やステファーヌが公爵の母でない事は、城の誰の目にも明らか。
だから次なる一手として親戚の娘をドラゴン公の寝床に送り込もうとした。
侮蔑に値する。





しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

【完結】公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります!

永倉伊織
恋愛
ヘンリー・フォルティエス公爵の二女として生まれたフィオナ(14歳)は、両親が決めた相手 ルーファウス・ブルーム公爵と結婚する事になった。 だがしかし フィオナには『昭和・平成・令和』の3つの時代を生きた日本人だった前世の記憶があった。 貴族の両親に逆らっても良い事が無いと悟ったフィオナは、前世の記憶を駆使してルーファウスとの幸せな結婚生活を模索する。

【完結】勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい ~婚約者契約は円満に終了しました

九條葉月
恋愛
【ジャンル1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約(婚約者関係)を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 順調に準備を進めていると、契約を終えたはずの公爵様や王太子殿下たちがなぜか次々とお店にやって来て――!?

処理中です...