仕事が出来れば、場所はどこでも

C t R

文字の大きさ
32 / 60

32 口添え

しおりを挟む



最優秀作品賞は、二つの候補のいずれかになるとルネは予想していた。
ところが本来一つの栄誉を、ドナティエンは「二作品に差を付けられない」とした。他の審査員達も彼に賛同して運営本部に申し出た結果、受賞は二つとなった。
一つは、地元作家による花籠。
もう一つは西に隣接する子爵領からのエントリー作品だ。陶芸家は子爵令息で、外国の美術学校を出ていると言い、皿に施された絵付けはダイナミックだった。焼き物は独学らしい。
因みに彼の地元は王都に繋がる路線の終点で、嘗てルネもお世話になった。

受賞二作品が発表され、展示室は拍手に包まれた。
そこに「不正よ!」とクレームが飛んで来た。リボン聖杯の作り手、ジャンヌだ。

「アナタ達、隣の子爵から賄賂貰ったんでしょう!」

ドナティエンも審査員達も揃って白けた。室内に驚く顔が少ない事からして、予測の範疇だったと思われる。
「お嬢様」と声を上げたのは、子爵令息だった。

「僕の作品を貶めるのは全く構いませんが、他の方への無礼はお控えください」
「なあにい? 軍隊に落とされて外国に逃げた面汚しの癖して、偉そうに説教しないでくださるう?」

爆弾が落とされ、一同は固まった。
子爵令息が入隊審査を不合格となったのは、先天的な病があったからだ。つまり本人には一切非が無い。
嘘だろ、と言う複数の目がジャンヌを凝視する。かく言うルネも絶句した。あまりにも幼稚で、礼も品もなく、デビュー後の令嬢とは思えない。
癇癪ならまだ可愛かった。
ドナティエンが深い嘆息を吐いた。

「貴女は、人様にあれこれ言えるほど偉くないですね」
「はあ? アナタこそ賄賂貰った分際で何よ」

ジャンヌは世間知らずにありがちな、強気だった。
ドナティエンはとうとう渋面になった。

「名誉棄損で訴えますよ、貴女ね」
「やればあ? お父様が黙ってないんだから」
「しかし裁判、面倒臭いですね……」

半ば独り言た彼は、不意にルネを見た。
瞬くルネを見ながら彼は告げた。

「或いはドラゴン公にお縋りしますかね」

ジャンヌもルネも、誰も彼もが唖然とした。



終点の地、子爵領はドラゴン辺境伯領と良好な関係を結んでいる。
辺境伯領内で調達出来ない物品は、ほぼ全て子爵領経由で入ってくる。世界三大ハムもその一つ。最近では婦人雑誌も加わった。
天候や情勢悪化による品薄、遅延の場合は、辺境伯領への出荷分が優先される。
終点を子爵領の領都に置くよう国に口添えしたのは先々代ドラゴン公だ。レールが敷設される前、子爵領はかなり弱小で豊かとは言えなかった。
交通で得た富の大恩があるのだ。
実のところ国内全ての領地がドラゴン辺境伯領に借りがある。大公国が併合された直後、王国民は兵役義務から解放された。
最強の盾と矛を手にした王国は、全国民男子を戦地に狩り出す必要がなくなった。当時のドラゴン大公の英断があったとされている。
元は他国である大公家が王家から一目置かれているのはこの為だが、それを面白くないと感じる貴族は少なからずいる。主に地方の、高位の貴族達。辺境伯領への「田舎者」コールは僻みに近い。
南東の隣人であるムニエ伯爵家は、コールに参加しない沈黙スタイルながら親戚に高位貴族が多い為、どっちつかずというイメージがある。
どっちつかずの伯爵家の令嬢が、日々大恩を返している子爵家の令息に無礼な口を利いている。

「ドラゴン公はどちらの味方をされると思いますかね? ジャンヌお嬢様」

ドナティエンの言いたい事を察してジャンヌもルネも、誰も彼もが黙った。
コンテストは静かに幕を下ろした。



空騒ぎの後、ホテルでの晩餐会は予定通り開かれた。
ドナティエンの隣に設けられた席に向かい、ルネは円卓を共にする他のゲストらに一礼する。
ジャンヌも、伯爵家の面々も見当たらない。彼女は父伯爵に叱られているらしい。
着席したルネを見て「おや」とドナティエンが頬を緩めた。

「見覚えのある素敵なドレスがお似合いですね、ルネ嬢」

ルネは苦笑した。現在ブランドを率いるクリエイティブ・ディレクターが、彼の教え子なのは偶々だ。プレゼントなので狙ってもいない。
「彼は学生時代からキモノが大好きでね」とドナティエンは懐かしんだ。

「いやはや開国してくれて良かったですよね、極東さん。お陰様で東西共に科学も芸術も進化しましたね。開国交渉ではドラゴン公も口添えされたと聞きますね」
「初耳です。国交があったなんて」

不意にルネは思い出した。以前、エレーヌは本で石の庭を見たと言っていた。
極東の書籍が、遠く離れた陸の孤島に出回っている。不思議だった。
「私も詳しくないですけどね」とドナティエンは続けた。

「あちらさんも持ってるから、らしいですよね」
「ドラゴンの生息地なんですか? 小さな島国が?」
「総面積は辺境伯領より広いですよね。あちらさんでは龍と呼びますね。見た目も大蛇っぽくてね。同じ生き物に分類されたのは割と最近ですね。同じ魔法を使いますからね」

ルネは惚けた。風土によってドラゴンは異なる進化を遂げた――人と同じく。
ドラゴンの分布図は、よく分かっていない。分からないまま大半が滅んだ。海峡越しの隣国、紅茶大帝国にも嘗てドラゴンがいたとされるが既に絶滅している。
彼らはどこかから来て、隣人として人と過ごし、どこかへ去っていった。
ダイナソーなどと違い亡骸がない為、滅んだという言い方は正しくない。
消えたのだ。

「どこへ……」

呟いたルネに、ドナティエンは「さあてね」と肩を竦めた。





しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

【完結】2人の幼馴染が私を離しません

ユユ
恋愛
優しい幼馴染とは婚約出来なかった。 私に残されたのは幼馴染という立場だけ。 代わりにもう一人の幼馴染は 相変わらず私のことが大嫌いなくせに 付き纏う。 八つ当たりからの大人の関係に 困惑する令嬢の話。 * 作り話です * 大人の表現は最小限 * 執筆中のため、文字数は定まらず  念のため長編設定にします * 暇つぶしにどうぞ

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。 「さっさと死んでくれ」 フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。 愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。 嘘つきな貴方なんて、要らない。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 11/27HOTランキング5位ありがとうございます。 ※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。 1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。 完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。

全てがどうでもよくなった私は理想郷へ旅立つ

霜月満月
恋愛
「ああ、やっぱりあなたはまたそうして私を責めるのね‥‥」 ジュリア・タリアヴィーニは公爵令嬢。そして、婚約者は自国の王太子。 でも私が殿下と結婚することはない。だってあなたは他の人を選んだのだもの。『前』と変わらず━━ これはとある能力を持つ一族に産まれた令嬢と自身に掛けられた封印に縛られる王太子の遠回りな物語。 ※なろう様で投稿済みの作品です。 ※画像はジュリアの婚約披露の時のイメージです。

あの日々に戻りたくない!自称聖女の義妹に夫と娘を奪われた妃は、死に戻り聖女の力で復讐を果たす

青の雀
恋愛
公爵令嬢スカーレット・ロッテンマイヤーには、前世の記憶がある。 幼いときに政略で結ばれたジェミニ王国の第1王子ロベルトと20歳の時に結婚した。 スカーレットには、7歳年下の義妹リリアーヌがいるが、なぜかリリアーヌは、ロッテンマイヤー家に来た時から聖女様を名乗っている。 ロッテンマイヤーは、代々異能を輩出している家柄で、元は王族 物語は、前世、夫に殺されたところから始まる。

処理中です...