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56 のらのら
しおりを挟む東に出向いていたカナリーが、ドラゴン城に帰還した。
空中庭園に集合した兄貴軍団ことカラーパレットは、最小で最新なのに最強のドラゴンを取り囲んでその健闘を称えた。
「おチビさん、お疲れさん」
「楽しめたみたいだね」
「お土産とかあるのかな。――無いか」
「さてコーヒーを貰おう」
「なんか眠くなってきた」
「あの雲、綺麗だねえ」
「明日も晴れるよ」
「モンブランだよ」
途中から雑談になっていった声を掻き分けて、カナリーは真の兄と言えるモンブランのもとへてってけと足を向けた。
「ルネルネ。なでなで」
「うんうん。行こう」
モンブランは、ひょいと首を下げて促した。
カナリーは、ぴょいっとモンブランの頭頂に飛び乗る。ここが定位置だ。
のそのそと下りの階段に向かう白と黄の二体に、他もわらわらと続いた。
「コーヒーブレイクですな」
「全員一斉に休憩時間とか初めてだね。今日の我が王は寛大だ」
「とっても機嫌良いの。半日ぶりにルネに会えたからさ」
「へ? 半日って、瞬きみたいな時間だよ?」
「我々の感覚ではね。でも人間は百年も生きられないからね」
「なら半日は大きいね。大事だね。――へ? 百年も生きられないの?」
「今頃気付いたの君……」
ルージュが、前を歩く白い頭の上のカナリーを見た。
「カナリー、結局我が王にプラズマを貸与しなかったんだね?」
カナリーは黄色い頭をくるっと反転させた。
「のらのら、のらのら」
「そうだね、領内でのらは君らだけだ」
「別に良いんでないの」とヴェール(緑)が呑気に頷いた。
「マスター配下になっちゃうとさ、万一公位継承者が全滅しちゃった場合に道連れでこの世とバイバイしなきゃじゃない」
そうやって他家のドラゴン・ファミリー達は地上から姿を消した。
それを、二コラとかいうテロリストどもは狙っていた。
「賢いよねえ」とこちらも呑気にヴィオレが頷いた。
「人間の力でドラゴンに勝つの、無理だもんねえ」
「マザー達を狙うにしても、星のコアにいるんじゃあねえ」
「なんかこっそりとマザーを探してる人達がいるらしいよ」
「そうなの? 誰か教えてあげたら?」
「何の為に?」
「何の為って、――何の為?」
首を捻る若い個体達に、ノワールが嘆息した。
「知ったところで人間ではコアまで辿り着けまい。今後、手すきのマザー達のお眼鏡に適う人間の一族が出て来るかどうかも怪しいものだ」
「ありゃりゃ」とブルーが前足で首を掻いた。
「ならもうドラゴン・マスターが増える事ってないのかな」
「残すは我が王と極東さんだけだね」
「ルネならなれる。本人もやる気十分」
「ルネ本人はなれないよ」
「ルネの子供の子供のそのまた子供? でもルネは我が王のお嫁さんになるから」
「結局、ドラゴン・マスターの家系は増えないの」
ありゃりゃ……と言う声を聴きながらカナリーはモンブランの頭頂で揺れていた。
階段を下った扉の先で、ルネが待っていた。
「カナリーちゃま、お帰り!」
「ルネルネ、ルネルネ」
「モンブランだよ」
ルネは園芸用の手袋を嵌めた両手でモンブランの頭からカナリーを掬い上げた。
ルネの頬がカナリーの頬に触れる。
ふにっと柔らかくてあったかい感触に、カナリーはうとうとした。
「ルネルネ、ねむねむ」
「やっと叶った、手のりカナリーちゃま……!」
「モンブランだよ」
主張する白い兄に気付いたルネはしゃがみ、片腕でモンブランの首を抱き寄せた。
「これがホントの、両手に花……」
歓喜するルネの背後で、アランが呆れ顔をしていた。
「私の帰還時は普通の出迎えだったのに……」とか何とかぼやいているけれど、カナリーにはよく分からないので無視した。
東の地方貴族が二つ、消滅した。
高位貴族による反乱の報は国内を震撼させた。とはいえ、国政に打撃を与えるような事はなかった。消えたのは所詮地方貴族だ。代えは利く。
中枢を震撼させたのは、ドラゴン辺境伯による破壊パフォーマンスだった。
「特殊弾頭を秘密工場ごとショコラみたく溶かしたらしい」
「人外だな……」
中央貴族の一部が、王家に苦言を呈した。
「ドラゴン公を好きにさせていては王国離脱、いや乗っ取りもあり得るのでは」
王太子は笑みを浮かべた。
「この三百年、一度でも辺境が反旗を翻した事があったか?」
「いやそれは、時勢を見計らっておったのでは」
「そなたらの家が今日までのほほんと続いておるのは誰のお陰だ?」
「いやそれは、当家の努力の賜物で」
「そなたらが腹が痛いだの何だの言って行くのを拒んだ戦場に代わりに行ってくれたのは誰だ? 王家への忠誠を誰よりも示しておるのは誰だ? うん?」
「いや、……」
「あのな、そなたらの忠誠心こそ私は疑っておるのだぞ」
青い顔が並ぶ。
王太子は微笑み続けた。
「私は近々王となる。今回私のやり方を見て分かったと思うが、高位貴族だろうが何だろうが腐っておる根であれば容赦なく切り捨てる、それが私のポリシーだ。そなたらは、間もなく玉座に就くこの私に腐っておらんと証明せねばならんのだ。直近の実績を見るに、他を詮索する暇があるとは思えんのだがな?」
青い顔は揃って「は、ははー」と床を向いた。
王太子は内心「やれやれ」だった。
辺境伯領の反乱は有り得ない。
領土を侵害しない限り、彼らは反撃しない。
領土の拡大にも彼らは興味が無い。だから「持ち主不在になった東の領土をくれてやろうか」と持ち掛けた王太子に、アランは「結構です」と即答した。
「もう土地は不要です」
手を広げるメリットがない、と王太子の耳には聞こえた。
ドラゴンにはテリトリーという名の制限があるのだ。恐らく。
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