仕事が出来れば、場所はどこでも

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東の辺境に出向いたアランは、封鎖された秘密の兵器工場に踏み込んだ。
ワインセラーよろしく鋼鉄製の砲弾が三発、棚に並んでいる。弾頭に相当マズいものが仕込まれている事は、伴ってきたドラゴンが警戒する様からも分かる。

「――まあ、どれほど高精度の武器であろうと発射台にセット出来ない以上、鉛筆型をした単なる鉄の塊です」

これらの持ち主は、王太子率いる王国軍が捕らえた。目障りな寒冷地に一撃くれてやる筈が「国家反逆罪」で逮捕とは間抜け過ぎて笑える。
秘密兵器の処分は、引き受けてやる。
超高温のドラゴン・プラズマを食らって生き残れる毒も菌も無い。雑草よりしぶとい魔物ですら絶滅した。

「ああ、これも魔物でしたね」

数十年前、永久凍土で休眠状態になっていた魔物が偶々出土した。
といっても化石みたいなもので、エネルギーたる魔力が切れていたから、死んだも同然の代物だった。
それで出土国である北の大国は「現存する唯一の魔物!」などと謳って客を集め、博物館で呑気に展示していた。
それからクーデターが勃発し、火事のどさくさで紛失した。焼失した、と表向きには発表されていた。
そうでなければ困った事になる。魔物の紛失だ。それ自体は攻撃意思を喪失していても、拾った人間もそうとは限らない。あれこれ弄り回せば何かしらの兵器として活用出来る。

「案の定でしたね」

言い値で買ったバカがここにいた。まさかの国内。恥も恥だ。

「ではやりましょう」

アランは肩に引っ掛けたジャケットをパッと落とした。
コットン素材の白シャツ一枚なら、プラズマの翼が繊維をすり抜けて展開出来る。ジャケットの生地とは相性が悪いのか燃えてしまう。上半身裸になっては、一部の連中から大喜びされてしまうのでシャツ一枚でもあった方が良い。
白銀色のプラズマが両翼を形成し、アランを重力から解放する。
アランの飛翔と同時に、同行者、最小のカナリーもプラズマをチャージした。
カナリアイエローのプラズマが小さな体から発せられる。

「燃やす燃やす」
「塵も残さず燃やしなさい。周囲は私が張っておきます」

単身上空に向かったアランは足元の工場を見下ろすと、翼で大気を攪拌しつつ白銀色のツイスターを作り出した。
それは内に向かって空気を吸い込む気流を生み、四角い工場を囲み込む。これから生じる土煙などから周辺一帯を保護する役割を果たすのだ。
工場内ではカナリーの顎が上下に開かれたところだった。拳ほどのカナリアイエローの火球が宙に浮かんだ次の瞬間、鉄の塊に向かってドシンと撃ち出された。
着弾時、外部にほとんど音は漏れ出なかった。
アランのツイスターが防音の役割も果たした。
超高温を食らった秘密兵器が、ショコラよろしく溶けた傍から蒸発していく。
やはり、とアランは小さなドラゴンに感心して見せた。

「お前の魔力が最大ですね」

カナリーには凄まじいパワーが秘められていた。
ルネの予想「蝋燭みたいな火をポッと灯す」は大ハズレだ。
ドラゴンの戦闘力ランキングは、年齢もサイズも関係無い。純粋に各個体の保有可能な魔力の容量で決まる。

最強のカナリーだが未だ従軍していない。故にシンクロもしていない。マスター配下とするには、一度以上の「徴収」を行う必要がある。

シンクロしているからと言って各個体のマスターという事でもない。現にルネは、いち個体とシンクロ「され」中の普通の娘だ。
また彼女はカナリーに対して何も「分けて」いない。「狙ってやるのは違う」と言っていた。どの道、意図的な行為ではシンクロに至らない。だからこそ奇跡と呼ぶのだ。
尤も奇跡などルネには必要ない。彼女は充分ドラゴン達と信頼関係を築いている。
今回、カナリーは「お仕事お仕事」と言って自らアランについて来た。

「お仕事お仕事。ルネルネ。なでなで」

いい仕事をして活躍し、彼女に褒められたかったのだ。
アランも人の事は言えない。
アランはカナリーから徴収していない。その証拠にアランのプラズマはカナリアイエローではない。ドラゴンのボディカラーとプラズマのカラーは必ず揃っているので、徴収すれば各個体のカラーで出力される。

アランが使用するプラズマは、白銀色だ。
これと同色の個体は領内に「見当たらない」。
白銀色のドラゴンは確実にいる。ただ、人の視覚では捉えられない。

カラーパレットという呼び名も欺瞞の一環である。対外的に見えている個体が全戦力だと思わせている。
実際には見えている以上の戦力がある。ドラゴン・アーム(魂)と呼ばれる、不可視の個体だ。
ドラゴン・マスターだけが白銀色として視覚出来る。そしてこの存在こそが、真実マスターにプラズマを提供している個体となる。
カラーパレットから徴収する事など、ほぼ皆無と言っていい。
仮に領内のカラーパレット配置図が露見したところで、痛手にはならないのだ。
事あるごとに心配していたルネには、このほどネタ晴らしをした。
彼女は「酷過ぎる」と半ば喚いた。

「私、見れないじゃないですか。ドラゴンのゴースト……」

人間とて人間のゴーストを見られないだろう。いるかどうかはともかく。
悔やむ彼女を見て、アランは呆れと安堵で笑ってしまった。
彼女に怒られるよりも恐れられるのではと想像していた。
恐れられる事を恐れていた。とんだ杞憂だった。

「さすが私のルネです」
「何の話ですか? それより、私も今からドラゴン・マスターを目指したくなってきました」
「マスターに至るプロセスは以前話した通りです。どう頑張っても貴女が生きている内はなれません」
「スキップする禁断の魔法とか……」
「ないです。マザーも言ってます。諦めろと」
「マザー……マザーすら見れませんよ、私」
「私にも見えません。声のような思念を時折キャッチするだけです。物心が付き、マスターの称号を得た瞬間からね」
「楽しそうですね。自慢は結構です」
「そんな可笑しな事を言うのは貴女だけですよ、ルネ」

想念の間に、足元のツイスター内でエネルギーが収束を始めている。
間もなく有害物質を完全に焼き尽くす。
白っぽい筒に入ったカナリアイエローのプラズマを見下ろし、アランは想起した。

「……これ、この前ルネと食べたルレ(ロールケーキ)に似てますね」

切り分ける前のルレだ。
三分後。脅威が消え、ルレも消滅した。





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