彼女は思い出せない

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06 プレゼント

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アシルは、朝からプレゼントを求めて城下を彷徨っていた。
ノープランだ。

「やべえ。マジでなんも思い付かねえ……」

プレゼント自体をした事がないのに、無茶な提案に乗ってしまった。
アレクサンドルの勝ちしかない勝負など勝負ではない。

「くそ。まんまと乗せられた」

ヒントを求め、亡き第二王子アントワーヌとの会話を思い出してみる。

「――今任地から帰った。アシルに土産があるぞ。なんと魔物の触手の干物だ。どうだ、気色悪かろう。はっは」

これは女子が要らんやつだ。当時十歳だったアシルも「くそ要らねえ……」と瓶詰の土産を焼却処分にした。
アイディアが一つも浮かばず、アシルは途方に暮れた。

「こうなったらどっかの森でデカいクワガタでも捕ってくるか」

それも女子が要らんやつだ。
幸い、森に繰り出す前に助け舟と遭遇した。以前、同じ艦に乗務した若き士官が通り沿いのカフェテラスからアシルを見付け、声を掛けてくれた。
同席したアシルが相談を持ち掛けると、彼は言った。

「殿下、マネーは潤沢ですか?」
「そこは問題ねえ。王子の予算ってやつ、あんま使ってねえんだ。自分で買う私物なんざ精々本とか模型くらいだからな」
「それ国民が喜ぶ発言です」
「そもそも物欲がねえ」
「それも国民が喜ぶ発言です」

国民を喜ばせたところで、プライベートの士官は悩める王子に切り出した。

「国産に拘りとかあります?」
「いや? 特には」
「実は自分の姉は南の隣国で美術講師をしてるんですが、レンタル工房で麦わら帽子とかも制作してるんですよ。種類豊富で現地では結構人気だったりします」
「麦わら帽子か」

アシルはデジレの帽子姿を想像した。いい。
確かに、ハイブランドに行けば何かしら女子ウケする品物はあるのだろう。大ハズレはない。だからこそアレクサンドルも、その安全策で来る可能性が高い。
安全策を取った挙句に被ったら嫌過ぎる。しかし外国で無名アーティストが手掛けた物ならば丸被りはない。

「お前の姉貴、紹介してくれ」
「お望みのままに。一点ものなのでお安くはないですよ」
「俺は色々持ってないが金だけはあるんだぜ」
「殿下は持ってる方だと、自分は思いますけどね」

お気遣いをどうも、だ。
オーダーから半月後、アシルのもとにミントグリーンの麦わら帽子が届けられた。
デザインの良し悪しは分からなくても、特殊加工の形状と鮮やかなカラーリングに高度なテクノロジーが感じ取れ、素人目にも一級品なのは理解出来た。世の中は早いスピードで進化し、これまで無かった物がどんどん生み出されている。

「あとは、デジレが気に入るかどうか……」

決戦は来週。もう緊張して来た。



結果から言うと、アシルが勝利した。

アシルとアレクサンドルのプレゼントに、更に別の二つをプラスして「どれが一番好き?」とデジレに問うたらしい。匿名形式というやつだ。
四つのプレゼントを吟味したデジレは「どれも素敵ですが、どうしても一番を決めるのであればこちらです」と麦わら帽子を手に取ったと言う。
侍従から結果を聞かされた際、アシルは「ふん。当然だ」と不敵に笑んだ。
内心では「うおおお姉貴いいい感謝しかねえええ今後ともよろしく頼むぜえええ」と喚いていた。
一頻り喚いた後、意気揚々とパーヴォの池へ向かった。
畔で落ち合ったデジレに「あの洒落た帽子は俺からのプレゼントなんだぞ」と誇らし気にネタバレをすると、彼女は碧い瞳を煌めかせた。

「そう、でしたか。アシル王子殿下、光栄過ぎて言葉もございません」
「この俺の実力をとくと思い知ったか」
「はい。本当に有難うございます。頂戴したお帽子は一生大切に致します」
「う、お、おう」

称えられる事に慣れていないアシルはどもった。
誇らしさが照れ臭さにシフトしそうなので本題に入る。

「――で、アレクサンドル兄上は当日都合が付かなくなった。しょうがねえからお前のエスコート役は俺が引き受けてやるよ」

方便ながら丸きり嘘でもない。実際アレクサンドルは忙しい。
デジレは、これまで見た事がないほど明るい笑みを浮かべた。

「とても嬉しいです、殿下」

輝くような彼女の笑顔が眩しく、アシルはまた「う、お、おう」とどもった。

見事デビュタントのエスコート役をゲットしたので、デジレのドレスやジュエリーの費用もアシルが負担する事になった。色々持ってなくても金だけはあって本当に良かった。
申し出た際、デジレの父スールト伯爵は「ああ、左様で。ではお世話になります」と素っ気ないコメントを返した。
落ち零れの第三王子ごときに興味が無いのは当然にしても、娘の晴れ舞台に関する事なのに反応が薄過ぎる。
無関心なのかもしれない。いつまでも王太子を射止められない次女への興味が薄れている。
最年少で城に上がったデジレだが、案外地味で目立っていない。オールラウンダーという感じで何でもそつなくこなす代わりに、彼女の亡き母みたく突出した才能や個性を持たない。いや充分優秀なのだけれど。
「期待されていた割にはあんまり……」という評価だけを切り取ってみれば、アシルとデジレは似ていると言えなくもない。

――まあ親なんぞ知るか、だよな、デジレ。

かくいうアシルこそ、両親への関心が薄い。





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