彼女は思い出せない

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11 南極

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「初回」を上回る衝撃というのは中々起こらない。
二発目以降のパンチは、どうしても最初の破壊力に劣って見える。驚きが少ない。
シリーズ物の小説とか歌劇とかでも「ワン」より「ツー」の方が衝撃だったと言える作品はほんの一握りだろう。

だから建国の王は偉大なのだ。
どんなに小さくても最初に国を興した者が一番大変で度胸があり、新しい。

新しい奴、面白い奴、変な奴にミーティアは惹かれる。
既に力だけの存在となり、実体を持たない自分達には何も出来ないから、出来る奴を求める。同期して応援する。

「待っているよ、ニンゲン諸兄」

間もなく、南極で眠るこのミーティアの前にファイアヘッドの青年が現れる。



デジレの葬儀後も、アシルは長々と喪に服し続けた。
城内の者達は、不気味なほど静かになった第三王子の変化に気付きつつも揃って放置した。下手に刺激を与えて暴れられては堪らないのだ。

アシルは一人部屋に籠り、両腕にホワイト系のドレスとミントグリーンの麦わら帽子を抱いて過ごしていた。
失った彼女との思い出に浸る時間を経て、遂に閃いた。

「――失ったのなら取り戻せばいい」

諦めなければ道は開ける。

アシルの次の行動は、誰にも読めなかったに違いない。
完全無欠のアレクサンドルですら異母弟から予想外の申告を受け、仰天した。

「――結婚、するとぬかしたか、そなた今?」
「ああ結婚する。さっさと承認してくれ」

国王と王太子の承認をすんなり得て、アシルは結婚した。
死者との婚姻など認められないので無論、生者とだ。
デジレではない妻を娶った。
その後も、アシルの奇行は続いた。



大聖堂での簡素な挙式を終えるやアシルは単身、旅に出た。
挙式と言っても紙切れにサインしただけで諸々のプログラムはすっ飛ばした。
花嫁は憤慨していたが、アシルにはどうでも良かった。
周囲の困惑も花嫁も置き去りにして、国を後にした。本来はハネムーンに充てられていた期間を全て一人で消化する。
北方大陸を出て海を渡り、南方大陸に入った。広大な砂漠を縦断して丘を登って下り、赤道を踏み越えた。
ひたすら南下した。船も鉄道も馬車も使わない。自力で馬を操るか歩く。
早い移動手段ではダメなのだ。見落とすし、聞き逃す。
集落に立ち寄っては、アシルは現地民らに問うて回った。

「ミーティアを見なかったか? そういう話を、死んだじいさんやばあさんから聞いた事はないか?」

天から流れ落ちる奇跡の情報を探していた。
北半球ではほぼ出尽くしていたから、探すなら南しかないと踏んでいた。
南端の岬から程近い村に到達した時、村長という老爺が耳より情報を齎した。

「三百年くらい前に、南の水平線に流れ星が落ちてったらしいよ」
「南極か」
「多分そう。定期便とか無いよ」
「問題ない。適当に船買って自分で操縦する」

村長に言った通り、アシルは適当に買った船を操り南極大陸を目指した。
援軍無しの遠征など初めてだった。ツイていない事に、船で二泊の距離は暴風圏となっていた。嵐を抜けた先に青白い大地を見付けても、まだ終わりではない。
幸い、上陸時は吹雪いていなかった。それでも南極の空気は血が凍るほど冷たく、痛かった。呼吸した傍から体温が奪われていく。
アシルは、黙々と氷を踏み進む足を動かし続けた。
見慣れぬ侵入者の通行を、エンペラーペンギンどもの「なになに?」という呑気な顔が遠目にしていた。

ペンギンのコロニーから充分に距離を取ったところで魔法のプラズマを使った。コートがあっても生身ではさすがに死ぬので暖を取らせてもらう。
するとパーヴォの気配に反応したかのように、氷の丘の上から赤い光が放たれた。
自ら居場所を教えている。こっちへ来いと言っている。
全ミーティア共通なのは、太陽系で唯一、人間だけが持つスピリットへの強い関心と感心だ。
三百年前に落ちて来たばかりのミーティアに意志を示し、同期させる。
アシルは、自分を呼ぶ光源に向かって駆け出した。



南極のミーティアことフェニックスは、挨拶も無く飛び込んで来た青年の思考だの何だのを読み取り、愉快で仕方がなかった。

「なんか途轍もないバカが来た」

バカは好きだ。面白いから。ここで死なせるのは惜しい。
もっとバカをやる姿を見物したい。見届けたい。

「やって見せておくれ。やれるもんならね」

人に力を貸すだけの存在に過ぎないミーティアだが、個々に力の差があり好き嫌いがある。
フェニックスはアシルを気に入った。彼がもし他のミーティアと遭遇していたら、高確率で死んでいた。
彼のファイアヘッドも気に入った。フェニックスのプラズマと似た色味だ。
一旦同期すれば、フェニックスはアシルの人生に縛られる。
ウィナーとなった彼が死ぬと死ぬ――事はない。こちとら生命ではない。

彼が自然死以外で死亡した場合、天に還り、星に戻る。
彼が決戦時に死亡した場合、同期先が勝者に移動する。――決戦とは互いにプラズマを用いた勝負のみをさす。
彼が通常の戦死や暗殺死を遂げた場合も自然死ではない為、星に戻る。
要するに、他ウィナーからミーティアを奪取するには決戦で勝利するよりない。
尚、決戦時は双方にスピリットが求められる。戦意ゼロのウィナーを打ち負かしても暗殺扱いになるので要注意。
暗殺は、星から貴重な資源を消滅させる行為に等しい。広い視野で見れば、勝者敗者共に益がない訳だ。

例外が、相続である。
彼が二度以上の決戦に勝利するか、もしくは一定水準以上の新国を興すかし、且つ嫡子を持つ場合に行われる。つまり初回ウィナーは建国の王に匹敵する実績で、次世代への相続権を得る。
このノルマ、初回だけでいい。現存する王家同様、二世以降は自動的に第一子へとスーパーユーザー権限が継承され、文字通り遺産相続される。
同期した青年の脳に、フェニックスは語りかけた。

「将来持つ子供の為に頑張るかね、君?」

可視モードの巨大バード姿をお披露目しても、青年ことアシルは驚かなかった。
冷めた目で炎の鳥を仰ぐ。

「今はやるべき事をやる。それだけだ」
「いいね。どんどんやろう」

フェニックスの力を以てすれば上手くいく。多分。





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