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12 燃え盛る炎
しおりを挟むフェニックスを獲得したアシルは、帰国の途に就いた。
南方大陸東沿岸部沿いを北上する。行きが西沿いだったから別ルートを選んだ。
途中、魔物の巣食う森に差し掛かった。
付近一帯が魔物の発する禍々しい瘴気に包まれていた。瘴気、というのは極東のワ皇国語に由来する。一番相応しいという理由から世界共通ワードとなった。
ワ皇国産のワードは大陸中に溢れている。魔術、もその一つだったりする。西側の人間からすると「術」という響きがいかにもワ風で、クールに聞こえる。忍術とか幻術とかと同じ、男子好みの語感なのだ。
長らく先進国では魔力制御に用いるスペルやフォーマットを「ソーサリー(魔術)システム」と総称してきたが、近代化が進んだ現在では「ワーロック(魔法使い)システム」に変更され、単にワーロックと呼ぶ。
近代兵器は漏れなくワーロック搭載で、ハイテク化している。
「――だが魔物どもは雑草みたく絶滅せん。事故も災害も防げん」
魔物、もワ皇国語が定着したものだ。モンスターでは意味が広過ぎて可愛過ぎる。
アシルは、野焼きをする事にした。
戦闘前の昂りを感知し、フェニックスが「カカカ」と笑った。
巨大な炎の鳥が両翼を展開し、森を包み込んだ。
逃げ場がなく、ヘドロの塊に似た魔物は丸焼けになって消えた。連中は焼き殺す以外に消滅させられない。
古代文明が生じた頃、魔物も生じた。
人間のネガティブ感情が魔物の栄養源になっている。人間が魔物を生み出した。それ故に連中が発する有毒ガスのシールドを「瘴気結界」とワ風に呼んだりする。
森が焼失し、丘陵の地面が裸になった。
しかし見晴らしが良くなった事を望まない者どもがいた。
森の裏にある山を根城にしている山賊だ。こいつらの存在が人心に不安と恐怖を招き、魔物の肥大化に大いに貢献していたのは言うまでもない。
「どっかのバカが俺らの森に火を放ちやがった。許せねえ!」
アシルは騒ぎ立てる連中を一旦放り出し、傍の村に向かった。
「放火したのは俺だ」と正直に告げると、村民らは「いいんです」と項垂れながら頷いた。
「どうせ魔物と山賊の巣窟でした」
シマたる森を失った事で山賊どもは苛立っている。周辺の村落や集落への襲撃リスクが増した。
それについても「元からです」と村民らは項垂れた。
山賊どもは山一つを牛耳るほどの大所帯で、自ら国家を名乗り、時折下山しては税の取り立てと称して近隣住民から色々なものを奪っていく。
奪うものが無いと最悪、女子供が攫われたりするらしい。
イイ感じのクズと遭遇出来て、アシルは身の内に炎が灯るのを感じた。
力が有り余っている。遠慮なく潰したい。
「山ごと燃やす」
さすがに、これには村民らは反発した。山には守り神が宿っており、地元民らの信仰の対象になっている。代々守って来た土地でもある。破壊されては堪らないと言うのだ。
アシルは白けた。
「現状、山賊を守っている奴がお前らの神か。これ以上連中をのさばらせる事に意味はあるのか。この先もお前らのガキが殺されない保証はあるのか。連中は約束を守る人種か。永劫、搾取され続ける気か、お前ら」
村民らは閉口した後、「他の集落とも相談させてください」と言ってアシルを足止めした。
翌朝。アシルが宿泊する小屋の戸を、近隣村長らの一行が叩いた。
「やってください。過去よりも未来を向きます」
「よく決断した」
アシルは早速焼け野原の先にある山に向かった。
丘に近い山だが、山なだけあって巨大だった。
世界には魔法の水も風もなかった。だがフェニックスにはプラズマと両翼がある。
巨大な扇子さえあれば「来たれ、スーパー・ストーム!」という類の上等なものは要らない。誰の迷惑も考えなくて良いから制御すら要らない。
「簡単だな」
乾季の山はよく燃えた。
燃え盛る炎の中に、自称国家の旗が見える。
素人目にも素人臭い。デザインという概念は新しい。近年誕生する国家や貴族家は紋章作りに難儀する。昔ながらのデザインではいけない。歴史という後ろ盾がないのにそのネタを使えば、高確率で「古いお店の看板」になる。
「古い店の看板、それ以下だな」
つまり燃えていいやつだった。
やがて焼け出されてきた輩をアシルは見逃さなかった。
立ちはだかるアシルを前にした残党は、猟銃をリリースする事無くのたまった。
「命だけは!」
「――と、命乞いした村民を何人殺した、貴様」
「命だけは!」
「くどい」
プラズマを出すか拳銃を抜くかで迷った末にアシルは拳を振るった。相手の銃弾が冗談みたいに遅かったのでそうした。
手にかける。自分とて人殺しである事実から目を背けない。全部背負って次に駒を進める。
山を全焼させたアシルは、思いがけず土地の守り神と接触した。
正体はミーティアで、その姿形は掌で掬えるほど小さく、幼い。
ブラックスワンの雛に似ていた。
ミーティアは人の善悪に頓着しない。それでも雛は長年、山賊どもに関心を示さなかった。弱者を食い物にしていた雑魚ごとき眼中になかったようだ。
雛はアシルに同行したがった。見た目通り能力は低めで言葉を発しない。そわそわしている。
これから茨の道を行かねばならないアシルは「やめておけ」と首を横に振り、守り神の真似事を続けるよう雛に命じた。超レアケースながらミーティアのキャッチ&リリースは可能だ。
雛はしゅんとした。
去り際、アシルはフェニックスの羽を一枚、雛に渡した。
プラズマによるダメージを癒す。フェニックスの特殊能力だ。
「これでお山も森もすぐ元気になるよ」とフェニックスが教えると、雛ははしゃぐように飛び跳ねていた。
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