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18 最終目的
しおりを挟む大艦隊の布陣から二日後、洋上に会談の場が設けられた。
事実上のパーヴォ王国君主である新王太子アシルは、大ドラゴン帝国の皇室専用船に招かれる事になった。
挙ってアシルの同行を望む将兵どもを制し、陸海軍から一人ずつ選出した。計三人で送迎用の短艇に乗り込む。
今から皇族どもと聞かれたくない話をする。目と耳は少ない方が良い。
貴婦人と渾名される白い大型船に移乗したアシルは、船内の応接間に通された。
さすがガーデニング大国、調度品やファブリックのモチーフには野生の草花がふんだんに用いられており、部屋全体が落ち着いた色彩で統一されている。金ぴか&カラフルのパーヴォ王国様式とは全く異なる。
文化と好みの違いであり、そこに優劣はない。
小花模様の椅子を勧められ、アシルはゆっくりと腰を下ろした。肘掛けに施された蔓薔薇の木彫り細工が凝っている。皇室は良い職人を抱えているようだ。
長い楕円テーブルの先に視線を向ける。
女帝と皇子どもが顔を揃えていた。先方も三人で臨むらしい。
アシルは単刀直入に告げた。
「こちらの要求は一つ。女帝陛下のドラゴンを借りたい」
女帝はアイスブルーの双眸を細めた。
「まずは、いきなり大軍勢で押しかけて主に我が国の海運業者どもをビックリさせた事を詫びよ、心からな」
「悪かった」
「心からと言っておろうが。――聞いた通り敬語の使えん奴だな。まあよい。してドラゴンを借りたいとはどういう事ぞ」
「言葉通りの意味だ」
「分かるか。ミーティアが貸し借り出来る代物でない事は、ウィナーとなったそなたとて承知しておろう」
「承知した上で言っている」
女帝の双眸は更に細くなった。
「それは決戦の申し入れ、という事か?」
アシルは表情を変えなかった。
「そうするしかないなら、そうする。俺にはドラゴンの力が必要だ」
女帝の背後で、椅子の両サイドを固めるように並び立っている皇子どもがそれぞれの反応を示した。
第二皇子は瞠目し、皇太子はアシルを睥睨する。
顔見知りの彼は言った。
「そなた、今のは私への挑発でもあるぞ。母の遺産を横から掻っ攫うと堂々とぬかしおったのだからな」
「ああ、悪いと思っている。だが他に方法がない」
「解せんな。その言い様、ドラゴンを獲得して終わりではあるまい。そなたの最終目的は何なのだ」
アシルは包み隠さず答えた。
「取り戻したい女がいる。ドラゴンならあの世から死者を呼び戻せると聞いた」
ドラゴンの特殊能力「ネクロマンシー(死霊魔術)」のワードが、居合わせた面々の脳裏を過ぎった。
帝都のドラゴン宮殿内には猫がいる。
なんと――黒猫である。数百年前に絶滅した。魔女狩りのとばっちり以来、徐々に黒猫だけが生まれなくなり遂に絶えた。
これは、教会主導の非科学的な言い掛かりと取り締まりが酷過ぎるのを見て、神が「もう人間どものもとにはくれてやらん」と天罰を下した為だ、と言われてきた。
しかし帝国中枢は「誰かのミーティアの仕業だろう」という見解で一致している。
ネクロマンシーがある。復活とは真逆の作用が存在していても可笑しくない。
ミーティアの特殊能力には対になるものが多く見られる。そうやって互いに対抗しているのだ。
皇室の黒猫、名をキャプテン・ミーと言うが、彼はドラゴンのネクロマンシーによってこの世に呼び戻された。
呼び戻したのは女帝だ。大変な猫好きである彼女は、先祖の肖像画ででしか見る事の出来ない黒猫に幼少期から愛着を持っていた。
十代で帝冠を戴くや、ネクロマンシーを実行してみた。すると庭の隅にあるキャプテン・ミーの墓が光り輝き、光の中から黒猫がひょっこりと姿を現した。「誰か呼んだ?」という呑気な顔で。
生前と同じ姿形ではあるもののキャプテン・ミーは普通の猫とは言えず、かれこれ三十年近く若さと健康を保っている。土に還るのは次のウィナーにドラゴンが相続、或いは奪取された時だ。
飲食も排泄も生殖もしない。病気も何にもない為、例えば船酔いをしてでろでろと吐いたりもしない。
ゾンビなのだ。
「ゾンビでも何でも私のキャプテン・ミーはまだ死なせんぞ。猫のご長寿記録を更新してもらうのだ」
生きてないけど。とっくの大昔に死んでるけど。
女帝の鋭い眼光にアシルは動じなかった。
「俺も同じだ。ゾンビでも何でもいい。取り戻したい。それだけだ」
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