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38 頼り
しおりを挟む帰国した各国の要人らによって、パーヴォ王国の現状が報告された。
大使らは「太陽の時代を彷彿とさせる外交」と口を揃えて絶賛したと言う。
「特に、新王太子の婚約者様のアテンドが素晴らしかった。元外交官と言われても納得出来るほど、彼女は外国人への対応を心得ていらっしゃった」
パーヴォ城内に後ろめたい影は認められない。
物騒と思われたパーヴォ王国の開かれた姿勢は、近隣諸国を安堵させた。
今回の「新王太子ご挨拶の会」で変わったのは現政権への視方であり、現パーヴォ国王への評価は何も変わっていない。
国王は公務をサボる。しかし彼は「谷」時代の王みたく「内に籠る」タイプではない。オペラ座や音楽堂やファッションウィークに足繁く通い、城の所蔵品を博物館や美術館で披露したりする。展示企画の際はキュレーションまでこなし、センスを発揮する。
また外国への留学や、外国からの留学生の受け入れに積極的で、その為の支援基金まで立ち上げている。文明文化の発展に不可欠な刺激が自分達だけでは生み出せない、国内外での人材育成が必須であると認識しているのだ。
政治にも軍事にも無関心の彼だが、実はかなり視野が広く、深い。
そんな国王のもとに行動力のある王妃と、社交スキルの高い未来の王太子妃が集った。
今後パーヴォは益々の進化を遂げるだろう。
「――羨ましい事だ」
ヨルムンガンド王国第三王子、ルトヴィグは海原に向かって嘆息する。
不意に、背中にくつくつと笑い声が発した。
大ドラゴン帝国皇太子アルバートが歩み寄り、ルトヴィグの隣に並んだ。二国による初の合同軍事演習を控え、互いの艦艇が北極圏の軍港に入ったところだ。
アルバートと顔を合わせるのは、今日で二度目になる。
艦上で敬礼を交わし、北の海を臨む。ルトヴィグの不在中、フィヨルド近海に海賊船団が湧いて養殖場を荒らした。ルトヴィグの好物である魚卵もやられた。
アッパー・ミーティア、ヨルムンガンド(大蛇)の半分ユーザーに過ぎないルトヴィグだが、海賊船を海の藻屑に変える火力は持っている。
何度も警告した。しかし連中はハエみたく逃げ回り、監視の目をすり抜けては沿岸で犯罪行為を繰り返してきた。
もう逮捕はしない。船ごとすり潰す。
「恐い事を考えているな?」とアルバートが笑んだ。
「囮作戦でハエどもを集め、使用期限の迫った火器の的にするとは――よいアイディアだ。新兵の練習台にもなって一石三鳥だな」
「はい。食い物の恨みってやつです。領土の半分以上が不毛の地である我が国では漁業への打撃が一番許されませんので、手加減なしです。漁民どものアンケート結果次第では生け捕りにし、公開処刑も実行します」
「ほう、古風にギロチンを使うか。まあ海賊どもに同情はせんよ。我が国も他人事ではないのでな。アンケート形式というのは面白い。集計に骨が折れんのか?」
「我が国の人口ならばそれほどの手間ではありません」
「ふむ。大国にはない強みよな……」
捕らえてしまえば処刑して終わりの海賊もテロ組織も、簡単ではある。
厄介なのはやはり魔物だ。栄養源が人間のネガティブ感情なので制御も予測も難しい。思考を伴わない活動には規則性もない。対応は後手に回りがちだし、除草作業と同じでキリがない。
近代化が進む北方大陸では、軍隊の配備等の対策が取られている。
一方、未開地域の多い南方大陸では、対策は不十分ながら魔物の脅威レベルが下がる。栄養源たる人が少ないので、魔物は相当の年数をかけねば肥大化しない。
これは大陸間の差、とは少々事情が異なる。
ネガティブ感情は星の自転に乗り、横に流れる。縦にはほとんど移動しない。
半球間の差なのだ。南北の半球では陸地面積と人口に圧倒的大差があるから当然、南半球の魔物数は少なく規模も小さくなる。
大国の集中する北半球は、魔物の発生率も成長速度も南の比ではない。
尚、北半球に存在する魔物産の有害ガス、瘴気は、今現在北方大陸内で確認されているもので全てではない。
ふと、アルバートが言った。
「――じき締約国会議があるな」
今夏、各大陸の国々が参加する五年に一度の国際会議が開かれる。
世界情勢は魔物リスクと密接に絡んでいるので「みんなで気を付けよう」という話し合いをする。環境会議とも言える。
ルトヴィグは頷いた。
「先日のパーヴォ城見学はリハーサルのようでした」
「実際そうだったぞ。イベントを企画したデジレは新参王太子と要人ども、双方を慣らしたのだ」
「素晴らしい女性ですね」
「なんだ。そなた、デジレに気があるのか」
「パーヴォと戦争するつもりはありませんよ」
「アシルは目的の為には手段を選ばんからな。敵に回すと厄介だ。母のドラゴンも狙いに来おったしな」
「噂の海戦危機とは、ドラゴンが目的だったのですか」
「まあな。我らにとってもデジレは頼りとなろう。アシルの手綱を引けるのは彼女しかおらんのでな」
「そうですね。先日も、アシル王太子殿下が彼女に怒られながらも密かに喜んでいるお姿を目撃しました」
「あやつは本当にガキだな……」
二人の背後から呼び声がかかる。巡視艇が海賊船を捉え、追跡中だと言う。
狩りの時間だ。アルバートは、目付きの変わったルトヴィグを横目にした。
「では始めるとするか。我らはバックアップに回るゆえ、そなたらは存分に食い物の恨みを晴らすがよいぞ」
「そうさせて頂きます」
海賊狩りは深夜まで続く大規模な戦闘となった。
戦闘終結後、沈没船から海に飛び込んだ十名が捕らえられ、アンケート結果通り全て屋外設置のギロチン台へと向かった。
怒号と歓声が飛び交う中、アルバートは「食い物の恨みは恐いな」と優雅に微笑んだ。
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