リゾートで拾った恋

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王都編

23 目撃

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今年十六歳の第二王女は、まだ学生に過ぎない。
だからって何もしていない訳ではない。毎日馬術クラブの練習に励みながら、休日には公人として慈善活動にも取り組んでいる。
ティアラ制作にあたり、王女の聞き取り作業を行っていたアネットは、彼女の話に感心しっぱなしだった。

「お忙しいのですね、王女殿下」
「いいえ。わたくしなど、城下の労働者達に比べれば大層な事はしておりません」

少女なのに態度が立派で、アネットの背筋は自然と伸びた。
アデライドはと言うと、遠くを見ている。
その目がこう告げている――「なんかもう本当にすみませんでした」
アネットも似たようなものだ。まさか王女がこれほどしっかりとした人物だったなんて驚きでしかない。
同級生に王族がいなかったから、よろしくない先入観を払拭する機会もなかった。

――大人よりしっかりしてるんじゃないの、王女様。

一応は大人のカテゴリーに入るアネットは、ちょっと引け目を感じた。
希望の聞き取りを終え、為人の調査も終える。

サロンの席を立ったジュエラーに、王女は自分も起立して「どうぞよろしくお願い致します」と一礼して見せた。
アネットはとにかく王女よりも深く頭を下げて応え、アデライドにしてもそうだった。伏せた顔は遠くを見たまま。
二人してお礼と言うよりお詫びの姿勢をとっていた。



サロンを辞した二人は、「もしよければ」という侍女の勧めで春の花の咲き誇る庭を通って宮殿を出る事にした。ホラーの侍女は、今はホラーじゃない。
懐かしいグラン・カナルを遠目にして、アネットは侍女に問うた。

「まだ孔雀さんっているんですか?」
「いますよ。宮殿のアイコンですからね」
「ちょっと会いに行っても?」
「どうぞ。あと三十分は開放時間内なのでご自由にされてください」
「どうも。――あの」
「はい?」
「――あ、いえ、その」
「――、ああ。あの方のポストでしたら文官見習いですよ」
「そう、なんですね」
「縁故採用というやつです。何故か文官見習いの癖して王女や王妃のサロンの傍をうろちょろしてて、侍女をパシリに使ったりするんですよね。ホント――――あ、カナルにはこの小道が近道です」
「……どうも」

恐い。アネットもアデライドも、そそくさと侍女の傍を離れた。
「貴女のパイセン、何なのよ。嫌われ過ぎ」とアデライドが声を潜める。
アネットは「なんかすみません」と力なく笑うしかなかった。

畔のベンチに並んで腰掛け、ひと息吐く。
アデライドは膝にスケッチブックを載せて、サロンで描き溜めたデザイン画を精査している。

「しかし馬術とはね。イケてるワードが出てきて助かったわ」
「ええ。どう料理しても美味しいテーマです。外す方が難しいですよ」
「ドレスが気になるわね。あの凛々しいプリンセスの事だからバレリーナみたいなデザインではないでしょうけど」
「後日ドレスメーカー側とすり合わせはするとして、アイディアがここまで固まってるならこちらのデザイン画を先にお見せした方が良いかもですよ」
「それがいっか。ならこれのファイナルワーク(絵の清書)、イラストレーターちゃんに回しといて」
「はい」
「これ、ベルベルちゃんが描いてくれたら嬉しいのに」
「多分ですけど、ジュエリーのデザイン画は彼女の作風に合いません。勿論、彼女ならアジャストさせる事は可能でしょうけど」
「したくない事はさせたくないわね。てかね、うちのイラストレーターちゃんに文句とかないのよ。ただ違う子が描いたバージョンも見てみたいと思っただけで」
「良かったです。イラストレーターさんを泣かせるところでした」
「ちゃんと上手いのよ、あの子も。ただねただね、ちょっと変化球をね」
「はいはい……」

騒がしいベンチの後ろでは、二羽の孔雀が芝生に蹲ってうとうとしている。
開放時間の終わりが近付いたので、アネットはアデライドのだらけた背中を押して馬車に向かった。
馬車に乗った後はレストランに寄って遅いランチを取り、会社に戻った。



その日、テオフィルは部下を引き連れて海軍省から宮殿に出向いていた。
王太子の側近らの案内に続き、宮殿の柱廊を早足で進む。
軍靴が奏でる早い旋律を聞き付けた文官や召使い達がささっと隅に除け、軍人らに道を譲っていく。
長い外廊下を進む内に、等間隔に並ぶ柱の合間に広大なグラン・カナルが見えてきた。
テオフィルは、人工の水溜りを横目にした。
つい探した。

――人懐こい孔雀というのは、どこにいる。

派手な羽の鳥だから目立つ筈。見える範囲にはいない。

「……死んだのか」

テオフィルの呟き声を背後の部下が拾った。「は。今一度」と潜めた声で促す。
なかったことにしようとしたテオフィルだったが、目も耳も敏い部下を欺く方が面倒な気がして結局口にした。

「……孔雀はどこだ」
「あれです」
「……ん、どれだと?」
「あれです。あの白い奴」
「……思っていたカラーリングと違う」
「ピーコックカラーと言えば青緑だからでしょう」
「……白もいるのか」
「むしろ宮殿の孔雀は概ね白であります」
「……貴様、やけに詳しいな」
「父親は鳥類学者であります」

初耳だ。
感心したテオフィルは、前に戻そうとした目をグラン・カナルにぎょっと留めた。

「――、!?」
「――いて」

テオフィルが急に足を止めた所為で、後ろの部下が肩でぶつかった。更に部下の背後でまた部下が「いて」。玉突き事故が発生した。
テオフィルはそれどころではなかった。柱に駆け寄り、庭に目を凝らす。
散歩中の女性二人組。その人影は、すぐに建物の陰に入り、見えなくなった。
数秒の目撃で確信はない。見間違いだったかもしれない。白昼夢かも。幻かも。
本人かも――アネットかも。

「確認に――」

行ける筈もない。国王も同席する会議の時刻が迫っている。
渋々、テオフィルは柱廊を進むしかなかった。
確信さえあれば「腹が痛い」とでも言って、遅刻を選択しただろう。





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