靄が晴れましたので、

C t R

文字の大きさ
42 / 86
帝都編

42 非公式ながら




朝の正門前、馬車から降り立ったシルヴィーは、男女の双子と鉢合わせた。
そのまま合流して同じ教室を目指す。
相変わらずローラは朗らかで、ローランドはぶっきらぼう。
留学して凡そひと月。クラスメイト達にはほとんど慣れた。

校舎を出てくるメイド服とすれ違った。
エレオノーレのメイド、フリーダはシルヴィーを認めるや不必要なほどペコペコと頭を下げる。相変わらずの彼女に、シルヴィーはどうしても慣れない。彼女自身が幸せでも傍目には痛ましい。
そそくさと立ち去るフリーダを見送りつつ、ローラが「ノートの提出に来たんですかねえ」とぼやいた。
魔法学科の生徒の中にも、エレオノーレの「代理課題」に気付いている者は少なくない。
放置している。みんな自分の事で忙しいし、エレオノーレに関心もない。皇子妃候補であっても「メイジでない」彼女に、価値を見出していない。
生徒と教師の多くが「多分メイジにはなれないね、彼女」と見切りをつけている。
ローラも彼らに同意らしい。

「根拠はないけど、なんとなく。怠惰なメイジって基本いないし、エレオノーレ様って今年で十七歳でしょ。タイムアップですよ」
「……そういうものですか」

「そういうものです」と大きく頷いたのはローランドだ。

「俺はあの人を認めていない」

妹が「はいはい」と流す。
兄は妹を見て、シルヴィーを見た。

「しかし貴女は勤勉だ。可能性がある」

シルヴィーは苦笑して「それはどうも」と返した。
自分も未だメイジではない。なのに未来の皇子妃として決定している。
それを知ったら、ローランドはがっかりするに違いない。

――居た堪れないってこういう事かしら。

王女が帝都を、王都を去った理由が少し分かった。期待に応えられないというのはやはり辛い。
皇城は妃候補達にプレッシャーを与えない。メイジか否かを重視しないと公言している。現に、皇族の傍系はその半数がメイジではない。
ただ、ローランドのような考え方もある事を忘れてはならない。

――城の人達は優しいから。

それが帝国民の総意と見えてしまう。けれど、城内の彼らとて世論とはかけ離れた場所にいる事も、忘れてはならない。
学びを得ている、とシルヴィーは前向きに捉えておく。
正直、今は自分よりもエレオノーレよりも、

「――メイドさんを勝手に心配してます」

ローラはシルヴィーを一瞥し「気の毒ではあります」と他人事の顔で言った。

「お嬢様の代行が出来てるって事は相当優秀なんでしょうよ。なのに本人の成績はどこにも残りませんからね。まあでも関係ないんで。他人なんで。私らも弱い立場の留学生なんで」
「……皆さんもご本人も良いのなら、外野が出来る事は何もありません」
「思うに献身的で謙虚過ぎる性格だから付け入られるんですよ、あのメイドさん」

シルヴィーはパッとローラを振り向いた。

「やっぱりそう思われます?」
「誰に対しても腰低過ぎです。礼儀正しいけど、ああいう姿勢は好きじゃないです。なんか卑屈に見えるっていうか」

言った直後、ローラはすかさず付け足した。

「もち立派な人だとは思ってますよ。なんか病気のお姉さんがいらっしゃるから一生懸命働いてるんだって聞きました」
「そうなんですか?」

初耳にシルヴィーは驚き、感心した。
そして思った。

「彼女、荷物が多過ぎでは?」
「それです。なのに全然へこたれないからド根性ですよ。いつも笑顔だし。もし彼女が過労で亡くなったら私、教会に推薦します。聖人、いや聖女としてね」

冗談に聞こえないローラの軽口に、シルヴィーは曖昧に頷いた。



放課後。
シルヴィーはクラスメイト八人と共に、城下のコーヒーハウスに出向いた。こうして同級生達と出掛けるのは二度目となる。
城とヴィンツェンツの許可は簡単に得られた。非公式ながらシルヴィーは未来の第三皇子妃となった。じきに自由が減るシルヴィーを慮ってくれている。
こちらから視えない位置に護衛は付いているだろう。

入店した学生の一行は、二つのテーブル席を合わせて一団を形成した。来月に迫ったビッグイベントについて語り合う。
魔法学科六学年合同の課外授業にしてフィールドワーク「魔法遠征」である。
初めて耳にした際、シルヴィーは「……魔法、使えませんけど」と惚けた。
「いやいや」とクラスメイト達が苦笑がてら口々にレクチャーした。

「メイジだけのスペシャルイベントとかじゃないのでご安心を。今クラスにインテンス・パワー持ちはいませんから、バトるとかも無理ですし。そもそも軍事遠征って意味合いはないんで」
「そうそう。ちょっと面白い場所に遠足に出掛ける感じです」
「今年はシルヴィー様の地元ですよ。南部の辺境で国境の、悪魔の森」
「個人的には魔女の森が良かったなあ」
「あっちは交通が不便過ぎるから無理なんだよね。管理する大人の都合ってやつ」

「魔女の森」と聞いてシルヴィーは、白いウサギを思い浮かべた。
帝国領ではあるものの魔女の森は本土から切り離されている。
帝国最南端の、所謂「飛び地」だ。帝都とレールで繋がっていないし、危険地帯につき開発も進まない。

――そこにいるのよね、ウサちゃん。

いつか本人に会いに行きたい。こちらから行けないなら誰か送って欲しい。
一度シルヴィーは、編入試験の際にお世話になった「魔法の封筒」にウサギをインしてもらう手を結構本気で考えた事がある。
シルヴィーの封書を送ってくれたメイジ氏のスペルは「スーパー・ポストマン」。強そうだ。帝国には計二名いる。もう一方のスペルが気になる。
けれどヴィンツェンツ曰く、ウサギの送付は「無理」との事だった。

「封入可能なのは紙だけだ。使い手のメイジが未踏の地にも送れん」

シルヴィーは、しゅんとした。





感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……