靄が晴れましたので、

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帝都編

44 頗る快適




帝国女学院に登校したジュリエットは、クラスメイト達に微笑みかけた。

「ごきげんよう、皆さん」

途端、教室中から「おはようございます」と微笑みが返される。
朝から良い気分だ。やはり王都から帝都に来たのは大正解だった。
王都学園より特別扱いしてもらえる。

――どこまで私に貢献してくれるの、シルヴィーったら。

シルヴィーが第三皇子妃候補になったと知った時は「どうにかして外れさせなければ!」と思っていた。
そんな必要はなかったのだ。上に行ってもらう分には全く構わない。
最早シルヴィーも友人も誰もいない王都学園なんて未練もない。裕福な公爵令嬢にとって留学など造作もない。
王都から離れる事で生じる唯一にして最大の不便といえば、トレンドに時差が生じる点だろう。

――でもどうせ、学生でいる限りファッションウィークは楽しめないもの。

何故か、春夏・秋冬のコレクション期間がどちらも試験期間と被っている。学校側の陰謀としか思えないが、学校創設よりコレクション開催は相当後なので違う。
今はトレンドを追う事よりも快適な帝都生活を送る事を優先させる。
外国なので当然、言葉の壁はある。ジュリエットの帝国語は、会話は旅行者より多少マシというレベル。読み書きは長文になるとお手上げだ。
それでも何とかなっているのは、普通の転校生ではなく「留学生」だからだろう。
幸運にも、同学年にジュリエット以外の王国出身の留学生がいない。
もの珍しい令嬢とあって教師も生徒も親切にしてくれる。それどころか彼女達の方が流暢な王国語で話してくれたりもする。
授業中も「今の聞き取れた?」とか「ここ読める? 難しいよね」とか逐一確認してくれる。
もしジュリエットが普通の転校生だったらこれらのサービスはなかった。
王国から来た公爵令嬢にして第三皇子妃候補の元同級生――特別待遇しか有り得ない。
ちやほやされて頗る快適だ。男子より女子にされる方が価値がある。

――ここにシルヴィーが加わってくれたら最高なんだけどなあ。

クラスメイト達は親切だが便利って程じゃない。課題代行サービスはないから自力でこなさなければならない。名門校につきやはり課題が多い。そこは王都学園と変わらない。

――でも校則はこっちのが相当緩い。

ピアスやブレスレット、ヘアアクセ等もOK。膝下丈のプリーツスカートを少し上げている女生徒もいる。
王都学園ではそれらはほぼNGだった。制服の改変は以ての外――これは言われるまでもなく誰もしない。
下手な飾りは学校指定の完璧なバッグとシューズに合わない。五十年以上前に天才デザイナーが生み出したルックは、未だ色褪せていない。このルックをインスピレーションソースにして、スクールライクなコレクションを発表したデザイナーすらいる。
自慢の制服を身に着けているのだ。

――ここでは私とシルヴィーだけよ。なんて素晴らしいのかしら。

親切な帝国人達に微笑みながらもジュリエットは、胸中で「貴女達とは違うんですのお、おほほほほ」と高笑いをしていた。

放課後。ペントハウスに帰宅する。
リビングルームでは、スーツ姿の眼鏡女性がジュリエットを待っていた。
帝都に来たもう一つの目的は「血縁女子捜し」、その進捗確認である。出資者はトリスタンでも実際の依頼者はジュリエットだ。
それを明かしたジュリエットに、女探偵は切り出した。

「お捜しのご親戚様は、どうやら帝都郊外にお住まいのようです」
「まあ! もうそこまで足取りを掴んでますのね。良かった。母の遺した財産をお渡し出来そうですわね」

ジュリエットは、表向きの捜索理由を遺産とした。まさか「死んでもらう為」なんて言えないし、食い付きの良い餌になると踏んだ。

――餌に食い付く餌とか笑える。

ジュリエットの真意を知る由もない、女探偵は感心したように頷いた。

「お嬢様のお心遣いに応えるべく、私も全力で仕事に取り組みたいと思います」
「ええ、お願いしますわね」

眼鏡の女探偵は地味な顔立ちで、表情がカタい。北国には仏頂面が多い。
北で苦労し、生き永らえてきた親戚とやらもそうだろうとジュリエットは思った。
人相が自分に似ているとは限らない。「似ていない」から「親戚じゃない」という判断は出来ない。
もし仮に、この女探偵が詐欺を働いて偽者を連れて来る、或いは偽者を掴まされたとする。
でも見破れる。「スペル」を訊けば分かる。メイジか否かに限らず女子は母からスペルを託されるから「知らない」はない。
男子には伝わらないし、意味がない。生き残りが男子しかいないのであれば用は無い。「人違い」と言って放り出す。
女系でないといけない。母も、兄二人の後にやっとジュリエットを授かり安堵したと日記に書き残していた。「務めを果たせた」と。

――とんでもなく細い綱渡りの魔法なのね。

一々ルールが面倒臭く、しかも万能じゃない。

――もっと手軽な方法なら良いのに。

科学が進み、魔法も進んできた。別系統の親戚一族が「もっと良い魔法」に進化させている可能性を、期待してしまう。

――遺伝する魔法でも、進化する筈よ。

魔法は大きく、スティル・テクニックとインテンス・パワーに二分される。
もう一つ、分類方法がある。
それがヘリテイジ(遺産)とノー・ヘリテイジだ。ほとんどがノー・ヘリテイジであり、各々が独自に磨いた技の結晶、つまり後天的な魔法と言える。
ヘリテイジには血の滲むような努力など要らない。スペルごと継承出来る。しかも血縁者とスペルが被っても良い。兄弟姉妹がいる場合、一人に受け継がれるとは限らないからだ。
稀な宝なのだ。その偉大なる恩恵をジュリエットは受け、継いでいる。
選ばれし者って事だ。





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