靄が晴れましたので、

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帝都編

46 発表




金曜日、午後三時半。
皇城で発表があった。

「第三皇子ヴィンツェンツの妃は、デュバン伯爵家のシルヴィーに決定――」

ほぼ同時刻、城下では号外が飛び交っていた。

「遂に第三皇子殿下の未来のお妃が確定! 王国出身のシルヴィー嬢!」

帝都民は「うおお」と色んな意味で吠えた。

「あちゃー、帝国の侯爵令嬢が負けちゃったなー」
「可愛いのに可哀そうに」
「侯爵令嬢ってまだ十七にもなってないよな? メイジになる可能性があるのに、皇城はもう伯爵令嬢に決めたんだな?」
「伯爵令嬢がメイジなんじゃないか?」
「前の号外ではメイジじゃないって書いてたよな」
「いやいや、そもそもメイジかどうかは妃には関係ないから……」

議論の輪に、青年の声がすっと割り込んだ。

「フツーに、皇子殿下が好きな女性が選ばれただけの事だと、俺は思う」

ん、と声に振り返った面々は、帝都学園の制服を着た若者を見た。

「兄ちゃん、どうしてそう思うんだ?」
「俺の、古の力を宿すこの魔眼がそう告げている」
「冗談はいいから、どうしてそう思うんだ?」
「…………別に。伯爵令嬢は真面目、侯爵令嬢は不真面目、以上だ」
「そうなん? 侯爵令嬢、お人形さんみたいなのに不真面目なん?」
「見た目に大した価値などない。俺は人形の姫など認めていない。だから、だからこれで良かったんだ。長きに渡る俺の戦いも、じき終止符が打たれるだろう――」
「……この兄ちゃん、名門校のハンサム眼鏡君なのに残念なにおいがする」

週末とあって、帝都は夜まで盛り上がった。



翌日の土曜日。
皇城で、大規模な夜会が開かれる事になった。
前以て貴族達には招待状を出していたものの、その目的は伏せられていた。昨日の城の発信を受けて「ああ」と納得した者は多いだろう。

シルヴィーは、朝から部屋で忙しくしていた。
中央の貴族からは贈り物が届き、地方からはテレグラフが届いている。
なんともタイムリーな事に、南方大陸の王女から約束のバニラが産地直送されてきた。そして透かさずテレグラフも飛んで来た。
「――この度はおめでとうございます。バニラは間に合ったでしょうか」と綴られていたので、シルヴィーは王女への返信を最優先にした。

昼前、王国の王室からも贈り物が届いた。王国王室には予め知らせていた。シルヴィーの皇子妃決定が得にしかならない彼らを警戒する理由がない。
実家からは手紙が送られてきて、夜会当日の今日、家を代表して従兄が婚約者と共に駆け付ける予定だ。間もなく船が到着する。
ところで実家からの手紙は祝福よりも「商売繫盛」の内容で占められていて、シルヴィーは笑ってしまった。
軍学校の取引は変わらず。それで帝国の製紙メーカーが困ったりはしていない。丁度新設された軍の医大と新契約が結ばれたらしい。
仮に、そうでなかったとしても恨みっこなしだ。より良い製品が割り込む事は不正でも不公平でもない。伝手は切っ掛けに過ぎない。実力がなければ結局続かない。だから実家は慢心してはならない。職人気質には無用の心配だけれども。

昼食後、部屋にドレスが届いた。
年末ボール向けだった物を今回、繰り上がりで使用する。
王国から取り寄せた生地を、宮廷のデザインチームが仕立てた。彼女らは皆王国の名門服飾学校を出ており、老舗ドレスメーカーでの勤務実績を持つ。
皇族の衣装にトレンドも斬新さも必要ない。かと言って知らないまま、古いままでもいけない。どんな服にもアップデートは要る。不変が容認されるのはトラディショナルな民族衣装くらいしかない。
宮廷のヘッドデザイナーも王国で実績を積んでいる。去年就任したばかりの若い彼女は「敢えてモード発信地から帝国に戻って参りました」と話す。

「伝統と格式の宮廷ファッションは制約が多く、窮屈で退屈になりがちでアーティスト泣かせのフィールドです。だからこそ挑み甲斐を見出しました」

デザイン&ビューティーサロンチームはシーズンごとに王都に赴き、トレンドを学んでいる。皇族の付き添いで王都ファッションウィークにも足を運ぶと言う。

「いずれはシルヴィー様のお供も出来ればと願っております」

そう言って笑った女性デザイナーに、シルヴィーも笑った。

「その際は王都出身の私がご案内すべきなのでしょうけど、恥ずかしながらファッションショーは一度も観た事がありません。お世話になるのは私の方ですね」
「お任せください。王都には五年ほど住んでおりましたから慣れたものです。第二の故郷だと思っていますよ」

それは光栄です、とシルヴィーはまた笑った。



サロンチームによるヘアメイクアップが始まるところだった。
部屋の扉が急に開かれ、シルヴィーはドレッサー越しに突撃相手を見た。

「――え? エレオノーレ、様?」

振り返ったシルヴィーに、憤慨の顔を隠しもせずエレオノーレが大股で歩み寄る。彼女の背後をあたふたとメイドのフリーダが追いかけている。
止めようとするフリーダの手を払い除けたエレオノーレは、サロンスタッフの肩を押し退けながら接近すると、丸椅子に座るシルヴィーを見下ろした。

「この泥棒ネコ」

シルヴィーは惚けた。
「その言葉、実際に使う人いるんだ……」と思った。





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