靄が晴れましたので、

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帝都編

62 二つの顔




女探偵の仲介で、ジュリエットはいよいよ親戚女子と会う事になった。
待ち合わせ場所はホテル内にある高級レストランの個室だ。
一人テーブルで待つジュリエットは、膝の上のクラッチバッグを握り締めた。
護身用の小型拳銃が入っている。

――どうして気付かなかったのかしら。

相手だって自分を狙ってくるかもしれない可能性をすっかり失念していた。
とはいえジュリエット自身は「チャージ」状態でメイジではない。そういう意味では相手にとって利用価値はない。逆も然りだ。
今になってジュリエットは「それでもいい」と考え始めていた。

――相手もチャージ状態なら諦めがつく。

シルヴィーの再「幼馴染ファースト」化を諦め、学園生活に専念出来ると思う。
でももし相手がジュリエットの為に命を投げ出すと言い出したら、

――多分、有難く恩恵に肖ってしまうわ。

母を思い出す。愛しい娘の為に自殺までした母に、ジュリエットは感動した。
その感動を惜しんだからこそ自分はここにいる。
今日まで生き残った親戚の女子が、母のような気質である可能性は高い。「務めを果たす」為に命を惜しまない殉教者、いや狂信者の気質だ。
魔法には必ずルールがあると言う。母親達の魔法のルールが、例えば「強い母性に囚われる」とか「使命感の塊になる」とかだったりしないだろうか。

――本人が本望だと言うなら、良い?

考えが過った時、ドアがノックされた。
「どうぞ」と応じながらジュリエットは膝のバッグごと銃を握り締める。
財産目的の詐欺だか強盗だかの可能性を捨ててはいない。不届きな輩は遠慮なく撃ち殺す。
警戒の間にドアが開き、まずは仏頂面の眼鏡女性が顔を出した。
女探偵はジュリエットに会釈をした後、背後の人物に首で振り返り「こちらでございます」とやけに丁寧に促す。
丁寧な振舞いには理由があった。その相手は、ジュリエットの想像を超えていた。
銀色に近い金髪を揺らし、美貌の少女がつんと細い顎を上げて見せる。

「ごきげんよう、貴女がジュリエットね? 私は名門ロンネフェルト侯爵家の長女エレオノーレよ」
「――――」
「今は元・第三皇子妃候補として皇城の厄介になっているの。前のフロアからは追い出されたけど、ちゃんと城の敷地内で暮らしてるわ。ホント、こんな屈辱ってないわよ。森でちょっと騒ぎを起こしただけなのに、それもこれもあの外国人の泥棒ネコの所為だわ……」

ジュリエットはたっぷりと惚けた後、慌てて俯いた。
腹筋が、くっと痛む。どうにか声を堪え、内心で笑い出した。

――嘘でしょ、敗者が来たわ。私のシルヴィーにやられた負け犬が!

顔を伏せたままのジュリエットに対し、負け犬ことエレオノーレが見当違いも甚だしい事を告げた。

「そんなに畏まらなくても良くってよ。楽にして頂戴」
「……、どうも」

笑い死ぬわ! とジュリエットは内心に喚いた。



美しい二つの顔がテーブルで向かい合う。
傍目があれば目の保養になった事だろう。

――あっちは負け犬でーっす。

などと口走ったりせず、ジュリエットは精々殊勝な顔で切り出した。

「まさか私の遠縁がロンネフェルト家のお嬢様だったなんて驚きですわ」
「ええ。お互い今日までよく生き延びましたわよね」
「本当に。ところで、女探偵さんからお住まいは帝都郊外だと伺っていたのですけれど、実際にはまだお城にいらっしゃるんですよね?」
「ああ、彼女が探し当てたのは母から貰った不動産の一つだったの。賃貸のアパルトマンとして運用しているから、ややこしかったでしょうね」

他の住人がいる所為で、あの女探偵は親戚の特定に時間を要したのだろう。
納得したジュリエットは、いよいよ本題に移った。

「あの、エレオノーレ様、名門の方を疑う訳ではないのですが一点だけ、ぜひ確認させて頂きたいのですけれどよろしいでしょうか」
「良くってよ」

エレオノーレはさっきから上から目線が鼻につく。
ジュリエットは内心「……この子、候補ですらなくなって城の隅で暮らしてる分際で一体何様のつもりなのかしら?」と結構本気でエレオノーレの頭を心配した。
席を立ち、エレオノーレに耳打ちする。女探偵はドアの外で室内は無人だ。盗聴など有り得ないし、聞かれたところで問題はないのだけれど念の為。

「――スペルは?」

エレオノーレはジュリエットに首で振り向き、笑んだ。

「耳をお貸しになって」

今度はエレオノーレの耳打ちに、ジュリエットは意識を凝らす。
答え合わせの結果が出た。

――彼女、間違いなく母方の親戚だわ。

母の遺したスペルを彼女は答えられた。
安堵も束の間、問題が発覚した。
エレオノーレは言った。

「母の死で恩恵を受けてますの」
「そうでしょうね……」

そうとしか見えない、と会った瞬間に悟っていたにも拘わらず、ジュリエットはやはりがっかりした。

――でもこれで諦めがつく、かな。

ジュリエットの思考を読んでいるようで、エレオノーレが笑みを浮かべた。

「あら、諦めるのは早くてよ」
「え?」
「調査不足ね。こちらに女子の傍系が残っていないとでも?」

ジュリエットはまた惚け、エレオノーレはやはり笑んだ。

「良ければ、私の手持ちの駒を貴女に差し上げましょうか?」

ジュリエットは息を呑んだ。





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