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帝都編
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土曜日の昼。
ヒミカとセンジュが帝国に帰ってきた。
土産物を手に皇城を訪ねてくれたヒミカを、シルヴィーは「自分のサロン」に招き入れた。
先日、皇族のプライベートエリアに部屋を移った。このサロンも貰った部屋の一つで、隣は第三皇子のサロンとなっている。
長らく無人だったこちらはまだ調度品に乏しい。これから飾っていく。
「壁紙を人参の柄にしようかな、なんて――」
切り出したシルヴィーに、ヒミカは優美な笑みを浮かべた。
「おやめなさい」
「い、一刀両断……」
ヒミカからの本気のダメ出しに、シルヴィーは衝撃を受けた。
けれど叱ってくれる友人が本当の友人だと言う。有難く、重く受け止める。
「分かりますけどね」とヒミカは向かい合うコーヒーテーブルに目を落とした。
テーブル上に白いウサギが顔を出している。
シルヴィーは、この素敵なビーストをヒミカに紹介したところだった。
数日かけてスキルを磨き、やっとコレが出来るようになった。
「狙った位置にホワイトホールを出すのは、相当難しかったです」
でしょう、とヒミカが頷いた。
ふと彼女の首が傾く。
「わたくしの八卦のように掌に出す事はなされなかったのですね? その方が遥かに楽でしたでしょうに」
「はい。それだとハンズフリーになりませんので」
「……ああ。両手でウサギさんを抱っこしたいワケですね」
「はい。それに片手でおやつをあげる事にもなります。私のスノーホワイトにそんなおおちゃくな事はしたくありません」
「……ああ。シルヴィー様は、他者様と片手で物のやり取りをする事を不躾だと感じられるお嬢様なのですね。正直、西洋の方はあまり気にされないと思っておりましたから意外です」
「人によるかと」
「それもそうですね」
ヒミカは改めて、テーブルから自分を見上げているウサギと目を合わせた。
「ビーストを間近にするのは初めてですが、大人しくて可愛らしいのですね」
「皇族方もそう仰ってくださります。構いたくなる魔性のプリンセスですよ。――おやつと言えば。なんとサモン中はあげたい物をいくらでもあげられるんですよ。この子からのお返しは無しでいいんです。好きなだけ貢げます。だから私は、なんとしてもホワイトホールの直径を広げたいんです。今のサイズではウサギ用のベッドとかドールハウスとかが通りません」
「……シルヴィー様の発想は本来のサモンの用途とかけ離れていると思うのですが、幸せのカタチは個々で様々。わたくしは敢えて貴女様のアンストッパブルをお止め致しません。殿下がよろしいのであればよろしいかと」
「殿下のお考えは分かりませんが、とりあえずドールハウスの発注は止められませんでした」
「……大丈夫ですか? ホワイトホールを広げられる前に発注して」
「頑張って広げます。方法は全く分かりませんけど――、待ってください。目の前にヒミカさんというお手本がいらっしゃるではありませんか」
「え……、わたくしサモンなど使えませんが?」
「領域です。展開するって事は拡大するって事ですよね」
「ああ、そういう……」
遠い目をそよがせた彼女は、シルヴィーに目を戻した。
「わたしくではシルヴィー様の参考になれません」
「才能の違いは分かっています。でも」
「いえ才能は無関係です。わたくしが領域を取得したのは拳法のお陰です。要するに間合いです。球技にもありますでしょう。空間認識能力というものです」
「……そんな凄いもの、持ってません」
「それは何とも。今からでも何かなすってみては?」
「……ううん」
道の遠さを思い知ったシルヴィーは、テーブルに両肘を突いて唸る。
とりあえず、頭だけウサギにガトーショコラを与えておく。両の前足でケーキを挟んでむしゃむしゃと頬張る姿に癒される。
「最悪、ドールハウスは夢に持って行って渡しても……」
「悩みがあるのは良い事ですよ」とヒミカもガトーショコラを頬張りつつ、完全に他人事の顔で告げた。
「シルヴィー様、実はわたくしからも一つご報告がございまして。この度の帰郷を経て、八卦の領域が一気に拡大致しました」
シルヴィーはわあと歓声をあげようとして、止めた。
「……簡単にエリア拡大出来たんですね、ヒミカさんは」
「申し訳ございません。自慢する意図などはなかったのですが、自慢にしか聞こえなかった事をお詫び致します」
ヒミカに嘘は通じない。シルヴィーは素直に「はい。自慢にしか聞こえませんでした」と答えた。
ヒミカは特に悪びれず、気にもしなかった。
「今の領域は大体八畳ほど……失礼、ここからあの絨毯の柄までですかね」
「どんどん進化していきますね、ヒミカさん。一体どんな修行を?」
「TKGを食しましたら、なんとなく出来るようになりました」
「……生卵を食べてなんとなく、ですか。さすが私とはものが違いますね」
「まあそういじけないで。そうそう。ヘリテイジと言えど、子孫が新たに進化させた能力を次世代が継承出来ない事はご存知で?」
「それは習ってませんでした。ではヒミカさんのお子さんは領域が使えないところからのスタートになるんですね?」
「そうなります。とはいえ、原始の魔法がハナから使えるだけでも相当の甘やかし仕様だと思いますがね」
「魔法って不思議ですね」
「世の中分からない事だらけです」
シルヴィーは、ウサギの額を指の腹でひたすら撫でた。
ウサギはむしゃむしゃしながらシルヴィーを見詰めている。
魔法によって愛くるしい相棒を得た。この幸運にシルヴィーはただ感謝した。
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