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帝都編
65 エキスポ
土曜日。
普段は休日となるこの日、帝都学園は一般開放されていた。
魔法エキスポ、開催だ。
規模は他国開催よりも幾分劣る。その代わり内容は、よりエキサイティングなものとなっている。規制の緩和は国内開催の特権と言えよう。
初冬にも拘らず、珍しい魔法を見物しようと国内外から観光客が集まっていた。
目玉は、何と言っても運動場で行われるインテンス・パワーによる圧巻のパフォーマンスだろう。
そして今回もう一つ、あるスティル・テクニックが早くも話題を呼んでいた。
中庭に設置されたサーカスのテント内で、神秘的な占いのパフォーマンスが見られると言う。
間接照明だけが足元を照らす薄暗い空間の中に、能のような四角い舞台があった。
中央に立つ黒い着物姿の女占い師は、客席に向かって大仰に両手を広げ、ゆったりとした袖を開いて見せた。
「――さて占いをご希望のお客様、どうぞ挙手をお願い致します」
因みに一回視てもらうのに一万かかる。チャリティーにつき、イベント会場内に無償のものは一つもない。学校の敷地に入るだけで客らは一万取られた。
誰もが承知の上でここに足を運んでいる。クレームは出ない。
客席から手が上がり、ヒミカは主婦らしき女性を選んだ。
幸せそうな人を選んでいる。占い結果は舞台で発表するし、客らも了承済だ。
無論、深刻な問題が発覚した場合は本人にだけ伝える。
舞台に主婦を呼び寄せたヒミカは、また大仰に両の袖を開いた。
「それでは奥様を占わせて頂きます」
「お、お願いしますわ」
頬を紅潮させてテンションを上げている対象者を見詰め、ヒミカは両の掌を顔の前で合わせた。
――エリア・ディベロップメント。
ヒミカの足元を中心に、畳八枚分の巨大な八卦が出現した。舞台からはみ出し、観客席にまで届いている。
青白い光の文様が足元から浮かび、舞台上の主婦も観客達も大興奮で手を叩いた。
「これが東洋の魔法陣――!」
ヒミカは「……いや魔法陣ではないと最初に説明しました」と口の中で呟いた。
この調子で最初の主婦を含め、三人を連続で舞台に上げた。問題を抱える人が見当たらないのは何よりだった。
大盛況で以て舞台は一旦閉幕し、十五分の休憩を挟んで観客の入れ替えを行う。三人占う毎に五十人の観客を交代させる事にしている。
占いには一万だが、巨大八卦を見物するだけでも五千かかる。
それでも客の列が絶えない。
――景気の良い事だ。持ってる人からどんどんマネーを落としてもらおう。
「はい、次のお客様――」
ヒミカの進化した八卦は、まだまだこんなものではない。
余談だが、従来の掌サイズの八卦も相変わらず出せる。無論、小さい方が省エネになる。でも見世物としては寂しいので、今日は封印する。
シルヴィーは、クラスメイト達と共にハイスショコラーデ(ホットチョコレート)の屋台の列に並んでいた。
正門前で待ち合わせて、クラスのみんなでエキスポに来た。学校の警備は普段から万全な上、通い慣れた場所とあって特に皇城からのダメだしはなかった。
ヴィンツェンツも「冬季休暇は私がそなたを独占してしまうからな」と言って許可してくれた。顔は、楽しそうではなかったけれど。
シルヴィーの後ろにはローランド&ローラ兄妹がいて、二人で仲良くタコヤキの器をピックで突いている。
ローラから「お一つどうです?」と促されたシルヴィーは、遠慮しておいた。
「高価なおやつですもの。どうぞご兄妹で分け合ってください」
「お気遣いどうも。因みにこれ、フードらしいですよ」
「そうなんですか? コロコロしてて可愛いから、てっきり」
でも中身はタコなのだった。西洋では嫌厭されがち。
タコを平然と嚥下した後、ローラが「あ」と口を開いた。
「そう言えば、タコヤキの列にメイドさんがいたんですよ」
「フリーダさん?」
「そう。エレオノーレ様のお使いなんでしょうけど、彼女がタコ食えるってかなり意外じゃありません? それともタコだけ捨ててるのかな……」
「そんな勿体ない食べ方、絶対しないで欲しいですね……」
ふん、と今度はローランドが口を開いた。
「勿体ないと言うより、きったない食い方ですよ」
「だねえ」とローラはのんびり頷いた。
シルヴィーは、エレオノーレがタコ抜きタコヤキを食べていない事を願った。
ハイスショコラーデを手にした一同は、中庭方面に向かって歩く。
集団でダマになって移動はしない。他の一般客の邪魔にならないよう二列だ。
「例年こうしている」との事なので、シルヴィーは「さすが」と感心した。
ヒミカのテントに向かいながら、不意の考えが過ぎる。
タコヤキはセンジュのワ食だ。彼が盛り付けまで行って初めて料理は魔法を宿す。
舟形のタコヤキの器は美しい。魔法がかかっているのは間違いない。
シルヴィーは、エレオノーレとフリーダがタコヤキを食す姿を想像した。
――彼女達の問題を、お祓い出来れば良いのに。
タコ抜きタコヤキではダメだろうか。確か完食必須ではないし、一口でも効く。
ふと、シルヴィーは疑問に駆られた。
――以前、フリーダさんにアンミツを食べてもらったけど。
彼女も自分に似た症状を抱えているのではと疑い、仕向けた。
結局フリーダには効かなかった。彼女は心の病ではなかった。
ただ、こうは考えられないだろうか。
――例えばセンジュさんのワ食よりも強い魔法が、彼女にかかっているとしたら。
大半のスティル・テクニックが、強者のインテンス・パワーに効かないのは魔法が負けてしまうからだ。
センジュの祓う魔法がフリーダにかけられた「幼馴染ファースト」もどきに劣っているのなら当然効かない。
「いいえ、違うわ」とシルヴィーは自論を打ち消した。
――ヒミカさんの占いでフリーダさんは幸福だって分かったじゃない。
ヒミカの魔力はセンジュを越えている。古の血統を二つも継ぐヒミカは相当強い。彼女が占えないのはインテンス・パワーくらいだ。
――ヒミカさんはフリーダさんを占えてる。
占えたからには、結果は絶対に正しい。
フリーダは心の病にかかっていない。そうでないから、治せない。
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