靄が晴れましたので、

C t R

文字の大きさ
66 / 86
帝都編

66 面識




ヒミカの陣取るテントが見えてきた時だった。

「シルヴィー」

パッと呼び声に振り返って、シルヴィー瞬いた。

「ジュリエット、来てたのね」
「え、ええ……」

歩み寄るジュリエットは、笑顔も足取りもどことなくぎこちない。
シルヴィーは彼女とその背後のテントを見比べた。

「貴女も占いに?」
「あ……、いいえ。もう見て来たから屋台に行くとこ」
「そうなの」

ふと、シルヴィーの脳裏に王都学園時代の記憶が過ぎる。
「占いのメイジに視てもらってはどうか」とカマを掛けたシルヴィーに、ジュリエットはえらく動揺していた。

――でも、自分からヒミカさんのもとに足を運んだのね。

最早後ろめたさはなく占いを警戒する必要がなくなった、という事ならめでたい。
シルヴィーはジュリエットに笑みを返した。

「聞いたわよ。大聖堂の前でファッションショーを主催したって」
「え、ええ。何か、お祝いをしようと思って」
「お祝い?」
「シルヴィー、未来の皇子妃に決定したでしょう」
「まあ、それで? なんというか凄く驚きで、感激だわ。有難う、ジュリエット」
「え……そんな、私は大した事は何も……。全部お父様の財力でやった事だし、コレクション制作も若手君の大仕事だし……」

シルヴィーの手がジュリエットの腕を軽く掴んだ。

「そういう風に、一歩下がって考えられる事って大事よ。特に貴女みたいな大貴族のご令嬢には中々出来ない事だと思うの。ジュリエット、変わったわね」
「そ、そう……かな」
「そうよ。凄く成長してる。――って私、なんだか上からの言い方してるわね。ごめんなさい」
「う、ううん……いいの」

ジュリエットは俯き、地面に視線を這わせた。
落ち着かない彼女の様子に、シルヴィーは首を傾げる。
クラスメイト達は、双子を除いてテントの方に向かっている。
自分を待っているローラとローランドに目をやったシルヴィーは、ジュリエットに向き戻った。

「じゃあ私、行くわね。会えて良かったわ」
「え、ええ……私も」
「これからも応援してるから。お互い、残りの学生生活を頑張りましょう」

言い置いて、ジュリエットから手を放した。
その場を離れる寸前、ジュリエットの手が逆にシルヴィーの腕を掴んだ。
「え」と振り向いたシルヴィーに、ジュリエットは言い縋った。

「シルヴィー、あ、あのね」
「うん?」
「あの、皇城に――」

言いかけたジュリエットの双眸が、ハッと見開かれた。
シルヴィーは瞬き、ジュリエットの目線を追って振り返った。

「――ごきげんよう」

歩み寄るエレオノーレは、シルヴィーではなくジュリエットを見ていた。



シルヴィーはエレオノーレからジュリエットに目を戻して、首を傾げた。

「ジュリエット、エレオノーレ様と面識があるの?」
「面識、ってほどじゃ……」

まごつくジュリエットに代わり、エレオノーレが居丈高に告げた。

「彼女が支援する若手ドレスメーカーの顧客になってあげてるの」
「……そうでしたか」
「ショーを開くだけじゃ何の意味もないでしょ。ドレスメーカーなんて所詮ドレスが売れなきゃ生きていけないじゃない」
「……仰る通りですね」
「才能あるドレスメーカーに、母から貰った物件をアトリエとして提供してあげようと思ってるところなの。帝国の才能を応援するのは帝国人であるべきだわ」
「…………」

今のは、帝国人ではないシルヴィーとジュリエットへのマウント取りと聞こえた。
改めてエレオノーレとジュリエットを見比べて、シルヴィーは不思議な感覚に囚われた。

――似てるわね、この二人。

タイプは違えど、どちらも非常に美しい。全体的に色素が薄く、雰囲気が儚い。

――親戚と言われても納得してしまうわ。

考えるシルヴィーをよそに、エレオノーレがジュリエットに言った。

「貴女、ここでお会い出来たのは丁度良かったわ。ドレスメーカーの彼にリクエストがあるの。取り次いで頂けるかしら?」
「え、ええ……」

ぎこちない返事をしたジュリエットは、シルヴィーを上目遣いにした。

「じゃあ、ね、シルヴィー」
「ええ。さよなら」

互いに互いを送り出すようにしてその場を離れる。
待ってくれている双子のもとに合流しながら、シルヴィーは遅く気付いた。

「……エレオノーレ様、フリーダさんと一緒じゃなかったのね」

まさかまた身勝手な単独行動だろうか。会場のどこかで、タコヤキの器を手にしたフリーダが「お嬢様がいない!」と騒いでいなければ良いけれど。
とりあえず、今のところ「迷子のお呼び出し」は聞こえてこない。



周囲の喧騒に紛れながら、エレオノーレは低い声でジュリエットに切り出した。

「貴女もここに来てたなんてね。それにしても挙動不審過ぎよ、貴女。堂々としてなくちゃ怪しまれるでしょ」
「……ええ」
「貴女の幼馴染があの人だって分かった時は驚いたけど、好都合だったわ。あの人を奴隷化したい気持ちは変わってないのでしょう?」
「……まあ」
「良くってよ良くってよ。協力してあげてよ」
「……でも、奴隷化した彼女をどう使うべきかで悩んでます」
「とりあえず国に連れ帰れば良いのよ。あの人がメイジになった事は知ってるでしょ。末永く便利に使えばいいわ」
「……そう、思ってたんですけど」
「なんたって元・未来の皇子妃でメイジよ。王国では使い道あり過ぎて逆に困るんじゃないかしら。そしてあの人が消えた暁にはこの私が第三皇子妃候補に、いえ、この私こそが皇子妃に返り咲きよ。うっふふふふ」
「…………」

ジュリエットは、相変わらずシルヴィーに傍にいて欲しい。

――だからって、エレオノーレに皇子妃の座が渡るのは癪だわ。

ぜひ、シルヴィーにしてやられた負け犬のままでいて欲しい。
その為にはシルヴィーに、皇城に留まり続けてもらわなければならない。

――でも。

何を諦めるべきか分からない。

人の合間に、メイド服が見えた。舟形の器を手にした横顔が「エレオノーレお嬢様ー!」と声を上げ、見失った主人をおたおたと捜している。

――は? なにあれ、どんくさそうなメイド。

エレオノーレはあんな奴隷で満足しているのか――。





感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。