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帝都編
66 面識
ヒミカの陣取るテントが見えてきた時だった。
「シルヴィー」
パッと呼び声に振り返って、シルヴィー瞬いた。
「ジュリエット、来てたのね」
「え、ええ……」
歩み寄るジュリエットは、笑顔も足取りもどことなくぎこちない。
シルヴィーは彼女とその背後のテントを見比べた。
「貴女も占いに?」
「あ……、いいえ。もう見て来たから屋台に行くとこ」
「そうなの」
ふと、シルヴィーの脳裏に王都学園時代の記憶が過ぎる。
「占いのメイジに視てもらってはどうか」とカマを掛けたシルヴィーに、ジュリエットはえらく動揺していた。
――でも、自分からヒミカさんのもとに足を運んだのね。
最早後ろめたさはなく占いを警戒する必要がなくなった、という事ならめでたい。
シルヴィーはジュリエットに笑みを返した。
「聞いたわよ。大聖堂の前でファッションショーを主催したって」
「え、ええ。何か、お祝いをしようと思って」
「お祝い?」
「シルヴィー、未来の皇子妃に決定したでしょう」
「まあ、それで? なんというか凄く驚きで、感激だわ。有難う、ジュリエット」
「え……そんな、私は大した事は何も……。全部お父様の財力でやった事だし、コレクション制作も若手君の大仕事だし……」
シルヴィーの手がジュリエットの腕を軽く掴んだ。
「そういう風に、一歩下がって考えられる事って大事よ。特に貴女みたいな大貴族のご令嬢には中々出来ない事だと思うの。ジュリエット、変わったわね」
「そ、そう……かな」
「そうよ。凄く成長してる。――って私、なんだか上からの言い方してるわね。ごめんなさい」
「う、ううん……いいの」
ジュリエットは俯き、地面に視線を這わせた。
落ち着かない彼女の様子に、シルヴィーは首を傾げる。
クラスメイト達は、双子を除いてテントの方に向かっている。
自分を待っているローラとローランドに目をやったシルヴィーは、ジュリエットに向き戻った。
「じゃあ私、行くわね。会えて良かったわ」
「え、ええ……私も」
「これからも応援してるから。お互い、残りの学生生活を頑張りましょう」
言い置いて、ジュリエットから手を放した。
その場を離れる寸前、ジュリエットの手が逆にシルヴィーの腕を掴んだ。
「え」と振り向いたシルヴィーに、ジュリエットは言い縋った。
「シルヴィー、あ、あのね」
「うん?」
「あの、皇城に――」
言いかけたジュリエットの双眸が、ハッと見開かれた。
シルヴィーは瞬き、ジュリエットの目線を追って振り返った。
「――ごきげんよう」
歩み寄るエレオノーレは、シルヴィーではなくジュリエットを見ていた。
シルヴィーはエレオノーレからジュリエットに目を戻して、首を傾げた。
「ジュリエット、エレオノーレ様と面識があるの?」
「面識、ってほどじゃ……」
まごつくジュリエットに代わり、エレオノーレが居丈高に告げた。
「彼女が支援する若手ドレスメーカーの顧客になってあげてるの」
「……そうでしたか」
「ショーを開くだけじゃ何の意味もないでしょ。ドレスメーカーなんて所詮ドレスが売れなきゃ生きていけないじゃない」
「……仰る通りですね」
「才能あるドレスメーカーに、母から貰った物件をアトリエとして提供してあげようと思ってるところなの。帝国の才能を応援するのは帝国人であるべきだわ」
「…………」
今のは、帝国人ではないシルヴィーとジュリエットへのマウント取りと聞こえた。
改めてエレオノーレとジュリエットを見比べて、シルヴィーは不思議な感覚に囚われた。
――似てるわね、この二人。
タイプは違えど、どちらも非常に美しい。全体的に色素が薄く、雰囲気が儚い。
――親戚と言われても納得してしまうわ。
考えるシルヴィーをよそに、エレオノーレがジュリエットに言った。
「貴女、ここでお会い出来たのは丁度良かったわ。ドレスメーカーの彼にリクエストがあるの。取り次いで頂けるかしら?」
「え、ええ……」
ぎこちない返事をしたジュリエットは、シルヴィーを上目遣いにした。
「じゃあ、ね、シルヴィー」
「ええ。さよなら」
互いに互いを送り出すようにしてその場を離れる。
待ってくれている双子のもとに合流しながら、シルヴィーは遅く気付いた。
「……エレオノーレ様、フリーダさんと一緒じゃなかったのね」
まさかまた身勝手な単独行動だろうか。会場のどこかで、タコヤキの器を手にしたフリーダが「お嬢様がいない!」と騒いでいなければ良いけれど。
とりあえず、今のところ「迷子のお呼び出し」は聞こえてこない。
周囲の喧騒に紛れながら、エレオノーレは低い声でジュリエットに切り出した。
「貴女もここに来てたなんてね。それにしても挙動不審過ぎよ、貴女。堂々としてなくちゃ怪しまれるでしょ」
「……ええ」
「貴女の幼馴染があの人だって分かった時は驚いたけど、好都合だったわ。あの人を奴隷化したい気持ちは変わってないのでしょう?」
「……まあ」
「良くってよ良くってよ。協力してあげてよ」
「……でも、奴隷化した彼女をどう使うべきかで悩んでます」
「とりあえず国に連れ帰れば良いのよ。あの人がメイジになった事は知ってるでしょ。末永く便利に使えばいいわ」
「……そう、思ってたんですけど」
「なんたって元・未来の皇子妃でメイジよ。王国では使い道あり過ぎて逆に困るんじゃないかしら。そしてあの人が消えた暁にはこの私が第三皇子妃候補に、いえ、この私こそが皇子妃に返り咲きよ。うっふふふふ」
「…………」
ジュリエットは、相変わらずシルヴィーに傍にいて欲しい。
――だからって、エレオノーレに皇子妃の座が渡るのは癪だわ。
ぜひ、シルヴィーにしてやられた負け犬のままでいて欲しい。
その為にはシルヴィーに、皇城に留まり続けてもらわなければならない。
――でも。
何を諦めるべきか分からない。
人の合間に、メイド服が見えた。舟形の器を手にした横顔が「エレオノーレお嬢様ー!」と声を上げ、見失った主人をおたおたと捜している。
――は? なにあれ、どんくさそうなメイド。
エレオノーレはあんな奴隷で満足しているのか――。
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