靄が晴れましたので、

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帝都編

67 時期が悪い




八卦のショーの観覧を終えたシルヴィーは、十五分休憩に入ったヒミカのもとに向かった。
彼女のパフォーマンス中「ヒミカ様ー!」と叫ぶクラスメイトが男子にも女子にもいた。彼らはヒミカの後輩にしてファンであると公言している。楽しそうで何よりだ。
舞台袖で彼女と落ち合って、シルヴィーは称賛と労いの言葉を送った。
ヒミカは笑み「どうも」といつものようにクールに応じた。

「こちらも検証になりますし、楽しんでもらえて良かったですよ」
「展開する八卦が無限に広がっていく感じがして、とにかく凄かったです」
「本気を出せば八畳を超える事が分かってきました。このテントのように距離が把握し易い環境下ならイケます」
「広いの羨ましいです」
「その後ホワイトホールは?」
「微塵も広がりません。単純に魔力が足りないみたいで……」

雑談の途中で、シルヴィーは腕時計に目を落とした。

「この後みんなと運動場に行くんでした」
「シルヴィー様は、インテンス・パワーなんていつでも見られるでしょう」
「みんなとは見られませんよ」
「なるほど」

ヒミカの方もそろそろ休憩時間が終わる。
シルヴィーは彼女に手を振ろうとして、一つ思い出した。

「そう言えば幼馴染のジュリエットがこちらにお邪魔したそうです」

ヒミカが瞬いた。

「そうなんですか?」
「ええ。彼女、前はヒミカさんの占いを凄く警戒してたのに、今日は平気でテントに入れたって話してたんです。なんだか私、嬉しくて」
「……つかぬことをお伺いしますが、ジュリエット様は本日どのようなお召し物でいらっしゃったのでしょうか?」
「制服ですよ? 私と同じ」

これ、とシルヴィーは王都学園時代からのワンピースを見下ろし、示した。
帝都では二人だけのお揃いルック。再会当時こそ複雑に思えたけれど、さっき対面した際には何も感じなかった。
わだかまりが消えたという事だと思う。
ふと見ると、ヒミカが難しい顔をしている。今度はシルヴィーが瞬いた。

「どうされました?」
「いえ、学生服は母校のものも他校のものも多くテントで見かけましたが、そちらのワンピースを見た記憶がなく……」

唸ったヒミカは尚も瞬くシルヴィーに目を向け、笑んだ。

「単なる見落としでしょう。テント内は暗いですし、一度の観客数は五十人もいますからね」

なんとなく頷いて、シルヴィーはヒミカと別れた。



運動場でインテンス・パワーのパフォーマンスが行われていた頃。
正門方面で、アクシデントが生じた。
カッと強烈な白い光が照り付け、その場にいた通行人を直撃した。急に視界がホワイトアウトし、人々から短い悲鳴が上がった。
数秒で光は弱まり、正常に戻る。
校内放送があった。

「――ご来場の皆様にお知らせです。只今、照明機材の調節中に不手際が発生しました。既に解消されておりますので、引き続きエキスポをお楽しみください」

通行人達は納得し、往来を再開した。
冬の曇り空は昼間でも暗い。灯りがあるのは有難い。



クラスメイト達に別れを告げ、シルヴィーは皇城に戻った。
コーヒーテーブル上で組んだ両腕に顎を載せて、出しっぱなしにしたホワイトホールを眺めている。
さっきからウサギの顔が出たり引っ込んだりしている。
多少の魔力消耗と引き換えに癒しを得られる。アイドルにつぎ込むファン心理に近い。中毒性が高い。
扉のノックが、シルヴィーの中毒を一時中断させた。
やって来たヴィンツェンツは、丁度顔を出したウサギと目線を合わせて嘆息した。

「ほどほどにしろ。今日は出掛けて疲れているだろう」
「遊びに行った分際で疲れました、なんて言いません」
「……つくづく、私がそなたの微力な魔力をフォロー出来ればと思う。何を隠そう肩代わりの魔法や手法がないか、ダメ元で探させている」
「お心遣いに感謝致します。でも私は元気ですよ」
「心が元気というのは厄介だな。そういう脳のマヒがあるだろう。エンドロフィンだったか……」

向かい側の席に座った彼は、手の中の紙切れをテーブル上に置いた。

「実はな、例の森の大惨事の調査で思わぬ容疑者が浮上している」
「思わぬ容疑者?」
「東の辺境出身の新米士官だ」
「東の辺境――ロンネフェルト侯爵領ですか」

うむ、と彼は頷いた。

「正確には母方が東の出で、本人は父方の南の辺境伯軍に属している」
「その方が怪しいんですか?」
「事件から暫くして母方の実家に帰省している。だがそれ以前に、この士官は今年の魔法遠征が悪魔の森で行われると決まった後に、森への配属希望を出していた」

動きだけを見ると確かに怪しい。
シルヴィーの脳裏に嫌な考えが過った。

――エレオノーレ様を狙って……?

目で、彼に伺う。同じ事を推測しているらしいヴィンツェンツは、軽く首を左右に振り「分からん」と無言で告げた。
シルヴィーは頷いた。

「取り調べはまだなんですね?」
「まだだ。本人が掴まらん。帰省理由は祖母の病の悪化だったと言うが、侯爵領内でもかなり辺鄙な田舎村に家があるようだ。極秘捜査だからな。まさか侯爵の手下どもに様子を見て来い、とは命じられん。こちらから人員を送って地道に調べを進めている」
「まだ時間がかかりそうですね」
「あちらは吹雪だ。難航するかもな」
「雪……道もレールも塞がっちゃいますね」
「タイムロスは免れん」

雪の景色を想念しているのか、ヴィンツェンツが唸るように言った。

「全く、時期が悪い。私はそなたとスキーリゾートに繰り出すつもりでいたと言うのに、テロまがいの輩を放置も出来ん」

シルヴィーは苦笑した。

「参りましょう。来年にでも」

ヴィンツェンツは喉の奥で唸って頷いた。
深刻な人間達をよそに、ウサギは額を指で撫でられながら気持ちよさそうに目を細めていた。





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