靄が晴れましたので、

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帝都編

68 不自然




ペントハウスに戻って以来、ジュリエットは頭を抱え込んでいた。
酷く混乱している。どうすれば良いのか分からない。

――私がここにいる理由は、シルヴィーを取り戻したいから。

他に望みはないし、その為に従姉妹だか何だかを利用する事に一切の罪悪感も抵抗感もなかった。
正当な権利だと思っていた。
ホテルのレストランで初対面したあの日、エレオノーレは笑みと共に告げた。

「一度成功した奴隷化が急に解けた理由は一つしか考えられないわ。恐らく、貴女のお母様を超えるメイジに何らかの魔法で対抗されたのよ」
「奴隷化に対抗する魔法があるんですの?」
「そりゃそうよ。魔法って便利じゃないし甘くもないのよ。でももし、奴隷化させたのが貴女の血統の女性でなければ解けていなかった筈だわ」

ジュリエットは惚けた。
エレオノーレは笑んだ。

「勘違いしてるみたいだから教えてあげるわね。ヘッド・ファミリー(本家)はこっちなの。貴女のお母様は所詮ブランチ・ファミリー(分家)って事。だから魔法が弱いの。お分かり?」

ジュリエットは、初耳に惚けた。

「弱い魔法だったから対抗に負けて、解けた? お母様は命までかけたのに……」
「魔法にも格があって強弱があるもの。同じ魔法でも使い手によって差が生じるのは、仕方のない事よ」
「そんな……」
「大丈夫よ。私が貴女にレンタルするのは、貴女よりもヘッド・ファミリーから近い血統の駒だから」
「……本当に、レンタルしてくれるんですか。その駒の意思は?」
「私には絶対服従よ。心配しないで」
「……貴女は、どうして私に手を貸してくれるんですか」
「利害の一致よ。あの外国女が邪魔だから、貴女が連れ帰ってくれるなら喜んで手を貸すわよ」
「…………」

つまり奴隷候補がシルヴィーでなければ、何のメリットもないエレオノーレはジュリエットに手を貸さなかったという事になる。

――なにか、不自然な感じはしていたのよ。

レストランでのやり取りを想念したジュリエットは、背筋に悪寒を走らせた。
帝国の連中なんて誰も信用出来ない。
困惑がピークに達すると共に、ジュリエットは恐怖心に駆られた。

――シルヴィーに教えなきゃ。ヤバいのが傍にいるって。

ついさっき、エキスポ会場たる学校の正門前で強烈な光を浴びた。
不慮の事故に遭遇した事で目が覚め、決心がついた。

――明日になったら全部話そう。皇城に行こう。そうだ。保護してもらおう。

登城前に大聖堂に寄って司祭に会って、心を落ち着けよう。



シルヴィーのサロンに来た侍女が、庭で摘んだ生花を手に告げた。

「エレオノーレ様が熱を出して寝込まれているそうです」

シルヴィーは、ソファーから侍女を振り返った。

「大丈夫なんですか?」
「ええ。侍医から薬を処方されていますし、例によってフリーダが付きっきりで看護してますからね。そもそも自業自得なんですよ」
「自業自得?」
「体力ない癖して人の多いエキスポに出掛けるからです」
「ああ……」
「シルヴィー様も会場で遭遇されたんですよね。エレオノーレ様、寒い恰好してませんでしたか?」
「そう言えば、コートやストールの類はなかったですね」
「あの方は生地の分厚い装備がお嫌いなんだそうです。重苦しいって言って剥ぎ取ってるって他の侍女が言ってました。ワザと風邪を引こうとしてるんだって」
「……変な頑張りですね」
「かまってちゃんなんですよ。お陰でフリーダの看病スキルは上がる一方です。元々手慣れてるみたいですけど」
「聞きました。お身内がご病気だとか」
「あの人こそ変な頑張りしてるんですよ。ホント理解出来ません。善人だけど、嫌いです」
「…………」

沈黙するしかないシルヴィーに気付き、もう一方の侍女が同僚の背を肘打ちした。

「早くお花を活けなおしてね」
「あ、ごめんなさい」

そそくさと動く侍女達を、シルヴィーはただ眺めた。



翌週の月曜日を以て、シルヴィーは今年最後の登校を終えた。
北国は、早々に冬季休暇シーズンに突入した。

城内のキッチンに向かったシルヴィーは、センジュにメニューのリクエストを出した。

「シュトーレンのこの時期に、シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(黒い森のさくらんぼケーキ)をお願いするのはどうかと思うのですが……」
「いやいや、全然構わんですよ。俺も好きですよ、キルシュヴァッサー(さくらんぼの蒸留酒)」
「センジュさんって、スイーツでもパンでも何でも作っちゃいますよね」
「何でも作れるのがシェフって奴です。まあ専門職のいる分野に全て勝つとか無理ですがね」

フルーツの棚を確認しながら、センジュは「そうそう」と切り出した。

「ヒミカの奴がスキーリゾートに行っちまいましてね」
「それは素敵ですね」
「旦那を置いて一人旅ですよ。あいつ、かなりのスキーフリークですからね。運動音痴の旦那がいたら足手まといなんです」
「あら……」
「かくいう俺も年明けにはアイスクライミングに出掛ける予定です。毎年、帝都学園の雪山クラブに便乗させてもらってるんですよ」
「良いですね」
「ヒミカが元クラブ所属でして、引率のセンセーの真似事をしてます」
「お二人共ウィンタースポーツがお好きなんですねえ……」

その時、ヴィンツェンツがキッチンに顔を出した。
初めて訪ねてきた皇子を見て、キッチンメンバーに緊張が走る。
それらに頓着することなく、彼はシルヴィーを手招きした。

「少しいいか」
「あ、はい」

シルヴィーは早足でキッチンを出た。





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