75 / 86
帝都編
75 悪い事
瞬いたシルヴィーは「どういう事?」とウサギに訊ねた。
ウサギは教えた。
――魔法で夢に来た。
シルヴィーは瞬く。
ウサギは続けた。
――夢をトレースする魔法を使っていた。トレースされたのは、皇子。
新たな事実にシルヴィーは惚けた。
エレオノーレは魔法でヴィンツェンツを追いかけ、ウサギの夢に侵入していた。
ならば彼女はメイジだ。
折角の魔法を持ちながら、その事実を何年も黙っていた。第三皇子妃に王手をかけるチャンスを自らふいにした。意味が分からない。
シルヴィーには、意味不明の行動理念に心当りがあった。
意に反する行動を取っていた。エレオノーレに「不具合」がある――としたら。
この想定を、シルヴィーはすぐさま「違う」と否定した。
「彼女はアンミツを口にしたのよ」
センジュのワ食を食べたのはフリーダだけではなかった。主従は揃ってお祓いを受けたにも拘わらず、どちらにも効果は表れなかった。
その時、いつかの自分の想像が頭を過った。ワ食を上回る強烈な魔法がかけられているのだとしたら――。
いや二人揃っては有り得ない。フリーダに何の不具合もない事は、既にヒミカの占いで証明されている。
「――でもヒミカさんは、エレオノーレ様を占ったんじゃない」
根本的な見落としをしている気がしてきた。
ヒミカと話がしたい。もう一度、現状を彼女に視てもらいたい。
未だ彼女は集中治療室で、意識は戻っていない。彼女を発見した精鋭部隊によれば八卦の光が彼女の所在地を教えてくれたと言う。
彼女はダイナミックな八卦を遭難信号代わりにした。機転が利く彼女らしい。
シルヴィーは不意の閃きを得て、ウサギを見詰めた。
「スノーホワイトも八卦――大きな八角形の模様を見た?」
ウサギは「然り」と答えた。
シルヴィーは、更に問うた。
「他に何も、見たり聞いたりしなかった?」
救出される直前にヒミカは八卦を使用した。何かや誰かを占えたかもしれない。
ウサギは、紙面でシャカシャカとペンを動かし始めた。一生懸命な動きが可愛いのでつい和んでしまう。
書き記された内容は、驚愕のものだった。
ヒミカは、ウサギにメッセージを託していた。
「シルヴィー様、……伝えて。狙撃手には、靄がかかって。……もう一人、私が追っていた、女は……ジュリエットを連れ……、メイドの身内……フ、リーダを、調べ……」
八卦の領域に入った「男女二人」の犯人を彼女は視て、真実に辿り着いた。
フリーダに疑いの目を向けた瞬間、シルヴィーの頭の中でバラバラだったパズルのピースが次々と嵌っていった。
ヒミカはエレオノーレを占っていない。
占いの結果、フリーダに不具合はなかった。フリーダは幸福に包まれている。
「――エレオノーレ様を自由にコントロール出来ている貴女は幸福です。彼女は貴女にとって可愛いお人形さんなんです。そして貴女自身には他者による不具合なんて起こっていないんだから、お祓いが効く筈もありませんでした」
フリーダは首を傾げた。
「シルヴィー様、申し訳ありません。お話がよく分からないのですが」
「ヒミカさんが本当に占うべきだったのはエレオノーレ様だったんです。彼女にこそ不具合が生じていた。テロ容疑の士官やケルスティン妃と同じ不具合が、魔法が……」
「シルヴィー様、何を仰っているのですか? もしかして私が悪いメイジだと仰っているのですか? そうでない事はお城の文官が証明していますよ。メイジ判定をするメイジの方です」
「聞きました。お城に入る際、貴女はチェックを受けられたそうですね。使用人には必要な手順だとか」
「はい。保安上の理由と説明を受けました」
「でも保護対象で侯爵令嬢であるエレオノーレ様はチェックを免れていらっしゃいます。それはそうですよね。魔法があるなら彼女は自ら手を挙げるお立場です」
「はい。私達に魔法はありませんでした。ですがお城に入った後でお嬢様がメイジ開花された可能性はあります。もしもお嬢様が隠されたのであれば、私には知りようがないですね」
「そう、主張するつもりですか」
「主張も何も事実です」
フリーダの笑みは変わらない。
善良で、健気な彼女の姿勢は「悪い事が起こっていない」からで「悪い事をしている自覚がない」からなのだと、シルヴィーは改めて認識した。
話を続けた。
「少なくともエレオノーレ様に魔法をかけた人物は、センジュさんを超える強いメイジです。ワ食が効いていませんから」
「さっきから占い師さんやシェフさんが出てくるの、凄く不思議です」
「フリーダさん、今日までエレオノーレ様に行ってきた仕打ちを今ここで私に告白してください。そうすれば自首として認めてもらえるよう私から捜査機関に口添えします」
ええと、とフリーダはやはり首を傾げた。
「私は何を告白すればよろしいのでしょう?」
シルヴィーは告げた。
「エレオノーレ様に癇癪持ちの子供を演じさせて侯爵領で孤立させ、虐待の虚言をさせてお城に保護されるよう仕向けた件です」
「あの、虐待児と言い張ったからってお城に入れてもらえるものでしょうか?」
「妃候補なら高確率で保護されます。無理だったとしても、別の手を貴女は用意していた筈です。いえ――貴女方姉妹は」
「え? 姉の事を持ち出されてます? 生憎、姉は臥せがちの人なので何かの共犯には全く向いていないかと」
本人が言ってくれなかったので、シルヴィーが言った。
「お姉様ならもう一人、いらっしゃるでしょう」
ヒミカが追跡していた、黒ずくめのフーディーを被った人物だ。
シルヴィーは言い当てた。
「貴女の双子のお姉様です。時々、入れ替わってましたよね」
エレオノーレの世話焼きでフリーダは目が回るほど忙しい――と周囲の目には映っていた。
実際にはそうでもなかった。姉妹で役割を分担していた。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね
との
恋愛
離婚したいのですか? 喜んでお受けします。
でも、本当に大丈夫なんでしょうか?
伯爵様・・自滅の道を行ってません?
まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。
収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。
(父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる)
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
32話、完結迄予約投稿済みです。
R15は念の為・・
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。