靄が晴れましたので、

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帝都編

75 悪い事




瞬いたシルヴィーは「どういう事?」とウサギに訊ねた。
ウサギは教えた。

――魔法で夢に来た。

シルヴィーは瞬く。
ウサギは続けた。

――夢をトレースする魔法を使っていた。トレースされたのは、皇子。

新たな事実にシルヴィーは惚けた。
エレオノーレは魔法でヴィンツェンツを追いかけ、ウサギの夢に侵入していた。
ならば彼女はメイジだ。
折角の魔法を持ちながら、その事実を何年も黙っていた。第三皇子妃に王手をかけるチャンスを自らふいにした。意味が分からない。
シルヴィーには、意味不明の行動理念に心当りがあった。
意に反する行動を取っていた。エレオノーレに「不具合」がある――としたら。
この想定を、シルヴィーはすぐさま「違う」と否定した。

「彼女はアンミツを口にしたのよ」

センジュのワ食を食べたのはフリーダだけではなかった。主従は揃ってお祓いを受けたにも拘わらず、どちらにも効果は表れなかった。
その時、いつかの自分の想像が頭を過った。ワ食を上回る強烈な魔法がかけられているのだとしたら――。
いや二人揃っては有り得ない。フリーダに何の不具合もない事は、既にヒミカの占いで証明されている。

「――でもヒミカさんは、エレオノーレ様を占ったんじゃない」

根本的な見落としをしている気がしてきた。
ヒミカと話がしたい。もう一度、現状を彼女に視てもらいたい。
未だ彼女は集中治療室で、意識は戻っていない。彼女を発見した精鋭部隊によれば八卦の光が彼女の所在地を教えてくれたと言う。
彼女はダイナミックな八卦を遭難信号代わりにした。機転が利く彼女らしい。
シルヴィーは不意の閃きを得て、ウサギを見詰めた。

「スノーホワイトも八卦――大きな八角形の模様を見た?」

ウサギは「然り」と答えた。
シルヴィーは、更に問うた。

「他に何も、見たり聞いたりしなかった?」

救出される直前にヒミカは八卦を使用した。何かや誰かを占えたかもしれない。
ウサギは、紙面でシャカシャカとペンを動かし始めた。一生懸命な動きが可愛いのでつい和んでしまう。
書き記された内容は、驚愕のものだった。
ヒミカは、ウサギにメッセージを託していた。

「シルヴィー様、……伝えて。狙撃手には、靄がかかって。……もう一人、私が追っていた、女は……ジュリエットを連れ……、メイドの身内……フ、リーダを、調べ……」

八卦の領域に入った「男女二人」の犯人を彼女は視て、真実に辿り着いた。

フリーダに疑いの目を向けた瞬間、シルヴィーの頭の中でバラバラだったパズルのピースが次々と嵌っていった。



ヒミカはエレオノーレを占っていない。
占いの結果、フリーダに不具合はなかった。フリーダは幸福に包まれている。

「――エレオノーレ様を自由にコントロール出来ている貴女は幸福です。彼女は貴女にとって可愛いお人形さんなんです。そして貴女自身には他者による不具合なんて起こっていないんだから、お祓いが効く筈もありませんでした」

フリーダは首を傾げた。

「シルヴィー様、申し訳ありません。お話がよく分からないのですが」
「ヒミカさんが本当に占うべきだったのはエレオノーレ様だったんです。彼女にこそ不具合が生じていた。テロ容疑の士官やケルスティン妃と同じ不具合が、魔法が……」
「シルヴィー様、何を仰っているのですか? もしかして私が悪いメイジだと仰っているのですか? そうでない事はお城の文官が証明していますよ。メイジ判定をするメイジの方です」
「聞きました。お城に入る際、貴女はチェックを受けられたそうですね。使用人には必要な手順だとか」
「はい。保安上の理由と説明を受けました」
「でも保護対象で侯爵令嬢であるエレオノーレ様はチェックを免れていらっしゃいます。それはそうですよね。魔法があるなら彼女は自ら手を挙げるお立場です」
「はい。私達に魔法はありませんでした。ですがお城に入った後でお嬢様がメイジ開花された可能性はあります。もしもお嬢様が隠されたのであれば、私には知りようがないですね」
「そう、主張するつもりですか」
「主張も何も事実です」

フリーダの笑みは変わらない。
善良で、健気な彼女の姿勢は「悪い事が起こっていない」からで「悪い事をしている自覚がない」からなのだと、シルヴィーは改めて認識した。
話を続けた。

「少なくともエレオノーレ様に魔法をかけた人物は、センジュさんを超える強いメイジです。ワ食が効いていませんから」
「さっきから占い師さんやシェフさんが出てくるの、凄く不思議です」
「フリーダさん、今日までエレオノーレ様に行ってきた仕打ちを今ここで私に告白してください。そうすれば自首として認めてもらえるよう私から捜査機関に口添えします」

ええと、とフリーダはやはり首を傾げた。

「私は何を告白すればよろしいのでしょう?」

シルヴィーは告げた。

「エレオノーレ様に癇癪持ちの子供を演じさせて侯爵領で孤立させ、虐待の虚言をさせてお城に保護されるよう仕向けた件です」
「あの、虐待児と言い張ったからってお城に入れてもらえるものでしょうか?」
「妃候補なら高確率で保護されます。無理だったとしても、別の手を貴女は用意していた筈です。いえ――貴女方姉妹は」
「え? 姉の事を持ち出されてます? 生憎、姉は臥せがちの人なので何かの共犯には全く向いていないかと」

本人が言ってくれなかったので、シルヴィーが言った。

「お姉様ならもう一人、いらっしゃるでしょう」

ヒミカが追跡していた、黒ずくめのフーディーを被った人物だ。
シルヴィーは言い当てた。

「貴女の双子のお姉様です。時々、入れ替わってましたよね」

エレオノーレの世話焼きでフリーダは目が回るほど忙しい――と周囲の目には映っていた。
実際にはそうでもなかった。姉妹で役割を分担していた。





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