靄が晴れましたので、

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帝都編

76 テロ




共犯者の存在を持ち出されても、フリーダの態度は変わらなかった。
悪びれない、というより邪気がない。

――無邪気って恐い事なのね。

シルヴィーは、フリーダという人物に恐怖とも好奇とも付かない感情を抱いた。

「私はこれまで貴女を見てきましたし感心してきました。貴女は善良で献身的な女性です。それは間違いありません」
「まあ、お褒め頂けて光栄です。有難うございます」
「だからこそ強く、自首をお勧めしたいんです。このまま逮捕された場合、貴女は終身刑を免れません。テロの実行犯がお姉様の方なのは分かっています。残念ですが彼女の方は極刑に処される見通しです」
「あの、私に双子の姉がいるとして、どうしてテロリスト扱いになるんですか?」

フリーダはやっと訊いた。と、シルヴィーは密かに思った。
人は藪蛇を恐れ、疚しい部分に触れたがらない。

「魔法遠征の二日目、森に入る際にお会いしました」
「はい。ご挨拶しましたよね」
「あれは貴女ではなくお姉様の方です。カッコいい腕時計をされていたでしょう」
「まあ、お褒め頂けて光栄です」
「お姉様とは普段から異なるビジュアルをされているんですよね。ブラックカラーのフーディーと同じカラーの腕時計はマッチします」
「お褒め頂けて光栄なのですがシルヴィー様、コーディネートの違いで別人と言い張られるのはいかがなものかと」
「違いますよ、フリーダさん。腕時計を見た時、私は小さな違和感を覚えました。その後色々あってすっかり失念していたのですが、つい最近ようやくその正体が分かりました。――鞭打ちの痕です。腕時計を嵌めた手首は綺麗でした」

フリーダは、メイド服の袖から出た白い手を見下ろした。袖のすぐ傍にある傷を想起している。
シルヴィーは続けた。

「でもエレオノーレ様を捜してビースト研究所を訪ねられた時には、貴女に戻っていましたね。兵士に縋る腕には見覚えのある傷跡があった事を思い出しました。そして私達と同じく森の西側にいた貴女は、テロの実行犯では有り得ません」
「……何と言いますか、シルヴィー様の記憶だけが頼りなのですね」
「そうです。私の記憶だけでは決定的な証拠とは言えません」
「ですよね」
「ですが、貴女のお姉様は既に逮捕されていますので、私が頑張って証言する必要はありません」

フリーダが固まる。
シルヴィーは淡々と告げた。

「帝国に何人の捜査官が、メイジがいるとお思いで? 目を付けられた時点で貴女方は詰みです。それを自覚しているからこそ、絶対に疑われないように動き回っていたんでしょう?」
「姉が、逮捕された……?」
「連絡がないのは吹雪の所為だと思っていたのでは? 実際には彼女は侯爵領内で確保された後、辺境伯軍に連行されています」

フリーダは固まり続けた。まだ状況を呑み込めていないようだ。
シルヴィーは畳みかけた。

「フリーダさん、貴女の献身や使命感は本物です。底知れない恐怖すら私は感じています。お姉様のテロを実行させる為に、貴女はお姉様が身に着けたメイド服を纏い、森の西側に留まった。似た姿形とにおいでカラスに自分を追跡させた事は分かっています。貴女はあの場で死ぬ覚悟でいたんです。エレオノーレ様を残して」
「……時には辛い決断ってありますよね。でも、お嬢様に上り詰めてもらうには他のお嬢様方がいては困るし」
「一番の邪魔者は、私ですね」
「……シルヴィー様の事は尊敬していますし、好きです」
「でも貴女方の目的の為には消す必要性もあったんですよね。だから大勢と一緒に死のうとした。エレオノーレ様を奇跡の生還者にする為に」
「……私は、どなた様にも死んで頂きたいと思った事は一度もありません」
「貴女に殺意がない事はヒミカさんが証言出来ます。だからここで全て告白してください。どうか――」

一旦言葉を切って、一番訊き出したい事を口にした。

「ジュリエットの居場所を教えてください。あの子はどこにいるんですか?」

帝都を出た後のジュリエットの足取りが、完全に途絶えていた。



フリーダの姉を捕らえて以来、辺境伯軍は付近の森や寒村地域を中心に捜索活動を行っている。
山狩りの末に捕らえられた女テロリストは、帝都から連れ出したジュリエットを伴っていなかった。どこかに監禁していると思われた。
女テロリストは取調室でも口を割らず、完全黙秘を貫いている。
捜査官は机上を叩いてがなった。

「お前の姉妹が拷問にかけられてもいいのか!」

テロリストは捜査官を睨んだ。

「死は覚悟の上だ。どの道こうなっては私達はもう終わりだ」
「姉妹だけでも助けてやれ! これ以上罪を重ねるな!」
「煩い! 卑賤ども、誰に口を利いている!」

捜査官は双眸を細めた。

「ならば誰に口を利いているのか、探らせてもらおうじゃないか」

帝都から一人のメイジが遣わされ、テロリストを調べた。対象者の血統を知る魔法によって、テロリストの正体が判明した。北の亡国から逃れた古い貴族の末裔――それだけ分かれば充分だった。

北の亡国が革命の戦火に見舞われた際、帝国は女性皇族数名の亡命を手助けしている。無論、彼女らの居所を知っている。
そして彼女らは家臣の魔法――とりわけヘリテイジを把握している。捜査官は、今は民間人として安全圏で暮らす彼女らに問い合わせるだけで、敵の魔法を知れた。

「人の価値観をすり替えて奴隷化する魔法とは、恐ろしい」

言い当てられ、女テロリストは金切り声で咆哮した。
長らく抱えてきた秘密が、遂に暴かれたのだ。





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