靄が晴れましたので、

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帝都編

78 証言




どれほど強烈な魔法にも、必ず対抗が存在する。

エレオノーレと士官、そしてケルスティンにかけられていた奴隷化は解かれた。
解いたのはワ食ではない。三人はセンジュを超えるメイジによって奴隷化されていた。
帝国の秘密兵器が投入された。
ヘリテイジたる皇太子だけが使える「生命に対するいかなる魔法も無力化する」魔法だ。継承ルールは「皇太子である事」となっている。
この特殊な魔法は新しく、凡そ一世紀前に生じた。原始の魔法ではないにも拘らずヘリテイジ扱いなのは、血族が労せず継承しているからだ。

皇太子のスペルによって正常化した三人は、それぞれ取調べを受けた。
最新の奴隷たるケルスティンは「エレオノーレのメイドと面差しの似た女性と会った後に認識が狂った」と話した。エレオノーレを娘のように可愛がれと命じられたと言う。
南部の辺境伯軍所属の士官も「去年の帰郷時、メイドに似た女と会って以来、彼女の指示は絶対だと思い込むようになった」と証言している。
悪魔の森にあったカラスの縄張りに爆発物を仕掛ける作業にも加担していた。

「こんな事をすれば大惨事を招くとちゃんと頭では理解していたのに、女の命令に逆らえなかったんです。彼女の為にやらなくてはと、そればかり考えて――」

彼らは強烈な魔法に支配され、抗えなかった。
最も長く、最も多くの仕事を強いられていたエレオノーレは、メイドへの恨み辛みを長々と語った。

「あの下賤の女、信じられませんわ!」

彼女は、実家では手の付けられない癇癪持ちの子供を、城では憐れな虐待児を、森では迷子を演じなければならなかった。これらに加え、ジュリエットの前では遠いご親戚にも扮した。
何役もこなし、フリーダを超過する多忙の日々を送っていた。しかも鞭打ちや頭部の負傷まで自作自演させられている。
どれほど酷な命令にも抗う術がない。恐ろしい魔法がかけられていたのだ。

「勿論、フリーダは極刑ですわよね!」

怒り心頭で詰め寄ったエレオノーレに、捜査官は「まだなんとも……」と返した。
テロの共犯なので無罪は有り得ないのだが実行犯でない分、罪と罰は軽い。

「恐らく終身刑が妥当と――」

言いかけた捜査官にエレオノーレは「はあああ? 殺しなさいよ!」とがなった。
捜査官らの心証としては、余程エレオノーレの方が犯罪者に近い。
ある意味で、エレオノーレも軽犯罪に手を染めている。
第三皇子ヴィンツェンツの夢をトレースしていた。ヘリテイジである事を伏せていたのはフリーダの指示によるものとしても、問題はそこではない。
トレース自体は、エレオノーレ自身の意思で行われていた。
城に来て間もなく、ヘリテイジとして覚醒したエレオノーレは、フリーダへの報告を後回しにしてヴィンツェンツへのトレースを実行した。
この安直な行動が後に裏目に出て、フリーダ達からすれば不都合へと発展する。
ヴィンツェンツが視ていた霧の森の夢は、皇族の秘密に抵触していた。
思った以上の大事は良くも悪くも作用した。妃候補だったエレオノーレが注目された事は一見良かったように思う。
けれど、皇族から度々「その後、夢は?」と訊かれる羽目になった。
エレオノーレのトレースは同じ人物に一度しか行えない。また彼女の魔法は本来、同じ夢を視る能力ではない。
自分が眠っている間に対象者の頭の中に入り込み、思考を読み取る能力なのだ。
翌朝になってエレオノーレの浅慮を知らされたフリーダは、姉に知恵を求めた。
エレオノーレは密談の場に呼び出され、フリーダの姉に睨まれた。

「やらかしましたね、お嬢様。メイジ覚醒がバレたら貴女、城を追放されますよ。魔法を使って第三皇子の情報を盗み見たも同然ですからね」
「ご、ごめんなさい。殿下の事が知りたくてつい……」
「しかも一度しか使えないんじゃ、もう皇子と夢で会えないじゃないですか。ショボ過ぎるでしょう。――ああそうか。だから貴女の母方はヘリテイジが絶えた事にしたんだ。人様にお見せ出来るほどのものじゃないと自覚していた。違います?」
「……そう、聞いてるわ」
「くっだらない事でチャンスをふいにしてくれましたね。愚か過ぎますよ貴女。ちゃんと課題してます? フリーダに押し付けてないでしょうね」
「し、してるわ、ちゃんと自分で全部。フリーダに理系の科目は無理だし」
「ええ無理ですよ。フリーダは数字が苦手なんです。だから貴女がやってフリーダにやってもらっている体をお願いしてます。フリーダが優秀で謙虚な女性に見えるようにね。まあ心根が天使なのは本当ですけど。根性悪の貴女と違って」
「……そう、ね。貴女の言う通り……」
「はあ。やれやれ。――毎日お守りしてて大変ね、フリーダ」

フリーダは姉に「そんな事ないわよ」と微笑んだ。

「これも私達三姉妹の未来の為よ」
「そうね。今の奴隷は二人だけど、もう一人予備が欲しいかしら――」

捜査官は、エレオノーレの証言で「話が繋がったな」と思った。
この数年後に予備の奴隷としてケルスティンが選ばれた。
奴隷が増やせる。彼女達の魔法は、恐ろしい――。





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