78 / 86
帝都編
78 証言
どれほど強烈な魔法にも、必ず対抗が存在する。
エレオノーレと士官、そしてケルスティンにかけられていた奴隷化は解かれた。
解いたのはワ食ではない。三人はセンジュを超えるメイジによって奴隷化されていた。
帝国の秘密兵器が投入された。
ヘリテイジたる皇太子だけが使える「生命に対するいかなる魔法も無力化する」魔法だ。継承ルールは「皇太子である事」となっている。
この特殊な魔法は新しく、凡そ一世紀前に生じた。原始の魔法ではないにも拘らずヘリテイジ扱いなのは、血族が労せず継承しているからだ。
皇太子のスペルによって正常化した三人は、それぞれ取調べを受けた。
最新の奴隷たるケルスティンは「エレオノーレのメイドと面差しの似た女性と会った後に認識が狂った」と話した。エレオノーレを娘のように可愛がれと命じられたと言う。
南部の辺境伯軍所属の士官も「去年の帰郷時、メイドに似た女と会って以来、彼女の指示は絶対だと思い込むようになった」と証言している。
悪魔の森にあったカラスの縄張りに爆発物を仕掛ける作業にも加担していた。
「こんな事をすれば大惨事を招くとちゃんと頭では理解していたのに、女の命令に逆らえなかったんです。彼女の為にやらなくてはと、そればかり考えて――」
彼らは強烈な魔法に支配され、抗えなかった。
最も長く、最も多くの仕事を強いられていたエレオノーレは、メイドへの恨み辛みを長々と語った。
「あの下賤の女、信じられませんわ!」
彼女は、実家では手の付けられない癇癪持ちの子供を、城では憐れな虐待児を、森では迷子を演じなければならなかった。これらに加え、ジュリエットの前では遠いご親戚にも扮した。
何役もこなし、フリーダを超過する多忙の日々を送っていた。しかも鞭打ちや頭部の負傷まで自作自演させられている。
どれほど酷な命令にも抗う術がない。恐ろしい魔法がかけられていたのだ。
「勿論、フリーダは極刑ですわよね!」
怒り心頭で詰め寄ったエレオノーレに、捜査官は「まだなんとも……」と返した。
テロの共犯なので無罪は有り得ないのだが実行犯でない分、罪と罰は軽い。
「恐らく終身刑が妥当と――」
言いかけた捜査官にエレオノーレは「はあああ? 殺しなさいよ!」とがなった。
捜査官らの心証としては、余程エレオノーレの方が犯罪者に近い。
ある意味で、エレオノーレも軽犯罪に手を染めている。
第三皇子ヴィンツェンツの夢をトレースしていた。ヘリテイジである事を伏せていたのはフリーダの指示によるものとしても、問題はそこではない。
トレース自体は、エレオノーレ自身の意思で行われていた。
城に来て間もなく、ヘリテイジとして覚醒したエレオノーレは、フリーダへの報告を後回しにしてヴィンツェンツへのトレースを実行した。
この安直な行動が後に裏目に出て、フリーダ達からすれば不都合へと発展する。
ヴィンツェンツが視ていた霧の森の夢は、皇族の秘密に抵触していた。
思った以上の大事は良くも悪くも作用した。妃候補だったエレオノーレが注目された事は一見良かったように思う。
けれど、皇族から度々「その後、夢は?」と訊かれる羽目になった。
エレオノーレのトレースは同じ人物に一度しか行えない。また彼女の魔法は本来、同じ夢を視る能力ではない。
自分が眠っている間に対象者の頭の中に入り込み、思考を読み取る能力なのだ。
翌朝になってエレオノーレの浅慮を知らされたフリーダは、姉に知恵を求めた。
エレオノーレは密談の場に呼び出され、フリーダの姉に睨まれた。
「やらかしましたね、お嬢様。メイジ覚醒がバレたら貴女、城を追放されますよ。魔法を使って第三皇子の情報を盗み見たも同然ですからね」
「ご、ごめんなさい。殿下の事が知りたくてつい……」
「しかも一度しか使えないんじゃ、もう皇子と夢で会えないじゃないですか。ショボ過ぎるでしょう。――ああそうか。だから貴女の母方はヘリテイジが絶えた事にしたんだ。人様にお見せ出来るほどのものじゃないと自覚していた。違います?」
「……そう、聞いてるわ」
「くっだらない事でチャンスをふいにしてくれましたね。愚か過ぎますよ貴女。ちゃんと課題してます? フリーダに押し付けてないでしょうね」
「し、してるわ、ちゃんと自分で全部。フリーダに理系の科目は無理だし」
「ええ無理ですよ。フリーダは数字が苦手なんです。だから貴女がやってフリーダにやってもらっている体をお願いしてます。フリーダが優秀で謙虚な女性に見えるようにね。まあ心根が天使なのは本当ですけど。根性悪の貴女と違って」
「……そう、ね。貴女の言う通り……」
「はあ。やれやれ。――毎日お守りしてて大変ね、フリーダ」
フリーダは姉に「そんな事ないわよ」と微笑んだ。
「これも私達三姉妹の未来の為よ」
「そうね。今の奴隷は二人だけど、もう一人予備が欲しいかしら――」
捜査官は、エレオノーレの証言で「話が繋がったな」と思った。
この数年後に予備の奴隷としてケルスティンが選ばれた。
奴隷が増やせる。彼女達の魔法は、恐ろしい――。
あなたにおすすめの小説
【完結】長い眠りのその後で
maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。
でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。
いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう?
このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!!
どうして旦那様はずっと眠ってるの?
唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。
しょうがないアディル頑張りまーす!!
複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です
全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む)
※他サイトでも投稿しております
ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです
※表紙 AIアプリ作成
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定