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エピローグ章
83 以上。
皇后は開いた扇子をパチンと閉じた。
「そなたの言い分は、ビーストの意思を無視した身勝手なものであろう」
「それはあの人も同じです!」
エレオノーレは声高に告げた。
「お菓子や玩具で釣ってるって聞きました! 魚釣りと同じですよ! ウサちゃんが可哀そうです!」
幼稚な主張に誰も彼もが言葉を失った。場が白けつつある。
皇后は、閉じた扇子でピッとエレオノーレを示した。
「エレオノーレ、そなたがそこまで分からん事を言うのであれば、ビースト本人に問うてみようではないか――シルヴィーよ」
皇后の扇子の先がシルヴィーに向かった。
シルヴィーは静かに膝を落として「はい」と皇后に応じる。
皇后は命じた。
「この場にビーストを呼んでおくれ。出来るか?」
「畏まりました」
サロンを出る際、シルヴィーはホワイトホールを閉じてきた。
一度バイバイしたウサギを再び皇城に呼び戻す。
シルヴィーは眼下の空間に意識を凝らして、スペルを口にした。
「スノーホワイト」
コーヒーテーブルと同じ高さにホワイトホールが開く。
いつものようにまず二本の白い耳がにゅっと突き出てきて、小さな白いウサギの顔が覗いた。「なあに?」という風に首を傾げてシルヴィーを仰ぐ姿は、やはり世界一可愛い。呑気なウサギの姿に皇族の何人かが和んでいる。
同じく和みかけていた皇后は、扇子を開いて緩んだ口元を隠した。
「――では、ウサギに問うとしよう。筆談は可能なのだったな」
「はい」
シルヴィーは、胸ポケットからペンとメモ帳を取り出す。
皇后は玉座から軽く身を乗り出し、自分に後頭部を向けているウサギに問いかけた。
「ウサギ、いやスノーホワイトよ。どうか答えておくれ。そなたは何故シルヴィーのサモンに毎度応じておるのだ?」
皇后を片耳で振り返ったウサギは、シルヴィーに目を戻す。指示を待っている。
夢の支配者たるウサギだが、サモン中は自分勝手に何でも出来ない。ヒミカからの伝言をすぐにシルヴィーに伝えなかったのも、彼女がウサギの「交通費」を支払っているメイジではなかったからだ。頼みを聞く義理がなかった。また、受け取った情報がシルヴィーにとって重要か否かの判断までは下せなかった。
ウサギはウサギで人間ではない。同じ感覚だと思ってはいけない。
シルヴィーはウサギにペンを差し出して、メモ帳を翳すようにして持ち「お返事をしてくださいね」と催促した。
ウサギは紙面にササッとペンを走らせ、皇后にお返事をした。
――愛ゆえに。
皇族達が軽く、一斉に噴き出した。
皇后も扇子で顔を覆っている。若干耳が紅い。
肩を震わせながら「そうかそうか」と頷き、扇子の隙間でこちらを窺い見た。
「いやはや、感動したわ。ちょっとうちの皇子がそわそわしておるようなので、これ以上は勘弁しておくれ」
ウサギをなでなでしていたシルヴィーは瞬き、ヴィンツェンツを窺った。
確かにちょっと眉間に皺が寄っていてそわそわして見える。何かを目で訴えようとしている。後で訊こうと思う。
緩んだ空気の中に、エレオノーレの癇癪が炸裂した。
「感動なんて出来ません! 文字を書く芸を仕込まれてるだけじゃないですか、ウサちゃんは!」
彼女は、あくまでもウサギを可哀そうなままにしておきたいらしい。
皇后は冷めた目になってエレオノーレを見た。
「ならば単刀直入に問うてくれるわ。――スノーホワイトよ、エレオノーレの事はどう見ておる? もし呼び出されたら応じるか?」
ウサギは瞬き、シルヴィーを見た後でペンをシャカシャカと動かした。
――その人は、自分の事を「世界一可愛い」と思っているぶりっ子。
皇族の誰かが「ぶっは!」と噴き出した。他は笑いを堪えて小刻みに震えている。
ウサギは続けた。
――夢ではキャラクターを隠せない。だから間違いない。
「そうなのだろう」と皇族達は頷く。亡き皇太后の「ちょっと面白いキャラになれる」という言葉が示す通り、己を偽る事が出来ない空間なのは承知している。
ウサギは更に。
――自分の事を「世界一可愛い」と思っているぶりっ子はキライなので、呼ばれても拒絶する。以上。
皇族の半数が「ぶっは!」と噴き出した。全て男性皇族だ。皇帝含む。
さっきとは違う意味で場の空気が緩んだ。
一人怒り心頭のエレオノーレは、顔を真っ赤にしてウサギを睨んだ。
「なんなのよ、獣風情が私をバカにして――!」
体ごとシルヴィーを振り返り、レッドカーペットに踏み出す。
害意を嗅ぎ取り、ウサギもエレオノーレを振り向いた。毛が逆立っている。
殺気立った碧い双眸に睨まれ、エレオノーレは踏み止まった。どうやらウサギが持つロケット弾並みのハイパワーは知っているようで、我に返って蒼褪めている。
「な、なによ。ここは人界よ。獣が人を害する事は許されないんだからね」
ヴィンツェンツがシルヴィーの半歩前に出た。
「人が人を害する事も許されん。気が済んだならさっさとここを去れ」
自分以上に怒り心頭のヴィンツェンツを仰ぎ、エレオノーレは足元を震わせた。
「で、殿下。私はただ殿下のお役に立ちたいと」
「そうか。ならば役に立ってもらおう。――去れ」
「――――」
エレオノーレから血の気と声が失われた。
また誰かが呟いた。きっつ……。さっきから遠慮がないのは、皇太子だ。
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