お江戸物語 才蔵とお艶

らんふぁ

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三章 消えない傷痕

五話

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降り続く雨を見つめるお艶。

才蔵はそんな恋女房を後ろから抱きしめた。

あの時、彼に残された希望……それは今、この腕の中の現実になった……。

「お前さん……」

彼女の襟元を少し開ければ、赤みを帯びた傷が目に入る。

才蔵はお艶を振り向かせると、そっと指でその傷をなぞった。

こんな傷を負いながら本当に良く生きててくれた……。 

「疼くのか……ここが」

お艶の身体に戦慄が走る。「あ」


才蔵は傷跡に唇を落とした。

「疼くのもお前が生き残った証……可哀想だが、俺にはありがたい」

お艶「……お前さん」

才蔵は殊更明るく言った。
「今度はお艶姐さんの違うトコを疼かせてみてぇな。これも生きているからこそだぜ?……だろ?」

思わずお艶は泣き笑いをした。「……バカ!」




古傷が疼くから雨になると、お艶に無理やり持たされた傘により、才蔵が辻斬りから救われたのは、それから間もなくの事である……。




ところで、才蔵にもお艶のような袈裟がけの刀傷が残ってしまったのだが……。



「おお、お前とお揃いだぜ♪なぁ、なぁ、夫婦でここまで仲良く同じなんて、これぞまさに一心同体って感じ?」

「……バカ!」

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