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十五話
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一杯飲み屋で、法被を着た職人風の男達が何やら騒がしい。
「オイ、聞いたか?白雪太夫が伏せっちまったとよ!何でも気鬱の病とか」
「気鬱?ああ、そりゃあ、きっと恋わずらいだぁな。おいらが恋しいんだよ…何しろ、ここんとこ忙しくてよ、会いに行ってやらねえから。『主さん、わちきは会いとうありんす~、よよよ』ってなもんよ!」
「ぬかしやがったな!な~にが忙しいだ。てめぇは素寒貧で空きっ腹抱えて、カビ臭え煎餅布団抱いて寝てやがったクセに! 」
「何おう!」
喧嘩っ早いのを慌てて仲間が止める。「オイオイ、それよか、肝心の太夫の具合はどうなんだ?」
「それがよ、元々色白だったのが、透き通るような感じになっちまったんだと。儚くてよ、まるで人間じゃないみてえに綺麗だって……皮肉なモンじゃねぇか?そう、月に帰っちまった何だ?え―……と」
「……かぐや姫?」
「そうソレ!……かぐや姫みてえにある日、本当に月へ行っちまってもおかしかねぇとよ」
「バカ言え!吉原から白雪太夫が消えたら、お江戸から火が消えちまうのと同じだぁあ!」
ガタッ!
隣りで独り手酌で、呑んでいた侍が立ち上がり、小銭を徳利の脇に置くと縄のれんを掻き分け、店を出ていった。
一杯飲み屋を出た右京。
変わり果てた白雪太夫の様子を、これ以上聞いていられなくなったのだ。
聞くだに胸が痛い……。
彼の脳裏に、吉原一の白雪太夫の艶やかな花魁道中が蘇った。
見世の衆の肩に手を添えて、高下駄で優雅に外八文字を描く……何人かの可愛い禿の少女達、格下の花魁を従えた……生き生きとした花よりも美しい……。
この自分を必ず探し出し、短いその一時に全ての想いを込めて微笑んでよこす……。
「……太夫」
彼は空を振り仰いだ。
ちょうど雲が切れ、丸くなって来た月が顔を覗かせる。
太夫……俺を置いて月になど行くでない……。
そなたが行ってしまったら、この世の中に、俺が信じられる物など残らないでは無いか……。
俺は意気地無しよ。
そなたと添えない苦しみから情けなく逃げ出した……。
だが、同じ想いでありながら、太夫は一人きりで吉原で必死に戦っておったのだな……。
そうだった……籠の鳥のそなたの方が何倍も辛いというに……。
すまぬ……。
すまぬ……太夫。
……月がぼんやり滲んで見えた……。
「オイ、聞いたか?白雪太夫が伏せっちまったとよ!何でも気鬱の病とか」
「気鬱?ああ、そりゃあ、きっと恋わずらいだぁな。おいらが恋しいんだよ…何しろ、ここんとこ忙しくてよ、会いに行ってやらねえから。『主さん、わちきは会いとうありんす~、よよよ』ってなもんよ!」
「ぬかしやがったな!な~にが忙しいだ。てめぇは素寒貧で空きっ腹抱えて、カビ臭え煎餅布団抱いて寝てやがったクセに! 」
「何おう!」
喧嘩っ早いのを慌てて仲間が止める。「オイオイ、それよか、肝心の太夫の具合はどうなんだ?」
「それがよ、元々色白だったのが、透き通るような感じになっちまったんだと。儚くてよ、まるで人間じゃないみてえに綺麗だって……皮肉なモンじゃねぇか?そう、月に帰っちまった何だ?え―……と」
「……かぐや姫?」
「そうソレ!……かぐや姫みてえにある日、本当に月へ行っちまってもおかしかねぇとよ」
「バカ言え!吉原から白雪太夫が消えたら、お江戸から火が消えちまうのと同じだぁあ!」
ガタッ!
隣りで独り手酌で、呑んでいた侍が立ち上がり、小銭を徳利の脇に置くと縄のれんを掻き分け、店を出ていった。
一杯飲み屋を出た右京。
変わり果てた白雪太夫の様子を、これ以上聞いていられなくなったのだ。
聞くだに胸が痛い……。
彼の脳裏に、吉原一の白雪太夫の艶やかな花魁道中が蘇った。
見世の衆の肩に手を添えて、高下駄で優雅に外八文字を描く……何人かの可愛い禿の少女達、格下の花魁を従えた……生き生きとした花よりも美しい……。
この自分を必ず探し出し、短いその一時に全ての想いを込めて微笑んでよこす……。
「……太夫」
彼は空を振り仰いだ。
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俺は意気地無しよ。
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だが、同じ想いでありながら、太夫は一人きりで吉原で必死に戦っておったのだな……。
そうだった……籠の鳥のそなたの方が何倍も辛いというに……。
すまぬ……。
すまぬ……太夫。
……月がぼんやり滲んで見えた……。
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